凡才錬金術師と天才錬金術師   作:はごろもんフース

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四話:トリステイン危機一髪

 厨房に着き扉を開けると五月蝿い位の喧騒が聴こえてきた。

中を見れば白いコック服に身を包んだ幾人もの男性が慌てながら調理をしている。

ウイルやルイズと言った貴族が来ているのにも関わらず誰も挨拶をしないが二人は気にしなかった。時間は夕暮れ時、もうすぐで夕食の時間帯だ。

生徒や先生方の為に料理を作るのが彼等の仕事で頭を下げる事ではない。

 

「マルトーさんっ!」

「おぅ、ウイルの坊主とルイズの嬢ちゃんか」

 

邪魔をするのは気が引けるが、食事が抜きになるのは勘弁したいと思いウイルは1人の男性に声を掛ける。その男性は他の大人と比べても体格が良く、見た目は30台半ばのおっさんだ。

ウイルにマルトーと呼ばれた男性は、人好きのする笑みを浮かべ歓迎してくれた。

 

「此方は、トリステイン魔法学院で料理長をしているマルトーさん」

「おぅマルトーだ。ここで料理を作るだけの無能者だ!」

 

ガハッハッハッハと大きな笑い声をあげるマルトーを見て他のコック達も笑った。

 

「………ふ~ん、やるな」

「カリオストロ……いつのまに」

「おぅ、嬢ちゃんは味が判る奴か」

 

 そんな騒ぎも気にせず。いつのまにかカリオストロは椅子に座っており、用意されていたスープを飲んでいた。一口飲んだカリオストロは目を細めニヤりと楽しげに笑う。

勝手に飲んだカリオストロを怒る事もなく、マルトーも機嫌良く豪快に笑った。

 

「それで嬢ちゃんは?」

「オレ様は 世界一の天才美少女錬金術師 カリオストロ様だ!」

「れんきんじゅつし…?嬢ちゃん貴族か何かか?」

 

カリオストロが椅子の上に立ち上がり、腰に手を当て胸を張る。

そんな様子を見て、マルトーは困惑した。

 

「いんや、オレ様は違う。錬金術師で使い魔だ」

「あー……、ウイルの坊主はまたやらかしたのか」

 

何故、そこで自分の方を見て納得したのだろうか。

周りを見れば他の人も頷いており、ウイルは納得がいかなかった。

 

「ついでに言えば、そっちの奴も使い魔だ」

「俺はついでなのか」

 

椅子に座り直し、モグモグと食べ続けるカリオストロに指を指され才人は、がっくりと肩を落す。

 

「そう言う訳で、この二人も今後学院に住む事になる。すまないが食事の方をこっちで取らしてくれ」

「別に構わないぜ、それが俺の仕事だしよ。賄いでよければ何時でも食いに来い!」

「おぅ」「えっと……平賀才人です。よろしくお願いします」

 

二人がそれぞれ挨拶を交わした後、食事を頼み、その場を後にする。

 

 

 

「それじゃ戻るか」

「ようやく部屋でのんびりできるね☆」

「あぁ……うん。ところでカリオストロって二重人格なのか?」

「………」

 

 外で行なう事を全て終え、部屋へと二人を案内する。

サイトはたまに人格が変わるような豹変をするカリオストロに困惑した。

ルイズは未だに怒っているのか、頬を膨らませるばかりで何も言わない。

言わないが、文句もなく着いて来るので問題はないだろう。

 

「ここがオレの部屋(アトリエ)だ」

「………なぁ」

「なんだ?」

 

暫し歩き、ようやく部屋へと辿り着く。

辿り着いて自信満々に招待すれば、才人が不思議そうに首を傾げた。

 

「なんでこんな所に? 他の奴等はあっちの塔に入って行ってるけど」

「………」

 

才人の指摘は正しい。他の人が塔の中に入る中、何故かウイル達だけは外の城壁の方へと向かわせられたのだから。もう1個言えば、ウイルの部屋は横に部屋二つ分ほど伸びた小屋であった。

 

「あー……それはな?」

「追い出されたのよ」

「は?」

 

その質問に答えたのは、黙っていたルイズだ。

ルイズの答えに才人は頭の中で意味を考える、『追い出された』……あぁ、なるほどこいつは何かを仕出かしたのかという疑惑の目を向けた。

 

「ウイルは、研究が趣味だから。それを寮の部屋でやって騒音を出してうるさかったり、異臭騒ぎに発展させたり……」

「………」

 

ルイズが指折り、これまでの経緯を話しだす。

それを横で聞いていたウイルはきまりが悪そうに、目を逸らした。

 

