Fallout:SAR   作:ふくふくろう

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検問所

 

 

 

「だが最長で10分だ。それ以上は危険すぎる」

「それでいいよ」

「それと、サクラを屋根に上げて索敵させるぞ。危険な敵がいるようならセイちゃんの無線で教えるから、その時はすぐに戻れ」

「約束する」

「……なら、もう少し進んでから降りろ。サクラは屋根にもう上がっちまえ」

「はいヨ」

 

 怖くないと言えばウソになる。

 それでも、軍用の車両なんかがある可能性が万に一つでもあるなら、あの検問所を見に行かないという選択肢はない。

 トラックが動き出す。

 

「まずは索敵かねえ」

「そうなるな。スコープ付きの銃もあるんだろ?」

「とーぜん」

 

 問題は、道路に詰まっている車の残骸をどうするかだ。

 スクラップにしながら進めばもし敵がいて攻撃されても誘爆の危険はないが、接近を悟られて先制攻撃を受ける。

 

「それでも、核爆発する遮蔽物に身を隠しながら軍の検問所に忍び寄る度胸なんて俺にはねえわな」

「もしかして、最初からステルスボーイを使うんじゃないのか?」

「これから先も使うだろうからなあ」

「ならアキラが地雷や車の残骸を片付けたら、そこをトラックがバックで追従する」

「危険じゃね?」

「アキラよりはずっとマシだ。心配しなくてもセイちゃんの改造のおかげでミサイルランチャーの1撃くらいは余裕で耐えるし、後部にはタレットがあってサクラもいる。その方が安全だよ」

「……なるほど。なら、それでいくか」

 

 ウルフギャングが笑顔で頷く。

 少し進んだ場所でトラックを降りた俺は、いくらか緊張しながらまずはスコープ付きレーザーライフルで道の先をつぶさに観察した。

 

 瓦礫なんかじゃないゴツイバリケード、その向こうに上部だけ見えているのはテントや、護送車のような車両か。

 

「やっぱ行くしかねえな」

 

 呟いた俺は、レーザーライフルをピップボーイに収納してデリバラーに換え、VATSで発見した地雷の解除にステルス状態で向かった。

 俺のレベルなら確実に1発で即死する恐ろしい武器、地雷。

 ゲーム中では何度これに吹っ飛ばされ、時間を巻き戻された事だろう。

 生唾を飲み込んでから両のてのひらで自分の頬を叩き、地雷の探知範囲に踏み込んだ。

 

 チッチッチッチッ

 

 高速の嫌な電子音が、俺の背に冷汗を噴き出させる。

 

「解除解除解除解除―っ!」

 

 フォールアウトシリーズでボタンを連打するイメージ。

 俺がみっともなく焦って叫んでいる途中で、ちゃんと地雷はピップボーイに収納されてくれた。

 

「ふうっ。こえーなあ、もう。……10年式地雷、ね。国産品なのか。まあいただいておこう」

 

 デリバラーをいつでも撃てる心構えをしてアスファルトに這いつくばり、直近の車の残骸の下を覗く。

 フォールアウト4ではよく車の残骸の下にグールがいて、通り過ぎると背後から奇襲をかけて来たのだ。

 見えるだけに限った話ではあるが、グールや他のクリーチャーの姿は見当たらない。

 

「おし、そんじゃ始めっか」

 

 車の残骸をスクラップにしてピップボーイに収納。

 デリバラーをいつでも撃てる構えでその作業を繰り返し、アスファルトに這いつくばっては車の残骸の下を覗く。

 そうやって検問所と思われるバリケードまで進むと、胸元に着けている無線機がノイズを吐いた。

 

 アキラ。サクラさんがそっち行くから、一緒に中に入れって。

 

「りょーかい。視認できるマーカーはなし。たぶんだが、グールすらいねえ」

 

 ん。すぐ行くって。

 

 タバコを咥えて火を点けると、それを消してもいいかなと思う前にサクラさんの特徴的な駆動音が近づいて来て俺の横で止まった。

 

