Fallout:SAR   作:ふくふくろう

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帰還の途次

 

 

 

 咥えタバコのままビッグボーイを発射し、爆音と光に顔を顰めながらキノコ雲を眺める。

 ゲームなら何ともないが、現実だと複雑なものだ。そう思っていると、さっき聞いたばかりのレベルアップ音がまたしても聞こえた。

 どうやらレイダーを少しと獣面鬼、それに獣面鬼・母を倒して、俺は2もレベルアップしてレベル7になってしまったらしい。

 ゲームのように経験値が美味しいからと探しに行って気軽に狩れる相手ではないが、痛い思いをした価値はあったと言う事か。

 

「にしても獣面鬼・母、経験値がレイダー30人分ってどうよ。ま、子供と合わせりゃ50の悪党を全滅させたくらいになったかな。無事、チュートリアルは終了っと。やれやれ、現実になってもとんでもねえゲームだぜ。フォールアウトシリーズってのは……」

 

 ガコンッ

 

 そんな音がしたので目をやると、屋根を叩いたハッチから顔を出したのはセイちゃんだった。

 

「アキラ、クレイジーウルフギャングが危ないから中に入れって」

「あいよ」

 

 こんなに小さいのにどうやってと這って移動して中を覗き込めば、ミサイルランチャーとミニガンの腕を使ってサクラさんが持ち上げてくれていたらしい。

 礼を言ってから荷台に飛び降りると、サクラさんは先に大きな鉄の輪の付いた鎖を引いてハッチを閉じる。

 

「へえ。考えたもんですねえ」

「あたしは、運転席に入れないかラ」

「上がる時は?」

「そこに転がってる鉄板でガンッと突いて開けて、フックをひっかけてそれで上がるのヨ」

「いちいち豪快ですねえ」

「師匠の改造なら、爆破してハッチを開けろって言われないだけマシ」

「101のアイツって、バカなのか……」

 

 俺が屋根にいるのに手荒くトラックを発進させたウルフギャングに文句でも言ってやるかと運転席の方を向くと、ジャンクや武器が並んだ壁の棚に張り付くようにして4人の家族が身を寄せ合っているのが見えた。

 男は40ほどで、奥さんが少し下。男女の双子と思われる子供達は、まだ10にもなっていないんじゃないだろうか。

 

「あの、ありがとうございました」

「おかげで子供達も怪我なく。チル、ミチ。あなた達もお礼を言いなさい」

「あ、ありがとう。お兄ちゃん」

「あんがとな、にーちゃん!」

 

 言葉で判断すると女の子が先に礼を言ったように思えるが、鼻の下を指で擦りながら笑顔で俺をにーちゃんと呼んだ方が女の子だ。

 ミサキがいたら女の子なら言葉遣いがどうこううるさいだろうなと思いながら、2人の頭を撫でで気にするなと言っておく。

 

「ほれ。今から親父さんとウルフギャングとこれからどうするか話し合うから、このお菓子食いながらジュースでも飲んでろ」

「お、お菓子ってなあに?」

「ジュースはあれだろ、知ってるぞっ。あれだ、人を食う妖異だろっ!」

「ええっ。そんなの怖いよ」

「ないない。セイちゃん、このお菓子とジュース開けたげて。奥さんとセイちゃんの分もあるから」

「ん」

「旦那さんは、俺と運転席に。これからの事を話し合いましょう」

「わかりました」

 

 少しばかり窮屈に感じるが、運転席で男3人で並んで水を飲みながら一服する。

 

「ふうっ。やっとHPが回復だ」

「なんで戦闘中に回復しなかったんだ、アキラ?」

「なんでって、投薬ポンプ・モジュールのパワーアーマーじゃなかったからだけど?」

「おいおい。そんな初めて聞くモジュールなんてなくても、ピップボーイを開いてスティムパックを投与すればいいだけじゃないか」

「あ……」

 

 そういえば、ドクターバッグというアイテムがあったフォールアウトNVではそうやって回復をしていたような。

 それにフォールアウトをやった経験のないウルフギャングは気づかなかったようだが、ショートカットにスティムパックを登録しているんだからイメージするだけでそれを使ってHPを回復できたはずだ。

