未知なる天を往く者   作:h995

59 / 71
第十四話 古き者達

 オーフィスとの対談が無事に終わり、オーフィスとクロウ・クルワッハが静かに立ち去った。すると、セラフォルー様がかなり慌てた様子でこちらへ近づいてくる。その表情からは焦りの色がハッキリと出ている事から、どうやら僕とオーフィスが対談していたのに途中で気付いた様だ。そして、僕達の様子を何度も確認してホッと安堵の息を吐く。

 

「イッセー君、アウラちゃん。二人とも、本当に無事で良かった。ソーナちゃんから念話でイッセー君達の状況を教えてもらってから様子を見てたんだけど、本当に心配したんだからね」

 

「今回は本当にアウラのお陰です。アウラのちょっとした疑問からオーフィスの勘違いを正せましたし、なかよしフルーツを一緒に食べようと勧めた事でオーフィスだけでなくクロウ・クルワッハも戦意が薄れましたから」

 

 今回の対談については、本当にアウラが最大の功労者だった。アウラの頭を撫でながらその事を伝えると、セラフォルー様は納得の表情を浮かべた。どうも対談の内容についてはかなりの部分を聞いていたらしい。

 

「アウラちゃんは「優しい魔法少女になりたい」って言ってるけど、もうそんな必要なんてないのかもね☆」

 

 その上で、セラフォルー様は僕の隣にいるアウラの顔を見ながらこの様な事を言って来た。その言葉の意味を察して、僕は言葉遣いこそ公のものであるが心から同意する。

 

「私もそう思います。レヴィアタン陛下」

 

 ……バナナになかよしフルーツの魔法を掛けて、食べた皆の心をほんの少しだけ近付けたアウラは、「優しい魔法少女になる」という夢を既に叶えているのだから。

 

 その後、セラフォルー様からパーティーを抜け出してタンニーン達のいる大型の悪魔専用の待機スペースに向かう許可を頂いた。そして、元の主の家だったり、個人的に親しかったり、あるいは婚約者の家だったりと色々な理由で近しい為に後回しにしていたグレモリー家・シトリー家・フェニックス家・バアル家への挨拶周りを終えてからタンニーンの元へと向かった。ただ、当初の予定ではイリナとレイヴェル、アウラ、エルレ、会場に向かう途中でソーナ会長から同行の許可を貰った上で本人からも同意を得ている元士郎だけが同行する事になっていたのだが、四家への挨拶周りを行った際に新たに三人同行する事になった。

 

「僕、実はタンニーン様にお会いするのはこれが初めてなんだ」

 

「そうなんだぁ。よかったね、ミリキャス君!」

 

「ウン、アウラちゃん!」

 

 新しい出逢いへの期待に目を輝かせているのは、グレモリー卿に連れられてパーティーに来ていたミリキャス君。

 

「一誠先生、僕達の我儘を聞いてくれてありがとうございます!」

 

「リシャール。一誠様からの折角のご厚意、けして無為にしてはいけませんわ」

 

「はい! レイヴェル叔母上!」

 

 同行を認めた事に対する感謝の言葉を伝えてきたのは、フェニックス家の次期当主として出席していたルヴァルさんについて来ていたリシャール君。

 

「兵藤先生、済みません。何か、先生の仕事に俺まで便乗したみたいになってしまって……」

 

 そう言って申し訳なさそうに謝ってきたのは、挨拶周りの途中で僕に話しかけてきたゼファードルだ。彼は以前にリアス部長やソーナ会長、サイラオーグ、シーグヴァイラさんといった若手悪魔がサーゼクスさん達に謁見した際、僕の教えを受ける事をサーゼクスさんから勧められている。その関係でタンニーンとの対戦後に再会して以来、通信教育の様な形でゼファードルに色々と教える様になった。ゼファードルの同行を認めたのもその一環だ。何より、この三人が同行してくれるのは僕にとってもかなり大きい。それをゼファードルに説明する。

