Fallout:SAR   作:ふくふくろう

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廃墟街

 

 

 

 まずするべきは、タイチが使った弾薬の補充。

 それを終えてタバコを咥え、ライターの火を分け合って2人で紫煙を燻らせる。

 道の真ん中に突っ立ってだ。

 

「しっかし、思ってた以上に敵がいやがるなあ」

「場所が場所っすからね。次の交差点を右にずうっと行けば、そこは浜松の駅っす」

「酔いどれ地区と赤線地区から、浜松駅の向こうの駅南地区まではどこもヤバイ。そんな話はホントだったんだなあ」

「はいっす。浜松の街の山師は、まずその5地区には足を踏み入れないそうっすよ。だからこそ美味しいって、賢者さんはそっちばっか行ってたらしいっすけど」

「ったく。そんな危険地帯を単独で毎日のように漁るって、バケモノかっての」

 

 酔いどれ地区、赤線地区、アクト地区、駅前地区、駅南地区。

 

 その5つの地区は戦前にかなり栄えていたそうで、だからこそ今はクリーチャーが山ほど蠢く危険地帯になっているらしい。

 5地区の手前、酔いどれ地区に入る直前のこの道ですら30ほどのフェラル・グールに道を塞がれたのだから、中は推して知るべしという感じだろう。

 

「アキラ、やっぱり迂回しないっすか? 今日は昼過ぎまで浜松の街の近場を漁る予定なんっすから、この調子じゃ城下に着くだけで精一杯になっちゃうっすよ」

「仕方ねえなあ。年寄りの企みとの兼ね合いもあるし、今日はこの道は諦めっか」

「それが無難っすね」

「左に1本か2本くれえ道を変えればクリーチャーは減るんだよな?」

「そうなるっすね」

「んじゃ行くか」

 

 タバコをプッと吹いて捨て、それをブーツの底で踏み消して左に進路を変える。

 店もチラホラ見かけるが、駐車場や民家の方が多い、かなり狭い道を俺が前に立って歩く形だ。

 

「VATSっ」

 

 叫んでも意味があるか未だにわからないが、そうしながらVATSを起動。

 路地から駆け出してきたモングレルドッグ2匹に攻撃選択をして、VATSを発動した。

 

 2発の銃声。

 

 スローモーションの世界が時間を取り戻すと、駆けてきた勢いのままモングレルドッグ達がアスファルトを滑って止まったところに血溜まりを作る。

 新取得Perkのおかげで、低レベルのモングレルドッグならデリバラーの1発で倒せるようになったのがありがたい。

 

「ヒューッ。さすが双銃鬼、見事な抜き撃ちっす」

「うっせ。オマエも犬コロと一緒に出荷してやろうか。とりあえず、肉を取るぞ」

「はいっす。モングレルドッグの肉は売っても食べてもいいっすからね」

「できれば食いたくはねえなあ」

 

 人前ではタバコ以外の戦前の物、飲食物なんかは口にするな。

 

 ジンさんとウルフギャングにはそう言われている。

 俺達のようにビールだの缶コーヒーだのを気軽に口にするなんて、どんなに腕のいい山師でもまずしないかららしい。

 

「顔が暗いっすよ?」

「さっきじゃなくこのタイミングでGRIM REAPER'S SPRINTが発動したってのも気に入らねえが、それよりも浜松の街での飲み食いを考えるとなあ」

「アキラは焼酎は飲むけど、こっちのツマミは苦手っすもんね」

「おう。でも山師の集まる飲み屋なんかで情報収集はしてえし、そうも言ってらんねえんだよ」

「慣れっすよ、慣れ」

「だといいがよ」

 

 一車線の狭い道を進むと、数分とかからずそれなりに広い道を横切る形になった。

 どうやらこれが、さっき右に見えていた大きな商業施設のある交差点へと続く道であるらしい。

 

「あれがさっきのビルっすね。……浜松、シティデパート?」

「みてえだな。いつか漁りに行きてえもんだ」

 

