未知なる天を往く者   作:h995

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2019.1.11 修正


最終話 内から外へ

Side:木場祐斗

 

 会長が「身分の分け隔てのないレーティングゲームの学校を建てる」夢を諦める事なく、しかしその追い駆け方を改める事を宣言した事で全員が目標を掲げ終えた。その様子に満足げな笑みを浮かべたサーゼクス様は部長をはじめとする若手の方達に改めて激励の言葉をかけてくる。

 

「最後に君達の今後の目標を聞かせてもらったが、いずれも掲げるに相応しい物だった。激励を受けた者も注意を受けた者もいるが、その言葉を胸に今後も励んでほしい。さて、先程言った様に若手同士でレーティングゲームの対戦を行う事になっているのだが、その開幕戦のカードはグレモリー眷属とシトリー眷属を予定している」

 

 若手対象のレーティングゲームの開幕戦は、グレモリー眷属VSシトリー眷属。

 

 サーゼクス様は開幕戦のカードをこう宣言した上で、その理由について説明し始めた。

 

「若手対抗戦とも言うべき今回のレーティングゲームの対戦については、君達若手悪魔がお互いに競い合う事で力を高めてもらう目的があるが、その他にアザゼルが各神話勢力のレーティングゲームファンを集めてデビュー前の若手の試合を観戦させるという名目もあった。それを踏まえれば、この若手対抗戦は先の首脳会談における禍の団(カオス・ブリゲード)の襲撃を退ける上で活躍した者達を眷属として擁する二人の対戦で開幕するべきなのだよ」

 

 サーゼクス様の説明を受けて、この場にいた者は誰もが開幕戦のカードに納得の意を示す。ここで、ゼファードル様が物怖じする事なくサーゼクス様に尋ねてきた。

 

「ルシファー様、一つだけ確認させて下さい。リアス・グレモリーとソーナ・シトリーの共有眷属である兵藤先生はどうなっているんですか?」

 

 このゼファードル様の質問に対して、サーゼクス様は明らかに「しまった」という表情を浮かべると、イッセー君の全試合不出場を伝える。どうも先程レーティングゲームに関する説明の中でイッセー君の不出場の事も併せて教える予定だったのをすっかり忘れていたみたいだ。

 

「それについてなのだが、兵藤親善大使は今回行われる君達の試合の全てにおいて出場しない事になっている。先程レーティングゲームについて説明した時に併せて伝えるつもりだったが、それをどうやら忘れていた様で申し訳ない。ただ誤解を恐れずに言えば、彼と君達とでは力量差が余りに大き過ぎる。君達の試合に私やセラフォルーが妹の眷属として出場する様なものと言えば、解り易いかな?」

 

「あのオーフィスとの戦いで主力を張ってるって時点で兵藤先生がとんでもなく強いのは俺でも解るんですが、できれば実際に戦っている所を一度見てみたいです。……ってのは、俺の我儘ですか?」

 

 サーゼクス様の返答を受けて、ゼファードル様はイッセー君との力量差については納得したものの、できれば何らかの形で一度見てみたいと言い出した。すると、サーゼクス様はゼファードル様の言い分に理解を示す。

 

「確かに、ゼファードルの言っている事にも一理あるな。それに百聞は一見に如かずという言葉もある」

 

 そして、サーゼクス様は側に控えていたグレイフィアさんに指示を出した。

 

「グレイフィア。昨日の私と兵藤親善大使で行った模擬戦、確か記録映像として撮ってあったな。それをここにいる皆に見せてやってくれ」

 

「畏まりました。……では、皆様。こちらをご覧下さい」

 

 そうしてグレイフィアさんが魔力によるスクリーンを空中に展開すると、そこにはお互いの子供を背にした状態でイッセー君とサーゼクス様が対峙する場面が映し出される。

 

「前以て言っておくが、この時の兵藤親善大使の言葉使いについては、プライベートの時には対等の言葉使いで話すように私が命じているので気にしないでくれたまえ。付け加えると、私も兵藤親善大使もお互いの子供が見ていて解り易い様に戦い方を制限している。だからこそ、君達にも解り易いだろう」

