「ぐっ……がぁ……!!」
「っ!!」
キスを終え、ネクタイから手を離すと激痛が走る。
これまでに感じた事のないような痛みに襲われ、知らず知らずの内に近くに居たウイルの肩を掴み思いっきり握る。握った際にウイルの呻いた声が聞こえたが、カリオストロには気にしている暇は無い。首に何かが刻まれる感覚と激しく熱い痛みを感じ息も絶え絶えとなり、汗が吹き出る。
体を折り視線を地面へと向けるが、決して地面に膝を付けなかった。
永劫に続くかのような痛みであったが、数秒ほどの時間で治まった。
治まると同時に慎重に息を吸い込み、吐き出すと頬から一滴の汗が流れ落ち地面へと吸い込まれていく。それを見届けると静かに顔を上げ、心配そうに此方を見守っていたウイルに視線を合わせる。
「っ……はぁ、よ、余裕だったな」
「………これ使ってくれ」
「おぅ」
吹き出る汗を軽く腕で拭き取り、にっと笑う。
未だに先ほどの件が尾を引いているのか汗が止まらないが、無理してでも余裕を持たせた。
カリオストロが――天才のオレ様がこんなことで屈するかと気合で立ち続ける。
それでもやはり、無理していることは誰が見ても分かるのだろう。カリオストロはウイルにハンカチを手渡され素直に受け取る。正直な話、ここでウイルが何かしら声を掛けるであろうと予測していた。
「大丈夫か」「お疲れ様」などの労いの言葉を掛けられたら蹴ってやろうと思っていたが意外と自分の召喚主は頭は良いらしい。カリオストロは自分の召喚主がバカでなく察する事ができる人間だと分かり、にっと笑みを浮かべた。
(バカは嫌いだ。話が通じねーからな)
そんな事を思いつつもハンカチで汗を拭き取った。
「………」
ウイルは本当ならここで労いの言葉を掛けたかった。
だが、それをぐっと押さえハンカチを渡す程度で抑える。
見るからに高そうなプライドとわざわざ余裕を見せ付けるかのような行動を取っているのだ。
ここで労うような事を見せれば不機嫌になりそうだと考えてやめた。
そしてそれは正解であった。機嫌の良さそうなカリオストロを見てほっと一息を付いた。
本当にプライドが高い人間は面倒だ。
「それで
「B《ベルカナ》だな。意味は母性、再生、開放、成長だな」
カリオストロの言葉に従い、首元を見ると確かにルーン文字が描かれていた。
その言葉を読み取り素直に口にするとカリオストロは訝しげな視線を此方へと向けてきた。
「本当にか?」
「あぁ……そう書かれている」
「オレ様が……ベルカナねぇ?」
間違いないと言われ、カリオストロは少しばかり考え込む。
ベルカナ―母性、再生、開放、成長 を意味合いとするルーン文字。
(母性は、土属性である事と女性の体から。再生と開放は、錬金術だな。問題は――成長だと?)
