未知なる天を往く者   作:h995

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2019.1.7 修正


第十七話 若人達の謁見

Side:リアス・グレモリー

 

 バアル家の次期当主であるサイラオーグと久しぶりに顔を合わせた私は、それぞれの眷属達と一緒に謁見の時間になるまで待機する事になっている広間へ向かう事にした。そうして広間の扉の前に立ったのだけれど、扉の向こう側からは特に殺気だった気配を感じられなかった。

 

「これ以上無駄な事を続けるのであれば拳で黙らせるつもりだったが、どうやら余計な手出しをせずに済んだ様だな。これで少しは落ち着いて話ができるだろう」

 

 サイラオーグは面倒な事に巻き込まれずに済んだと言わんばかりの態度を見せたけど、私も同感だった。そうしてサイラオーグが広間の扉を開けて中に入ろうとしたのだけど、扉を開けた所でそのまま立ち止まってしまった。

 

「サイラオーグ、どうしたの?」

 

 私がサイラオーグに尋ねてみたけれど、サイラオーグは私の質問に答えようとしなかったのでサイラオーグの横を通って広間へと入ってみた。すると、そこには予め用意されたであろうテーブルを囲んでいる若手悪魔達の姿があり、その側にはイッセーがいたのだ。……しかも。

 

「俺、魔力の制御方法を根本的に間違っていたんだ。だから、魔力を使ったら体に大量に流れ込んであんな事に……」

 

「ですが、今はどうでしょう?」

 

「はい! 今、俺の中にある物が全て噛み合っている様な、そんなスッキリした感じです!」

 

「どうやら魔力は正しく制御できている様ですね。では次に、体を覆う魔力を体の一部に集めてみましょう。これが速やかに、そして滑らかにできる様になれば、魔力の運用効率が大きく改善できます。ですが、今は無理をせずにゆっくりと少しずつ集めていきましょう。無理に速く集めようとすると、魔力のオーバーフローでかえって体を傷つけてしまいますし、ゆっくりと丁寧に流す事で正しい魔力の流れを体に馴染ませる目的もありますから。よろしいですね?」

 

「はい、兵藤先生!」

 

 イッセーははやてちゃんと同い年くらいの男の子に魔力の制御方法を教授していた。

 

 完全に想像の枠から外れた光景を目の当たりにした事で、私は訳が解らずに硬直してしまった。そこで我に返ったのか、サイラオーグはその場で頭を下げるとこの場を不在にした事への謝罪を始める。

 

「この様な場にお越し頂いたにも関わらず、俺個人の都合で不在とした無礼をお詫びします。親善大使殿」

 

 サイラオーグの謝罪の言葉でようやく我に返った私は、本来ならここにいる筈のないイッセーに何故ここにいるのかを尋ねた。

 

「イ、イッセー! 貴方は確か、レイヴェルと一緒に上層部の方達と席を並べる形で出席する事になっていた筈よ。それが、どうしてここに?」

 

 でも、私の問い掛けにイッセーが答える前にテーブルに座っていた女性の一人が口を挟んでくる。

 

「おいおい、サイ坊にリーア。一誠がここにいて驚いたのは解るけど、だからって俺には何も言う事がないのか?」

 

 横から差し出口を挟まれた私はムッとしてその女性の方に視線を向けた。華美なドレスを身に纏い髪を結い上げるなど明らかに正装しているその女性の顔に見覚えのあった私は、さっき以上に驚きの声を上げてしまう。

 

「エ、エルレ叔母様!」

 

 そう。先程サイラオーグとの会話で話題にもなった、お母様の腹違いの妹であるエルレ叔母様だった。ただ、あの男勝りで勇ましいエルレ叔母様がこの様に女性らしく着飾っているなんて全く想像していなかったから、気付くのに時間が掛かってしまった。一方、側にいたサイラオーグもまた叔母様の存在に気付いて驚きの表情を見せている。