「大丈夫そうネ」

「ええ。バリケードは、初めからその用途のために作られた軍用品のようです。残らずいただいて、里の防衛強化に使いましょう」

「セイちゃんが中に車両があれば、スクラップにする前に呼んでくれっテ」

「もちろん。じゃあ、行きますか」

 

 バリケードはまんま、軍用バリケードという名前であるらしい。

 中央にガードレールのある2車線ずつの道路から、残らずそれを収納する。

 

「凄いっ! 軍用無線機に渡河ボートまであるっ!」

「ははっ。セイちゃん、あまり前には出ないって約束しただろ。俺達が進むのは、アキラとサクラが安全を確認してからだ」

「ん」

 

 少し前に出ていたセイちゃんが、エンクレイヴ・パワーアーマーを装備してレールライフルを持ったウルフギャングの後ろに回る。

 

「トラックから離れて大丈夫か?」

「ああ。セイちゃんが早く戦前の品を見たそうだったんでな。クリーチャーもいないようなんで連れてきた」

「セイちゃん道路の両端にあるバスみたいな車両は?」

「修理不可能。他に車両は見当たらないから、ボートや無線機でガマン」

「なるほどね。じゃあ、安全確認してくるから待ってて」

「ん」

 

 無線機の見えている壁のないテントの下には大きなテーブルがありそこに無線機が乗っているのだが、その周りにある椅子の横などには軍服と骸骨が見える。

 グールがいてもおかしくないぞと気を引き締め、タバコを踏み消して検問所の中に足を踏み入れた。

 

「お、ロケーション発見で経験値が入った。日本防衛軍陸軍検問所、か」

 

 検問所を反対側のバリケードまで歩き回るが、グールどころかモングレルドッグの1匹すら見当たらない。

 兵士が寝起きするテントや、バスのような車両の中までしっかり見たのにだ。

 経験値は稼げないが、セイちゃんもいるのでラッキーじゃないかと自分に言い聞かせ、2人の所へ戻る。

 

「アキラ、どう?」

「OKだ。中を見て回って、いる物と要らない物の選別を始めてくれるかな」

「護衛は任せテ」

「ん。すぐやる」

「俺はトラックをUターンさせてくるぞ、アキラ」

「頼む」

 

 俺はちょっとした連絡事項をミサキに伝えてもらおうと、無線機のレシーバーを持ち上げてスイッチを押した。

 

「こちらアキラ。メガトン基地、応答を願う」

 

 は、はい。こちらメガトン基地。オペレーターのジュンです。どうしましたか、アキラさん!?

 

「そんな慌てなくていい。誰も怪我なんかしてないし、援軍もいらないから」

 

 そ、そうですか。初めてアキラさんが無線してきたんで、何事かと。

 

「ははっ。それで要件なんだけど、そろそろ特殊部隊がこっちから連絡できないくらいまで進んだはずだから、伝言を頼みたいんだ」

 

 了解です。メモの準備は出来ているんで、どうぞ。

 

「海岸線のバイパスで、日本防衛軍陸軍検問所というロケーションを発見。そしてその手前に、可動品の地雷があった。特殊部隊も注意しろと。発見の方法は、ミサキに『VATSボタンは常にカチカチ連打』そう言ってくれればわかる」

 

 わかりました。復唱します。

 

 俺の言葉を繰り返したジュンちゃんによろしく頼むと言い、無線機のジャックを抜いてその太さを確認しているセイちゃんに歩み寄る。

 

「どう、使えそう?」

「厳しい。でも部品は取れるし、配線は使い回せるから」

「了解。テーブルやテントと一緒に収納しとくよ」

「ん。次はボートを見る」

 

 無線機やテントをピップボーイに収納して、またセイちゃんとサクラさんを追う。

 裏返された状態のボートの底をセイちゃんは指の第一関節でコンコン叩いたりしていたが、笑顔で顔を上げた所だった。

 

「その様子じゃ、使えそうだね」

「ん。12人は乗れるのが2つ。そこの箱に入ってる船外機も、バラして洗浄してまた組み上げれば使えると思う」

「そりゃ凄い。分乗すれば、特殊部隊が浜名湖を進めるじゃないか」

「これ、たぶんだけど連結して少し大きな船になる。分乗はいらない」

「すっげ」

「でも荷物は」

「まあ、プレジャーボートを手に入れるまでは、俺がトラック代わりでいいさ」

 