「あーうん、追い出された理由が良く分かった。けど……注意とかやめろとか言われなかったのか?」

 

 そこまで来た才人は疑問に思いそう聞いた。

もしもそんな騒ぎを起こしたなら、教師に先に注意や、やめるように説得される筈だ。

それがあってもやっているのなら大した度胸で迷惑な奴だとも思う。

 

「そりゃ、軽い注意はされるが、やめさせる様な事はしないだろうよ」

「なんで?」

 

才人の疑問に小屋を眺めていたカリオストロが答える。

自分と同じく此処に来たばかりだというのに理由を知っているらしい。

なんというか、色々と規格外の少女だなと才人は苦笑した。

 

「ここは仮にも学院……学校だ。学校は学び舎、騒ぎを起そうと一生懸命勉強している奴を止められるか」

「あっ」

「これは予測でしかないが、大多数の奴はあまり勉強してないんじゃないか? 貴族様だろうしよ」

「………」

 

 カリオストロは面倒そうに欠伸をしつつ核心を突いてくる。

カリオストロの考えは当たっている。貴族であり、ここに通っている二人は何も言えなかった。

ここに通う貴族の大半は真面目に学ぼうとしていない。

ある程度、将来を約束されている者が殆どで真面目に学ぶ生徒はほぼ居ない。

それこそ学ぶ意思を持っているのは将来お城で勤めようと思っている者か軍隊に入る人ぐらいだ。

 

魔法と言う未知で不思議な力を持っているのに、使おうとしないのかとも思うがしょうがない話でもあった。最初こそ魔法と言う力に感激するもそれは最初だけ、使えるのが当たり前、日常で扱われていく魔法に特別視する人間は少なくなっていく。

ある程度の魔法があれば、特に困る事もなく、勉強しようとする気すらなくなる。

 

故に魔法学院で行なう事は、勉強ではなく。将来の婿や花嫁を見つける事、友人を作り人脈を増やす事。この2点が重視されている状況だ。

このような風潮に教師達は嘆くも人脈を作る大切さも判っており、臍を噛む毎日だ。

そんな中で魔法を真剣に学ぼうとしているウイルとルイズには少々甘くなるのも仕方がない。

そういう理由もあり、特別に部屋兼研究室を与えたのが経緯となる。

 

「はー……なるほどな。俺なんか毎日使うけどな」

「日常になれば……便利になればなるほど人は止まり停滞する。まぁ……そんな奴等オレ様は嫌いだけどな」

 

 カリオストロはそう締めくくり、扉を開け中に入っていく。

その際に視線をウイルに合わせ『お前は違うよな』とばかりに目を細めた。

それに対してウイルはしっかりと頷き答える。

転生前は勉強が嫌いであった。全くと言っていいほど勉強もせず、友達と遊ぶ毎日を送っていた。

だが、今は違う。魔法を学び、腕を磨き、研究していく毎日が愛おしくなるほど楽しいのだ。

しかも目標となる人物を呼んだのだから足を止める道理はなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「おーすげぇ! 貴族って感じだ!」

「……なによそれ」

 

 中に入ってみると外見に比べ物凄く豪華であった。

暖炉が備え付けられており、少し離れた所に二つのソファーとその間に設置されている机。

其処から更に奥に視線を向ければTVの中でしか見た事のないような大きなダブルベットが置いてある。床には高そうな手触りが良い絨毯も敷き詰められている。

家具一つ一つが丁寧な作りとなっており、こういうことに疎い才人さえ高い物だと感じた。

 

「うん、なかなかだな」

「もう!勝手に!」

 

既に上がり込んでいたカリオストロが座り心地を確かめるようにソファーに埋まる。

気に入ったのか機嫌良く、気持ち良さそうに目を細めていた。

ルイズは玄関で靴を脱ぎ、カリオストロへと駆けて行く。

 

(靴は脱ぐのか。日本みてーだな)

 

靴を脱いで上がるルイズにその様な事を思った。

外見も名前も外国人らしかったので、欧米同様靴を履いたままと思っていただけに少しばかり驚く。

 

「カリオストロ、こっち!」

「あぁん、なんだよ」

「下着! 選んで頂戴」

「あー?」「え?」

 

 才人が靴を脱いでいるとそんな会話が聞こえる。

ルイズの言葉に二人は何を言っているんだとばかりに眉を潜める。

ここはウイルの部屋と聞いていた。

なのにだ、何故ルイズの下着がここにあるのだろうかと……。

 

「なんでルイズの下着がここに?」

「泊まる事も多いし、面倒だから家具を置かせてもらっているのよ」

 

