Fallout:SAR   作:ふくふくろう

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計画

 

 

 

 ダアンッ、ダアンッ、ダアンッ

 

 3発目の直後、バス停から火花が散った。

 

「へえ。初めてのハンティングライフル、端っこにだが3発目で命中させっかよ」

「どんなもんだっす!」

「使用感は?」

「……このガチャガチャって動作が、いちいち面倒っすね。これしてる時に誰かがマイアラークに食い掛かられたらと思うと、少し怖いっす」

「なるほど。まあその銃は、遠くから1撃で獲物を仕留めるのが目的だからな」

「賢者さんの武器に似てるっすもん」

「オルペインレスかリンカーン・リピーターかな。武器では苦労してるんだろうなあ、賢者が101のアイツなら。3は武器が少ねえし。ああ、でもNVや4の世界が混ざってるんだからレベルが上がったらそうでもねえか。次はこれを試せ、タイチ」

 

 そうやっていろいろな銃を撃たせてみたが、タイチはどれも早い段階でバス停に命中させた。

 飛び抜けて得意なのも不得意なのもない、実に優等生な副隊長さんだ。

 

「一通り試してみて、どうだ。もしタイチが銃で戦いに出るとしたら、何を持ってく?」

「うーん。スコープってのが付いたオートコンバットライフルっすかねえ」

「遠距離中距離、どっちもそれで片付けようって事か」

「オイラ達はアキラみたいに、何もない場所に肉を仕舞ったり出来ないっすから。なるべく身軽でいるためっす」

 

 銃さえあれば遠出も出来る。

 さすがシズクに次ぐ地位にいるだけあって、タイチは頭が回るようだ。

 東の浜松と西の豊橋に向かえば銃で武装しているのを新制帝国軍と大正義団に見られてしまうが、南は海しかなくともまだ北がある。

 それを、ちゃんと理解しているのだろう。

 

「近距離はよ?」

「やっぱりオートの、10mmピストルっすかねえ」

「面白味はねえが、無難なくらいでいいのか。指揮官でもあるから、特化しすぎると対応できねえ状況が怖いもんな」

「でもこれ浜松の武器屋で買ったら、何百円になるんだろ。考えただけで怖いっす」

「コンバットライフルはツーショット、10mmは痛打かな。爆発なんかは、フレンドリーファイアが怖い。ところでタイチは、どんなトコ住んでんだ?」

「部屋っすか。普通の大部屋を仕切った宿舎っすけど?」

「そりゃあちっとヤバイか」

「なにがっすか?」

「武装すんのはいいけど、欲に目が眩んだ連中にまた武器を盗まれたらどうすんだよ」

「いやいや、こんなん買えないっすから。借金すら出来る額じゃないっすって」

 

 タバコを咥え、箱をタイチに放る。

 

「おっと」

「ほら、火」

「サンキュっす」

 

 最後に試した10mmを宝物のように持ちながら、タイチが美味そうに煙を吐く。

 101のアイツかもしれない賢者も、こんな気分でジンさんやシズクに武器とパワーアーマーを託したのだろうか。

 

「タイチ」

「なんっすか?」

「もしもの話だがよ。俺とミサキが本当の腕利きになるまで小舟の里の、特に食料調達部隊に肩入れしたとして、どんな問題が起こり得ると思う?」

「期間は?」

「長くて5年、ってトコかな」

「……この島は、長の一族がそれはそれは遠い昔から必死で守り続けてきた里っす」

「並大抵の苦労じゃなかったんだろうなあ」

「はいっす。大正義団の離反で一族は責任を感じてるみたいっすけど、文句があるなら小舟の里を出て行けってジンさんは平気で言うっすよ。あの人は流れ者の山師だったのに、20も年下の長に惚れて惚れて惚れ抜いて防衛隊の指揮官になった人っすから」

