やはり比企谷八幡は捻くれている。続   作:秋乃樹涼悟

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いやぁ、なんだかんだで二期を書くことになりました。
正直未だにどう書いていこうか迷っていますが色々妥協しつつ頑張っていきたいと思います。

でわでわ、未熟な文章ではありますが暖かい目で読んで頂けたら幸いです。


エスプレッソは嫉妬と失恋と恋の味に似ている。

「なあ一色…」

「なんですか〜?」

 

せんぱいをカウンター越しに頬づえを突きながら眺める私。

せんぱいは白のワイシャツに黒のスラックスと、どっかの学生みたいな制服にモスグリーンのエプロンを腰からかけていて、今は私のために珈琲を淹れてくれています。

 

「やりづらいんだが…」

「なにがですか?」

 

ポットを小さくのの字に回しながら何回かに分けて落としていくせんぱい。

 

「そんなに見られるとやりづらいんだが」

「せんぱい自意識過剰じゃないですかー?私が見てるのはせんぱいじゃなくてその珈琲です。私に告白されたことがあるからってちょっと調子に乗ってませんかー?」

 

そうです。私は高校二年生の夏にせんぱいに振られたのです。

花火大会でふたりきり、小さなベンチに座って肩が当たってドキドキしながら見る花火。

思い切ってせんぱいにキスをして、そして振られた。

 

あの日以降ちゃんと会うのはこの日が初めてで、学校ではほとんどすれ違うくらいになっていた。

普段の私なら振られたことぐらい臆せず話しかけていたはずだけど、どこか後ろめたさがあったのかもしれない。

なにかせんぱいに対し悪いことをしたという訳ではなくて、むしろせんぱいに悪いことをさせてしまったというこの方が近い。

わかっていた。振られることを。

 

「そうですね〜一色みたいに可愛い後輩から告白されて調子に乗ってましたよ〜」

 

そんなことを言いながら私の前に淹れたばかりの珈琲を差し出すせんぱい。

ふざけていてもせんぱいから可愛いと言われるのは嬉しい。

 

「もしかして今私を口説こうとしてますかごめんなさい。せんぱいのことは今でも好きですけど今になって口説かれるとちょっと引きます。口説くならもっと本気で婚約指輪渡すくらいの勢いで来てくださいごめんなさい」

 

私思ったんですけど、断り切れてないですよね…

好きですって言っちゃってるし。

 

「冷めないうち飲めよ〜」

 

私の告白をあっさりと流しましたよこの人。

 

「…一色、平塚先生から聞いたのか?」

 

せんぱいは自分の分の珈琲も淹れながらそんなことを聞いてきた。

平塚先生から聞いたのか、とはどういうことなのか?いまいちわかりません。

 

「なにをですか?」

「俺がここで働いている事をだ」

「私はなにも聞いてはいませんよ。そもそもせんぱいが喫茶店で働いているなんて知りませんでしたし」

 

せんぱいは私立文系に行くと言ったので、てっきり私はバリスタになることは諦めたのかと思ってましたし。

「そうか」

「ほんとは今日友達とここに来る予定だったんですよ。このお店気になってたから今度行こうねって」

「…一色、お前友達出来たのか?」

「できましたよ!」

 

信じられないというような顔してますよ、ありえないです。

まあ私は確かに同性から好かれなかったですけど、今は違います。

私には青峰葵という友達がいるんですから。

…今度絶対いちごパフェ奢ってもらおう…

 

「で、なんで結局今日ひとりで来たんだよ?」

 

まだ私を疑ってますね、せんぱい。

全く失礼ですよね。せんぱいだってぼっちのくせに。

 

「彼氏がどうのこうのってドタキャンされたんですよ…」

「その人別に一色のこと友達って思ってないんじゃないの?」

「失礼ですね、確かにまだ知り合って日が浅いですけど、ちゃんと友達してますよ。それに、向こうから友達になってって言ってきてくれたんですから」

 

入学式初日に友達ができるとは思ってなかったです。

前の自分なら、もしかしたらそんなことはどうとも思ってなかったかもしれないですけど。

 

私がもう一口珈琲を飲むと同時に、奥でドアの開く音がした。おそらくは従業員用の出入り口からなのでしょう。

せんぱいもそれに反応して奥に行ってしまった。

いつの間にかせんぱいの背中は大きく見えた。せんぱいは私の知らないこの一年間でなにをしてきたのだろう。

 

私がそんなことを考えていると奥で話し声が聞こえてくる。

 

「栗原バリスタ、焙煎前の豆こっち置いときますからね」

「ああ、すまない」

「比企谷、今はお客いないの?」

「いや、ひとりいるけど、知り合いだから大丈夫だ」

「比企谷に知り合いとかマジウケる」

「いや、ウケねーから…」

 

どうやらせんぱいの他にふたりほどいるようで、ひとりは知らないけどもうひとりの声はどこかで聞いたことのある声だった。

そしてその声の主は珈琲豆の入った袋を抱えながら出てきた。

 