 道が狭いし、両側には民家が多い。

 なのでたまにフェラル・グールやモングレルドッグが至近距離の路地なんかから飛び出し、俺のVATSで撃ち倒されてゆく。

 

 そんな散歩のような道行きに物足りなさを感じながら進んでいると、念のために顔だけ出して覗き込んだ交差点に最も見たくなかった光景が見えた。

 

「なんかあったんすか?」

「この交差点の左方向に、鳥居があってよ」

「戦前の神社っすか。それが?」

「その鳥居に、3人分の死体がぶら下がってやがる」

「うわあ。罰当たりにもほどがあるっすねえ」

「しかもその鳥居の前には見張り台みてえな土嚢を使った遮蔽物があって、悪党らしき男がこっちを見張ってやがるんだ」

「あっちゃあ……」

「ほんっと退屈しねえよなあ、旧市街ってトコはよ」

 

 鳥居までは、おそらく100メートルも離れていない。

 危険地帯にある悪党の住処だからか見張りも気は抜いていないようなので、道を突っ切れば間違いなく俺達の姿はソイツに見られてしまうだろう。

 

「どうするっすか?」

「まず地図の確認だあな」

「はいっす」

 

 完全に身を隠し、ピップボーイからロードマップを出して広げる。

 タイチは俺が何も言わなくても索敵に集中したようなので、念入りに地図を眺めた。

 

「この交差点から約200メートルで、『姫街道』って道にぶち当たる。それを渡れば浜松の街の山師、それも腕のよろしくねえ連中が狩り場にしてるって地域に入るんだ。追われてそっちに逃げ込むのは避けてえな」

「なら殺るんっすね?」

「そうなるが、見張りが倒されて追手を出される可能性も高いんだよなあ。それに尾行されて、浜松の街の山師に被害が出るのもなんか悪くてよ」

「そんな事まで気にしてたらやってらんないっすよ」

「へいへい。そんじゃ見張りを狙撃すっから、それ倒したら姫街道に一直線な」

「了解っす」

 

 どうやら浜松の街の山師でいるうちはだいぶ世話になりそうなサイレンサーとスコープ付きのハンティングライフルをまた出して、土嚢を積み上げた見張り台の中にいる悪党にレティクルを合わせる。

 あとは、さっきと同じ要領だ。

 

「殺るぞ」

「はいっす」

 

 ムダだとわかってはいてもVATSを起動して命中率を見たが、やはり30パーセントもないのですぐにキャンセル。

 息を止めて、照準の揺れが収まるのを待った。

 

 そういや、息を止めてもAPが減らねえな。

 

 どう考えても今この状況で気にする事ではないかと、浮かびかける苦笑いを押し込めながら、そっとトリガーを引く。

 

 クリティカルではないので頭部が爆ぜたりはしなかったが、側頭部から入った銃弾が頭蓋骨を突き破りながら、反対側の側頭部をかなり大きく突き破って血と脳漿を撒き散らすのが見えた。

 HPバーを確認するまでもない。

 あれじゃ、間違いなく即死だ。

 

「見張りダウン。行くぞ」

「ほいっす」

 

 ハンティングライフルを保持したまま、姿勢を低くして交差点を駆け抜ける。

 すぐに立ち止まって鳥居の方向を覗いてみたが、特に騒ぎが起こっているようには見えなかった。

 

「大丈夫っぽいな。気づかれてねえうちに行こうぜ」

「姫街道を越えたら、まずは山師探しっすね」

「そうなるなあ。バカな連中とかち合わなきゃいいが」

 

 浜松の街の山師の行動範囲に入ったら、適当な山師と顔見知りになって立ち話でもしながら浜松の街の情報を引き出し、可能ならこちらの腕を見せて一目置かれる。

 

 それがジンさんとウルフギャングの企みであるのに、俺達の銃に目が眩んでカツアゲ紛いの事をされたら、そしてその連中を始末するところを他の山師に見られたら、一目置かれるどころか浜松の街の山師すべてに敵視されるような可能性だってあるだろう。

 できれば、そんなのは避けたい。

 