 

「まさか、親善大使殿だけでなく叔母上までこちらにいらしていたのですか」

 

 サイラオーグが驚いたまま話しかけると、エルレ叔母様はニヤリと笑みを浮かべながら応えてきた。

 

「あぁ。その通りさ、サイ坊。それにリーア。昨日グレモリーの本邸に行った時には会えなかったけど、リーアは本当に大きくなったなぁ」

 

 エルレ叔母様と最後にお会いしたのが十年以上も前だったからか、叔母様はとても感慨深そうだった。ただ私の事を幼い頃と同じ様に呼んで来たのは頂けなかったので、それを止めてもらう様に頼み込む。

 

「叔母様、リーアはもう止めて下さい。お父様やお兄様もそうですけど、何故幼い頃の呼び方をなさろうとするのですか?」

 

「可愛い我が子や歳の離れた弟や妹、それに甥っ子や姪っ子ってのは、どれだけ時間が経っても可愛いものだからさ。それに、そんな風に言ってるリーアだって、ミリキャスに愛称があればそっちの方を一生呼び続ける様になると俺は思うんだけどね」

 

 確かにその通りかもしれない。……叔母様の反論に対してそう思ってしまった時点で、私の負けだった。

 

「ミリキャスが可愛いのも確かですし、叔母様にそう言われて何も反論できない時点で私もお父様達と同類なんでしょうね。……ところで、何故叔母様もここにおられるのですか?」

 

 だから、素直に負けを認めた上でエルレ叔母様にここにいる理由を尋ねると、叔母様からは逆に昨日の事について尋ねられた。

 

「リーア。ジオ義兄さんや姉貴から俺の事について話を聞いていないか?」

 

「……はい。お父様から話は聞いています。イッセーの冥界側の花嫁候補として叔母様の名前が挙がったという事ですね?」

 

 実は、私達が昨日の修行を終えて邸に戻ってきたのはエルレ叔母様がお帰りになった後であり、軽く汗を流し終えるとお父様から呼ばれて事情を説明されたのだ。その事をエルレ叔母様に伝えると、叔母様はその後どうなったのかを話し始めた。

 

「あぁ、そうだ。そして昨日の夜、その話が本決まりになったんだとさ。それでついさっきまで俺と一誠はもちろんこの会合に出席する予定のなかったイリナ達までサー、っとと。ルシファー様の呼び出しで別の部屋に集められて、そこで一緒に直々のご説明を受けたって訳だ。……ゴメンね、リーア。さっきレイヴェルにも言ったんだけど、リーア達の横から俺が一誠を掻っ攫う格好になっちゃって」

 

 エルレ叔母様は最後に優しい声で私に謝ってきた。この分では、イッセーに対する私の想いにも気が付いているみたいだ。男勝りで気の強いエルレ叔母様は基本的には武断派であるけれど、けして柔軟な対応が苦手という訳ではない。むしろ大王家に連なる分家の当主としての務めを過失なくこなせるだけの能力をお持ちになられている。だから、私はイッセーの冥界側の花嫁に適した人物が選ばれた事に対する安堵の気持ちが強い事を叔母様に伝えた。

 

「いえ。これが明らかにおかしな人選だったら、たとえ相手がお兄様であってもイッセーの主として抗議している所ですけど、選ばれたのがエルレ叔母様なので正直ホッとしています。エルレ叔母様であれば、けしてイッセーを蔑ろにしないって信じられますから。……ただ、できる事ならその場所には私が立ちたかったわ。エルレ叔母様」

 

 ……ただ、これくらいは言ってもいいと思う。

 

「そっか……」

 

 エルレ叔母様はただそれだけを言い終えると、後は何も言わなかった。そうして私達の話が終わったのを見て、サイアオーグがある事を確認する。

 

「では、親善大使殿は義理ながらも俺やリアス、そしてサーゼクス様の叔父という事になるのですか?」

 