「あれ⁉︎もしかして一色ちゃん⁉︎ちょー久しぶりじゃん!マジウケる!」

「お久しぶりですー」

 

…誰だっけ?でも顔は知ってるはずです。どっかでみたなーみたいな感じですし、ふるふわっとした髪と結衣先輩とはまたどこか違う明るさを放つこの人。

 

「折本、はしゃぎ過ぎだ仕事しろ。また栗原バリスタに怒られるぞ」

「それあるー!」

 

そうでしたこの人、折本って人だ。確かせんぱいとおな中で、海浜総合高校の生徒会の助っ人さんでした。

いやぁ、みんなでご飯とか行ってましたけど思いっきり忘れてました。

あ、そう言えばバレンタインのときもいましたよね、せんぱいにチョコあげるとか言ってました。

そうでした、雪ノ下先輩や結衣先輩の他にも恋敵がいたんでした。

せんぱいって、なんでこんなに倍率が高いんですかね?せんぱいの大学より高いんじゃないんですか?

 

「比企谷君、君の知り合いという人を紹介してもらえないか?」

 

さらに奥から出てきたのは、どこか平塚先生のような雰囲気を醸し出す女性。栗色の髪はポニーテールにしてまとめてあるが相当に長い。雪ノ下先輩くらいには長い。

着崩したシャツとネクタイはやっと一息つけると安堵したためか、気が抜けているようだった。

鎖骨と首との微妙な位置にある小さなほくろがどこかまたエロい。

というか、私一応お客なんですけど…

 

「栗原バリスタ、こいつは俺の後輩で、一色いろはって言うんです」

「比企谷君の彼女か?」

「言ったでしょう、知り合いです…で、一色、この人がこのお店のバリスタの栗原美久里(くりはらみくり)さんだ。平塚先生の高校時代の友人らしくてな、ここも平塚先生に紹介してもらったんだ」

「よろしくな、一色君」

「はい。よろしくです、栗原バリスタ」

 

挨拶を済ませた栗原バリスタは腕まくりをしながらエスプレッソマシンの前に立ち、メンテナンスをしているのか、なにやらいじくり始めた。

 

「そう言えば折本先輩、せんぱいはここで働いている経緯はわかりますけど、折本先輩はどうしてここで働いているんですか?」

 

せんぱいはわかる。バリスタの専門学校に行こうとしていたし、大学から近いこのお店は私立文系とバリスタを両立させることができるからだ。

だからせんぱいは専門学校には行かなかったのだ。たぶん。

でも、折本先輩は?

 

「私ね、比企谷と同じ大学なの」

「まあ学科は違うけどな」

「なんかさ、大学の食堂でご飯食べてたらさ、比企谷ひとりで食べてて。ちょーウケる」

「いや、ウケねーから…」

「せんぱい、結局大学でもぼっちなんですね…」

 

せんぱいはどうして大学でもぼっちなんですかね?

結衣先輩や雪ノ下先輩とあんなに親しいのに。

まあでもせんぱいは、大学にそういうものを求めてないのかもしれないですけど。

 

「でさ、ちょっと喋ってて、比企谷バイトしてるって言うからさ。私も丁度バイト探してたから紹介してもらったんだ。ウケるよね」

「いや、紹介してもらったっていうか、折本が紹介させたんだろ、断るの面倒そうだったし」

「私と比企谷の仲じゃん。別にいいじゃん」

「いや、あのときそんなに仲良かった訳じゃないだろ。てか今もだけど」

 

せんぱいと折本先輩はやはりどこか親しげで、私の知らない一年間を、折本先輩は知っている。

まるで奉仕部の3人の会話を聞いているような気分になり、私はまたひとりぽつんと取り残されているように感じた。

 

「一色君、先ほどは比企谷ひとりで留守番をさせてしまって悪かった。ここの一番のうりはエスプレッソなのだが、比企谷にはまだエスプレッソは淹れれなくてな」

「まあ俺はまだバリスタ見習いだからな」

「今日は特別に一杯サービスするよ」

 

そう言って早速準備する栗原バリスタ。

その姿はどこか格好よくて、せんぱいもいつかそうなるのかなとちょっとだけ楽しみになる。

 

すぐにエスプレッソは淹れられて、目の前にはふわふわで細かな泡はリーフが描かれている。

飲んじゃうのがもったいないって思っちゃいます。

 

「頂きます」

 

ふわふわのクレマは、私の入れた砂糖を持ち上げてキラキラと輝いている。

その砂糖に願いを込め、終えて少ししてから沈み切った。

 

「一色、それ、覚えてたんだな…」

「…だって、素敵じゃないですか?」

 

栗原バリスタの淹れたエスプレッソは、とても熱くて苦くて甘かった。

 

 




続ではまた別のオリキャラを出しました。
青峰葵は今回は出ませんでしたが、今後出していこうと思います。

感想やご意見お待ちしています。

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