これには二人共黙り込む。

若い、いい感じの男女が一緒に部屋で寝過ごすのはどうなのだろうかと。

 

「あー……両親とかはなんて?」

「……学院に来た時にウイルが追っかけられたわ」

「だろうなー」

 

カリオストロの言葉にルイズは気まずそうに視線を逸らす。

当たり前と言えば当たり前だ。

年若く、多感な時期に友達とは言え一緒の部屋で寝て心配しない親は居ない。

 

「それでも此処に居ると言う事は認められたのか」

「えぇ、しょうがないって。それからは実家から家具が届いたからこうやって置いてるのよ」

 

嬉しそうに話すルイズに才人は、苦労してるんだなと同情した。

 

(あーこいつ分かってねーな)

 

そんな才人とは逆に何も判っていないルイズにカリオストロは微妙な表情をする。

 

 仮にもルイズは貴族なのだ。親がそんな事許すわけがない。

もしも、仮に男女関係などが起きてしまえば、他の家に嫁ぎに行けなくなってしまう。

貴族は大半が外面を気にし、プライドが高い。

そんな人間が傷物の女性を娶るだろうか?

渡されたら馬鹿にされていると思われても仕方がない。

それなのにルイズの親が許したのはそう言う事なのだろう。オマケに家具まで送られている確定だ。それとなくヴァリエール家の事情を理解し深い深いため息をついた。

 

(男爵家の次男とか言ってたけどアイツ大丈夫かよ)

 

着々と外堀を埋められている自分の主人に心配するも直ぐに首を振った。

あれでウイルは要領が良く頭も悪くはない。

こう言った事もしっかりと対処しているだろうと。

 

(………なんでオレ様があいつの心配をするんだ?)

 

とそこで、自分の心に抱いた感情に困惑した。

自分とウイルは、先ほど数時間前に会ったばかりだ。

それなのにもう情が移りこうやって心配をしている。

何かがおかしい、おかしすぎた。

自分以外を見下し平等に見ている自分が、何故かウイルだけを特別視している。

この異様な状態に疑問に思っていると、首元のルーンが少し熱を放ったように感じて手で触れる。

 

「カリオストロ!」

「あぁ……今行く」

 

 考え込んでいると自分の箪笥を開け下着を選ぶように急かされた。

考えるのは後かと思い直し、カリオストロは下着を選んでいく。

 

「こういうのはどう?」

「ん~……もうちょっと可愛らしいのがいいな☆」

 

カリオストロは様々な下着を広げては見ていく。

横から後ろから、自分の穿いている姿を見てしっかりと選ぶ。

 

(こっちのはこういうデザインか)

 

 白から水色、黒にピンク。

様々な色の下着を見て観察していく。

少し前に錬金で下着が作れないと言ったが、正確にはカリオストロは作れる。

体を作成出来る技量があるのだ、人間の細胞や血管に比べたら布繊維などあってない様なものだ。

なら、何故作ろうとしないのかと言われればデザインの問題と答えた。

下着を作れるには作れるが、此方の世界のデザインも見ておきたかったのだ。

自分で考えたデザインで着飾り可愛くなるのもいいが、こうやって他人の考えた物で可愛くなるのも必要な事と思っている。

 

(ふむ、下着の触り心地にデザインもいいな。これで少しはマシか)

 

一枚に下着を手に取り満足げに頷いた。

 

「………」

 

下着を広げて話をする二人に才人は顔を赤くして気まずげに頬を掻いた。

 

 

 

 

 

「ただいまっと」

「お帰り、お風呂沸かしてたの?」

「お風呂あるのー? カリオストロぉ、疲れたから入りたいな☆」

「あー後で入ってくるといいよ」

 

 外でお風呂の釜に薪を入れて来たウイルが戻り、お風呂の内容となる。

即座にカリオストロが反応し女の子モードへと入りすすっと体を寄せてきた。

そんなカリオストロに苦笑しつつもウイルは、ソファーへと座り込む。

 

「お風呂あるんだな」

「そりゃな。ちなみに学院のほうにもあるぞ、でっかいの」

 

才人の問いに親指を立て学院のほうへと指を向け答えた。

 

「そっちには入らないのか?」

「あっちは……その薔薇とか入ってたりして匂いがきつい」

 

大きな風呂があるならばそちらの方が良いのではと思い聞いてみればその様な答えが返ってきた。

 

「ちなみに貴族専用だから才人は入れない」

「そっか……まぁいいや。平民用のもあるんだろ?」

「あるぞ。蒸し風呂だけど」

「……蒸し風呂?」

 