 

「いや。正直に言わせてもらうと、僕としてはむしろ助かったよ。ゼファードルやミリキャス君、リシャール君の様な子供達が率先してドラゴンと触れ合ってくれれば、冥界では嫌われ者になっているドラゴンへの偏見を少しずつでもなくしていけるからね」

 

 すると、レイヴェルが違う視点からの補足説明を始めた。

 

「リシャールを含め、一誠様のお力を承知しているなら「どうせならもっと大きな形で話を進めればいいのに」と思われるかもしれませんわね。実際、一誠様であればもっと大々的に物事を為せると私も思いますわ。ですけど、一誠様は一見大した功績にならず、またご自分の能力に不釣り合いな小さな仕事であっても、けして軽視なされずに丁寧に取り組まれます。それは、そうした小さな仕事の積み重ねこそが将来の大事業を支える土台となる事をよくご存知だからです。リシャールもミリキャス様も、そしてゼファードルさんも将来は人の上に立つ事になるでしょうから、今私の申し上げた事をしっかりとお覚えになって頂きたいですわ」

 

 レイヴェルの補足説明を受けたゼファードルの僕を見る目が、更に輝きを増した。ふと気がつくと、ゼファードルと同じ様な視線をミリキャス君とリシャール君からも感じる。年下の子供達、特にアウラと同い年となるミリキャス君とリシャール君からの視線にこそばゆいものを感じていると、元士郎がからかい気味に話しかけてきた。

 

「ギャスパーに指導している時もそうだけどな。お前って、本当にいい先生をしているよな。一誠」

 

「レイヴェルの補足説明が良かったんだよ。それにお前だって、その内にそうなるつもりなんだろう。元士郎?」

 

 僕がそうやり返すと、元士郎は何ら動揺する事なく堂々と頷いてみせた。

 

「あぁ、そうだぜ。だからな、今は先生の先輩がやっている事をしっかり見て、そこからいい所をどんどん盗んでやろうと思っているのさ」

 

 元士郎がそう言ってニヤリと笑みを浮かべると、パーティー会場を出る直前に合流してきた方がクスクスと笑い出した。

 

「アラアラ。一誠って周りの子達に恵まれているのね。本当、エギトフとよく似ているわ」

 

 ……フロントに来ているという旧知の友人を出迎える為、途中まで同行する事になった義母上だ。そこで、イリナが僕と義父上が似ている点について確認を取った。

 

「そうなのですか、クレア様?」

 

「えぇ。私やエギトフ、ギズルにサーナって、悪魔創世以前に冥界で生まれ育った存在でしょ。それで悪魔創世以前には外の勢力との付き合いがあったの。特にエギトフなんて積極的に冥界の外に出向いていたから、結構顔が広いのよ。でも、悪魔創世以降はそうした付き合いを完全に断ってしまったの。変な疑いを持たれる訳にはいかないからってね」

 

「人に歴史ありって訳か。まぁ俺達は人じゃないけどな」

 

 義母上から明かされた意外な事実を聞いて、この中では義母上に次いで年長であるエルレが冗談を交えながら応じる一方で、僕は義父上達の歩んだ道程が僕の想像より遥かに長く遠いものである事を実感した。……どうやら、僕がこれから引き継ぐ事になるものは想像以上に重く、またそれ故に尊いものであるらしい。

 その後も主に子供達が義母上と話をしながらタンニーン達の元へと向かっていたのだが、エレベーターから降りてホテルのフロントに出ると、そこには隻眼で床に着く程に長い顎鬚を伸ばしたローブ姿の老人が、こちらに戻ってきたリアス部長に絡んでいた。一緒に戻ってきたライザーとおそらくは老人の付き人であろう鎧姿の女性がそれを止めようとしていたのだが、鎧姿の女性は隻眼の老人から何かを言われると、突然床にへたり込んで泣き出してしまった。