 ……できれば、それは聞きたくない事であった。でも、叔母様はハッキリとそれを肯定した。

 

「まぁそういう事になるね。ただ、ここでまだ公式発表されていない事を話しちまった俺が言うのも少々アレだけど、堂々と一誠を「叔父上」と呼ぶのはまだ駄目だぞ、サイ坊。一誠をそう呼んでいいのは、魔王様や上層部から正式に発表されてからだ」

 

「承知しました。では、その時が来るのを楽しみに致しましょう。……それと、ゼファードルは何処へ行ったのでしょうか? 俺がこの広間を一時離れたのは、シーグヴァイラとゼファードルが下らない諍いを起こしたからなのですが」

 

 サイラオーグはイッセーに敬意を抱いているだけあって、同年代であっても叔父と呼ぶ事に何ら抵抗がないみたいだった。そして話をすぐに切り上げると、諍いを起こしていたというグラシャラボラス家の次期当主候補が何処に行ったのかを叔母様に尋ねる。

 

「あ~、ゼファードルか。アイツなら、ホラここにいるぞ」

 

 叔母様の答えを聞いて、一瞬何を言っているのか、私には解らなかった。叔母様が指差したのは、イッセーから指導を受けている男の子だったのだから。サイラオーグも私と同じだったみたいで、叔母様に再度尋ねようとする。

 

「ハッ? いえ、確かにあの子供にはゼファードルの面影がありますが……」

 

「俺がそのゼファードルだよ。バアル家の帰ってきた御曹司、サイラオーグ。ほら。これで知りたい事が解ったんだから、これ以上邪魔をすんなよ。今、とても大切な事を兵藤先生から教えてもらっている真っ最中なんだからよ」

 

 でも、ゼファードルの面影があるというその子供が自ら名乗りを上げた事で、サイラオーグはその口から出かかった言葉を引っ込める事になった。

 

「……叔母上。流石にご冗談が過ぎると思うのですが」

 

 サイラオーグが叔母様に問い詰めようとしたけど、横からシーグヴァイラが口を挟んでくる。

 

「冗談ではなくってよ、サイラオーグ。この子がゼファードル・グラシャラボラスである事は、私を含めこの広間にいる者全てが保証します」

 

 大公家の次期当主である以上、この場でのつまらない冗談は風評の面でけしてプラスにはならない。つまり、シーグヴァイラはけして冗談を言っているわけではないという事になる。そう判断した私は、「探知」を発動して事の次第を確認した。

 

「サイラオーグ。今、「探知」で確認したわ。確かにこの子は「凶児」と呼ばれたゼファードル本人よ。でもまさか、過剰な魔力のせいで体だけが突然成長してしまったなんてね。止まっていた体の成長が再開した事で急成長した小猫とまた違ったパターンだわ。そして、それを僅かな時間で見抜いた上で解決までしてしまうなんて、流石はイッセーね」

 

 ……コカビエルの時もそうだった。イッセーは聖剣の強奪における不審な点からコカビエルの目的を導き出し、それを冥界に連絡する事でお兄様達に備えさせた。また当時はまだ和平の兆しすらなかった堕天使勢力に問い合わせる事で、コカビエルの行動がどういった意図を持つものなのかを確認させるなど、コカビエルの先手を絶えず取り続けた。その結果、コカビエルはイッセーによって殆ど何もできずに永遠に無力化されてヴァーリに連行された。そんな優れた観察眼と考察力の高さが、ゼファードルに対しても生かされたのだろう。

 

「まぁ、そういう事さ。因みに、魔王様達への謁見についてはゼファードルも出席させるぞ。責任は取るって言質もしっかり取ったしな」

 

 エルレ叔母様は私がゼファードルの事を把握したと見て、謁見についてはどうするのかを言って来た。なお、言質を取った相手についても「探知」で既に調べてある。

 

