Fallout:SAR   作:ふくふくろう

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宝の在り処

 

 

 

 50メートルほど先に見える、巨大Gの死体。

 それが視線に入らないように注意しながら、30年ほど前にそこでお宝を見つけたという市長さんの話を聞く。

 

「目的地がクリーチャー、妖異の巣になってるのは厄介ですね」

「うむ。それを殲滅せねばお宝は手に入らぬからのう。気合の入れどころじゃ」

「市長さんの見立てじゃ、タレットは効果的なんで?」

「うむ。かなりの」

「なら大丈夫かな。敵の規模が数十ってのは理解しましたが、その種類は?」

「なあに、あそこに転がっとるバケモノの仲間よ」

「うへぇ……」

 

 相手はローチの群れか。

 今から憂鬱だ。

 

「狙撃はボクとミキに任せてくれていいわ」

「VATSと接近戦はカンベンだから、タレットの後ろに俺達も並んで迎撃がいいなあ」

「あら。本場のアシストターゲッティングシステムがどれだけ有用か、この目で見たかったのに」

「ホントなんでも知ってますねえ。んで、『本場の』ってのは? 国産の電脳少年にはVATS機能はないはずですけど」

 

 カナタさんが笑みを浮かべながら眼鏡をくいっと直す。

 

「方向性は同じだけど、ピップボーイに組み込むという機能とは違う形で日本でも研究はされてたのよ。戦前の防衛軍の精鋭部隊に試作品は配備されてたみたいだから、アキラくんならいつか発見できるかもしれないわね」

「そりゃ楽しみです」

「では、そろそろ向かうかの。運転はワシじゃ」

「ボクは場所を知らないから仕方ないわね」

「うむ」

 

 全員が缶コーヒーを飲み干すのを待ち、空き缶をピップボーイに入れてからリアシートに跨る。

 今度は市長さんの運転なので気が楽だ。

 

 バイクは市街地を抜け、遠くに見える山の方へと向かっているらしい。

 まだ磐田の街を出て1時間と少ししか経っていないし、帰りの予定時間を知っている市長さんは何も言わないので、そう遠くまでは行かないのだろう。

 

「バイクはいいなあ。道が車の残骸で塞がってても、ちょっとした隙間さえあれば道を変えずに済む」

 

 だんだんと流れる景色の中に建物が減ってゆく。

 そして見えるのは緑の木々がほとんどという状態になってしばらくすると、市長さんはようやくバイクを停めた。

 

「あれじゃ」

「トンネル、ですか。ウルフギャングのトラックもトンネルで見つけたらしいんですよね」

「関東は瓦礫と荒地しかないからのう。さもありなんじゃ」

「って、巨大ローチじゃないのがトンネルの入口をうろついてますよっ!?」

 

 懐かしいというか、なんというか。

 見えるのは、こちらに気づかずのんびりとアスファルトの上を這いまわっているのは、フォールアウト3とフォールアウトNVに登場した巨大なアリのクリーチャーだ。

 

 ジャイアントアント・ワーカー。

 

 見た目はキモイが、巨大Gよりはマシだと自分を励ます。

 

「鬼蟻じゃ。あのトンネルは少し進むと、土砂が流れ込んで塞がっておっての。そこに鬼蟻の巣があるんじゃよ」

「火を吐くアリはいないんですか?」

「おるのう。火鬼蟻じゃ」

「やっぱり、それぞれのサイズ違いも?」

「おるぞ」

 

 これは。

 下手をすれば、女王アリまでご登場か。

 

 気合を入れ直さないと。

 

「作戦は?」

「アキラとカナタに任せるぞい」

「剣鬼と肩を並べて前に出ただけで新制帝国軍の大部隊が逃げ出した、なんて伝説を持つ磐田の狂獣も丸くなったものね。アキラくん、それでどうするの?」

「トンネルまでは100メートルくらい。まず、バイクの10メートル先にタレットを配置します」

「妥当ね」

「それでカナタさんとミキは射撃準備」

「あなたは?」

「タレットのさらに先、最低20メートル可能なら30メートルの距離に地雷を撒きます」

「鬼蟻の探知範囲はおよそ50メートル。あまり接近し過ぎるとヤバイわよ?」

「地雷原じゃなく、地雷の防衛線って感じで充分ですよ。それと全員、これを装備しておきましょう」

 

 昨日の夜、宿でセイちゃんが修理してくれた国産パワーアーマーを道路に並べる。

 あの3人にはもう渡してあるが、それでもちょうど人数分はピップボーイに入っていた。

 

「ずいぶんと綺麗になっとるのう」

「うちの修理担当は、天才的な腕をしてますからね」

「ありがたく借りるとするかの」

「でもこんなの着たら、胸やお尻をアキラくんが舐め回すように見てくれないわよね。ちょっと残念」

「み、みみ、見てねえしっ!」

「ウソなのです。さっきコーヒーを飲んでた時なんて、バイクのシートに横座りになったカナタ姉さんのスカートの奥までじっくりねっとり……」

「はい、戦闘準備! 急いで!」

 

 パワーアーマーを装備。

 

 俺がいつも使うフォールアウト4のパワーアーマーと違って、おそらくフォールアウト3の、それも最初期型であるT-45dを模造したと思われる国産パワーアーマーでは、STRが2上がる装備効果分の重さの武器しか使えない。

 

 フォールアウト4のパワーアーマーはフュージョンコアを動力とする、まるで人が乗り込んで操縦する人型ロボットのような物だ。

 対してフォールアウト3のこれは、倍力機構というものを補助するために核分裂バッテリーを1つ組み込んだだけの物であるから、そういった仕様の違いは仕方ない事なのだろう。

 

