未知なる天を往く者   作:h995

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2019.1.5 修正


第十話 とある少年と少女の出会い

 先代の騎士王(ナイト・オーナー)であるアーサー王の愛馬であり、千五百年の時を生きるドゥン・スタリオンを僕の乗騎としてから二日後。

 予定していた挨拶回りを全て終えた僕達は、ようやく個人的な用件に取り掛かる事ができるようになった。ただし、翌日にはリアス部長とソーナ会長も出席する事になっている若手悪魔の会合が控えている上にそれが終われば堕天使領に向かうことになっているので、今日しかその余裕がないという事もある。なお今日一日で取り掛かろうとしている個人的な用件は三つ。その内で最後に予定しているものについては既に先方に連絡を入れており、僕一人で向かう事になっている。そして今、僕達は迎えに来たリムジンで一つ目の用件の為に首都リリスの郊外にある邸へと向かっているところであり、等身大化して僕の左隣に座っていたアウラが僕に声をかけてきた。

 

「ねぇ、パパ。……あたし、ちゃんとお友達になれるかなぁ?」

 

 そう尋ねてくるアウラの表情が少し硬い事から、僕は初めて全くのゼロから友達を作ろうとするアウラの心情を察する。

 

「アウラ、ちょっと緊張しているのかな?」

 

「ウン……」

 

 不安げに頷くアウラの頭を軽く撫でて、僕はアウラの不安を取り除ける様に言葉をかけた。

 

「大丈夫だよ。アウラがありのままでいれば、ちゃんとお友達になれるから」

 

「本当?」

 

 僕の言葉に首を傾げるアウラに対し、断言したのはアウラの左隣にいたイリナだ。

 

「本当よ、アウラちゃん。だって、アウラちゃんは皆の心を明るくしてくれる、元気で可愛い女の子なんだから」

 

 イリナがアウラのいい所を上手く言い表してくれたので、僕もそれに乗る事にする。

 

「アウラ。だから、いつもの様に元気一杯の笑顔でミリキャス君に会いに行こう」

 

「ウン!」

 

 そう返事をしながら見せてくれたアウラの笑顔は、僕達がいつも見ているものと同じものだった。

 

 

 

Interlude

 

 一誠とイリナが生まれて初めて自分一人で友達を作る事に緊張していたアウラの不安を取り除く中、そのやり取りを向かいの席で見ていた紅色のローブを纏う二十代半ば程の青年魔術師は納得した様な素振りを見せる。

 

「成る程、マスター・サーゼクスが姫と一歳違いの親善大使の事を父親友達と仰せになる訳ですね。お子様に対するお声のかけ方がマスターとほぼ同じです」

 

 すると、隣に座っていた2 mを超える巨漢が何やら珍しい事でもあったかのような反応を示す。

 

「珍しいな、マクレガー。テメェと意見が一致するなんてな。付け加えるとな、俺はあのお嬢ちゃんにメイドでない時の姐御がダブって見えたぜ」

 

 この巨漢の発言に対して、今度はマクレガーと呼ばれた魔術師の表情が意外そうなものへと変わった。

 

「奇遇ですね、私も同じ事を感じましたよ。それに天界と悪魔勢力という本来ならば相容れる筈のない立場を聖魔和合という世界の大変革を成し遂げる事で添い遂げようとしている事もあって、あのお二人は本当にマスター達とよく似ています。正直な所、親善大使殿をお迎えに上がる為にわざわざ我々を遣わすのは少々やり過ぎとも思っていたのですが……」

 

「旦那は、むしろこれを俺達に見せたかったんだな。それでもし仮に旦那達がダブっちまうこの光景を台無しにしようって奴等が出てきたら、旦那の眷属としての誇りに懸けて必ず守り抜けって訳だ。……面白ぇ。だったら、旦那の期待に応えてやろうじゃねぇか」

 

 巨漢はそう言って何かに納得すると、指を鳴らして気合を入れ直していた。そうして自分達が何を為すべきかを再確認した所で、マクレガーは話題を変える。

 

「さて、後の問題はミリキャス様とあのお嬢様がお互いに初めての同世代のお友達になれるかどうかですが……」

 