「叔母様がそう仰るのであれば、私からは何もありません。……お兄様、流石にお戯れが過ぎるわよ」

 

 私はアウラちゃんに抱っこされている黒猫の方を向くと、溜息を思いっきり吐いた。それを見ていた訳ではないのでしょうけど、エルレ叔母様はまだここに到着していないシトリー眷属について触れ始める。

 

「さてっと。これで後はシトリー家だけか。まぁシトリー領はこの中ではここから一番遠いから、来るのが遅くなってもしょうがないか。剣技は一誠以上で総合力でも俺と同等だっていう水氷の聖剣使いとヴリトラの魂と力を宿した神器(セイクリッド・ギア)を持ってるサジってヤツには特に興味があるんだけどなぁ……」

 

 ……そうだった。叔母様は武断派なだけあって、本物の強者との戦いを嗜む所があった。そして、そんな叔母様にしてみれば、剣士としては最上位に近い武藤君や黒い龍脈(アブソープション・ライン)であのオーフィスから力を奪い、更にその力を制御してみせた匙君はぜひ戦ってみたい相手なのだろう。ただ、そんな叔母様の言動をイリナさんが窘めた。

 

「エルレ。その言い方だと、今ここにいる人達にはまるで興味がないみたいに聞こえるわ。流石にそれは不謹慎よ」

 

 イリナさんが叔母様に対して対等な言葉使いをしている事にサイラオーグ達は驚いているけど、「探知」を使用した私はイリナさんと叔母様が対等な立場として話す様になるまでの経緯も知っているので特に驚かなかった。……ただ、それに合わせる形でイッセーもまた叔母様とは対等な立場で会話している事については叔母様が羨ましいと思ってしまったのだけど。

 

「確かにイリナの言う通りだな。ゴメン、ちょっと口が過ぎちまった。それじゃ、シトリー家が来るまで大人しく待っているとしようか。……まぁ、そんなに待つ必要もないけどな」

 

 流石にイッセーの第一夫人というべきイリナさんに対してはエルレ叔母様も遠慮があるみたいで、イリナさんの諌めを素直に受け入れてこの場にいる皆に謝罪した。ただ、最後の方で私達の後ろの方に視線を向けながら言った言葉が気になったから、後ろを振り向いて確認する。

 

「ごきげんよう、リアス。それに一誠君」

 

 そこには、眷属である生徒会役員を後ろに引き連れ、女王(クィーン)で腹心の椿姫と駒王学園の生徒の中ではイッセーに次ぐ実力者である武藤君で両脇を固めたソーナが軽く笑みを浮かべて挨拶するソーナの姿があった。これで今回招集された若手悪魔が全員揃ったので、私は気持ちを改めて引き締めていた。

 

 ……ここからが、本番だった。

 

Side end

 

 

 

Side:ソーナ・シトリー

 

 私達が待機場所である広間に到着した時、既にリアスを含めた他の若手悪魔とその眷属達が広間に集まっており、割と落ち着いた雰囲気で言葉を交わしている所だった。

 ……正直に言えば、私はもう少し緊迫した雰囲気を想定していた。何せ自分の力に自信を持つ者達が一堂に集まっているのだ、これで何も問題が起こらない訳がない。私はそう思っていたのだけど、実際は違っていた。何故なのかは、広間の中央でイリナやアウラちゃん、レイヴェルさん、そして見知らぬ女性と一緒にいる一誠君の姿を確認した時に理解できた。きっと、一誠君がこの場を上手く収めたのだろう。