「もしかしてあの戦前の人間かってくらいのオシャレは、マアサさんに気を使ってか?」

「ふふっ。本人は違うって言い張るっすけどねえ」

「いちいちやる事がカッコイイ爺さんだなあ。そんじゃ、何をするにもマアサさんの判断次第って事か」

「はいっす。それが納得できないって連中は浜松なり豊橋なりで、銃を持った人間に媚びながら生きていくはずっすよ」

 

 なら、まずはマアサさんと話してみるべきだろうか。

 

「浜松はこの目で見てねえが、新制帝国軍がいるから安全で人が集まって来る。そうだよな?」

「そうっすね」

「人が多くなれば金が動くから、商人や山師も集まる。だが、小舟の里には来てくれない」

「山師のほとんどを、里じゃ立ち入りすら許さないっすから。戦前の品が集まらなきゃ、行商人より金を持ってる商人は来ないっす」

「それに小舟の里の戦力は、正直頼りないからな」

「耳が痛いっすねえ」

「食料調達部隊の人数は?」

「18っす」

「それがすべて、腕の良い山師になったらどうよ?」

「別にって感じっすね。さっきも言ったっすけど、オイラ達はアキラみたいな魔法のポケットを持ってないんすよ。浜松に集まる山師は数が多いからこそ戦前の品と、それが目当ての商人が集まるっす」

「なら食料調達部隊が、輸送手段を手に入れたとしたら?」

 

 ハッとタイチが俺を見る。

 

「まさかっ、トラックを見つけるつもりっすか!?」

「後々はな。まずは、ある物を使う」

「ある物?」

「小舟の里は競艇場だぞ。そしてセイちゃんは賢者の弟子で、修理が得意だ」

「里の壁に貼ってある写真の小舟を……」

「浜名湖は湖って言うくらいだから、海と違って波が穏やかだ。シロウトの俺でも、使えそうな船を探して歩くくらいは出来るだろうさ」

「小舟で、もっと大きな船を探しに?」

「ああ。それが見つかれば、小舟の里は新制帝国軍に肩を並べられる」

「あっちは200ほどの兵隊。銃を持った山師を金で雇えば、それも50にはなるっすよ?」

「ちょうど拮抗するか、こっちが有利だろ。戦うとなれば、4つの橋にタレットと防衛部隊を配置して封鎖。大きな船が移動基地で、小舟が強襲手段だ。あっちは瓦礫や車の残骸ばかりの戦前の道を徒歩かトラックで移動するしかねえが、こっちは20の精鋭が水上を移動してどこにでも上陸できる」

「むむむ……」

 

 食料調達は、タレットと防衛部隊に任せてしまえばいい。

 人手が足りないなら、戦うための人間ではなくマイアラークの解体とそれを運ぶ人間を雇えばいいだけだ。

 普段は山師として働き、戦争となれば特殊部隊として動く18人の精鋭。

 それがいれば、少なくとも2、3人の商人に美味い汁を吸わせるのは可能だろう。その中でこれはと思う人間がいれば仲間に引き込み、現在は新制帝国軍と大正義団と直接している食料品の取引を任せてもいい。

 資本主義って美味しいの? と真顔で言ってしまうような人間でも、商人なら儲けがある限り気合いを入れて交渉をしてくれる事だろう。

 

「いたっ!」

「ありゃ。みんなしてどした?」

 

 考え込むタイチとぼうっと錆びたボロ船を眺めていた俺を指差すのはミサキで、その横にはシズクとセイちゃん。その3人を守るように、ドッグミートとEDーEがいる。

 

「駅の防衛部隊から、ここいらで銃声がすると伝令が来てな。どうせアキラだってミサキが言うから、散歩がてら探しに来たんだよ」

「そっかそっか。なあ、この中って入っていいのか? 遠慮してずっと軒先に突っ立ってんだが」

「カギがないんだよ。窓を割ったりドアを壊したりしてもいいが、もったいない。まあ、たいした物がありそうな建物でもないんで放置してるらしいが」

「ははっ。開錠なら任せろ。難易度は、……いけるな」

 

