もういやだ…
弟が高校に無事に受かり入学することができてよかったです。
今度時計でもあげようと思います。
「八幡、今日、ここに泊めて…」
帰りたくない、どうして帰りたくないのか、それを聞いた方がいいのだろう。
留美を泊めるのだとしたらそれを聞いても悪いことではないだろう。事情があって今留美はここにいる。
家に居たくない理由、それはおそらく家族のことだろう。鶴見留美の家族のことに関し俺が何か言っていいわけではないのだろうし、そもそも俺と留美の関係性はとても薄いのだ。
知り合いとか、名前を知っていて話したことがある、その程度のはずだ。
というか普通、家に帰りたくないのからと言って知り合い程度の異性の家に泊まろうとするだろうか?
留美を見るとどこか寂しそうで、不安そうだ。
俺はどうしたらいいのだろうか…
「…近くに友達の家とかないのか?」
目を逸らし膝を抱え体育座りをして顔を半分ほど疼くめている留美。白く綺麗な足は透き通るようで瑞々しい。
「友だち、いない。転校して来たばかりだから…」
「…どうして家に帰りたくないか、聞いていいか?」
未だにどう人に踏み込んでいいかがわからない。きっとそれは俺が他人に踏み込むことを怖がっているからなのだ。
「まあ言いたくないなら言わなくてもいい。俺がその事に対して、なにかしてやれるかはわからないんだし」
もしも、留美がこれを依頼として俺に話してくれるのなら、俺はきっと留美の為になにかしたいと思ったのかもしれない。
もう、奉仕部の部員なわけではないんだけどな。
留美はやはり理由を話したくないのか口を閉じたままどこを見るでもなく考え事をしているようだった。
今留美に踏み込むことはことの解決において正しくはないのかもしれない。だが今のこの現状について留美に俺がしてやれることはなんなのだろうか。
時計はもう9時を過ぎていて、俺の家に来てから誰かに連絡をとったところを見ていない。とりあえず今俺がすべきことは留美を家に帰すかひとまず泊めるか、である。
…でもなぁ。普通に考えてだめだろ。大学生が中学三年生の女の子を家に泊めるんですよ?
手を出さない自信はある。そうだ、俺は理性の化け物だ。
落ち着け比企谷八幡、be cool
落ち着いて深呼吸をするんだ。スーっハー。スーっハー。
トレッビアーン‼︎
まあ本当に留美の前でやる訳はないが…
「…八幡、なんかすごいキモいんだけど…」
まるでゴミを見るかのように、というか本当にゴミだと思われているだろう。
…て言うかさっきは何を考えていたのだったかしら?あ、そうだな、留美をどうするかだな。
この状況を由比ヶ浜や雪ノ下が知ったらどうなりますかね?まあとりあえず通報されるだろ?その次に罵られるだろ?
…とりあえず通報されるのは嫌だな…
もう罵倒とかは慣れているからいいけどさ。むしろ留美に言われるのは癖になるまである。
「で、どうなの?…」
「ん?何が…」
「…泊めてくれるの?」
はぁぁ〜とため息をついてから聞き直した。
「ルミルミの言葉足らずな所は変わってないな」
「キモい。八幡キモい」
あらやだ、ルミルミがどんどん雪ノ下に似てきたわ。八幡どうしましょ?
「仕方ないから今日はとりあえず泊めてやる。だが親御さんには連絡入れとけ。俺がお前を誘拐したとかにでもなったら非常に困る」
「…お前じゃない。留美」
大事にでもなられては困る。それに今この時間に留美を連れて歩くと確実に通報される。
というか昼間でも通報されかねない。
なんだよもう、どうしようもなくね?俺。
「…わかった」
渋々スマホを取り出し電話をかけ始めた。
電話をすることすらも嫌なのだろう。なかなかの不機嫌オーラを纏っている。
留美さんマジ怖いっす。
「とりあえず留守電にメッセージは入れといたから、もう大丈夫」
「出なかったのか?」
「仕事中だから」
両親が仕事で帰ってくるのが遅い、それは俺たちも同じだった。まあ俺には小町がいたし、特にそのことについて不満はなかった。
むしろ小町と二人きりでいられて良かったまである。
まあカマクラもいたけど。
ふと留美を見ると可愛いおめめを潤ませながら口に手を当て欠伸をしていた。
なんだろう、すげー可愛いんですけど。
「ぅ~ん…」
右手で目を軽く擦っているため、左の方の鎖骨が見える。
小町なら特に意識することもなかったのに、ついつい見てしまう。やばい、捕まる…
「そろそろ寝るか?明日は昼からバイトも入ってるし」
「うん…」
「とりあえず留美は俺のベット使え。ちゃんと暖かくしてし寝ろよ?」
くすくすと留美は笑った。今の会話のどこに笑えるところがあったのか全くわからないが、留美が普通に笑っているのを見るとどこかホッとする。
「八幡ってさ、…お兄ちゃんみたい」
「留美は妹みたいだな。まあ俺にはちゃんと妹もいるが」
「…おやすみ」
「おう、おやすみ」
とほとほベットへと向かう留美。俺も照明を落としてソファーに寝転がる。
真っ暗、というほど暗いわけではないがやはり暗い。数秒もすると目は慣れてきた。
雨はまだ当たり前のように降っていて、無機質に打ち付ける雨の音が心地いい。