 すると、巨漢は何ら問題ないと断言する一方で常識的な感性で言えば流石に早過ぎると思しき事を言い出した。

 

「あの笑顔なら問題はねぇだろう。それどころか、そう遠くない内にあのお嬢ちゃんの事を「姫」と呼ぶ事になっちまうかもな」

 

 だが、マクレガーは巨漢の発言に対してむしろ面白そうな笑みを浮かべる。

 

「フフッ。それはそれで大いに結構ではありませんか」

 

 因みに、一誠達の向かいの席に座っているこの二人は、巨漢の方がスルト・セカンド。マクレガーと呼ばれた魔術師の方がマクレガー・メイザースといい、どちらもサーゼクス・ルシファー率いるルシファー眷属の転生悪魔である。片や戦車(ルーク)変異の駒(ミューテーション・ピース)で転生した北欧神話の巨人スルトのコピー体であり、片や僧侶(ビショップ)の駒を二つ使用して転生した、近代に創立された魔術結社である黄金の夜明け団(ゴールデン・ドーン)の創立者の一人として名を連ねる魔術関係の偉人である。なお黄金の夜明け団はヴァーリが禍の団(カオス・ブリゲード)から引き抜いてきたメンバーの内の一人が以前所属していた組織でもある。

 こうした全世界を見渡しても屈指の実力者達がサーゼクスの眷属となっている訳であるが、これはサーゼクスが主神クラスすら凌駕し得る程の力を持つ超越者だからであり、他にこの二人を眷属にできるのは同じく超越者であるアジュカ・ベルゼブブぐらいである。そして、それだけの実力者達がわざわざ一誠達を迎えに来た事から、サーゼクスが如何に一誠達に気を使っているのか、事情を僅かでも知る者であれば窺い知る事は容易であろう。

 

Interlude end

 

 

 

 リムジンで移動する事、三十分。僕達は目的地であるサーゼクス様の私邸に辿り着いた。なお、通常なら魔王である以上は私邸といっても宮殿か城と見紛うばかりのものである筈だが、今回訪れた私邸は家族水入らずで過ごしたい時に用いるものらしく、豪勢ではあるが一戸建ての域を超えてはいなかった。更に、プライベートで訪ねて欲しいというサーゼクス様たっての願いもあって、僕達は礼装の様な畏まった服装をしてない。ただ、流石にジーンズやTシャツの類は問題外なので、僕はスラックスを穿いて襟の付いた薄手のシャツの上から薄地のジャケット、イリナも普段穿いている様なミニスカートやホットパンツの様な物を避けてフレアスカートにサマーカーディガンとカジュアルではあるものの落ち着いた雰囲気が出る服装を選択している。普段と全く変わらないのは、それこそちょっとしたドレスに近い服装がデフォルトになっているアウラくらいだった。

 そして、玄関の前ではカジュアルスーツのサーゼクス様とブランド品で固めたと思しき服装のグレイフィアさん、そしてアウラと同い年くらいの紅髪の少年が並んで待っていた。

 

「待っていたよ、イッセー君。イリナ君。そしてアウラちゃん」

 

 サーゼクス様が代表して歓迎の言葉をかけてくれたので、こちらも代表して僕が応対する。

 

「こちらこそ、本日はお招き頂いてありがとうございます。サーゼクスさん」

 

 そう。子供達の初顔合わせに合わせて、プライベートでは父親友達として対等になろうと持ち掛けられた事で、僕はサーゼクスさんに対して様付けも取り払う事になったのだ。まぁ流石に年上に対する敬意だけは忘れたくなかったので、さん付けは続けているが。因みにミリキャス様に対しても同様にする様に言われているので、プライベートの時は「ミリキャス君」と呼ぶ事にしている。そうしてお互いに挨拶を交わした所で、サーゼクスさんは早速本題に入る。

 

「さて、早速だが本題に入るとしようか。ミリキャス、ご挨拶を」

 

「はい!」

 

 サーゼクスさんに促されて紅髪の少年が前に出てきたのに合わせて、僕もアウラの背中をそっと押した。

 

「そうですね。アウラ、行っておいで」

 

「ウン!」

 

 アウラは元気よく返事をした後、僕達から一歩前に出た。そして、まずはアウラから自己紹介を始める。

 