 

 サーゼクス様がそう前置きすると、スクリーンに映し出された記録映像の再生が始まった。

 ミリキャス様とアウラちゃんという幼い子供達が見ても解り易い様に戦い方をかなり制限してあるとは言え、悪魔の超越者である紅髪の魔王(クリムゾン・サタン)とあらゆる意味で常識を逸脱した赤き天龍帝(ウェルシュ・エンペラー)の模擬戦はこの場にいる方々の多くに様々な形で衝撃を与えた様で、驚きや感嘆の声が時折聞こえてくる。

 ……ただ、早朝鍛錬で時々行われているイッセー君とサーゼクス様の本気の模擬戦はこんなものじゃない。行動の一つ一つが十手以上先を見据えたものであり、かつ複雑なパターンが幾つもある為にたとえ手を読まれても即座に対応可能である事から、お互いの手を読み合う中で駆け引きが幾つも応酬するという正にテクニックタイプの極致ともいうべきものだ。

 しかも「探知」のお陰で敵の手が全て読める事から魔力主体のウィザードタイプの方向性をパワー重視からテクニック重視のスタイルへと転向した部長曰く「小手調べの攻撃ですら私達にとっては致命傷になる威力があるからどうしても全力で対処しないといけないし、対処したらしたでそれを布石とする攻撃がすぐに飛んでくるから、最終的には対処が追い付かなくなって手詰まりになってしまうのよ」との事なので、僕達程度ではそもそも勝負にならない。アザゼル先生もまた溜息交じりに次の様な事を言っていた。

 

「俺がアイツ等と戦った場合、まともに戦える様になるのは情報が出揃って対策も仕込み終えた三戦目以降だな。一戦目は殆ど何もさせてもらえずに完敗、二戦目は善戦空しく切り札を使われてアウトってところか。ただな、本来なら戦場で次を期待するってのは絶対にやっちゃいけねぇ事だから、それじゃ話にならねぇんだよなぁ……」

 

 堕天使総督すら溜息が零れる領域で行われる本気の模擬戦に比べたら、この模擬戦は本当に解り易かった。解り易いだけに、イッセー君と僕達の力量差が更に浮き彫りになってくる。今回集まった若手悪魔の中でまともに戦えるのは、たぶん瑞貴さんだけだろう。……僕が目指している場所は、まだまだ遥か先らしい。

 

 やがてイッセー君とサーゼクス様が相手の子供を人質に取り合い、その目的が一致している事を確認し合った所で記録映像の再生が終わった。そこで、サーゼクス様は僕達に声をかけてくる。

 

「さて、これで納得してもらえたかな? なお兵藤親善大使の実力については後日別の形で冥界中に披露する予定になっているから、それを楽しみにしてほしい。そして、皆も気になっている開幕戦の日取りについてだが、人間界の時間で八月二十日とする。それまで各自好きに時間を割り振ってくれて構わない。詳細は後日改めて送信するので確認する様に。では、本日の行事はこれで全て終了とする」

 

 そして、サーゼクス様の終了宣言によって、若手悪魔の謁見は終了となった。この場にいた者は僕達も含めて次々と退出していく中、イッセー君と総監察官は席に座ったままだ。それがとても気になったが、主である部長を差し置いてこの場に残る訳にもいかず、僕は皆と一緒にこの部屋を退出した。

 

 ……後でイッセー君に訊いたら、イッセー君達がこの部屋を出たのは僕達が退出してから二時間程経ってからだったらしい。そこでイッセー君達は何をしていたのか、それを僕達が知る事になるのは暫く先の事だった。

 

 

 

「そうか。若手対抗戦の開幕戦のカードはお前達になったか。……イッセーの冥界側の花嫁は現大王の腹違いの妹に決まった事については、サーゼクスから一報を受けた後、当事者の一人であるイリナからその詳細を聞いている。だから、まずはお前達の事から話をするぞ」

 