 ……幾ら義母上が混沌(カオス)のアライメントを司るからと言って、何もここまで混沌とした状況を作り出さなくてもいいだろうに。そう思った僕は、けして悪くない筈だ。だが、混沌とした状況にも関わらず、義母上は平然と隻眼の老人に声をかける。

 

「お久しぶりね、ウォーダン。元気そうで何よりだわ」

 

 ウォーダン? ……いや、まさか。

 

 義母上の口から飛び出した名前から、僕は老人の正体についてだいたい予想がついた。おそらく、オーフィスの対談の際に千里眼の様な術でこちらを見ていたのはこの方だろう。一方、ウォーダンと呼ばれた隻眼の老人も少し驚いた様な素振りを見せつつも義母上に応じる。

 

「その名前で呼ばれるのも、随分と久しぶりじゃの。それにしても、まさか儂の出迎えに来るのがお主だとは思わんかったぞ。クレアよ」

 

 明らかに顔見知りらしいお二人の会話を聞いて、鎧姿の女性がウォーダンと呼ばれる老人に確認を取る。

 

「あの、オーディン様? その方はお知り合いなのですか?」

 

 ……僕の予想通り、隻眼の老人は北欧神話の主神であるオーディン様だった。リアス部長やライザー、小猫ちゃんを含めた皆が老人の正体を知って驚く中、僕は自分の予想が当たった事にホッと胸を撫で下ろす。その一方で、鎧姿の女性からお互いの関係を尋ねられたお二人は驚くべき答えを返してきた。

 

「このご婦人の名はクレア・ネビロス。儂の若い頃からの腐れ縁でエギトフ・ネビロスという男がおるんじゃが、その奥方じゃ。そもそも、ここにいるクレアを始めとする悪魔創世前から生きておる連中は冥界生まれの精霊であるから、聖書の神の定めた悪魔の枠組みから外れておっての。その為、「魔」の力を持っておる事から一応は悪魔勢力に属しておるが、その気になればいつでも悪魔の肩書を捨てられるんじゃよ。実際、冥界に悪魔と堕天使が堕ちてくる一万年前まで、偶に地上に出向いたエギトフと顔を合わせておったし、儂の方もこっそりと冥界にあるあ奴の邸を訪ねてはあ奴等をからかっておったわ」

 

「でも、冥界に堕ちてきた子達の面倒を看る為に、あの人はそれっきりウォーダンを含めた外の付き合いを全て断ってしまったの。あの人はいつもそう。たとえ嫌な事でも必要だと思えば率先してやってしまうものだから、よく誤解されるのよ」

 

 先程エルレが言った様に「人に歴史あり」とはよく言ったものであるが、義父上や義母上のそれは余りにも桁が違っていた。僕も含めて全員が絶句している中、オーディン様は話題を義父上に対するものへと変える。

 

「ところで、クレアよ。あ奴は今でも現役を張っておるんじゃろ? 全く、さっさと引退して若造共に後を任せてしまえばいいものを。何度か知恵を貸してもらった事のある儂が言うのも何じゃが、あ奴は少々面倒見が良過ぎるわ」

 

「でも、ウォーダン。それは貴方も一緒でしょう? そもそも子宝に恵まれなかった私達と違って、貴方には優しく聡明なバルドルも強くて頼もしいヴィーザルもいるのよ。それなら、今貴方が自分で言った様にあの子達を始めとする若い子達に道を譲って、後は自分達の足で前へと進ませなさいな。でないと、ちょっとした事で簡単に足を掬われてしまうわよ。あの子達も、そして貴方も」

 

 ……北欧神話の主神であるオーディン様に対して義母上がここまで言ってしまうとは、流石に僕も思わなかった。一方、言われた側であるオーディン様は苦笑こそ浮かべているものの、けして不快とも無礼とも思ってはいない様だ。きっと、それを言えるだけの資格を義母上が持っているとお思いになられているからだろう。