「初めまして! あたし、兵藤アウラと言います!」

 

 アウラがいつもの様に元気一杯に自己紹介をすると、それに応える形で紅髪の少年が自己紹介を始めた。

 

「こちらこそ初めまして。僕の名前はミリキャス・グレモリーです」

 

 少し落ち着いた雰囲気で自己紹介をしたミリキャス君だが、先程のサーゼクスさんへの返事と違ってハキハキとした感じでなかったのが少々気になった。サーゼクスさんも同じ事を感じたのか、少し首を捻っている。ここで、イリナが前に出ると腰を少し落としてミリキャス君と視線の高さを合わせた後で声をかける。

 

「ねぇ、ミリキャス君。ひょっとして、緊張してる?」

 

「えっ、えっと……」

 

 イリナに突然声をかけられた事でミリキャス君が戸惑っていると、イリナが一言謝ってから名前を名乗った。

 

「あぁ、ゴメンなさい。私の名前は紫藤イリナ。「竜」の因子を持つ天使に転生した元人間よ。ひょっとしたら、少しは私の事を聞いているかもしれないけど」

 

 すると、ミリキャス君は目を輝かせてイリナについて聞いていた事を口にし始める。

 

「いえ! 父様や母様からお話はかねがね聞いています! あの世界最強のオーフィスを相手にして最初から最後までそちらの兵藤一誠さんと一緒に戦い続けた、とても凄い人だと!」

 

「な、何だか私の評価が物凄い事になってるんだけど……」

 

 ミリキャス君を通して聞かされたサーゼクスさんとグレイフィアさんからの評価に、今度はイリナの方が困惑した。しかし、イリナはそれを一旦棚上げするとミリキャス君にアウラに対する自己紹介について確認を取る。

 

「ま、まぁ、それは一旦置いといて。ミリキャス君。自分から同い年の子に自己紹介するのって、これが初めてでしょ?」

 

「ハ、ハイ。それでどう話したらいいのか、ちょっと分からなくて……」

 

 ミリキャス君が今度はたどたどしくお答えになると、イリナは納得する素振りを見せた後でどうすればいいのかをアドバイスした。

 

「そっか。でもね、そんなに難しく考えなくていいの。まずは自分の事をしっかり伝えて、相手の事をしっかり受け止める。ただそれだけでいいのよ」

 

「自分の事をしっかり伝えて、相手の事をしっかり受け止める……」

 

 イリナのアドバイスを呟く様に繰り返すミリキャス君に、イリナは更にアドバイスを続ける。

 

「そう。そうすれば、後はもっといろんなお話をしたり、一緒に遊んだりしていく中で自然とお友達になっているものなの。ミリキャス君の年頃の子は皆そうだし、私とイッセーくんもミリキャス君ぐらいの時にそうやってお友達になったのよ」

 

「皆、そうなんですね。……はい! 僕、何とかやってみます! ありがとうございました!」

 

 イリナからのアドバイスを受けて自信を得たミリキャス君は、イリナにお辞儀してお礼を言ってきた。その様子を見て、もう大丈夫だと判断したイリナは早速アウラに試す様に促す。

 

「ウン、それでよし。それじゃ、早速アウラちゃんに試してみて」

 

「はい! ……えっと、アウラさん?」

 

 しかし、どうやらミリキャス君の呼び方がお気に召さなかった様で、アウラは少しムスッとした表情となった。

 

「う~。……アウラ」

 

「えっ?」

 

「だから、アウラって呼んで。お友達なのに「アウラさん」って、ちょっと変だから」

 

 アウラからそう言われたミリキャス君は戸惑いがちにアウラの呼び方を変える。

 

「えぇっと……。じゃあ、アウラちゃん」

 

 すると、今度はお気に召した様でアウラは笑顔で応えた。

 

「ウン! それでいいよ! それじゃミリキャス君、あたしと一緒に遊びに行こう!」

 

「ハイ! ……じゃなかった、ウン!」

 

 アウラからのお誘いに対して、流石にいきなり気安い言葉での返事ができなかった様で、ミリキャス君は返事を訂正する。そしてアウラと手を繋ぐと一緒にこの場から離れていった。そしてここから少し離れた所で追いかけっこを始めた二人の子供を見守っていると、サーゼクスさんが僕に話しかけてくる。