今日はとりあえず留美を泊めたが明日はどうなるだろう。留美の今抱えている問題をどうにかしなければいけないが、どうしていいかわからない。
千葉村のときの件については俺が勝手にやったことだ。なにか留美に頼まれた訳ではない。
まあ正確には俺が考えたことをやらせたわけだが。
クリスマスのときに再び留美と会い、そしてその状況はあまり良くはなっていなかった。もしかしたら多少はマシになったのかもしれないが、結局は俺の自己満足でしかなったのだ。
「八幡…」
俺を呼ぶ声。それはとても小さく、寝言でつぶやくようなほどに消え入りそうだった。
「…あのときはありがと。…お礼を言われることは何もしてないって、八幡は言うかもしれないけど」
あのとき、留美の言うあのときは千葉村のときだろうか、それともクリスマスのときだろうか。
どちらにしても本当に留美にお礼を言われるようなことはしていない。
けれど、留美の言葉に少しだけ救われたような気持ちになる。
すーっと肩の力が抜けていくのが自然とわかった。
「八幡、…おやすみなさい」
その、おやすみなさい、がとても心地良くてそのまま眠りについた。
暑い、そう感じて目が覚めた。
なにかが俺にもたれかかっていて、それがやたら熱い。
その熱さが俺の意識を一気に覚醒させた。
少し苦しそうに呼吸をしながらもたれかかる。もたれかかるというよりはしがみ付いている、という方が正しいのかもしれない。
額には汗が浮かんでは俺の服へと落ちていく。
顔が赤く留美がどれだけ苦しいかが熱と一緒に伝わってきた。
「…留美、大丈夫か?」
どうしていいか、わからなくなる。
留美がこんなにも苦しそうにしているのにもかかわらず俺はそんな留美を見てうろたえている。
情けない。
俺の服を握る留美の手に一層力が入る。
とりあえず留美を抱えてベットにそっと寝かせた。
薬を飲ませようと思い取り出すも、留美に何も食べさせていないことを思い出しコンビニへ向かった。
走れば5分で着くはずの道は今だけかやたら長く感じた。
雨がまだ降っていたことに気付いたのはコンビニに着いた頃だった。
必要なものを買い再び家へと走る。
次はどうすればいい?とりあえず食事を取らせてその後に薬を飲ませる。でも先に病院に行った方がいいんじゃ…
当たり前のことがわからなくなる。
もし風邪なら市販の薬でもなんとかなるはずだ、それでダメなら病院に行くしかない。
家に着き靴を脱ぐ。雨でぐちゃぐちゃになった足は気持ち悪く、濡れた靴下を悪態をつきながら籠に投げ付けた。
俺が留美の側に来ると留美は目を覚ました。さっきよりも顔が赤いようにも感じる。
「留美、大丈夫か?」
「…うん。大丈夫…」
少し苦しそうにしつつも笑う。
その笑顔を見たからか俺も冷静になれた。
「とりあえずスポーツドリンクだ。…あとはゼリー、ゼリー食べたら薬だからな」
「うん」
今は食欲はないかもしれないがゼリーくらいはどうにか食べられるだろう。留美のために各種取り揃えた。
留美がゼリーを食べている間に体温計を探し出す。
とりあえず食欲はあるらしくすぐに留美はゼリーを食べ終えてしまった。
取り出した体温計を差し出し、買ってきた熱さまシートも渡す。
「…八幡、これ貼って…」
「自分で…わかったよ貼るよ」
断れないって。
顔を赤くして目を潤ませて頼まれたら断れないって。
破壊力がすごかった。俺が中学生の頃なら一目惚れは間違いなかった。
貼ると言ってしまった手前、仕方なく中身を取り出す。
貼る前に留美の額を濡れた布で拭く。濡れた布は気持ちがいいらしい。
「留美、シート貼るから前髪自分で上げてくれ」
「うん」
「…デコちゃん」
「八幡キモい」
おでこを見られるのが恥ずかしい少しそわそわしている。
恥じらう姿に可愛らしいと思ってしまう。
露わになった留美のおでこにシートを貼る。いい感じに貼れたと感心していると不意に留美と目が合った。
そして思っていたよりも距離が近い。もしかしたら俺の息がわずかにかかっているかもしれない。
「八幡…ありがと」
「お、おう」
きっと俺も留美と同じくらいには顔を赤くしてしまっているだろう。俺もシートを貼ろうかな。
その後に薬を飲んで落ち着いたらしく、留美はうとうとし始めた。
こくりこくりとする留美の頭をなるべく優しく撫でる。
「とりあえず寝ろ」
「うん」
そのまま留美は気持ちよさそうに眠りについた。
留美の寝顔を見ていてふと気がつくと時間はもう10時を過ぎていた。
昼からバイトがあったことを思い出し栗原バリスタに電話をかける。
『もしもし私だ。どうした比企谷君?』
「おはようございます栗原バリスタ。あの、すみませんが今日だけ休ませて頂けないですか?」
しばし沈黙の後に栗原バリスタは答えた。
『わかった。君が休ませてくれと言ったのはこれが初めてだね。まあ理由は聞かないよ。明日は出れるかね?』
「はい、出れます。…ありがとうございます栗原バリスタ」
『では明日』
「はい、失礼します」
それからは留美の看病をしていたがいつの間にか俺も眠っていた。
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