 検問所の中の物は、そんな感じで根こそぎいただいた。

 特に助かったのは軍用の銃器類と、その弾薬箱だ。俺が渡した武器を弾がもったいないからとあまり使わない特殊部隊には、何よりもうれしい土産だろう。

 全員が乗り込んだトラックを、咥えタバコのウルフギャングがゆっくりと発進させる。

 

「いやあ、なかなかの稼ぎになったな」

「ああ。半分はウルフギャング達の物だ。店の品揃えが良くなるな」

「ボートはいらないぞ?」

「そうもいかねえって。なあ、セイちゃん」

「ん。どうしても特殊部隊が使いたければ、ウルフギャングから買うから平気」

「気にすんなってのに。おお、こっち側は車の残骸が少ないな」

「それでも、地雷には注意しとく」

「助かるよ」

 

 橋を渡ると数匹のグールが見える駐車場や、木々が生い茂って森のようになってしまった公園があった。

 しばらくは林を見ながら進んだのだが、不意にウルフギャングがアクセルを緩める。

 

「アキラ、左の大きな建物は見たよな? あれじゃねえのか、図書館?」

「体育館って感じじゃなかったか?」

「その隣だよ」

「あぶねえ。体育館に気を取られて見てなかったぜ」

「おいおい。こっちからは道が繋がってなかったから、このバイパスから左に下りられる道があればそこからアレを目指すぞ」

「任せるよ」

 

 かなり回り道をして辿り着いた図書館は、大きな体育館の隣にある、図書館ではなく資料館か何かじゃないのかという雰囲気の平屋の建物だった。

 道中の住宅街では何匹かのグールとモングレルドッグがタレットの餌食になってくれたが、図書館の駐車場やその玄関にその姿はない。

 これじゃ本には期待できないなと言いながら、まずは俺とサクラさんがトラックを降りた。

 

「静かですね」

「不気味なくらいにネ」

 

 ドアの開く音。

 デリバラーを握っている右手を跳ね上げた。

 

「撃たないでくれ。敵意はない」

 

 両手を上げながら言ったのは、汚れた服にこれまた染みや泥だらけの白衣を羽織った、20代後半と思われる男だ。

 髪の毛などもぼさぼさで、何週間も風呂に入っていないと言われれば簡単に信じられる。

 

「アンタは?」

「柏木。浜松で医者をしていた。それにしても、動くトラックに機械歩兵とは驚いたね」

「医者が、どうしてこんな場所に?」

「天竜って知ってるかい?」

「川なら」

「ああ、その天竜川を遡ったところにある街。まあ、集落に毛が生えたくらいのだけどね」

「それで?」

「そこは山深い街で、住民には狩りなんかが得意な人間が多い。そこと新制帝国軍が、小競り合いを起こしてね」

「へえ」

 

 それは、俺達にとっては都合がいい。

 

「それで、医療品を徴収するって言われてね。懸命に働く人々を救うための医療品を、人から奪う事しかしないお前達になんて誰が渡すかと言ったら浜松を追放された」

「クズだなあ、新制帝国軍。そんで?」

「さすがに外聞を気にしたのか、金なんかは奪われなかったんでね。それで水と食料を買えるだけ買い込んで、ここまで歩いて来たって訳さ。水と食料が少なくなれば、小舟の里を目指してそこで医者でもやるつもりだ」

「ふうん。俺達は、その小舟の里のモンだよ。しかし単独でここまで来たとは、そうは見えないのにかなりの腕なのか?」

「まさか。怒りに身を任せ、ズカズカと歩いていただけだよ。武器なんて手術用のメスくらいしかないから、途中からは半泣きだったね。あはは」

 

 呆れながら煙草を咥えると、柏木の目に羨ましそうな光が浮かぶ。

 吸うならばと俺が放ったタバコの箱を笑顔で受け止め、柏木は1本抜き取ってマッチを擦る。

 返す仕草を見せたので首を横に振ると、泥と垢だらけの汚れた顔が愛嬌のある笑顔の形に歪んだ。

 

 


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