 

「イッセー君。君もしっかりとお父さんをしているが、イリナ君も中々立派なお母さんをしているじゃないか。……これは私達もうかうかとしていられないかな?」

 

 グレイフィアさんの方を向きながらそう問い掛けるサーゼクスさんに対し、グレイフィアさんの答えは肯定だった。

 

「そうね、サーゼクス。それによく考えてみたら、私達は夫婦としては長いけれど親としてはまだ数年しか経っていない新米なのよ。だから、お義父様やお義母様はもちろんの事、兵藤さんとその奥様からも学ぶ事が多いわ」

 

 ……確かにその通りだ。そして、それは僕達にも当て嵌まる。

 

 僕がグレイフィアさんの意見に納得していると、サーゼクスさんも同じだった様で特に僕の父さんについて触れてきた。

 

「確かにね。特に兵藤さんは、メイドに徹していた君を初見で私の妻である事に勘付く程の察しの良さをただ奥さんへの心配りと子育ての為だけに使い続けた人だ。あの人は父親としての私の目標だよ」

 

 四大魔王の一人からそこまで高く評価される父さんの事を誇りに思いつつ、僕は自身に対する高評価を聞かされた時の父さんの反応を推測してみた。

 

「父さんがそれを聞いたら、頭を掻いて恥ずかしがりそうです。あぁ見えて、結構シャイな所がありますから」

 

 そうして僕の口を突いて出てきた推測に対して、サーゼクスさんは少し笑みを零していた。

 

「その光景が容易に思い浮かぶな」

 

 このサーゼクスさんの言葉に、僕は少しだけ笑ってしまった。

 

 

 

 そんな些細なやり取りをしてから、およそ二十分後。

 

「それで、どうしてこんな事になっているんだろう?」

 

 ……僕はサーゼクスさんと対峙していた。

 

「パパ、頑張って~!」

 

「父様、負けないで下さい!」

 

 一方、子供達は自分の父親の後ろから声援を送っており、その側にはそれぞれの母親が付き添っていた。なお、僕達を出迎えに来たスルト・セカンドさんとマクレガーさんについては「これは面白くなってきた」と傍観の構えだ。

 

 事の発端は実に単純だ。十分程走り回って疲れたところで庭の芝生の上に座り込み、そのままお喋りを始めた二人であったが、話がそれぞれの父親の事に及ぶと風向きがおかしくなってきた。お互いに自分の父親の事を自慢していると、次第に自分の父親の方が強くてカッコいいと言い争いを始めてしまったのだ。その結果、どちらも意地になって引っ込みがつかなくなってしまい、このままケンカし始めるかと思ったら、それならどっちが本当に強くてカッコいいのかハッキリしてもらおうという事になり、僕とサーゼクスさんがちょっとした手合わせをする事になってしまった。

 

 ……流石のサーゼクスさんもこれには苦笑いするしかない様だ。

 

「ハハハ……。まぁお互い子供の期待は裏切れないからね。だから、ここは一つ何かテーマを決めてやり合おうか」

 

 確かにサーゼクスさんの言う通りなので、僕の方からこの手合わせのテーマを持ち掛ける。

 

「それなら、子供達にも解り易い様にしましょうか」

 

 僕の提案に対し、サーゼクスさんは納得の表情を浮かべた。

 

「成る程。私達が真面目にやれば、手の読み合いと駆け引きの応酬になって解り難くなってしまう。それでは意味がないか」

 

「そういう事です」

 

 僕がサーゼクスさんの言葉を肯定した所で、サーゼクスさんは右手に「滅び」の魔力を集束させる。すると「滅び」の魔力が次第に細長い形状へと変わっていき、やがて全てを紅一色で構成した剣として実体化した。

 

「魔力の集束技能を極めたら、こういった事もできる様になってね。さしずめ紅の魔王剣、クリムゾン・サタンソードと言ったところかな」

 

 サーゼクスさんは軽く言ってくれるが、実際に対峙する側としてはその剣の威力が途方もない事はすぐに解った。

 