 若手悪魔の会合が終わり、僕達グレモリー眷属とシトリー眷属はイッセー君達が宿泊している施設に集まっていた。そこで僕達を迎えてくれたのは、この後ここに戻ってくるイッセー君達を堕天使領に連れていく事になっているアザゼル先生だった。なお、イッセー君の冥界側の花嫁であるエルレ・ベル様との顔合わせが済んだイリナさんとアウラちゃんはもちろん、三日前からフェニックス家の本邸に宿泊していたはやてちゃんとセタンタ君、師匠(マスター)、ロシウ老師の四人もここに来ているが、肝心のイッセー君とレイヴェルさんはまだ戻ってきていない。その為、僕達は時間単位で広めの部屋を借りてそこに移動すると、イッセー君達が戻ってくるまでの待ち時間を利用して部長と会長が謁見における一部始終を先生達に説明した。その後で先生の口から出てきたのが、この言葉だった。そして、アザゼル先生の話は続く。

 

「人間界の時間で現在七月二十八日だから、対戦日まで二十三日。対戦前の三日間は最終調整に使うとして、全力で修行できるのは二十日ってところか。それに用件はそれぞれ異なるが俺やイッセー達と一緒に堕天使領に向かう事になっている連中については、事と次第によっては修行期間がかなり削られる事もあり得る。まぁ双方共に同行者の数が同じな上に主力級が入っているから、その点でどちらかが不利になるって事は殆どないだろうがな」

 

 ……そう。イッセー君の堕天使領への外遊にはまず出向者であるイリナさんとレイヴェル様、更に家族枠ではやてちゃんとアウラちゃん、その護衛で師匠とロシウ老師、セタンタ君が同行する。更にそれとは別件でグレモリー眷属からは朱乃さんと僕、ギャスパー君が、シトリー眷属からは副会長と草下さん、そして元士郎君がそれぞれ同行する事になっている。それがどういう意味を持っているかをアザゼル先生が話し始めた。

 

「魂を断片化された龍王ヴリトラの意識の復活。それがイッセーのお陰で一気に現実味を帯びてきたからな、この際だから一気に進めてしまおうって事になったんだ。それにまもなく神滅具(ロンギヌス)に認定される木場の和剣鍛造(ソード・フォージ)や古の魔神バロールの意識の断片が宿った事で完全に別物と化したギャスパーの停止世界の邪眼(フォービトゥン・バロール・ビュー)の詳しい調査に真羅の持つ追憶の鏡(ミラー・アリス)の新解釈に伴う検証実験、もはやイッセー謹製の人工神器(セイクリッド・ギア)と言っても全くおかしくない結界鋲(メガ・シールド)の強化計画といずれも神器の研究や人工神器の開発に一石を投じるものになるから、俺達堕天使にとってもお前達の訪問は重要な意味を持っている。それだけに、訪問予定の連中は単に二十日間修行した時より強くなる事が十分考えられる。特に匙はその度合いが桁違いになる可能性が高い。だからリアス、こっちに残るお前達も気合入れて修行しないと、試合にすらならなかったなんて事も十分あり得るぞ」

 

 確かに、油断していると本当にそうなりかねない恐ろしさが今のシトリー眷属にはある。ただ、そもそも僕達の方が圧倒的に不利なのに油断なんてできる訳がなかった。

 

「アザゼル。ソーナにはイッセー以上の剣士である武藤君がいる時点で、私達の方が圧倒的に不利なのよ。それなのに私達が修行を疎かにするなんて事、まずあり得ないわ」

 

 部長が僕達の気持ちを代弁すると、アザゼル先生は瑞貴さんの方を向いて納得の表情を浮かべた。それだけに、今度は別の方向で疑問が湧いてきた様だ。

 

「そういえば、武藤はシトリー眷属だったな。確かに現時点でもお前達の方が相当に頑張らないと勝つのは難しいか。……ところで、ソーナ。以前から疑問に思っていたんだが、お前は一体どうやって武藤を騎士(ナイト)の眷属にできたんだ? 主がイッセーならともかく、お前じゃ余りに実力差があり過ぎて普通の駒はおろか変異の駒(ミューテーション・ピース)でも無理だと思うんだが」