 祈るような気分で姫街道を渡ったが、そこは山師どころかクリーチャーの影すら見えない、ただの廃墟が立ち並ぶだけの地域だった。

 

「……なんか雰囲気が変わったっすね」

「ああ。民家の窓が軒並み割られてっし、そこにゃあ雨でふやけた様子すらねえ吸殻も落ちてる。かなり活発に山師が活動してる区域に入ったんだろうな」

「でも、銃声とか聞こえないっす」

「もしかしたら、こっちはクリーチャーに出会う事すら稀なほどに狩り尽くされてんのかもなあ。ま、しばらく適当に歩き回ろうぜ。そんでも山師を見つけらんなかったら、休憩ついでにいっぺん浜松の街を見てもいい」

「了解っす」

 

 どうやら俺の予想は当たっていたようで、歩いても歩いても山師どころか、さっきまではあんなにいたクリーチャーの姿すら見かけない。

 ようやく闘争の気配、それも銃声を含まない、怒声となにか家具でもひっくり返したような大きな物音が聞こえたのは、そろそろ浜松の街へ入って茶でも飲もうかなんて話している時だった。

 

「ようやくか」

「この先の小さいビルっすよね?」

「おう。赤マーカーが5、黄マーカーが3だ」

「どうするっすか?」

「ハッキリした敵も、味方になれるかもわからん3人もビルの中だ。ノコノコ入ってったら、そのすべてが敵になる可能性もある。少し待って時間がかかるようなら、また他のを探すのがいいんじゃねえかな」

「銃声も聞こえないっすもんねえ。なら小休止でいいっすか?」

「ああ」

 

 タイチがベルトの腰の後ろに着けている水筒を取ってきれいな水を口に含む。

 俺もそうしてから2人でタバコを燻らせていると、事務所しかないような小さなビルから3人の男が飛び出してくるのが見えた。

 

「に、逃げてくださいっ! 屍鬼の群れが来ますっ!」

 

 若い。

 男というよりは少年だ。

 それが3人。

 

 逃げ出そうとはしたが進行方向の反対側に俺とタイチを見つけ、このまま逃げてしまえば俺達にフェラル・グールを擦り付けてしまう事になりそうなので迷っているらしい。

 

 3人が3人とも走る足を止め、必死の形相で俺達を見ている。

 

「アキラ」

「おう」

 

 ビルの入り口までの距離は、20メートルほど。

 なので俺と同じく、タイチもハンドガンを使うようだ。

 

 並んで前に出てタイチは10mmピストルを、俺は2丁のデリバラーを突き出すように構える。

 

 銃、それも3つも!?

 

 少年の1人、俺達に逃げろと言った少年の驚く声。

 

「数は5のままっすか?」

「だな」

「アレは使っちゃダメっすよ」

 

 わかってる。

 そう返す前に、最初のフェラル・グールが入り口から飛び出してきた。

 

 デリバラー。

 左のそれに撃たれたフェラル・グールが、もんどりうってアスファルトに転がる。室内に潜んでいたせいでレベルが低いのか、1発で倒せるのは楽でいい。

 

 次にトリガーを引いたのは、タイチだった。

 ほぼノーマルであるし、Perkが乗らない攻撃だからか1発で倒し切れず、銃声が重なる。

 

「次の2は任せろ」

 

 赤マーカーが暴れながら入り口に接近。

 ほぼ同時に路上へと飛び出す。

 

 左。

 右、左。

 1発外した自分のヘタクソさに、思わず舌打ちが出た。

 

「ラストはいただくっすよ」

「任せた」

 

 俺はビルの中にある赤マーカーと、呆然とした表情で動く事すら忘れている3人の少年から目が離せない。

 任せていいなら大歓迎だ。

 

 4発。

 オマエも1発か2発は外したなとタイチに言ってやりたいが、今はそんな冗談を言っている場合ではないだろう。

 

 長めの鉄パイプに、金属バット。

 それと鉈のような錆びの目立つ刃物を持った少年達が、その頼りない武器で自分の体を庇うように姿勢を変えたからだ。

 

 


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