Fallout:SAR   作:ふくふくろう

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男2人の悪巧み

 

 

 

 小舟の里のトップ2人と、磐田の街から派遣された交渉役と長期滞在を希望するその実妹。

 その顔合わせは至極円滑に、しかも笑顔の絶えないうちに幕を閉じた。

 

 が、その後がよろしくない。

 マアサさんとジンさんに別れを告げ、我が家とも呼べるメガトン基地の自室に帰ってからがだ。

 

 帰りを待っていてくれたミサキとセイちゃんに市場で土産のメシと酒を買い、とりあえず今日は俺達の部屋に泊まるというミキとカナタさんと一緒に帰ると、女連中はくっつけたベッドで車座になって宴会を始めやがったのだ。

 

 行儀が悪いからテーブルで飲み食いをしろと言っても梨の礫。

 そのくせ諦めた俺がテーブルで飲み始めると、酔っ払いが代わる代わるやってきて絡んでゆく。

 

「ってな感じで、地獄の飲み会だった」

「そりゃ災難だったな。んで、早朝から散歩に出た訳か」

「軽トラの試運転もしてえしな」

「なら付き合わせろよ。俺も興味はある」

「サクラさんはよ?」

「荷台に乗るから気にしないでいいわヨ」

 

 朝っぱらからガレージの大きなドアを開け放ち、そこに置かれたテーブルで愛する夫がコーヒーを啜るのを眺めていた奥様はそう言うが……

 

「あの、軽トラの積載量ってたしか300㎏くらいから、良くても500だったはずなんですが。サクラさんは、その……」

「もしも女に体重を訊ねるなんてデリカシーのない事をしようとしてるなラ、それなりの覚悟があってしてるんでしょうねエ?」

「め、滅相もない。ただ店の前の道を少し走って戻って来るだけなんで、わざわざお越しいただくのは申し訳ないかなーと。はい」

「フン、それもそうネ。アンタ」

「お、おう?」

「もし朝っぱらから抜き屋なんて行ったラ……」

「行くかバカ。アキラの童貞をんなトコで捨てさせたのがバレたら、あの3人、いやもう4人か。とにかく嫁さん達に殺されるのは目に見えてるだろ。だから大丈夫だ」

「ならとっとと済ませてきナ。今日は朝からかわいい嫁のメンテナンスをしテ、隅から隅まで磨き上げるって言ったのは自分だロ?」

「すんません。絶対に1人で行くんでいいです」

「おい、アキラ?」

「えっとな、その、あれだ。ヤルんならガレージのドアは閉めてからやれよ、ウルフギャング?」

 

 ふざっけんな!

 

 そんな怒声を背に受けながらガレージを出て、そう広くはない道に軽トラを出す。

 

 運転席に乗り込み慣れた動きでエンジンをかけると、これからイチャコラする予定らしい夫婦が外に出てこちらを見ていたので、親指を立てた拳を見せてやった。

 その親指を薬指と中指の間に移動させるとウルフギャングがまた怒声を上げたようだが、それよりもすうっと上がって軽トラを捉えたサクラさんの腕のミサイルランチャーの方が怖い。

 

 慌ててサイドブレーキを解除。

 ギアをローに叩き込んで、アクセルを踏み込む。

 

「っはー、なんだこの加速はっ!」

 

 軽トラにレブカウンターなんてあるはずもないので正確な回転数はわからないが、とんでもないパワー感だ。

 セカンド、サード。

 

 そこまでギアを上げてからチラリと見たスピードメーター。

 

「ふ、振り切れてるだとっ!?」

 

 いくらなんでも、トップギアを残してそんな。

 

 長い直線道路でも、島のこちら側では農耕や牧畜をしているので、人が飛び出してくる可能性はある。

 アクセルを緩めて突き当りまでのんびりと軽トラを走らせ、ハンドルを右に切った。

 