 

 ……それについては、僕も常々疑問に思っていた。それに皆も同じ事を思っていた様でウンウンと頷いている。そこで会長と部長が視線を合わせた後で頷き合うと、会長からとんでもない発言が飛び出してきた。

 

「実は、武藤君の本当の主は私ではなく一誠君なのです。私はあくまで二人の仲介者に過ぎません。だからこそ、完全に実力不足である私でも見かけ上は武藤君を眷属にできたのです」

 

 ……正直に言えば、僕は会長の言っている事の意味がよく解らなかった。いや、解らなかったというよりは信じられなかったと言うべきだろう。それだけあり得ない事だった。

 

「ハァッ? 何だ、そりゃ?」

 

 それはアザゼル先生も同じだった様で、訳が解らないといった表情で部長や会長に問い直してきた。ここで今度は部長が今や「滅び」の力以上の代名詞となりつつある「探知」を使って得た情報をアザゼル先生に伝えていく。

 

「それについては、まずソーナが武藤君を自分の眷属として紹介した後で私にその可能性がある事を伝えてきたの。それで私が「探知」に目覚めてから改めて調べてみたのだけど、私とソーナがイッセーを転生させた際に私達の魔力の他にイッセーの持つ赤い龍(ウェルシュ・ドラゴン)のオーラを兵士(ポーン)の駒に混ぜ込んだのと、武藤君がソーナの眷属になる際の契約条件に「兵藤一誠が上級悪魔として独立した時には、交換(トレード)の形で自分を兵藤一誠の眷属とする」という一文が入っていたのが原因みたいね。それでソーナを仲介する形でイッセーと武藤くんの間に眷属としての主従関係が形成されたらしいわ」

 

 つまり、瑞貴さんは最初からイッセー君の騎士だったという事か。何故か僕はこの事実をすんなり受け入れる事ができた。ひょっとしたら、心の何処かで薄々そうではないかと思っていたのかもしれない。そして、部長がここまで話した所でセタンタ君が長年胸に(つか)えていたものが一気に取れた様な反応を見せた。まぁ瑞貴さんの眷属化に一番納得していないのは彼だったのは間違いないので、この反応も無理はない。

 

「成る程な、これでようやく合点がいったぜ。ただソーナ・シトリーには気の毒だとは思うが、本当にスゲェ人ってのは結局は収まるべき所に収まるモンだったって事だな」

 

 それに、アザゼル先生もしきりに頷く事で納得の意を示しているので、そこまで大きな矛盾はないらしい。

 

「確かに武藤の主がイッセーであれば、通常の駒でも眷属化は十分可能だろう。本当なら別の(キング)を仲介にしての主従関係なんてまずあり得ない事だろうが、「イッセーだから」でそれが納得できちまうんだから、アイツは本当にブッ飛んでいるな。それにしても、二代目騎士王(セカンド・ナイト・オーナー)も務める赤き天龍帝に仕える騎士の一人は、現代最高峰の剣士である水氷の聖剣使いか。余りに似合い過ぎていて、文句の付け様がねぇよ」

 

 アザゼル先生の言う通りだった。ただ、瑞貴さんは無茶ぶりにも程がある契約条件をあえて呑んでくれた会長に対しても恩義を感じているので、イッセー君が独立するまではシトリー眷属における最高にして最強の騎士として在り続けるだろう。……結局の所、瑞貴さんが若手対抗戦における最大の壁である事に何ら変わりはなかった。

 僕が改めてそう思っていると、部長が瑞貴さんにこの事をイッセー君にはまだ黙っている様に頼み込んでいた。

 

「因みに、本当はイッセーが上級悪魔に昇格した時にこの事を二人に教えるつもりだったの。だから武藤君、この事はまだイッセーには黙っていて」

 

 それに対して瑞貴さんが承知する旨を伝えてきたけど、問題はその後に出てきた言葉だった。

 

「支取会長、グレモリーさん。この事を一誠に黙っておくのは承知したよ。……ただ、一誠が現大王の妹君と結婚する事になった以上、どうせ近い内に一誠に話す事になるんじゃないかな?」