 そうして眷属達と共に広間に入った私は、広間にいた若手の悪魔と挨拶を交わしていった。ただ、最初に自己紹介を兼ねた挨拶を行ったのは魔王様の代務者である聖魔和合親善大使としてこの場にいる一誠君だった。それに大公の爵位を持つアガレス家の次期当主であるシーグヴァイラが続き、グレモリー家の次期当主であるリアスとシトリー家の次期当主である私、大王の爵位を持つバアル家の次期当主でリアスの従兄弟でもあるサイラオーグ、現ベルゼブブであるアジュカ様のご実家であるアスタロト家の次期当主、ディオドラ。そして、現アスモデウスであるファルビウム様のご実家であるグラシャラボラス家の次期当主候補、ゼファードルの順で挨拶を行った。ただ、ゼファードルがはやてさんと同年代の子供であった事に私は驚きを隠せなかったのだけど、事の次第をリアスの母方の叔母で一誠君の隣にいたエルレ・ベル様から説明を受けて納得せざるを得なかった。ただ、謁見についてはこのまま行かせるという事で本当に大丈夫なのか不安だったけれど、言質は取ってあるとの事なのでこれ以上は訊かない事にした。

 そうして私達が挨拶を交わし終えた所で一誠君とレイヴェルさんが一足先に謁見の場となる部屋に向かう時間となったので、一誠君達はこの広間を後にした。それから暫く若手同士で会話していると、使用人が入って来て私達に謁見の場となる部屋に入る様に伝えてきた。それを受けて、私達は早速謁見の場へと移動を始めた。

 

 

 

 お父様。貴方という人は……!

 

 お姉様を始めとする四大魔王様と上層部への謁見の為、部屋に入って真っ先に飛び込んできた光景をハッキリと認識した時、私は思わず目を疑った。でも、それも仕方がない。私達の前にはかなり高い位置に三段の席があり、一段目と二段目に上層部が、最上段となる三段目にはお姉様達四大魔王様がそれぞれお座りになっている。そして魔王様の代務者である為か、一誠君は上層部でも上位の方の席である二段目に座っている。それについては、別に驚いていない。私が驚いたのは、その一誠君の隣の席に座っている方についてだ。最初は解らなかったのだけど、小声でサジが教えてくれた事で判明した。

 

「会長、一誠の隣に座っている方。あの方です。一誠に会う為に、奥様を伴われて駒王学園を訪れたのは」

 

 この時の私は、よく驚きの余りに大声を出さずに堪え切れたと思う。それに木場君に教えられたのか、私の隣ではリアスが驚きの声を上げそうになっているのを必死に堪えているのだけど、それも無理はない。何故なら、一誠君の隣に座っている方こそ、悪魔創世から今もなお現役を続けているという正に生きた伝説であるエギトフ・ネビロス総監察官その人なのだから。ただそれだけに、こうした若手悪魔の会合に出席なされた話など一度も聞いた事がない様なお方がこうしてここにおられる以上、昨日のお父様の説得が功を奏したのは間違いなかった。私がお父様の尽力に心から感謝していると、中央にいる初老の男性から私達を引見する会合の開催が宣言される。

 

「我等の呼び掛けに応じ、よく集まってくれた。此度集まってもらったのは、次世代を担う貴殿等の顔を改めて確認する為であるが、同時に若き悪魔を見定める為でもある。貴殿等も解っているとは思うが、これは一定周期ごとに行われる慣例行事なのだ」

 

 ここで、口髭を蓄えた別の方からゼファードルの事に触れてきた。

 

「ところで、アスモデウス様。ご実家の次期当主候補であるゼファードルが、この場におりませぬが」

 

「あれぇ? ここには既に来ているって報告を僕は受けているんだけどねぇ……?」

 

 確かに、広間での出来事を知らなければ、上層部はおろか魔王様であってもゼファードルが不在だと思ってもおかしくはない。

 

「俺が、そのゼファードルです」

 

 だからこそ、はやてさんと同年代の少年からそう名乗られた時の魔王様達や上層部の驚き具合はちょっとした見物だった。何せ、あのお姉様ですら開いた口が塞がらなかったのだから。ただ、その場にいた一誠君とレイヴェルさんが驚いていないのは理解できるのだけど、その場にいなかった筈のサーゼクス様が特に驚いていなかった事が少し引っかかる。まるで、その事実を既に知っていた様な……?

