凡才錬金術師と天才錬金術師   作:はごろもんフース

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独自解釈あり。結構穴があると思われる


三話:パンツは作れません

「………」

「………」

「………」

 

トリステイン魔法学院の入り口で4人が4人とも無言を貫く。

サイトは意味が判らず首を傾げ、ルイズは徐々に何を言われたのか理解したのか顔を真っ赤にさせた。ウイルの事を警戒していたカリオストロは何とも言えない表情をし眉を潜める。

このような状況を作り出した張本人と言えば、ただただ頭を下げて動かなかった。

 

 別にウイルが突然自分の性癖を暴露したわけで訳でもなく、発狂した訳でもない。

何故ウイルがこのような事を言ったのか、どうして恥を捨ててまでこの様な事になったかと言えば『カリオストロ』のせいとも言えた。

時は少し戻って、契約後のお話。

 

 

 

 

 

(何処かで会った事あったっけか)

 

 己が契約した人物に既視感(デジャヴ)に記憶を探る。

人形と言わんばかりの綺麗な容姿にコルベールに見せた頭の良さ。猫被りをしたと思えば時折見える地。更には『開闢の錬金術師』と言う二つ名に、カリオストロと言う女性に似つかわしくない名前。自分の隣に立つ少女をじっと見つめて行くうちに1人の『男性』へと行き着く。

 

(あれ……俺が契約したのって『カリおっさん』じゃね?)

 

 ポンと思い出したのは、グランブルーファンタジーと言うゲームに出てきた1人のキャラクターでカリおっさんと言う名前で親しまれていた、カリオストロだ。

『世界で一番カワイイっ☆』と自称し、自分の可愛さを追及することが趣味で、ついでに世界の真理を解き明かすことに探求心を燃やす錬金術の開祖。使い魔として二匹のウロボロスを引きつれ、空の世界に影響を及ぼした『星の民』に誘われるも断り1人で撃退した実力者だ。

そして……何より――。

 

(だが、男だ)

 

男性であった。そうカリオストロは『男』である。

元は男性であったカリオストロは、病弱であった。大人まで生き残れない自分を治すために錬金術を学び圧倒的才能により開祖と到る。

体を定期的に作り出し、体を入れ替える事で擬似的な不老不死を実現させてもいた。ある意味で真理に到達している最強の錬金術師……それが己が呼び出した人物であった。

作り出した体は女性の物で『出来る限りやったぜ☆』とばかりの趣味嗜好を含ませたものであるが。

 

(………まじかよ)

 

 驚愕の事実にウイルは何も言えず唖然とする。

よりによって最強のチートを呼び出したのだ。ルイズとサイトと合流し、これからの付き合い方に対して考え始める。

 

(取り敢えずは……敵対行動を取らなければ問題はないだろう)

 

 思い出せる限りのカリオストロの情報を引き出し、そう結論つけた。

カリオストロの性格は、『ナルシスト』で『唯我独尊』、自分以外を見下し『無能』と思っている。いい意味に取れば、皆を平等に見ているとも取れた。

 

(グラン達と交流を重ねる内に周囲へ関心を寄せた描写もあったな)

 

原作において、カリオストロは交流を重ねるうちに態度も柔らかくなり、関心を寄せていた。

自分が呼び出したカリオストロがどの段階の人物かは不明だが、これからしっかりと付き合っていけば関心を持たれるだろう。カリオストロは好きなキャラクターであった為に、こうして会えた事は純粋に嬉しい、良い関係を築いていきたいと思った。

その為、不機嫌にさせないように呆れられないように、これからの対応を模索する。

 

(まずは学園に戻ったらマルトーさんの所に行って、夕飯とこれからのカリオストロの食事の手配)

 

空を見れば、夜にはまだ早く、問題なく夕食には間に合うだろう。

 

(次は研究の為の道具は……注文しないといけないな)

 

 此方の魔法や世界の事を研究するであろう、カリオストロの為に研究器具を買わなければと心に誓う。自分の使っている物をとも思ったが、研究するにあたって他人の道具を使うのはあまりよろしくない。少々値が張るがしっかりとした物を用意した方が良さげだ。

街に行った際に小物類や衣服と纏めて注文をしよう。

 

(……ってあれ?)