 

「……全く。おっとりしとる様で芯は鋼よりも強くしなやかなのは、一万年経っても変わらんのぅ」

 

「私もエギトフも、一万年程度でそんなに変わったりしないわよ。ウォーダン、貴方だってそうでしょう?」

 

「確かにお主の言う通りじゃな。ホッホッホ」

 

 一万年という気が遠くなる程の永い期間、お互いに接する事がなかったにも関わらず、お二人はまるで数日ぶりに会ったかの様にお互いに笑みを浮かべながら会話を楽しんでいる。そうしたお二人の姿に皆が少なからず驚く中、僕はこれからの永い生涯を楽しく生きるコツの様な物を見つけた様な気がした。ここで義母上が話題を変えて、僕達をオーディン様に紹介すると言って来た。

 

「一誠。この際だから、ウォーダンに貴方達を紹介するわね。これから永い付き合いになるでしょうから」

 

 確かにその通りだ。それに高天原に出向いた事で今後は外の勢力との外交の窓口となる以上、ここで主神であるオーディン様に顔を知ってもらえるのは非常に都合がいい。

 

「承知しました。よろしくお願いします」

 

 僕が義母上の提案を承知すると、義母上は早速僕達の紹介を始めた。その時の義母上はとても楽しそうで、それを見ているオーディン様もつられた様に笑みを浮かべている。ただ、僕をネビロス家の次期当主として養子に迎えた事を話すと、オーディン様は驚いた様な表情を見せた。

 

「ホウ。これは中々面白い事を聞いたのぉ。それを言ったのがお主でなければ、嘘の一言で片付けておったわ。それにしても、儂が「養子を取れ」と散々言って来たのにずっと断り続けたエギトフがのぅ……」

 

 オーディン様が遠い昔を懐かしむ様な素振りを見せる中、義母上はリアス部長達にはオーディン様への急な応対に感謝を告げると共に、僕達には本来の目的を果たす様に言い付けて来た。

 

「リアス・グレモリーさん、ライザー・フェニックスさん。それと、確か塔城小猫さんだったかしら。ウォーダンへの急な応対、お疲れ様でしたね。ここからは旧知である私に任せて下さいな。それと一誠、貴方達はやるべき仕事をしっかりとやってきなさい。いいわね?」

 

 すると、僕の仕事についてオーディン様が義母上に尋ねてくる。

 

「んっ? クレア、仕事とは何じゃ?」

 

「冥界で嫌われ者になっているドラゴンへの偏見を少しでも改善する為に、これから小さな子供達と一緒にタンニーンが待機している所まで出向いて親睦を深めるんですって。これについては、直接の上司になっているレヴィアタン様も認めているわ」

 

 義母上がオーディン様の疑問に答えると、オーディン様は納得の表情で僕の事を見た。

 

「フム。まずは身内のゴタゴタを少しずつでも解決していこうと言った所かの。まぁ、あの何を考えておるのか解らん所のあるオーフィスとしっかり話ができておったんじゃ。それくらいは軽くやってのけるじゃろうて」

 

 そうしてオーディン様の疑問が解決した所で、僕はタンニーン達の元へと向かう事にした。義母上がオーディン様に応対してくれるのであれば、セラフォルー様から命じられていた出迎えの件を後回しにできるからだ。

 

「では、行って参ります。義母上。それとライザー」

 

「えぇ。しっかりやってきなさい」

 

「解っている。リアスと小猫は俺がパーティー会場まで送っていくから、二人の心配は無用だ」

 

 そうして出発の挨拶を終えた僕は、イリナ達と共にリアス部長や小猫ちゃん、ライザー、オーディン様、ロスヴァイセさん(オーディン様のお付きである鎧姿の女性の名前だ。最初は敬称を付けて呼んだのだが、義理とはいえ主神の知人の息子にそう呼ばれた事でかえって恐縮されてしまった為、最終的には年上という事で「さん」付けで落ち着いた)、そして義母上に見送られながらホテルのフロントを後にした。