 

 瑞貴さんからそう問いかけられた瞬間、部長と会長は共にハッとした様な表情へと変わる。

 

「そうだわ、武藤君の言う通りよ。極めて稀ではあるけれど、もし眷属悪魔が主以外の上級悪魔と結婚する事になったら、主と結婚相手の間で交換するのが慣例になっているわ。だから、イッセーがエルレ叔母様と結婚するとなれば、当然叔母様と交換しないといけないのだけれど……」

 

「一誠君に使用された兵士の駒の数が十一個である以上、エルレ様はおろか他の誰であっても交換は不可能です。そうなれば……!」

 

 ここまで話を聞いた事で僕もようやく理解できた。つまり、イッセー君は……。

 

 そして、僕の考えを肯定する様にアザゼル先生がイッセー君の今後について話を始める。

 

「まぁそういう事だ。眷属契約の解約に関する例外事項の一つに「主を除く貴族階級の悪魔との婚姻に際して、主と婚姻相手の間で交換が成立しない場合」っていうのがあるらしくてな。それでイッセーには上級悪魔に昇格した後でそれを適用して完全に独立してもらう方向になると、サーゼクスはイッセー達に説明している。しかも、イッセーが眷属として拝領する予定になっていた領地についても一度白紙に戻して別の形で与えるらしいぞ。……それにしても、かなり厄介な事になっちまったな」

 

 アザゼル先生がそう言いながら煩わしげに頭を掻き毟ると、ロシウ老師がその厄介な事についての具体的な内容を話し始めた。

 

「確かにこのまま行けば、一誠は現大王の妹婿として大王家に取り込まれる事になるのう。政治的な観点で言えば、大王の義弟にして魔王の叔父という立場が得られる事からけして悪い事ではないのじゃが……」

 

「眷属という繋がりがなくなってしまうから、このままやとリアスさん達やソーナさん達とは完全に切り離されてしまう。そういう事なんか、ロシウ先生?」

 

 はやてちゃんがロシウ老師に確認を取ると、ロシウ老師は頷きながら答えを返す。

 

「その通りじゃ、はやて。こうなってくると、瑞貴が眷属悪魔となる際にソーナと交わした契約条件がお主達と一誠を結ぶ生命線となりそうじゃな」

 

「シトリー家の次期当主である私が主力の一人である武藤君を一誠君の元へ送り出す事で、シトリー家は引き続き一誠君との繋がりを確保できるという事ですか。……元々は逸脱者(デヴィエーター)という当時最大級の爆弾を抱えてしまった一誠君を守る力を確保する為に損を覚悟で承諾した契約条件でしたが、まさかこの様な形で妙手になるとは思いませんでした。未来は本当に解らないものですね」

 

 ロシウ老師の言葉に触発される形で会長が瑞貴さんと交わした眷属契約に対する複雑な思いを口にすると、アザゼル先生が部長に会長と同様の手を打つ様に忠告してきた。

 

「そうなると、リアス。お前も最低一人は自分の眷属をイッセーの元に送り込まないと不味いぞ。いくらお前の実兄であるサーゼクスがイッセーと個人的な友人関係だからと言って、それは厳密には魔王ルシファーとの繋がりであってお前達グレモリー家の繋がりじゃないからな」

 

 すると、部長は駒王協定が締結した後で考えていた案を実行すると言ってきた。

 

「そうなると、ギャスパーにはやはり交換の形でイッセーの元に行ってもらう事になりそうね。ギャスパーは対オーフィス戦ではイッセーの戦線復帰までの時間稼ぎに最も貢献しているし、将来性を含めれば武藤君と比べてもけして見劣りはしない筈だから、特に問題は出ない筈よ」

 