 

「過剰な魔力によって体だけが成長してしまいましたが、つい先程その場に居られた兵藤親善大使によって本来の姿を取り戻す事ができました。また、今後この様な事が二度と起こらない様にと、その場で魔力の正しき扱い方とその訓練法をご教授して頂きました。今の俺に付けられた凶児という汚名は、これからの行いによって必ず返上してみせます」

 

 事情説明におけるゼファードルの言葉使いが、拙いながらも次期当主としての可能性を感じさせるものだった事から、今度は一誠君やサーゼクス様ですら言葉を失っていた。でも、続く言葉にサーゼクス様は納得した表情を浮かべる。

 

「七十二柱に名を連ねるグラシャラボラスの家名と、進むべき道を見失っていた俺を導いて下さった兵藤一誠先生のご尊名に懸けて」

 

 サーゼクス様はゼファードルの誓いの言葉を聞き終えると、激励の言葉をお掛けになった。

 

「ゼファードル。君は今、幸運にもあらゆる意味で指標となり得る最良の師を得た。ならば、今はその教えをしっかりと受けるといい。それが君にとって、ひいてはグラシャラボラス家や冥界にとってこの上ない宝となるだろう」

 

「ルシファー様。励ましのお言葉、ありがとうございます」

 

 サーゼクス様の激励のお言葉に対してゼファードルが感謝の言葉を伝える中、一誠君はかなり恥ずかしげにしている一方で、一誠君の後ろに控えているレイヴェルさんは「どうだ」と言わんばかりに誇らしげな表情だ。仮にあそこに立っているのがレイヴェルさんでなく私やリアスであっても、やはり同じ様な表情をしていたのかもしれない。そして、あの凶児と言われたゼファードルの見事な変貌ぶりを見た上層部は一斉に一誠君の方へと視線を向けていた。その視線から感じられるものは大きく分けて二つ。期待感と警戒心だ。……やはり、お父様が東奔西走してまで為そうとした事は正しかったのだと改めて実感した。

 

 そうして、ゼファードルの件で少し場がざわついてしまったので、サーゼクス様は少しだけ時間を置いて場が落ち着くのを待つと、そのままお話を始められた。

 

「さて、場が落ち着いた所で話を始めようか。今回この場に集まってもらった君達六名は家柄、実力ともに申し分のない次世代の悪魔だ。だからこそ、デビュー前にレーティングゲーム方式でお互い競い合い、力を高めてもらおうと思う。ただ、ゼファードルについては流石に早過ぎるので次の機会という事になるがそれでいいかな、ゼファードル?」

 

 サーゼクス様が私達若手悪魔のみのレーティングゲームを行う事を明らかにした上で、ゼファードルについては今回の参加を見送る事を伝えると、ゼファードルは殊勝にもそれを受け入れた。

 

「ハイ。俺も兵藤先生の教えをもっと受けてからにしたいと思いますので、今回は見送らせて下さい」

 

 ここで、サイラオーグが更に一歩踏み込んだ事をサーゼクス様に尋ねる。

 

「では、我々もいずれ禍の団(カオス・ブリゲード)との戦に投入されるのですね?」

 

「それはまだ解らない。だが、できれば君達の様な若い悪魔達を投入したくはないと私は思っているのだ。尤も、対オーフィスの主力が君達と同世代である兵藤親善大使という時点で、私の言っている事がただの戯言に過ぎないのもまた事実なのだが」

 

 最後の方では少し自嘲しながらサーゼクス様はお答えになられたのだけど、サイラオーグは明らかに納得がいかない様で更に言葉を重ねる。

 

「そこまでお思いであれば、何故親善大使殿だけでなく我等も投入しようと思われないのですか? 我等とて悪魔の一端を担い、その時が来れば命を惜しまず戦う事を良しとする者です。ですが、この歳になるまで先人の方々から賜ったご厚意を受けながら、それに報いる事ができないともなれば……」