 この世界の防犯事情が心配になるが、なぜか鍵穴にヘアピンを刺し込むとフォールアウトシリーズのピッキング画面が視界に浮かんだので、あっさり開錠してドアを開けた。難易度がNOVICEでさえあれば、今の俺にでも開錠できないカギなんてない。

 中は事務所のような平屋の小さな建物だが、20人ほどが集まってダベるのに支障はなさそうだ。

 

「こんな特技もあるのか。器用な旦那様だな」

「ホコリっぽいが、雨に濡れるよりゃいい。座って話を聞いてくれ。相談したい事があるんだ」

「む。わかった」

「なんか怖いねえ、アキラからの相談って」

 

 並んでいる事務机の椅子にそれぞれ腰を落ち着けて飲み物を配り、まず話したのはバリケードの上や出入り口の前にタレットを設置してマイアラークや悪党、いつか新制帝国軍と大正義団が敵対した時にそれを撃退する計画だ。

 

「だからそれだけのタレットをアキラが持っているにしても、それを得るための対価が里にはないんだって」

「あるさ。だが高いぞ?」

「……言ってみろ。聞くだけ聞いてやる」

「俺達と101のアイツの永住権だ。その3人とドッグミートとEDーEは、どれだけ小舟の里で暮らしても税金を払わねえ。100まで生きたら、どえらい金額だぜ」

「ヘリクツみたいな対価だなあ、おい」

「アキラらしいねえ」

「それプラス、シズク姉ちゃんとセイ」

「それは遠慮しとくよ。ほんでセイちゃん、競艇場に修理できるボートはあるか?」

「修理の必要すらないのが、たくさんある。ボートは室内にもたくさんあった。でも核分裂バッテリーは、師匠の浄水器に使うから余裕はない」

「101のアイツの浄水器、その響きだけで胸熱だぜ。核分裂バッテリーさえ見つけて来ればいいんだな?」

「ん」

 

 フォールアウト4に核分裂バッテリーというアイテムはなかったが、3とNVではそれなりに落ちているアイテムだった。

 なので、それはなんとかなるだろう。

 

「んじゃシズク。タレットを設置しまくって、防衛部隊にマイアラークの回収を任せるのか可能か? カイティングが必要なら防衛部隊に任せるしかねえが、解体やそれを運ぶのには人を雇ってもいい。食い物が腐らねえんだから、余るようなら溜め込んどいて商人に売ってもいいんだ。人を雇うための初期投資が必要だが、儲けは出るだろ」

「それは爺様もそうしようと言っていたので構わんが、食料調達部隊はどうする。これまで誇りを持って命懸けで戦ってきた連中に、明日から畑でも耕せと言うつもりか?」

「そんな睨むな。食料調達部隊は希望者に俺が銃や防具を貸し出して、普段は山師。狩りだけじゃなく、廃墟の探索もしてもらうのはどうだ。いざ新制帝国軍や大正義団と戦争となれば特殊部隊だ」

「特殊部隊だと?」

「食料調達部隊の連中が銃の扱いを訓練した後、俺はボートで修理可能なもっと大きな船を探す。運よく見つかればセイちゃんに修理してもらって、それを移動基地にするんだよ」

「む。トラックより大きな機械は、修理の経験ない」

「そんな大きいのはねえと思うよ。どうしても見つからなきゃ海も探すが、まずは浜名湖にある船を探すんだから」

「ん。なら平気」

「食料調達部隊が山師に。しかもうまくいけば、船で浜名湖を自由に移動か……」

 

 シズクはそれがどれだけ小舟の里のためになり、戦争となればどれだけ有用かを瞬時に見抜いたようだ。

 無意識にだろうが机の上で拳を握り、小さく何度も頷いている。

 

 


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