 

 ふと次のことを考え、思考が止まる。

その思考を止めた原因へと視線を向ける。カリオストロを足から頭までじっと見つめて頭を抱えそうになった。

 

(替えの服と下着持ってないよな!?)

 

頭を抱える原因となったのは衣服の問題だ。

生きているのだから汚れるのは当たり前。自分の可愛さを追求するカリオストロの事だ。

見た目は勿論、服装や清潔さにも心配りをしているであろう。

それなのに衣服を整える手段がなかった。トリステイン魔法学院の周りには店などなく購買もやっていない。必要な道具があれば虚無の日に街に行くか、実家から取り寄せるの二択である。

 

(虚無の日まで……5日もある)

 

学院が休みとなる虚無の日まで5日もの間があり、その間の衣服をどうしようかと悩む。

原作を読んでいる時は気にしていなかったが、これは大きな問題であった。

学院を休んで行けば問題は無いだろうと思うかもしれないが、ここはハルケギニアである、現代ではない。現代のように作り置きなどしていなく下着の全てが『オーダーメイド』なのだ。

貴族用でもある為、その人その人に合った下着を作る為に異様に時間が掛かり費用も高い。

衣服が手に入っても下着が手に入らなかった。

 

(くっ――どうする!どうするよ!俺ぇ!)

 

メイドに頼みドロワーズを譲ってもらうと言うのも考えはした。

だが、それはカリオストロの好みの時点でアウトだ。

容姿や態度、服装に到るまでカリオストロは趣味嗜好を反映させている。

ミニスカートなのもその為であると何処かで読んだ記憶があるのだ。

それなのにミニスカートが、穿けなくなるドロワーズを穿くかと言われれば……無理であろう。

メイド服と合わせて「こういうのも可愛いんじゃないかな」と提案すれば着てくれるかも知れない。だが、結局は時間稼ぎにしかならず意味をなしていない。

 

(何か……何か……対策は)

「ウロボロスに乗ってるぜ!」

「わ、私も!」

 

 ルイズ達がはしゃぐ後ろで腕を組み考える。

何か良い手は、全てを解決してくれるであろう、妙案を……。

 

(……ってルイズ?)

 

ふと気づいた事があり、ルイズを眺める。

ルイズを眺め、カリオストロを眺める、交互に繰り返しお互いの身長や体型を見比べた。

 

(身長は20サントばかり違うがいけるか?)

 

ルイズの身長が150サント、カリオストロの身長が130サントぐらい。

些か違うが体型的には近いものがあるので試してみても良いかもしれない。

そこまで考えて目が合ったカリオストロに対して「任せろ」とばかりに神妙に頷いた。

 

(これで駄目だったら……タバサしか居ないよな)

 

 ゆっくりとルイズに近寄りながらそんな事を思った。

これがウイルが土下座をした経緯、他の人から見れば呆れるような事かもしれないが本人は大真面目であった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ぷっ……ぶわはははっははは、ひぃー……お腹が痛いっ」

「えっと……しゅ、趣味は人それぞれだしな!」

「あぅ……あぅ……あぅ」

 

 カリオストロは大笑いし、才人には背中を叩かれ励まされる。

ルイズに到っては顔を真っ赤にさせ俯いてしまった。

というか、カリオストロの為に恥を忍んでいるのにその反応は酷いと思う。

ウイルは納得いかない気持ちを抑えルイズを見る。

さて……ルイズは下着を売ってくれるだろうかと――。

 

 

 

 

 

 

☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆

 

 

 

 

 

 

(えっと……えっと、なんで私の下着を?)

 

 目をぐるんぐるんに回し、ルイズは混乱に到る。

普段真面目なウイルの突拍子もない行動に頭を抱えたくなった。

意味が判らず、何も言えない、ただただウイルが自分の下着を欲しがっているという事だけが事実で残った。

 

「ひぃー……笑った、笑った。そんなに女性の下着欲しかったらオレ様のを売ってやろうか?」

「それじゃ意味無いだろ……。ルイズでないと駄目なんだ」

「っ……!!」

 

 カリオストロがスカートを少し持ち上げひらひらと振りそんな事を言っている。

それに対してウイルは真剣な眼差しでカリオストロの言葉を否定した。

これには少しばかり胸に来るものがある。

カリオストロはルイズから見ても、とてもとても可愛らしい人物だ。

そんな人からの提案を断り、自分が良いと自分でなければ駄目だと言ってくれているのだ。

 

(そ、そそそこまで言われたら……あっ、あげないといけないわよね!)