 何気なく言われた言葉に才人は固まる。

才人は現代人だ。蛇口を回せば水が出て、スイッチを押せばお風呂が沸く。

お風呂にお湯が入っているのが当たり前、蒸し風呂などサウナでお風呂のついでに過ぎない。

それなのに平民はお湯の張った風呂に入れないと言われ愕然とする。

 

「どどど、どうにかならないのかよ!」

「なに、あんた平民の癖にお湯の入ったお風呂に入りたいの?」

「当たり前だろ!」

 

ルイズからしたら平民が蒸し風呂に入るのが当たり前。

何故そんなにも入りたがるのか良く分からなかった。

 

「風呂! 風呂! 1日の疲れを癒す大事な物!」

「へー……サイトの国は豊かだったのね」

 

うがーと自分の心内を曝け出す才人の言葉にルイズが反応した。

その言葉を聞いて才人は「豊か?」と首を傾げた。

 

「毎日お湯の張ったお風呂に平民が入れるなんて豊かじゃない」

「―――」

 

 ルイズの言葉に才人は固まる。

才人は知らなかったが、毎日お風呂に入ると言うのは贅沢な事なのだ。

現代と違い湯沸かし器などないトリステイン。

お風呂を沸かす為に薪を作り、あるいは買い、大量のお湯を作る余裕など平民にはない。

その事を知らない才人は、改めて自分の居た世界との違いを見せ付けられショックを受けた。

 

「丁度いいし、国について話しておくか」

「――お願いします」

 

才人の事を見ていたウイルが立ち上がり壁の前へと立つ。

そこには大きな地図が掛けられており、才人の読めない文字で何かが書かれていた。

たぶん、町の名前なのだろう。

 

「まずはここが『ガリア』、ハルケギニア最大の国で『無能王』ジョゼフが治めている」

「………」

 

ウイルが最初に示したのは青く塗りつぶされている大きな国だ。

国と国の間には大きく太い黒線で国境が描かれており大変判りやすかった。

 

「無能王?」

「魔法が使えないからそう呼ばれている」

 

カリオストロの問いにそう答えた。

 

「ふ~ん……それで国は荒れてるのか?」

「荒れてないね。むしろ徐々に国力を伸ばして前王より優秀」

「………無能って名づけた奴の方が無能じゃね?」

「………」

 

カリオストロは呆れたようにため息をつき、そのような事を言う。

それに対してウイルは、苦笑する事でしか答えられなかった。

 

「なんで魔法が使えないと無能なんだ?」

「貴族の条件が魔法を使えることと浸透しているからだ」

「なんでそれだけで……」

「それは追々、その事を話すとハルケギニアの成り立ちの説明にまで遡る羽目になる」

 

才人の言葉にウイルはそう答え、ルイズをちらっと見た。

ルイズは黙り込み、自分の手を堅く握っている。

 

「次はガリアの下のロマリア。『ロマリア連合皇国』だな。こっちは王ではなく『教皇』が治めている。神官の最高権威「宗教庁」が存在し、始祖ブリミルの予言および「虚無」を研究している所だな」

「ブリミル?虚無?」

「そっちも成り立ちに関係するから、ブリミルは……そうだな。魔法を作り出した人で神様として祭られていると覚えておけばいい」

「なるほど、ロマリアは宗教が盛んなんだな」

「そういうことだな」

 

才人の言葉に頷き、今度は上の赤い部分を杖で指した。

 

「こっちは『帝政ゲルマニア』。皇帝を中心に貴族が利害関係で集まり興した国だ。元は都市国家。現在の元首は皇帝アルブレヒト3世。元々は小さかったけど周辺地域を併呑して版図を広げた国だな」

「へー……」

「ちなみにゲルマニアから留学生が1人だけこっちに来てる」

「むーっ」

 

ウイルがゲルマニアの話しをしだし、留学生の話しをするとルイズが呻る。

 

「なにかあるのか?」

「あー……留学生とルイズの家には因縁があってね。キュルケって言う赤い髪の子なんだけど……才人も接触する際は気をつけろ。ルイズが不機嫌になる」

「あぁ……判った」

 

キュルケの事を思い出したのだろう。

ルイズの表情が凄い事になってきている。

それを隣で見ていた才人は顔を引きつらせて関わる場合は注意をしようと心に誓った。

 

(まぁ……注意をしても無駄だろうけどね)

 

ウイルは、そんな事を思って話を進める。

 

「次はここ、『アルビオン王国』」

「一つだけ離れてるけど島国なんだな」

 

地図を見て一つだけ離れた国を見て才人が納得したかのように頷いた。

 

「残念ながら違う。アルビオン王国は『浮遊大陸』だ」

「………」

「浮遊大陸!?」

 