 それでも日本では手に入れる事すら不可能であるかもしれないフュージョンコアを消費せず、廃墟などを漁ればそれなりに見つかる核分裂バッテリーでパワーアーマーが使えるのだから、これをミニガンと交換してくれた市長さん達には感謝してもし切れない。

 

「ひさしぶりに着たけど、やっぱり息苦しいわねえ。これ」

「でもこれで火鬼蟻も怖くないのです」

「よし、タレットを越えた鬼蟻は任せい。この斧の初陣じゃ」

「グロックナックの斧を使うのは、トンネルに入ってまだアントがいた時だけだと思いますけどね。それじゃ、タレットと地雷を設置してきます」

「うむ」

「途中で感知されて鬼蟻が来るようなら、アキラくん?」

「迎撃を始めていいですよ。それでも、タレットくらいは確実に出せると思うんで。それと、可能ならアリの触角を狙ってみてください。俺の知ってるアリと同じなら、面白い光景が見られるはずです」

「それは楽しみね。わかったわ」

 

 道は、それなりに広い。

 まずはタレットを等間隔に5つ並べ、屈み込んで視界に[ DETECTED ]と表示されたのを確認してからゆっくりと進んだ。

 

 トンネルの前をうろつくアントはこちらには目もくれず、大型犬どころか若い牛ほどはありそうな頭部をアスファルトに近づけては離し、たまに空を仰いだりしている。

 

「……こんなモンかな」

 

 地雷を設置してまたゆっくりと下がり、タレットの向こうに達してから立ち上がって腰を伸ばした。

 

「ご苦労様」

「まだまだこれからが本番でしょ。武器は、これでいいかな」

 

 たった3しかないSTRがパワーアーマーの装備効果で2も上がり、俺はWeight、こちらで言う重量が15までの武器ならどうにか使えるようになっている。

 

 残念ながら、大好きなガウスライフルなんかはまだ重すぎて使えない。

 俺がピップボーイから出したのは、伝説武器でもユニーク武器でもない、ただのコンバットライフルだ。

 

 どこかで拾ったのか、それとも自分でこうカスタムしたのかなんてもう覚えていないが、重量が14ならばそれなりの精度の狙撃も可能だろう。

 

 ライトフレームレシーバーにロングバレル、銃床はフルストック。

 マガジンがデフォルトのスタンダードマガジンなのは物足りないが、サプレッサーと長距離リコンスコープが付けてあるのでまあ合格だ。

 

 それらの改造を施され、コンバットライフルから『リコンスコープ付きライトコンバットスナイパーライフル』と名を変えた銃を持ち上げる。

 

「ずいぶんと異質なスコープね」

「ピップボーイとリンクしてるのか、これで敵を視界に収めるとその頭上に目印が表示されるんですよ」

「そんな便利な。アキラくんって、すべてがデタラメねえ……」

「ははっ。これが終わったら、カナタさんも試してくださいよ。パワーアーマーの視覚システムともリンクしてくれるんなら、ピップボーイがなくてもリコンスコープはかなり使えるはずです」

「楽しみにしておくわ」

 

 そんな会話をしながら、俺がリコンスコープでマーキングしたアントは8。

 市長さんの話では少なくとも50匹はいる巣だというのに。

 

「なら、おっぱじめますか」

「そうね。触角を狙ってみるわ」

「お願いします」

 

 チラリと見やると、ミキもすでに射撃準備をしている。

 その立射姿勢は堂に入ったもので、俺なんかよりずっとサマになっていた。

 

 パワーアーマーにグロックナックの斧、まるでネタプレイのような装備をした市長さんが頷く。

 

「…………ここっ」

 

 カナタさんの囁くような声。

 それを銃声が掻き消した。

 

「お見事です」

「えっ。父さん、鬼蟻がっ!」

「妙な動きをして、むむっ?」

「同士討ちを始めちゃってるわね。アキラくん、だから触角を?」

「ええ。俺は騒ぎを聞きつけた蟻をロックしとくんで、とりあえず攻撃の方は任せます」

「下手に撃つより、同士討ちで数を減らすのを待った方がいいような気もするけど」

「ゲームでもそうでしたが、蟻同士じゃカスみたいなダメージしか入らないんですよ。そんなの待ってたら、夕方までかかりそうです」

「ふうん。ゲーム、ね……」

 

 これは。

 迂闊だったか。

 

 どうやら俺は、自分で思っているよりこの美人さんに気を許してしまっていたらしい。

 同い年だと知っても敬語を使っていた意味なんてなかったのか。

 

 自分達は訳もわからぬまま、違う世界からこの荒野へ迷い込んでしまった存在なんだ。

 

 そんな事を言っても、ほとんどの連中は『この狂人が』と笑い飛ばすだけだろう。

 だが俺のピップボーイやクラフトを見た連中なら、半々か、下手をすればそれ以上の確率で『もしかしたらそんな事もあり得るのかもしれない』と思うはず。

 

 別にそれがバレたからといって何をされるでもないだろうが、違う世界の人間と自分の世界の人間の2種類が目の前で死にかけているのなら、違う世界の人間は後回しだなんて判断をされる可能性はあるだろう。

 俺はどうでもいいが、それがミサキだと思うと背筋がゾッとする。

 

「くっ、さすが鬼蟻は硬いのですっ!」

「落ち着いて勝利の小銃で動きが止まった鬼蟻だけを、可能ならその頭部にある目を狙いなさい」

「はいですっ!」

「回り込んでおる鬼蟻もおらん。好きに撃ちまくってよいぞ」

「まだまだ増えやがるかよ。マーキングした蟻はもう30を数えたってのに」

「下手をすれば、その2、3倍はおるのう。がっはっは」

 

 


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