「これはまたとんでもない物を出してきましたね。流石にオーラブレードじゃ止められないけど、まさか真聖剣を使う訳にもいかないし、クォ・ヴァディスを使うのもちょっと違う気がする。……それなら、これだ!」

 

 真聖剣やクォ・ヴァディスを使うのは少し違うと考えた僕は、サーゼクスさんが「滅び」の魔力を集束して剣を形成した事に目を付け、剣を用意する為の呪文を詠唱する。

 

「ジーク・ガイ・フリーズ……。出でよ、スーパーエルディカイザー!」

 

 詠唱しながら手印を切り、両手に集まった光を前面に放つと、地面から天に向かって一条の光が立ち上った。そして光が立ち上る地面の穴からは、一本の剣が静かに浮かび上がってくる。

 白に染まり赤で縁取られた柄が十字を形成する様に四方にせり出しており、刃はその内に光を宿したかの様に金色に光っている。地の神の剣に光の力が加わった事で太陽王の剣であるゾーラブレードに最も近付いた神の武器、スーパーエルディカイザーだ。

 浮かび上がって来たスーパーエルディカイザーを右手でしっかりと掴むと、畳まれていた柄が広がると同時に僕の()(どう)(りき)が強烈な炎となって刃から噴き出す。

 スーパーエルディカイザーが召喚されて僕の手に収まるまでの一部始終を目の当たりにしたサーゼクス様は、初めて見た光景に感嘆の声を上げた。

 

「何という力強いオーラを放つ剣だ。それが生命の根源に連なり、それ故にイリナ君の導きがあったソーナを例外として魂の位階が高い存在には扱えないという魔動力、そして人間に秘められた大いなる可能性の一端なのか……!」

 

 そこで、僕は魔動力に関して補足説明を行う。

 

「正確にはその奥義である物質の形成によって為される神の武器の召喚で、この剣は地の神の剣であるエルディカイザーが光の力を得て強化されたスーパーエルディカイザーです」

 

「神の武器の召喚……! では、ソーナがオーフィスと対峙した時に携えていた両刃の銛は」

 

 ここでサーゼクスさんがソーナ会長が対オーフィス戦で手にしていたウェーブカイザーについて触れてきたので、ついでにウェーブカイザーとシュトルムカイザーについても名前だけ挙げる事にした。

 

「水の神の銛、ウェーブカイザーです。後は風の神の弓、シュトルムカイザーもあります。因みに、僕は三種の魔動力を全て扱えるので、これらの武器を強化込みで全て召喚できます」

 

 僕が神の武器について説明を終えると、サーゼクスさんは溜息を一つ吐く。

 

「「滅び」と「探知」の特性を両立させたリアスは、本来は戦闘能力がけして高いとは言えないグレモリー家においては異端と呼べるのだが、悪魔の身でありながら神の武器を召喚できるという意味ではソーナもそれに負けていないな。……さて、お互いに武器も用意できた事だ。それでは始めようか」

 

「そうですね」

 

 そう言って紅の魔王剣(クリムゾン・サタンソード)を構えるサーゼクスさんに合わせて、僕も手にしたスーパーエルディカイザーを構える。

 

 ……そして、次の瞬間。

 

 「滅び」の魔力を物質化した魔王の剣と炎を噴き上げ光の力をも宿す地の神の剣が真正面から激突した。

 

 

 

Overview

 

「スゴイ……!」

 

 魔王サーゼクス・ルシファーの嫡男であるミリキャス・グレモリーはそれ以外に言葉がなかった。

 

「パパはもちろんカッコ良いけど、サーゼクス様もそれに負けないくらいにカッコいい……!」

 

 一方、兵藤一誠の愛娘である兵藤アウラもまた「カッコいい」以外の感想を持てずにいた。

 

 ……紅髪の魔王(クリムゾン・サタン)赤き天龍帝(ウェルシュ・エンペラー)が己の習得した技術を競い合っている光景を前に、二人は完全に目を奪われていた。

 

 

 

 サーゼクスが「滅び」の魔力を集束させて剣として物質化するという今まで見た事も聞いた事もない事をやってのけると、その父親が年の離れた友達だと密かに語っていた一誠は大地から地の神の剣を召喚するというこれまた見た事も聞いた事もない事をやってみせた。そして、お互いが武器を用意した後、一瞬で間合いを詰めるとその武器をぶつけ合う。それから暫く剣撃を二人が繰り出していると、サーゼクスの表情が少し曇った。