 

 

 

Side:セラフォルー・レヴィアタン

 

 私達魔王が主催したパーティーが何事もなく終わり、出席した人達の多くが二次会の会場へと向かう中、サーゼクスちゃんから冥界の首脳陣に対して緊急招集を掛けられた。きっと、いつの間にかパーティー会場に侵入していたオーフィスの事ね。……ネビロス家の執事長さん(この人、実は冥界における最高の執事さんでグレイフィアちゃんがグレモリー家のメイドになる為の研修でお世話になった先生でもある)が準備したと思われるテーブルにイッセー君とアウラちゃんの二人が座っているのを見て、相手は誰なのかと確認したらそれがオーフィスだったと解った時、私は訳が解らなくなっちゃった。「どうして? 何で貴女がそこにいるの?」って。それで慌ててイッセー君達の所に駆け寄ろうとしたけど、その前にソーナちゃんから念話が来た。ロシウ先生が手を加えたものでそうそう盗聴される事もないから、他の人に聞かれる心配はない。

 

〈お姉様、少しお待ち頂けますか。この場での戦闘を避ける為、一誠君がアウラちゃんの質問を切っ掛けにしてオーフィスに対談を持ち掛けて、今上手くいったところなんです〉

 

 ソーナちゃんからこう言われて、私は内心驚きながらもイッセー君達の様子を見る事にした。そして、執事長さんが持ってきたバナナをアウラちゃんとオーフィスが仲良く食べ始めた時、私は衝撃を受けた。

 

― あのね。バナナって、なかよしフルーツなんだよ。だって、長さも太さも違うのに、ケンカしないで一緒にくっついてるから。それに、皆でバナナを食べると美味しくって皆一緒に笑顔になっちゃうし、同じ気持ちで笑顔になったら心が近付いて仲良くなれるの。だから、なかよしフルーツなんだよ ―

 

 アウラちゃんが執事長さんにバナナを頼んだ後でオーフィスに話した事なんだけど、それが私の目の前で実現していた。そして、こう思ったの。アウラちゃんは魔法少女である私に憧れてくれるし、私やはーたん先輩みたいな魔法少女になりたいって言ってるけど、実際はアウラちゃんこそが皆の心に優しさを届けられる「本当の魔法少女」なんだって。

 ……結局、この場はイッセー君がオーフィスにグレートレッドとの対話を持ち掛けて、オーフィスが考える時間が欲しいと言った所でお開きになった。ただ、いくつか大きな収穫もあった。オーフィスがこの場に連れてきたドラゴンが邪龍の筆頭格の一頭であるクロウ・クルワッハだった事。オーフィスがイッセー君に影響されて「無限」の中身を増やし、より強くなった事。これだけならハッキリ言って絶望的なんだけど、自分以外の存在に影響される事からオーフィスの心はけして無限じゃない事がハッキリした。これで「懲らしめる剣」が使えるイッセー君ならオーフィスにも有効打を与えられるから、結果としてはこの上ない朗報になって私は心からホッとした。

 また、それとは別にリアスちゃんの眷属である木場君と一緒にサジ君もオーフィスから「我の眷属にしてもいい」と高く評価されたのは、サジ君の主であるソーナちゃんの評価にも繋がるから素直に嬉しいと思ってる。正直な所、コカビエルを完全に無力化したり、首脳会談で仕掛けられたテロを実質完封したり、果ては世界最強のオーフィスをあと一歩の所まで追い詰めて退けたりとイッセー君の余りに華々しい戦功の影に隠れちゃっているけど、この二人ってそもそもコカビエルとの最終決戦に参戦してケルベロスやオルトロスの大群を相手に無傷で退けるって上級悪魔でもちょっと難しい事をやっちゃってるから、上層部の間でも実はそれなりに評価されてた。そこにオーフィスに真っ向から立ち向かってイッセー君復帰までの時間稼ぎに成功、その後も力及ばず途中で脱落しちゃったけどそれまではイッセー君達と一緒に奮戦して五体満足で生き残っちゃうなんて最上級悪魔はおろか魔王である私でもちょっと難しそうな事をやってのけたから、二人がもう少し功績を重ねたらイッセー君の時みたいに早急に中級悪魔に昇格させた方がいいって意見も最近じゃ出てきてる。