 

普通の人であれば、何言ってんだコイツとばかりに冷たい視線を向ける場面であろう。

だが、残念にもここに居るのは異性との関わりも人との関わりも薄い残念なルイズである。

原作においても才人と反応に困るような事をしでかすのだ、ある意味必然であった。

 

ルイズは、部屋にある自分のパンツを思い出し、どれをあげようかと悩む。

白い方がいいのか、縞々がいいのかと、ウイルが喜ぶであろう下着を選別しだす。

 

(……水色がいいのかしら。それとも――勝負下着?)

 

ふと思い出したのは、母親に渡された一枚の下着だ。

ウイルが父親と鬼ごっこを興じているときに渡された物。

ルイズが持っていなかった黒い下着、紐の様な形状で殆ど丸出しに近く、渡された時には口をぱくぱくと開き目を見開いた。

 

(だだだだだだだ、だめよ、だめよ、ルイズ。あれは、はしたないわ!)

 

頭の中をお花畑全開でルイズは、両手を真っ赤になった頬に当ていやんいやんと体を振る。

そんなルイズを珍獣でも見るかのように3人が見ているのだが、気付かない。

 

(……そういえば、下着なんか何に使うのかしら?)

 

 少し冷静になり、ふとそんな事を思う。

女性の下着が欲しいのであれば、お店で買えば良いのだ。

それなのにわざわざ、自分のを?と考える。

 

(そういえば、サイトが『趣味は人それぞれだしな』って言ってたわね)

 

才人の言葉を律儀に思い出し、考え一つの結論に到る。

部屋に置いてある物ではなく、()()()()穿()()()()()()が欲しいのではと……。

そういう趣向の人が居ると噂で聞いた事もあったが、まさか自分の友人がとは思わなかった。

本来ならここで諭すのが友達と言うものだろう。だが、もしも失敗すればウイルが我慢出来ずに他の子のを盗むかも知れない。

初めての友達(アンリエッタは忘れた)なのだ、犯罪者にする訳にはいかないと思い、スカートに手を入れるとズルりと下着を下ろした。

 

 

 

 

 

 

 

(えっ……何してるのこの子)

 

 何やら百面相しているルイズを大人しく見守っていたが、ルイズの行動に引いた。

いきなり、スカートに手を突っ込んだと思ったら勢い良くパンツを下ろしたのだ。

これには3人ともがポカーンとし固まってしまう。

 

「――――」

 

パンツを太股まで持ってきた時にウイルの頭の中で一つの言葉が出てくる『オレの命が危ない』

何故ルイズがここで脱ぎだしたかは判らないが、原因は自分だろう。公爵家の娘の下着を公然の場で脱がしたとなれば命がない。気付けばルイズの太股にしがみ付き必死に脱ぐのを阻止していた。

 

「ちょ、ななななななにしてるのよ!」

「むしろこっちが聞きたいよ!?何で脱ぐんだよ!!」

「脱がないと渡せないじゃない!」

「はぁぁぁあー!?」

 

必死に太股にしがみ付き、脱がないように阻止するウイル。

それに逆らい暴走して脱ごうとするルイズ。

カリオストロは、笑いすぎてお腹が引きつり痛み苦しみ転げ回る。

才人は興奮し羨ましいなと指を咥えた。

 

「ルイズ!ルイズ!俺が言ったのは『カリオストロの為に替えの下着を』ってことなんだ!」

「ふへ?」

「え?」

「なんだって?」

 

ここでようやく誤解に気付き、ウイルが叫ぶように懇願した。

このままでは自分は公爵家の娘、しかも友人に公然とあなたの穿いている下着を売ってくださいと言った変態になる。必死に諭すように、若干泣きながら首を振った。

ウイルの必死の言葉でようやく全員が悟り、唖然として固まる。

 

「ね、ねー……カリオストロぉ聞きたいんだけど☆」

「……うん」

 

一番早く復帰したカリオストロが汗を流しながら猫撫で声で聞いてくる。

笑みを浮かべているものの頬がひくひくと引きつっていた。

 

「この辺りにお店ってあるのかな☆」

「ない。街に行きたいなら馬に乗って片道2時間だ。しかも下着はオーダメイド製で時間も掛かる」

「………」

「ついでに言えば、費用も高くて。次の休みは5日後だ」

 