「……あ、ダメだ。いくら働き者が多くても、この時間に立体駐車場マンションのすぐ裏で最高速アタックは迷惑になるよなあ」

 

 この軽トラがどこまでのポテンシャルを秘めているのか気になるが、以前マイアラークが這い出してきた立体駐車場裏の直線でもなければそれは試せない。

 おとなしくさらに速度を落とし、Uターンをして来た道を戻った。

 

 店の前の歩道でタバコを咥えるウルフギャングの横に軽トラを停める。

 エンジンはかけたままだ。

 

「見てたぞ、アキラ。初乗りでいきなりゼロヨンなんか始めるんじゃない。慣らしくらいちゃんとしろって」

「予想以上の加速だったから、メッチャ焦ったよ」

「ははっ。セイちゃんは天才だからな。修理ついでにボアアップでもしたんだろ」

「それをドライバーに伝えねえってのはどうなんだよ、マジで」

「天才ってのは、どっか突き抜けてるもんさ。この後はどうするんだ?」

「コイツに乗って、島に設置してあるタレットの点検だよ」

「なるほどね。なら、俺の出番はなさそうだ」

「しっかり休もうぜ。遠征明けなんだから」

「お互いにな」

 

 会話のために下ろした運転席の窓をそのままにして、今度はゆっくりとクラッチを繋ぐ。

 

「あのじゃじゃ馬がこれかよ。そっと繋ぐと、びっくりするくらい優しい加速なんだな」

 

 まるでどこかの誰かさん達のようだ。

 

 防衛部隊の連中に驚かれながら、設置してあるタレットを見回ってゆく。

 その点検をすべて終えても、修理が必要なタレットは1台も見当たらなかった。

 

 時刻は、もうすぐ午前7時。

 ちょうどいい時間だと、一番最初にタレットの点検をした正門に向かう。

 

 歩きで探索に出る時に渡る歩道橋の下を潜って軽トラをピップボーイに入れると、目的の人物が防衛部隊の休憩場のテーブルで手を振っているのが見えた。

 

「来るとは思っておったが、それにしても早いのう」

「落ち着いて二度寝もできませんからね、あの部屋じゃ」

「まーた酒をかっ喰らって雑魚寝か、嫁さん達は」

「もう酔いが回ってからも服を着てくれてるだけでいいかなって、最近はそう思い始めてます。それより……」

「うむ。座ってくれ」

 

 缶コーヒーとタバコを出し、ジンさんが話し出すのを待つ。

 聞きに来たのはもちろん、山師に偽装した新制帝国軍の事だ。

 

「メシも出しましょうか?」

「よいよい。さっき食ったすいとんで腹がいっぱいじゃ」

「マアサさんの料理、美味いですもんねえ」

「世辞はよい。それより、例の部隊じゃがな。昨夜話した通り、以前悪党が根城にしとった線路のコンテナに住み着いたようじゃ」

「あそこの悪党は、ジンさんに見守られながら特殊部隊とミサキ達で殲滅したんですよね。それで、ただそこに居座ってるんで?」

「うむ。まるでワシらが始末した悪党共と入れ替わるようにの」

 

 そう来たか。

 

「……干上がらせるつもりですかね、小舟の里を」

「まだそこまではせんじゃろ。おそらく、嫌がらせで行商人を追い返すくらいのはずじゃ」

「狙いは、ウルフギャングのトラックかな」

「じゃろうなあ。50人からの悪党の群れが浜松を目指すように磐田方面から向かっておるのは、ウルフギャング殿の話で知っておる。斥候くらいは出したじゃろうし、それでなくとも浜松には山師が多い」

「……そいつらがトラックを見かけて、それを新制帝国軍に報告でもしたなら」

「うむ。ここにウルフギャング殿が滞在しておるのを疑うじゃろうな。豊橋からわざわざ浜松近辺の探索に来るくらいなら、浜松ほどでなくとも栄えておったあの街を漁る方が良い」