地図の上に置いた杖をアルビオンからトリステイン、ゲルマニアと通って元の位置へと戻し答えた。その答えにカリオストロは少しだけ反応し、才人はファンタジー!きたーーーー!と興奮気味に喜んだ。

 

「ちなみに内戦勃発中」

「え?」

「『神聖アルビオン共和国』……『レコン・キスタ』を名乗る人達が王族を攻めている」

「まじで?」

「本当に」

 

才人の引きつらせた表情を見てウイルはにっこりと笑いかけ答えた。

そして……最後に水色の国を杖で指し示した。

 

「そして……俺達が所属している国『トリステイン王国』だ」

「………」

 

少し得意げに答えたウイルを見て、才人はガリア、ロマニア、ゲルマニア、アルビオンを見てトリステインを見る。

そして……

 

「小さくね?」

 

思った事を素直に口にする。

口にした後に、しまったとばかりにルイズとウイルの様子を伺う。

才人やカリオストロと違い、この二人は実際にこの国に所属しているのだ。

自分の国を悪く言われて怒るのではと思った。

だが、実際には二人は怒りもしない。

ルイズは悲しげな表情をして、ウイルはただただ真剣な表情で受け止めた。

 

「怒らないのか?」

「本当の事だし……な。少しばかりトリステインは詳しく話すよ。二人共ここに住むんだし」

 

 一息付き、ウイルは何やら小さなタルを取り出し机に置いた。

その机に置かれた小タルを3人は興味津々に見る。

小タルは何やら見た事もないような材料で作られており、木とは違いすべすべしている。

周りには小さい穴が均等に空いており、中は空洞だ。

 

「これで完成っと」

 

才人は「何処かで見た事あるような形ナンダケド」と思いつつ嫌な予感がして冷や汗をかく。

ウイルはそんな才人を残し錬金を唱えると一体の人形を作りだし、タルの真ん中に置いた。

タルに置かれた人形は可愛らしい少女の物であった。

髪が紫色で綺麗な白いドレスを着ている。

 

「「ぶほっ」」

 

その人形を置いた瞬間ルイズは理解し才人と一緒に噴出した。

才人は遊び方を知っているが為に、ルイズは遊んだ事もあり、人形のデザインになった人も知っているが為に噴出す。そんな二人を置いてウイルは楽しげに剣を1本刺した、そして言葉を続ける。

 

「最初に言いたいのは……トリステインは現状国として成立してないということだな、うん」

「国として?」

「今現在王国なのに『国王』がいない、空席だ」

「はぁ!?」

 

ウイルの言葉に才人は立ち上がり、絶叫する。

国なのに国王が居ない、意味が分からなかった。

そんな才人を尻目にウイルは剣を一つタルに刺した。

 

「先王が亡くなってな……しかも息子、王子も生まれてなく。居るのは年若いお姫様と王妃様。本来ならマリアンヌ王妃が席に着くはずなのだけど……」

「おいおい、まさか!」

「そのまさか、喪に服して拒否し続けている」

 

これにはカリオストロも驚き、呆れ何も言葉が出なかった。

 

「まぁ……これでも問題点としては序の口なんだけど」

「うわ……」

「次は貴族の数の問題だな。トリステインの人口は150万人、それに対して貴族は1割程度、多くて15万、少なくて10万程度か。勿論そんな数に与える領地もないので殆どの貴族が宙ぶらりん、金食い虫。伝統を大事にして抱え込み、国力を削っていくんだ。これだけ小さくなるのも無理はない」

 

 ここまで言い切り、一息ついた。

喉が渇き何か飲み物をと思い立ち、コップを取り出し水受けから4人分入れると魔法を使い3人に運ぶ。運び終わり、自分も一口だけ飲み大きなため息を付いた。

そしてこれまた剣をタルに突き刺す。

 

「さてと……続きだけど」

「もういい! じゅーぶん分かったから!」

 

先を話そうとすると才人に止められた。

才人の顔は現実を知り真っ青で気分も悪そうだ。

本来ならここでルイズの家の話題を出し、才人にも現状を知ってもらおうとしたのだが。

この様子では説明しても頭に入らないだろうと思いやめた。

最後に剣を刺すと中にあった『アンリエッタ人形』が勢いよく飛び机の上に転がった。

 

『トリステイン危機一髪』

 

そんな言葉がルイズと才人の脳裏を過ぎった。




トリステイン問題多すぎね?
ちなみにおもちゃはウイルが市場で見つけた物。
何度かルイズと遊んでたりもします。
追記:普段は付属の人形で遊んでおり、アンリエッタ人形は使ってません。今回はサイトに解りやすく説明するために使用しました。

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