 

「専門家相手に剣術勝負は流石に分が悪いな」

 

 ミリキャスはサーゼクスから飛び出した言葉に驚きを隠せない。彼の目では互角の様にしか見えなかったが、どうやら違っていたらしい。そして、一誠もそれについては全く否定しなかった。

 

「これでも数多の騎士を統べる王の称号を受け継いでいるんです。それにも関わらずに素人相手に剣で負けたら、先代であるアーサー王やその愛馬であるドゥン、それに剣を指導してくれたレオンハルトに申し訳が立ちませんよ」

 

 なお誤解のない様に言えば、サーゼクスの剣捌きはあくまでレオンハルトやリヒト、武藤親子と比較したら素人だという話であって、同じ剣士である巴柄はもちろん聖剣使いであるゼノヴィアやイリナでも相手にならず、剣の極意を修めつつある祐斗でようやくまともに打ち合える様になる。一般的な基準で言えば、サーゼクスは十分に一流の領域に立っているのだ。

 

「では、今度は私の土俵に来てもらおうか!」

 

 だが、サーゼクスは一誠相手に剣での戦いは不利である事を認めると、間合いを離してから一瞬で無数の魔力球を自身の周囲に展開する。サーゼクスが才能の大部分を注ぎ込んだ滅殺の魔弾(ルイン・ザ・エクスティンクト)である。そして、そのまま一気に一誠に向かって放ってきた。

 

「ドーマ・キサ・ラムーン……。魔動力、ロックセイバー!」

 

 それを見た一誠は地の初級魔動力であるロックセイバーを唱えると、剣を持たない左手を地面に当てる。すると、巨大な岩が一誠の前にせり上がり魔力球に対する防壁となった。

 

「その程度で防げる程、私の滅殺の魔弾は甘くは……!」

 

 サーゼクスは岩程度で防げはしないと言おうとしたが、それも岩に魔力球が激突するまでであった。魔力球が岩に激突した次の瞬間、岩が一気に砕けると同時に魔力球が焼失し、更に砕けた岩の破片が自分に向かって飛んで来たのだ。

 

「まさか、カウンター機能を持っているのか! やってくれるな、イッセー君!」

 

 しかし、サーゼクスも然る者で自身の周りに残していた魔力球の内、三個を前に出して巨大化させる事で全ての岩の破片を防ぎ切ってしまった。

 

「流石ですね。一度でも距離を離されると、今度は僕の方が不利になるか」

 

 ロックセイバーによるカウンターが失敗に終わったのを確認した一誠は、間合いを離しての撃ち合いになれば自分が不利になるのを素直に認めた。

 

「この滅殺の魔弾には、私の才能のほぼ全てを注ぎ込んでいるからね。そう簡単には破らせはしないさ」

 

 サーゼクスがそう語ると、一誠は間合いを詰めての接近戦に持ち込むと言い放つ。

 

「だったら、また僕の土俵に来てもらいますよ」

 

 すると、サーゼクスもそうはさせないと言い返した。

 

「近寄らせはしないさ。折角奪い取ったアドバンテージなんだ、そう易々と奪い返される訳にはいかないな」

 

 アドバンテージの奪い合いを宣言した二人ではあったが、その顔には共に笑みが浮かんでいた。

 

 その後は一誠が追い駆け、サーゼクスが退くという熾烈な追い駆けっこが繰り広げられた。……ただし、対オーフィス戦でイリナが使用したエスタンブルで一誠がサーゼクスの足を止めようとすると、サーゼクスは魔動力の縄が絡み付いた部分に「滅び」の力を集めてそれを破壊し、一方でサーゼクスが滅殺の魔弾による弾幕を張ろうとすると、一誠はその前に中級魔動力であるフレイムボマーを使用、胸骨の中央にある力の集束点から巨大な火球を放つ事で両手を自由にした状態で先手を取ってそのまま接近戦に持ち込むなど、目に見えて解るレベルでの駆け引きが行われており、子供達は自分の父親が繰り広げる攻防の数々にすっかり魅了されていた。