 ゲームの世界が現実になって、最初の戦闘と2度目の今回で見事に死にかける。

 センス云々の前に、俺には荒事が圧倒的に向いていないのだろう。この分では、少しレベルを上げたくらいでは一人前の山師気取りなど出来そうにない。

 

「やれやれ。あんな装備を持ってて獣面鬼を相手に見事な戦いぶりを見せても、まだアキラはレベル5の初心者山師って事か」

「そうらしいなあ。思い出してみりゃ、FPSゲーマーに指切りできない系男子かって笑われそうな戦闘だったし。それよりどうすんだよ、これから」

「それなんだが、あの集落に戻って大丈夫だと思うか?」

「ムリムリ。デスクローを見てからはテンパってて、悪党が逃げてねえかなんて確認できてねえよ。1人でも生き残ってたら、奥さんやかわいい双子がどうなるか」

「だよなあ。ああ。それとうちの女房に気に入られたようだが、手を出したら……」

「んな高度な性癖は持ち合わせてねえよ。やっぱあれか、101のアイツを追う理由って?」

 

 ハンドルを握るウルフギャングが、唇を真一文字に引き結んで頷く。

 

「人造人間の、リベットシティの警備隊長のような体。それを見つけたら女房に、サクラに譲ってくれると約束してくれたんだ」

 

 やはり、か。

 パーツなら俺のピップボーイのインベントリに入っているはずだが、さすがに丸ごとは入っていないだろう。

 

「俺も見つけたら、すぐに知らせるよ」

 

 この日本に人間に紛れ込める世代の人造人間がいるとは思えないが、核分裂バッテリー車やプロテクトロンが輸入されていて、さらにはスーパーミュータントや名前こそ違うがデスクローまでいるのだから可能性はまったくゼロではないだろう。

 サクラさんが人工知能なのか元は人間なのかなんて尋ねる気はないが、友人になれそうなウルフギャングとその奥さんにはどうか幸せになって欲しい。

 俺達のような普通の人間よりも長い生を全うしなければならない2人だろうから、なおさら。

 

「ありがとう。本当に感謝するよ。それでどうする、アオさん?」

「コトリと、妻とも話したのですが浜松には行きたくありません。ですが、幼い子供達の生活を思うと……」

「なら、小舟の里で暮らせばいいんじゃないですか。俺もあそこで厄介になってますけど、ウェイストランドとは思えないくらいに平和な街ですよ」

「ですが浜松になら知り合いがおりますが、そのさらに向こうの小舟の里で着の身着のまま暮らし始めるとなると。恥ずかしながら、蓄えなんてありませんし」

「仕事かあ」

「なんかないか、アキラ。アオさんも奥さんも、2人だけで子供を育てながら自給自足出来てたくらいの働き者だし。人柄は、俺が保証する」

「仕事なあ」

 

 アオさんはガタイがいいので特殊部隊は危険すぎるからムリでも、防衛隊くらいになら入ってもいいのかもしれない。

 だが若い連中が多い防衛隊は、その稼ぎで家族4人が食べていけるほどの金なんて貰っているのだろうか。

 そんな事を考えていると背後からポンポンと肩を叩かれた。セイちゃんだ。

 

「アキラ」

「ん、どした?」

「メガトン特殊部隊の食事、見習いが作ってる」

「そうなんか。俺は部屋でばっか食ってたから、知らんかった。美味いのか?」

「豚のエサ」

「うへえ」

「だから、この子達のためにも」

 

 セイちゃんは、コトリさんをメガトン基地で雇えと言っているのだろう。

 

「シズクとタイチに頼み込むか。部屋も、待機所に3階を増築して」

「セイからもお願いする」

「まあ、アオさんがそうしたいって言ったら頼むよ」

「ん。任せて」

 

 ならばとまず、小舟の里とその島の最南西にあるメガトン基地の説明をする。

 アオさんは家族の事もあるので真剣に聞いているが、ウルフギャングは咥えタバコでハンドルを操りながら大笑いして話を聞いていた。

 往時の賭博場のような場所で人々が暮らし、その観客がレースと賭けに熱中したプールで魚の養殖などをしているのが面白いのだろう。

 