カリオストロは気まずげに視線を逸らし頬を掻きぼそりと小さな声で呟く……「下着を売ってください」と。

自分の為に行動していたと気付かず、先ほどまで笑っていたのだ、気まずい…気まず過ぎる。

 

「えっと……なら私が脱いだのは?」

「俺の伝え方が悪かったのと勘違い……ごめん」

 

ルイズがきょとんとして聞いてくるので太股から手を放し立ち上がると素直に謝罪した。

 

「ふぁ………ファーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー!!!!!!!!」

 

ルイズは恥ずかしさのあまり、下着を半ばまで脱いだ状態で絶叫した。

 

 

 

 

 

 

☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆

 

 

 

 

 

 

「………」

「あははは……」

「あー悪かった。オレ様も謝るからよ」

(リンゴみてー)

 

 あの後、誤解を解き、ぷんすこと怒るルイズを前にウイルとカリオストロは再度土下座をして頼み込んだ。暫しの時間が掛かったが、今度の虚無の日にクックベリーパイ(ルイズの好物)を奢るという約束で手を打たれ下着を譲り受ける事になった。

 

「それで部屋に向かうでいいのか?」

「厨房、二人の食事を頼んでおかないと」

「なるほど……な」

 

 ルイズの絶叫の後、4人は次の目的地へと歩く。

何処に行くのかを尋ねた才人は素直に頷き、お腹に手を当てる。

夕食にはまだ早いが色んなことがあってお腹が空いたのだ。

 

(あれ……そういえば)

 

建物が珍しくてきょろきょろと辺りを見渡している才人はあることに気付いた。

 

「なぁ……聞きたいことあるんだけどさ」

「なんだ?」

 

興味を引かれ声を掛けるとウイルが振り返る。

自分のご主人様は未だに怒り、此方を見向きもしない。

 

「魔法で下着を作ればよかったんじゃね?」

 

先ほどの件を思い出し、そんな事を思ったのだ。

ここの世界を教えてもらう際にウイルに様々な魔法を見せてもらっており、可能だったのではと思ったのだ。

 

『無理だ』(無理だな)

 

ウイルとカリオストロ、二人の言葉が重なり否定する。

 

「そうなのか?錬金とかでパパーっと出来そうな物だけど」

 

脳内で石が鉄に変わる様子を思い出す。

 

「面倒なんだ」

「面倒?」

「そそ」

 

ウイルが空中で下着の形を描き、ダルそうに言った。

 

「原材料は簡単に作れる」

「………」

「問題はその後、『加工』が出来ないんだ」

「加工が?」

 

口に出すとウイルが頷く。

 

「布ってどうやって出来てると思う?」

「どうやってって……糸を重ねるんだろ?」

「そうだ、1本1本の細い繊維を上から横へと組み合わせて一枚の布を作る」

「………」

「その工程を魔法でするのが難しい」

 

 鉄などと比べ布は繊維の集まりだ。

1本1本を重ね、組み合わせ織り込んで布を作っていく。

その工程を魔法で行なうと脳内での処理が膨大となり難しくなる。

なら糸でなく布を作ってしまえばと思うかも知れないがそれは出来ない。

魔法を行なう際に大事な物はイメージだ。布の形状や仕組みをしっかりと記憶して無いと不純物が多い紛い物になってしまう。形状や仕組みを知っていれば嫌でも加工の仕方が頭にこびり付き、逆にイメージがしにくくなり。結局の所、手や機械で織り込んだ方が早いし楽である。

 

更に言ってしまえば、布を作れた後も問題だ。

下着に関してもサイズや足が出るところの幅、胴回りの窮屈さや緩みを計算で出さなければならない。脱げ落ちないようにゴムも必要になるだろう。結局の所、手でやった方が早い。

まだまだ問題もある、ハルケギニアの錬金ではどれだけ上手く作った物でも不純物も多く雑な出来になる事が多い。そんな物を使った下着なんて絶対に売れないし、穿きたくもない。

 

「ということは……」

 

「魔法は万能じゃない」(パンツは作れません)

 

厨房に着いたところでそう締めくくった。




一話丸ごとパンツの話しになった、おかしい。
だいぶ進みが遅いですけどこんな感じと思って下さい。

次回『トリステイン危機一髪』
次で1日目が終了予定。

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