 ……ここでイッセー君の眷属になる事を希望しているアーシアさんやゼノヴィアの名前が出て来なかったのは、実力は僕達の中では最上位である瑞貴さんと比べるとどうしても見劣りするのもあるけど、それ以上に二人とも根が真っ正直なので政治絡みで動く事ができそうにないからだ。こうなるとオーフィスと真っ向から戦ってみせた僕かギャスパー君のどちらかになるけど、イッセー君の眷属になる事を将来の可能性の一つとして見据えていたギャスパー君の方が適任という事なのだろう。それにいざとなれば、バロール君が密かにギャスパー君へ助言してくれるという強みもある。

 おそらくはそこまで考えての事である部長からの指名に、ギャスパー君は驚きの表情を浮かべた後で瞳を閉じて暫く考え込んでいた。やがて瞳を開けると、ギャスパー君は自分の決断を部長に伝える。

 

「解りました、リアスお姉様。もしその時が来たら、一誠先輩とグレモリー眷属の絆を繋ぎ止める為、僕は一誠先輩の僧侶(ビショップ)になります」

 

 大王家の一門となるイッセー君の眷属になるという事は、周りに味方が殆どいないという事でもある。今でこそそんな素振りは全く見られないけど、ギャスパー君はイッセー君と出逢うまで過去の辛い経験から対人恐怖症を患っていた。だから、大勢の中で孤立する恐怖をこの中では他の誰よりも知っている筈だ。でも、ギャスパー君はイッセー君と僕達を繋ぎ続ける為にイッセー君の眷属になる事を決意した。

 

 ……その勇気は、かつて瑞貴さんが示したものと同じ類のものだった。

 

 だから、部長は勇気ある決断を下したギャスパー君に感謝の言葉を伝える。

 

「ありがとう、ギャスパー。貴方は、私達グレモリー眷属の誇りよ」

 

 部長のギャスパー君に贈った称賛の言葉に、僕は心の底から賛同した。

 

 

 

「僕達が戻ってくるまでに、そんな事が決まっていたんですか……」

 

 イッセー君が上級悪魔に昇格して独立する事になったら、元々交換する事が決まっていた瑞貴さんの他にギャスパー君もまた交換の形でイッセー君の元へ送り出す事が決まり、そこから開幕戦が始まるまで修行をどの様に進めていくのかを話し合っている内にイッセー君とレイヴェルさんが宿泊施設に戻ってきた。そうしてイッセー君にこの場で決まった事を伝えると、イッセー君は何処か申し訳なさそうな表情を浮かべた。それを見たアザゼル先生がイッセー君に対して釘を刺しにいく。

 

「イッセー。先に言っておくが、これはリアスとギャスパーがそれぞれ自分の意志で決めた事だ」

 

 でも、イッセー君はそれを十分解っていた。

 

「そうでしょうね。目を見ればすぐに解ります。だから、僕が言うべき言葉は既に決まっています」

 

 イッセー君はそう言った後、部長とギャスパー君に向かって頭を下げながらその言葉を口にした。

 

「リアス部長、ありがとうございます。……そしてギャスパー君、これからもよろしくね」

 

 イッセー君はこの場での決定を受け入れたのだ。だから、部長とギャスパー君もこの場に相応しい言葉を返す。

 

「ギャスパーの事、お願いね。イッセー」

 

「ハイ! こちらこそ、よろしくお願いします!」

 

 この瞬間、ギャスパー君の天龍帝眷属入りが確定した。

 

「これでイッセー率いる天龍帝眷属入りが現在決まっているのは、武藤にレイヴェル、セタンタ、そしてギャスパーの四人。水氷の聖剣使いを筆頭に名門フェニックス家の令嬢、アイルランドの大英雄の末裔、果ては古の魔神バロールを宿したダンピールか。ヴァーリが禍の団で結成してほぼそのまま引っこ抜いてきたチームと比べても、何ら遜色しないな」

 

 アザゼル先生は天龍帝眷属入りが決まっているメンバーについて挙げると、以前ヴァーリがクローズ君を迎えに来た時に一緒に連れてきたメンバーと比較してきた。確かに、天龍帝眷属は現時点でも逸材が揃っているけど、ヴァーリのチームもけして負けてはいない。イッセー君もそれについては素直に認めていた。

 