「あのメガトンを作っちまったってのか。そりゃあ見るのが楽しみだ」

「なんでウルフギャングが食いついてんだよ。どうですか、アオさん。クリーチャー、じゃなくて妖異なんてまず入り込めない基地に家と職場。見習いのガキ達はチルくんとミチちゃんより年上なんで、勉強なんかも見てくれるかもしれません。仕事はコトリさんが食事の支度や掃除で、アオさんが雑用とかになりますかね」

「願ってもない話ですが……」

「いいじゃないか、アオさん。当座の生活費は、無利子で俺が用立てるし」

「何を言ってんの、アンタ。大事な物や思い出の品は持ち出せたけど、コトリ達は着の身着のままで新生活を始めなくっちゃならないんだよ。当座の生活費なんてのは、ポンとくれてやんナ!」

「わ、わかったよ。そうガミガミ言うな」

「尻に敷かれてんなあ、ウルフギャング?」

「うっせえ。同類のくせに」

 

 待機所の壁の地図にある高塚という駅を過ぎた辺りになれば無線が使えるらしいので、たまに繋がるか試しながらトラックに揺られる。

 最愛の奥さんとその人が命を懸けて助けようとした家族が無事だったので、ウルフギャングは上機嫌だ。

 

「お、繋がったか。もしもーし」

 

 アキラ。2人共、怪我はない?

 

「ああ。おかげさまでな。レベルもなんと7んなった」

 

 そう。良かったあ……

 

「かわいらしい声だな。それに、愛されてるじゃないか」

「からかうなって。どのくらいで到着する、ウルフギャング?」

「30分かからないな」

「わかった。ミサキ、こっちは30分とかからず駅に着く。シズクとジンさんと、駅に来ててくれねえか。セイちゃんがトラックの持ち主、ウルフギャング宛の101のアイツからの手紙を預かってるそうなんだ。それと、天竜川とかって駅の近くで暮らしてた4人家族を保護してな。家族の移住許可と、ウルフギャングとその奥さんの滞在許可が欲しい」

 

 わかった。マアサさんは呼ばなくていいの?

 

「マアサさんには、無線を渡してあるだろ。シズクとジンさんが小舟の里とメガトン基地への滞在を認めて、それをマアサさんが許可すればそれでいい」

 

 わかった。じゃあ、待ってるね。

 

「よろしく頼むよ」

 

 どうやらミサキ達は、今日の探索は休みにしたらしい。

 ミサキとシズク、それにジンさんまで加わった脳筋3人衆に毎日毎日ウェイストランドを連れ回されては戦闘に探索にと忙しそうだったから、隊員達にとっては嬉しい休暇になっただろう。

 タイチなんかは確実に部屋でカヨちゃんとイチャコラしているだろうから、ウルフギャングとアオさんと飲み始める頃になったら無線で呼びつけてジャマをしてやる。

 

「アイツからの手紙か……」

「預かってるのは手紙だけかい、セイちゃん?」

「ん。封筒だけ」

「そっか」

 

 なら、人造人間の体そのものは横浜からここまで旅をしても発見できなかったのか。

 

「気にしてくれてありがとな、アキラ。でもそんなすぐに見つかるなんて俺も女房も思ってないから、慰めなんていらないぞ」

「そうかい。まあとりあえず、小舟の里に入っちまえば安全だ。部屋も用意すっから、手紙を読んだらのんびり休んで酒でも飲もうぜ」

「いいね。ああ、それと助けてもらった報酬も渡さないとな。荷台にあるすべての商品と、俺の電脳少年のインベントリにある物でいいか?」

「電脳少年って、国産とか言ってたそのピップボーイかよ。報酬なんて必要ねえさ。どうしてもってんなら、セイちゃんに菓子でも買ってやれ」

「そうはいかないさ。でもな、セイちゃんへの報酬はもう決まってるんだよ」

「へえ。なんだろな」

「ふっふっふっ、驚くんじゃないぞ? ……ほら、これだ」

 

 


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