Fallout:SAR   作:ふくふくろう

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帰路

 

 

 

「アキラ、次のちょうだい」

 

 市長さん達となるべく早い再会を約束して部屋を出て、またミキの先導でガレージに戻ると、俺がただいまと口にするより先にセイちゃんはそう言った。

 

「なにが?」

「車かバイク」

「へ? ああ、軽トラは直んなかったのかあ」

「違う。カンペキに修理して核分裂バッテリーも変えて、カナタ姉にタイヤのエアーも入れてもらった」

「はいぃぃっ!?」

 

 いくら軽トラの状態が良かったにしても、たった1時間かそこらで……

 

「まあ驚くわよねえ」

「アキラほどじゃないが、セイも大概だからな。持ち歩けない工具や部品製作のPerkに使う鉄屑をカナタが貸してくれたにしても、こんな短時間でここまでするかと笑ったよ」

「そだ、アキラ。セイちゃんに車かバイク出してあげたら、カナタさんの家に行って引っ越しの手伝いしてきてね。あたし達は、門に近いから出発までここにいるから」

「ありゃ。カナタさんが小舟の里に来るって話も聞いたのかよ」

「まあね」

「第4夫人は稀代の戦略家だからな。覚悟しておけよ、アキラ?」

 

 まーたくだらねえおふざけを。

 そこまで言うなら、今すぐこの軽トラの荷台でハメまくってやろうか?

 

 そう言って意趣返しをしてやりたいが、なぜかミサキが顔を真っ赤にしているのでやめておいた。

 このからかわれるとすぐに拳を飛ばしてくる美ゴリラ、じゃなかった、美少女は、ここで俺が余計な事を言えば、確実にそれなりの力で殴ってくるだろう。

 

「まあカナタさんは、小舟の里に出向して交易の話をスムーズに進めてくれる磐田の街のお偉いさんだからな。引っ越しくらい、いくらでも手伝うさ」

「ありがとう。じゃ、行きましょうか」

「へーい。セイちゃん、次に直して欲しいのはバイクで、同じ型のが8台あるんだけどどうする?」

「全部出して」

「りょーかい」

 

 新聞配達用のバイクを、軽トラの横に並べてゆく。

 

「む。これはちょっと……」

「ムリそう?」

「全部を直そうと思ったら、ニコイチ」

「あー」

 

 ニコイチ修理は、フォールアウトシリーズでも採用されていたシステムなので俺も知っている。

 2つの同じ機械なんかを直すのに、片方を消費する形でそれを行う修理だ。

 

 それにあっちの日本でもやけに安い中古車なんかを見かけると、親父は『ありゃニコイチだな。怖くて買えたもんじゃねえ』なんて言っていたのを覚えている。

 

 新聞店のすべてが店舗内に原付バイクを置いていたのかはわからないが、戦前にはかなりの数があった新聞店で同じバイクを見つけられる可能性は高いのだから、ニコイチでもいいと思うのだが。

 

「アキラ」

「ん?」

「おとーさんの話だと、浜松や磐田は本当に特殊な地域」

「……そっか。大都市は核で」

「ん。だからするべきはニコイチ修理じゃなくて、セイのレベル上げ」

「レベルを上げてリペア系の上位Perksが出るのを待つ、って事か」

「ん。だからニコイチは最後にして、出来る分の修理をしたらレベル上げに行きたい。ダメ?」

「俺もレベルは上げたいからね。体調とかに気を配って、マアサさんやジンさんやシズクが心配しない程度になら喜んで」

「ん。ならこっちから2番目と7番目のだけ残して、あとは保管しといて」

「了解だ」

 

 セイちゃんの言葉通りに原付バイクを収納し、少し先で待っていてくれたカナタさんに頭を下げてから小走りで駆け寄る。

 

「すんません。お待たせしました」

「いいのよ。それにしても、いつまで敬語を使うつもり? ボクはもうアキラのモノなんだし、そうでなくても同い年でしょう」

「まあ、タメなのはそうなんですけどねえ」

 