 

 微力ながらも力になりたいというサイラオーグの気持ちは、私にもよく解る。実際、対オーフィス戦では直接戦う事こそしなかったものの、最後の方では明らかに力不足であっても参戦しようとしていたのだから。でも、サーゼクス様はサイラオーグの訴えを無謀の一言で一蹴した。

 

「サイラオーグ、それは勇敢ではなく無謀だ。兵藤親善大使の場合はその身柄をオーフィスから狙われているから自ら戦わざるを得ないという実情があっての事であり、本来であれば外交官である彼を戦力として投入するのも極力避けなければならないのだよ。それに諜報部から、兵藤親善大使を中心とした者達の活躍で撃退されたオーフィスの呼びかけに応じて、強大なドラゴンが禍の団に合流したとの報告を受けた。詳細について調査中との事だが、その力は最低でも龍王クラスとの事だ。その様な強大な存在を引き入れた事で更に戦力を増した禍の団との戦いに、まだ成長途中である君達を投入する訳にはいかない。こう言っては君達に申し訳ないが、未熟な君達を投入してもかえって足手纏いになりかねないのでね」

 

 ……敵は、更に強大になったというのですか?

 

 私は禍の団の戦力が更に強化されたという事実に驚きを隠せないでいた。隣にいたリアスもそれは同様で、きっとこの謁見が終わった後で「探知」を使って確認しようとするだろう。そしてサイラオーグはと言えば、未熟故の足手纏いと言われた事に悔しさを滲ませながらもサーゼクス様の言葉を受け入れた。

 

「そこまで仰せとあれは、我等はただ己の未熟さと共にそのお言葉を受け入れるしかありません。今後は戦力の一端として数えて頂ける様、更に精進を重ねていきます」

 

 ……コカビエルとの最終決戦の際、担当した相手がコカビエルではないものの一誠君と同じ戦場に立ったリアスやレイヴェルさんと異なり、戦力外とされて結界の構築に回されてしまった私にはサイラオーグの悔しさが痛い程に理解できた。

 

 ここで禍の団に対する私達若手悪魔の投入についての話は終わり、上層部でも特に上位の方からの訓辞やサーゼクス様から今後行われるレーティングゲームの説明がなされた。レーティングゲームは出場を辞退したグラシャラボラス眷属を除く五家の眷属による総当たり戦で行われ、試合ごとに対戦方式やルールが設定される事になった。つまり、個人が有する力の強さだけでなく戦略や統率力、味方との連携といったチームとしての総合力が試されるのだ。それを悟った時、眷属を率いる(キング)としての私の心は歓喜に奮えた。

 

「さて、私達の話はここまでだ。長い話に付き合わせてしまって申し訳なかったが、私達はそれだけ若い君達に夢や希望を見出しているのだと理解してほしい。君達は紛れもなく、冥界の宝なのだよ」

 

 話を終えたサーゼクス様が最後にそうお言葉をかけた時、謁見に臨んだ若手悪魔は私を含めて皆聞き入っていた。そのお言葉に嘘偽りが一切含まれていない事がハッキリと解ったからだ。

 

「では、最後にそれぞれの今後の目標を聞かせてもらえないだろうか? この場には今までの冥界を見守って来られたネビロス総監察官と今後の冥界の在り様を示していく事になる兵藤親善大使がいる。冥界の将来を担う事になる君達が今後の目標を語るに相応しい場と言えるだろう」

 

 サーゼクス様がそう問いかけた時、私は胸に抱き続けた夢をはっきりと宣言する事を決意した。そこで、私もまたお姉様と同じ過ちを犯していたという事実を思い知らされる事も知らずに。

 

Side end

 




いかがだったでしょうか?

頑張っているのは何も味方だけではありません。敵だって頑張っているのです。

では、また次の話でお会いしましょう。

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