 だから、最近は「時代が変わった」って思う事がよくある。私達四大魔王の中でも特に飛び抜けて強いサーゼクスちゃんやアジュカちゃんはともかく、グレイフィアちゃんやタンニーンちゃんみたいな同格の実力者が結構いる私やファルビーの出番はそろそろ終わりなのかもしれない。……もしそうなっても、その時は「優しい魔法少女になる」って夢に全力を注ぐだけだから、私としては一向に構わないんだけどね☆

 こんな風に色々な事を考えながら集合場所として指定された部屋に向かうと、そこにはサーゼクスちゃんとアジュカちゃん、それに神の子を見張る者(グリゴリ)のトップ3であるアザゼルとシェムハザ、それに朱乃ちゃんのお父さんが集まっていた。私が来てすぐにファルビーも部屋に入ってきた所で会議が始まり、まずはサーゼクスちゃんの事情説明を受けた。

 オーフィスの侵入については既に知っていたし、ホテルの敷地内で結界が張られた事もイッセー君達がすぐに手を打つだろうって放っておいたんだけど、流石に潜入していたのがSS級「はぐれ」悪魔の黒歌である事までは解らなかった。……というよりは、結界を構成している魔力に妖気と仙気が混じっている事から考察を進めて相手の種族をほぼ特定したイッセー君とそれから即座に黒歌の名前を出してきたレイヴェルちゃんが凄過ぎる。アザゼルも言っていたけど、私の次のレヴィアタンになるのは本当にレイヴェルちゃんかもしれない。でもそれ以上に、実はオーフィスとクロウ・クルワッハは私の側を通り過ぎていた事を知らされて、私はそれに全く気付いていなかった事に今まで生きてきた中でも五本の指に入るくらいのショックを受けてそのまま気を失いそうになっちゃった。ただ、イッセー君がオーフィスからの視線を感じ取ってオーフィス達を視界に捉えるまで、その時イッセー君と一緒にいたサーゼクスちゃんやアジュカちゃん、アザゼルの三人でさえオーフィス達の事に気づいていなかったという事なので、ちょっとホッとしちゃった。そして、すぐにそんな事でホッとしちゃった自分の弱さが嫌になった。その後、今回は対談だけに留まり戦闘が避けられたからパーティーの出席者は全員助かったんだけど、かなりギリギリな状況だった事を悟ってとても冷たいものを背中に感じちゃったのは、たぶん私だけじゃないと思う。

 

「まさか、その様な事になっていたとは……」

 

 神の子を見張る者の副総督であるシェムハザさんも、事の余りの大きさに言葉がなかなか出て来ないみたいだった。そこで、アザゼルは今回の件のおける堕天使側の対応について指示を出す。

 

「シェムハザ。今回の件についてだが、黒歌の方は警備の穴を突かれたんだから悪魔側の失態には違いない。だが、オーフィス達の方は流石に不問にしろよ。今回はオーフィスがイッセーに熱烈な視線を送っていたからイッセーがそれを感じ取れただけで、実際は誰が何をやっても見つけられねぇよ。現にイッセーが視線をオーフィス達に向けるまで、俺とサーゼクス、アジュカも含めて誰一人オーフィス達に気付いていなかったんだからな」

 

「アザゼルがそう言うのであれば……」

 