「どう思います?」

「決定的には掴まれておらぬと思うぞ。もし新制帝国軍の斥候が少しでもここの門を見張っておれば、タレットにも気がつくじゃろう」

 

 タレットが見られていたなら、悪党のフリをして行商人を追い返すくらいでは済まないという判断か。

 しかし、行商人を追い返すだけにしても。

 

「ジンさん」

「なんじゃ」

「ここはもう、俺達で動きませんか? それが小舟の里のためだって気がします」

「……聞くだけは聞いておこうかのう」

 

 よし。

 話さえ聞いてくれたら、ジンさんは乗ってくれるはずだ。

 

 ただの思いつきではあるが、それなりに効果的だと感じた計画を話す。

 ジンさんは最初こそ渋い表情を隠そうともしなかったが、だんだんと笑顔になってゆき、最後には腕が鳴ると言って日本刀の柄の握りをたしかめたりしていた。

 

「……と、こんな感じですね。どうです?」

「いいじゃろう。しっかり見ておくのじゃ、アキラ。あの熊なんぞより、ワシの方が強い。昔も、もちろん今もじゃ」

「期待してますよ」

「うむ。ワシは指揮を副官に任せるついでに、ロープを持ってこようぞ」

「じゃあ俺は、門の前に軽トラを出しときます」

 

 さすがと言うべきか、ジンさんもやると決めれば動くのに迷いはないらしい。

 軽トラを出して運転席でタバコを吸って待っていると、左手にそう長くはないロープをぶら下げたジンさんが小走りでやってきて助手席に乗り込んだ。

 

「待たせたの」

「いえいえ」

 

 ジンさんの合図で開け放たれた門を抜け、左に進路を取る。

 ついでに東海道が見張られていないかVATSで確認して、東海道ではなく沿岸方面の細い道を大回りでゆっくりと東へ進んだ。

 

「ほう、もう予定地点かの」

「ですね。車ならあっという間です」

「まずは準備じゃな」

 

 軽トラを停めたのは、地図で見ると線路と平行に伸びる東海道、国道301号を右折してすぐの民家の陰。

 そこで準備を整える。

 

 軽トラを収納した俺がJUNKカテゴリーの『買い物かご』を2つと近接武器の『ボード』を出すと、ジンさんはボードにロープを結んで背負えるようにしてくれた。

 重量に注意をしながら、買い物かごに酒とタバコと軽いオモチャなんかを詰めてゆく。

 最後にアーマード軍用戦闘服を『破れたぼろ服』に着替えれば準備は完了だ。

 

「カンペキですね」

「いやいや。そのままじゃあいかん」

「どうしてです?」

「いいから。まずは一服じゃ」

「はあ」

 

 2人でタバコを吸いながら何がダメなのか考えていたが、さっぱりわからない。

 ようやく理解したのはタバコを吸い終えたジンさんが、アスファルトに出してあった灰皿から指先で灰を抓み、それを俺の顔に擦り付けてからだ。

 

「アキラはいつも小奇麗にしておって、顔も整っておるからの。ボロボロの服だけでは浮いてしまう」

「お世辞はいいですって。じゃあ、手はず通りに」

「うむ」

 

 ボードを背負って、両手に買い物かごを持つ。

 あとは国道一号線を渡って線路に出て、そこを小舟の里方面にのんびり歩いて行けばいい。

 

 危険がまったくない訳ではないが、分の良い賭けだ。

 それに剣鬼とまで呼ばれる男が一緒なのだから、まあ気楽にやろう。

 

「うっは、歩きづらっ」

 

 線路には草が生え放題。

 ジンさんの話ではこれから梅雨が来て夏になると、さらに歩きづらくなるらしい。

 

 絶えずカチカチ連打するのをイメージしていたVATSに反応があったのは、脱線して倒れた貨物列車がかなり大きく見えるようになった頃だ。

 

 


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