 カナタさんの家は書店の奥に、保健室によくある布製のパテーションのような物で、ごくわずかな生活スペースを作っただけの小部屋だった。

 なので俺がピップボーイに入れたのは、ほとんどが店にあった戦前の本。それも凄い数だ。

 

「あとは保管庫ね」

「小舟の里で武器屋もやるんですか?」

「まさか。ボクの銃やパワーアーマーは、家が狭いからあそこに置いてあるのよ」

「なるほどね」

 

 カナタさんの引っ越し作業が終わったのは、午後2時をいくらか過ぎた時間だった。

 出発は遅くても3時予定なのでまだ余裕はあるが、特に用事もないのでガレージに戻る。

 

 そして戻ってみると、エンジンをかけた原付バイク、カブの横にセイちゃんがしゃがみ込んで、その手元を覗き込むミサキとシズクに何かの説明をしているのが見えた。

 呆れた事にセイちゃんは、2台残したカブを両方とも直してしまったらしい。

 

「おかえり。この軽トラ、アキラが使うのか?」

「お、ウルフギャング。昨日はありがとな」

「いいさ。で?」

「俺が運転の勘を取り戻すための練習用かな」

「なるほど。それより、そろそろ特殊部隊の連中が門に集まり始めてるんじゃないか?」

「かもな。んじゃ俺達も」

「アキラ、待って待って」

「ん?」

「今ミキが荷物取りに行ってるから、戻って来たらミキのバイクとか荷物を預かってあげてよ」

「りょーかい」

 

 どうせ時間はまだ余裕がある。

 磐田の街の門にはジローの部下であると思われる戦闘員が何人かいたし、タイチならその連中と揉め事なんて起こさず、世間話なり情報交換なりをするだろう。

 今すぐ小舟の里と磐田の街が同盟関係になる訳ではないが、そういう顔繫ぎは大歓迎だ。

 

 ウルフギャングとシズクと俺、カナタさんがタバコに火を点けると同時に、ガッシャガッシャとやかましい音が聞こえてきた。

 

「あはは。ミキかわいー」

「お待たせしたのですっ!」

 

 ヘルメットを片手に持ち、背中には装備しているパワーアーマーの幅より大きな荷物を背負ったミキがペコリと頭を下げる。

 カナタさんのパワーアーマーも俺のピップボーイに入っているし、この一族は全員が戦前の国産パワーアーマーを所持していて、下手をすればさらに子や孫が生まれてもその子に渡せる分まで確保してあるのだろう。

 

「んじゃ、とっとと荷物入れて帰るとしますか」

「だねっ。1泊しかしてないのに、もう小舟の里とメガトン基地が恋しいよー」

「俺達もすっかりこの世界に馴染んだって事だな」

 

 言いながらチラリとカナタさんに目をやるが、涼しい顔で紫煙を吐いているだけだ。

 この様子じゃ、ミサキ達は俺達の出自や、フォールアウトシリーズの事まで話したのかもしれない。

 

 まあいいかと咥えタバコで荷物なんかを収納して回り、特殊部隊の全員がすでに集まっていた門の前でウルフギャングのトラックを出した。

 

「道は、ウルフギャング?」

「ミキちゃんに教えてもらった。地雷はないって話だが」

「そんでも警戒はするさ。おい、ミサキ」

「なにー?」

「オマエは俺と助手席だ」

「ふ、2人でっ!?」

「おう。後ろでミキ達とおしゃべりしたいだろうが、車両の助手席でナビと、VATSを使った地雷探知に慣れてもらわにゃ困るんだよ」

「そっか。地雷はあたしとアキラが見つけるしかないんだね。アキラが別のクルマかバイクを使うなら、ウルフギャングさんの助手席はあたしになるんだ」

「だから頼むな」

「頑張る!」

 

 特殊部隊を含めた全員が乗り込んだのを確認して、ウルフギャングがエンジンをかける。

 