 シェムハザさんはやや不服そうではあったけど、最後は承服した。確かに堕天使のトップであるアザゼルのすぐ側に最大級の脅威がいたにも関わらず全く気付いていなかった事は紛れもない事実だし、トップの危機に全く動かなかったという意味で堕天使側もまた失態を犯しているからだ。

 

「ところで、当事者である兵藤親善大使は今どちらに?」

 

 ここで朱乃ちゃんのお父さんであるバラキエルさんがイッセー君の事について尋ねてきたので、悪魔側のイッセー君の上司である私が答えた。

 

「イッセー君は冥界に住むドラゴンとの親睦の為に、パーティーを途中で抜け出してタンニーンちゃん達のいる所へ向かったの☆ それでこの会議の事は既に伝えてあるから、そろそろ来るとは思うんだけど……」

 

 パーティーの途中でイッセー君が私に会場を抜け出す許可を貰う際に説明を受けたんだけど、イッセー君はタンニーンちゃんと話をした時に冥界でドラゴンが忌み嫌われている現状を知って、政治的な意味でも戦略的な意味でもそれを何とかして改善したいって考えていたみたい。それで考え付いたのが、聖魔和合親善大使としての仕事の一環としてドラゴン達と親しく接する事で冥界内部の融和を図る事だった。……イッセー君がこっちに来てくれて以来、今までは足の引っ張り合いでなかなか取り掛かれなかった事がスムーズに行われる様になってる。駒王協定が締結されてからすぐの時に、アザゼルがイッセー君の事を「三大勢力全体を見渡しても代わりが利かない、堕天使総督や四大魔王以上の重要人物」と言っていたらしいけど、ここに来て改めて実感した。それは説明を終えた後で「あくまで可能性としてですが」と前置きした後でイッセー君が話した事にも表れている。

 

「場合によっては、パーティーが終わるまでには戻れないかもしれません」

 

 ……実はオーフィスと対峙している間、それを誰かが少し離れた場所から見ていた事にイッセー君は気づいてた。イッセー君の近くにいてそれに気付いたのは、サーゼクスちゃんとアジュカちゃんだけ。つまり、力量が神の領域に至っている人達だけなのだ。そうなると遠くから見ていた人も神かその領域に至っている存在なので、私達四大魔王でないと出迎えとしてはつり合いが取れなくなってしまう。そこで、私達魔王の代務者として聖魔和合親善大使を務めているイッセー君なら、私達の代役としてどうにかつり合いは取れるという訳。その人はパーティー会場であるこのホテルのフロントにいるみたいだから、タンニーンちゃんの元に向かう前にイッセー君に対応してもらう事にしたんだけど、そうすると流石にパーティーが行われている間に戻ってくるのは難しいってイッセー君は言ってた。ファルビーじゃないけど、イッセー君はちょっと働き過ぎだと思う。だから、上司としての命令で強制的に休ませるくらいでイッセー君にはちょうどいいのかもしれない。

 ……ただ、その遠くから見ていたのって、一体誰なんだろう? その疑問だけが、私の中で解消されていなかったんだけど。

 

「遅れて申し訳ありません。聖魔和合親善大使、兵藤一誠です。入室の許可をお願い致します」

 

 部屋の外からイッセー君の声が聞こえてきた。ただ、続けて出てきた言葉に私はおろか他の皆も驚きを隠せない。

 

「なお、先程こちらにお越しになられたオーディン様をお連れ致しております」

 

 確か、オーディン様を含めた外のお客様の冥界入りは明日の予定だった筈だけど、それがどうして今ここに来てるの? ……遠くからイッセー君とオーフィスの対談を見ていたのは誰だったのかはこれで解ったけど、また別の疑問が湧いてきて私の頭が痛くなってきた。

 

Side end

 




いかがだったでしょうか?

最新刊で明らかになったネビロス家についてですが、拙作はこのまま最後まで独自設定で行きます。予めご了承ください。

では、また次の話でお会いしましょう。

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。