「確かに、聖王剣コールブランドの担い手であるアーサーさんとその妹で魔法使いとしてはかなりの腕前を持っているルフェイは先代騎士王(ナイト・オーナー)の末裔ですし、美猴はかの孫悟空の末裔ですからね。ヴァーリのチームも相当にいい人材を揃えていますよ。ただ、ルフェイについては流石にちょっと……」

 

 イッセー君はルフェイさんの事に触れると、げんなりとした表情を浮かべる。でも、無理もないと思う。イッセー君が見た事も聞いた事もない様な魔法を首脳会談の時の一連の戦いで次々と使ってみせた事から、彼女はぜひ詳しい話を聞かせて下さいと物凄い勢いで迫ってきたのだ。その勢いは正に草食動物へ襲いかかろうとする肉食動物そのもので、それを見ていたお兄さんであるアーサーさんは「淑女(レディ)としてはしたない」と、少々呆れた様子だった。

 その時のルフェイさんに押されてタジタジになっていたイッセー君の姿を思い出したであろうアザゼル先生は、軽く笑いながらヴァーリ達について話し始めた。

 

「ハハハ。あの時は災難だったな、イッセー。それでヴァーリ達についてなんだが、近い内に顔を見せに神の子を見張る者(グリゴリ)の本部へ来るそうだ。だから、あるいはお前達が本部に滞在している間に顔を合わせる事もあるかもな」

 

「そうなったら、新しく僕に仕えるようになったドゥンの事を紹介しない訳にいきませんので、ルフェイだけでなくアーサーさんも詰め寄る事になりそうですね……」

 

 イッセー君は可能性として十分あり得る事を思い浮かべると、少しばかり憂鬱になった様だ。あのルフェイさんでさえタジタジだったのにそれがもう一人増える事になったら、イッセー君は堪ったものじゃないのだろう。そこに、アウラちゃんがヴァーリ達に同行しているクローズ君の事についてアザゼル先生に尋ねてきた。

 

「でも、クローズお兄ちゃんも一緒なんだよね?」

 

「そうだな。だいぶヴァーリに懐いている様子だったから、たぶんアイツもヴァーリ達について来るだろう。それにもしクローズも神の子を見張る者の本部に来たら、俺はクローズとカテレアに土下座しないといけねぇな。結局の所、俺が部下共を抑え切れなかったせいで死ななくてもいい奴等を死なせちまったんだ。だから、せめて迷惑を掛けた奴等に対するけじめくらいはきっちりつけねぇとな」

 

 そう語るアザゼル先生の顔には、はっきりと後悔の色が現れていた。だけど、クローズ君とカテレアさんの事だけでこうなっている訳じゃないと僕は思う。たぶん……。

 でも、アザゼル先生はすぐに表情を飄々としたものへと変えると、これから神の子を見張る者の本部に移動する事を伝えてきた。

 

「……と、辛気臭い話はこれくらいにして、これからお前達を俺達の本部に連れていく。リアス、ソーナ。お前達の方は」

 

「解っているわ。私達の方は基本的にそれぞれの指導者の指示に従えばいいから、心配は無用よ」

 

「ですので、そちらも為すべき事をしっかりとやって来て下さい」

 

 アザゼル先生に声を掛けられた部長と会長は、自分達については心配無用であると答えた。

 

「そうかい。それじゃ、本部に来る奴は俺の側に来てくれ。今から展開する魔方陣で本部まで直接転移するからな」

 

 そう指示された僕達はアザゼル先生の側に近寄ると、先生はかなり大きめの魔方陣を展開する。

 

「それじゃ、行くぜ!」

 

 そして、先生が光力を使って術式が発動させると、僕達はこの場から一瞬で転移していった。

 

 ……堕天使達の本拠地で一体何が待っているのか、そして僕達はそこで何を得る事になるのか。それを少し楽しみにしている所があるのは、僕もイッセー君の影響を受けている何よりの証拠だった。

 

Side end

 




いかがだったでしょうか?

悪魔勢力での話が予想以上に長引いた上にちょうど区切りがいいので、ここでこの章を終わらせます。

では、次は第二章の第一話でお会いしましょう。

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