「監視窓はここだ。こうやって開ける」

「小さいねえ。それに、ガラスもない」

「銃を撃つ時はサイドウィンドウを全開にして撃つ。正面にも銃眼はあるんだが、そこを開けっと風がかなり吹き込むんだ」

「わかった。じゃあここから覗きながら、VATSを連打してればいいんだね」

「そうなるな。とりあえず進行方向の路面が視界に入ってりゃVATSは反応してくれっから、まあ気楽にやれ」

「うんっ」

 

 トラックが走り出す。

 磐田の市街地を抜けるコースは車の残骸や瓦礫が多いそうなので、俺達がザッとだが漁ってほぼ収穫のなかった自動車工場の前の幹線道路まで戻り、そこから行きに通った道を逆走する事になるらしい。

 

「メガネかゴーグルが必要なら言えよ、ミサキ。なんなら、フルフェイスのヘルメットだってあるぞ」

「んー。こんくらいなら平気かなー」

 

 そうかと返しながら、小さな窓に顔をくっつけるようにしているミサキになんとなく目をやった。

 いつもしている索敵の役目がないと、どうにもヒマで仕方ない。

 

 にしても、コイツいっつもセーラー服だな。

 

「なんだなんだ、アキラ。そんなにミサキに見とれて。第一夫人に惚れ直してるのか?」

「ちげーよ。前傾姿勢で窓を覗き込んでっから。パンチラ・チャンスもねえし。あとシズク、でっけえおっぱい当たってっから」

「ちょっとなによそれえっ!?」

「当ててるんだよ」

 

 ミサキうるせえ。

 あとシズクは耳元で囁くな。

 

「いいから索敵。それとシズクも、揺れたらあぶねえから後ろで茶でも飲んでろ」

「なんだ。ヒマそうだから当てに来てやったのに」

「そういうのは、メガトン基地の俺達の部屋で飲んでる時だけにしてくれ」

「ふむ。なら今夜にでもそうしよう」

「アキラ、トラックが停まった瞬間に殴るからね」

 

 カンベンしろよと返してはみたが、ミサキは当たり前のように返事をしない。

 なのでタバコを咥えて、ハンドルを持ちながら苦笑しているウルフギャングにも1本渡した。

 火を分け合って2人で紫煙を燻らす。

 

「にしても遠征は大成功、か。よかったなアキラ」

「そりゃそうだがよ」

「気になるのは交易や同盟か?」

「その他もろもろ」

 

 交易が始まるとなれば、俺がまず気になるのは商品の運搬が安全にできるかどうか。

 

 荷が何であるかとか、その売り上げから運転手と護衛に払う給金や車両の維持費を払って儲けが出るのか、なんて事を俺が考えたってしょうがない。

 そんなのは、マアサさんやカナタさんの考える事だ。

 

「難しいよな」

「ああ」

「商売はしたいが、それをするのに商品の100倍もの値がつく車両を使わなきゃならない」

「アオさん一家の件でウルフギャングは浜松の街の前でさんざん待たされたって言ってたけど、それだってこのトラックを奪うべきかどうかの判断をするのに時間がかかったんだろうしなあ」

「こっちは待ってくれと言われた後は、運転席に戻って窓から身を乗り出して話してた。エンジンをかけたままでな」

「そういう用心深さがあって、それを同乗者にも徹底させる事ができるカリスマ性があって、機械なんてラジオくらいしか知らないのに運転と車両点検と簡単な整備を覚えられる人材。いるか? そんなヤツ」

「わからんなあ」

 

 いっそミサキとカナタさんに頼んで大学か、車両の運用を徹底的に学べる職業訓練校みたいな施設でも作るか。

 

「……どう考えたって、それも難しいよなあ」

「俺としては特殊部隊に任せるしかないと思うがな」

「ただでさえ少人数なのにか?」

「それでも妙な連中の下心を見抜けないで、車両を持ち逃げされるよりいいさ。どうせ特殊部隊が戦闘に出るような事態なら、物流は止まるんだ」

 

 なるほど。

 あとで、シズクとタイチに話してみるか。

 

 


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