 

 

 

 ……そうして闘う事、十五分。一誠とサーゼクスはそろそろ頃合いとして、手打ちとする機を窺っていた。

 

(できれば、お互いに武器か力を突き付け合う展開に持っていくべきだが……)

 

(それだと、アウラもミリキャス君も納得しそうにないな。それに、これはサーゼクスさんを戒める意味でいい機会かもしれない)

 

 一誠はサーゼクスより一瞬早くどう動くかを決断した。そして、視線を一誠から向かって右の方に向ける。

 

(随分と解り易いな。誘いか? ……それなら、乗るとしようか)

 

 サーゼクスはそう判断すると、あえて一誠との間合いを詰めて紅の魔王剣で切りかかる。すると、一誠は視線を向けた方向とは真逆に動き、サーゼクスとの鍔迫り合いを避けた。一誠はそのまま前方へと跳躍すると、空中で身を捻らせながらミリキャスの頭を飛び越えてその後ろに着地、左手をミリキャスの左肩に乗せると共にスーパーエルディカイザーの刃を右肩越しにサーゼクスへと向けた。なお、この時は刃から噴き出す魔動力の炎を抑えてある為、ミリキャスが火傷をする事はない。

 

(……考えている事は、向こうも同じだったか)

 

 一誠がそう考えながら視線を向けたその先には、左腕にアウラを抱えた状態で紅の魔王剣を自分に向けるサーゼクスの姿があった。

 

「随分と卑怯な真似をしますね?」

 

 一誠は自分の事を棚に上げてそう言うが、その口元には笑みが浮かんでいた。

 

「それはお互い様だよ。だが、何故かとは訊かないのかな?」

 

 そう問いかけるサーゼクスもまた、笑みを浮かべている。

 

「愚問ですね。僕達と敵対している相手がどういった者達なのかを考えると、答えは自ずと出てくるでしょう」

 

 問い掛けられた一誠が答えを返すと、サーゼクスはその答えに同意した。

 

「それもそうだね。何故なら」

 

「そう、何故なら」

 

 そして、二人は声を揃えて相手の子を人質とした理由を明かす。

 

「「敵は、とても狡いのだから」」

 

 そう。二人は人質を取る行為をしてみせる事で、敵が卑怯な手段を取る事に躊躇いがない事を相手に忠告したのだ。

 そうしてお互いに忠告を受け取ったと見た二人は、それぞれ人質を取る構えを解いてから相手の子供を連れて近寄って来た。そして、人質対策について話を始める。

 

「やはり、人質対策はしっかりしておかないといけませんね」

 

「その通りだよ。特に強敵相手に戦っている隙を突かれると、相当に痛い。幸い、私の方は頼れる眷属達がいるからまだ大丈夫だが、問題は君のご両親だな」

 

「それについてですが、以前の反省から両親には色々な防御用の術式を施したアミュレットを渡しています。またイフリートやパンデモニウム、ベヒーモスといった召喚契約を交わしている幻想種達に両親の危険を知らせる術式も組み込んでありますし、その知らせが来たらすぐに両親の護衛や救出に向かう様にお願いしていますので、そうそう問題は起こらないと思いますよ」

 

「成る程。そういう事なら、オーフィス自ら出向く様な事でもない限りは大丈夫だろう。しかし、ベヒーモスか。セラフォルーがその末裔を眷属にしていた筈だが、君と召喚契約を交わしているのは種族の長であるベヒーモス本人だったね。……一般人の夫婦を攫うだけの簡単な仕事と思って来てみれば、待ち構えていたのは先代レヴィアタンと並び称される三大怪物の一頭か。襲撃者達がいっそ哀れに思えてくるな」

 

 自分達の頭の上でしっかりと話し合いをしている父親達を、子供達はキラキラと瞳を輝かせて見ていた。その眼差しには、自分の父親だけでなく相手の父親に対する敬意も確かに含まれていた。

 

Overview end

 




いかがだったでしょうか?

原作八巻のおっぱいドラゴンVSサタンレッドを拙作の雰囲気に合う様にアレンジしてみました。

では、また次の話でお会いしましょう。

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