母性などに対しては納得いかない所もあるが、まだ頷ける。
土属性は大きく取れば大地、母なる大地や恵みと言う面で合っている。
再生と開放もなるほどと頷ける内容だ。もとより『今の体は再生した物』だ。
カリオストロの体は作り物の体であり、元の体から解放されている事を見抜いた魔法に少しばかり賞賛を送った。絶対に口には出さないが。他の所は納得したが最後のだけは納得できなかった。
成長―言い換えれば『成長を見守る』とも取れる。自分の成長とも取れるが、既に完成していると言って良いほどカリオストロの技術は成熟し切っている。
体も作り物で『これ以上成長しない』ように設定している。だとすれば、自分が誰かの成長を支え見守ると言う結論に辿り着く。
カリオストロは考えながらもチラっとウイルを見てそんな筈は無いと首を軽く振った。
自分より才能も時間もない奴を見守るほどお人好しではない。
いつだって自分は最先端に居てひたすら前だけを見てきた人間だ。
今更、自分の横に誰かが立つなんてことはありえないのだ。
「どうかしたか?」
「いや、なんでもない。これで契約は終了か?」
「あぁ、問題ない。……コルベール先生!」
いい加減、
さっさと終わらせて部屋でのんびりしたいと思い始め、ぐっと腕を上に伸ばした。
背筋を伸ばし、一息つけば原っぱを駆け抜ける風に体の熱を冷まされ気持ちが良かった。
「……ん、いい風だ」
カリオストロは呼ばれるまでの間、静かに遠くを眺め風を感じた。
「それではオールド・オスマンに異国のメイジと言うことをお伝えしておきます」
「よろしくお願いね!きゃはっ☆」
「………まだ、それ続けるのか」
声を掛け復帰したコルベールに契約を終えた事を伝える。
その際にカリオストロの事は、異国のメイジで押し通すと言う結論になった。
貴族に設定すると面倒な事になる上に、これ以上の補償をカリオストロがいらないと突っぱねた為だ。
「本当によろしいので?……交渉などすれば学院からも補償が出ると思われますが」
「面倒だし、いらないかな☆そっちで適当にやってくれればいいよぉ」
何度も確認してくるコルベールに疲れつつも頑なに受け取らない。
確かにウイルだけからの補償だとあまり期待は出来ない。まだ子供の身で親におんぶに抱っこなのだ。正直受取れる金額や用意できる物も少ないだろうと理解している。
それでも面倒事を押し付けられるよりはマシだと考えた。
もしここで学院側から補償を受け取ると考えた場合、後々厄介な事を言い渡されそうだ。
貴族なんて輩はまず信用しない、信頼出来ない。
平然と掌を返すような奴等ばかりである。
「わかりました。顔合わせ位はあるかと思われますがその時はお願いします」
「は~い」
「次は……ミス・ヴァリエール!!」
次の生徒が、呼ばれ二人は解放される。
ウイルに促され着いて行くと桃色髪の少女とすれ違う。
「大丈夫だ」
「うん、行って来る」
横を通り過ぎる際にウイルが少女の肩を軽く叩き励ました。
少女はそれに力強く頷き、歩いていく。
(……まぁまぁカワイイな。オレ様ほどではないけど)
「―――」
「ちっ」
そんな事を思いつつ横を通り過ぎると目が合った。
合ったのは一瞬だったが、ルイズの目に含まれる感情を読み取りカリオストロは面倒そうだと舌打した。
「……さっきのは彼女か?」
「……友人だよ。いや、むしろ妹分かな?」
ニヤニヤと笑いからかう気満々のカリオストロに肩をがっくりと落す。
正直な話、ルイズとの関係を疑われた事は二度や三度ではない。
誰も頼れない状況の上、唯一の友達なのだ。休憩中も放課後も休みの日も、カルガモ見たいに後ろに着いて来るルイズを見て生徒が色めき立つのも無理は無い。
しかもルイズも自信満々に嬉しげに手紙に書いて家族に送るのだ。
学院に来たルイズの父親に追っかけられたのは記憶に新しい。
「あれは依存してるだけだから……恋人関係にはならないよ」
「だろうな」
ルイズの気持ちは依存だ。
頼る相手が、友人が、恋人が、姉妹が、親が……全ての要素を入り混じり自分を見ているだけ。
これから先、才人やキュルケ達と関われば自然と今の状態からも抜け出すだろうとそう思っている。
「―――そうなるといいがな」
「何か言ったか?」
「なんも……楽しい事になりそうだと思っただけだ」
そんな事をカリオストロに伝えると何やら含みを持って返された。
楽しい事になりそうだと言ったカリオストロの表情はどこまでも真剣であった。
☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆
「それでこの子どうするの~……ウロボロスに食べさせる?」
「うっ……」
「完全に伸びてるな」
使い魔召喚の儀式が終わった広場で3人は地面に横たわる1人の少年へと視線を向ける。
青色につるっとしている繊維、服の形状はフード見たいな物が付いていると不思議な服装であった。髪の毛はウイルと同じく黒く、ハルケギニアには珍しい色であった。
「しょ、しょうがないじゃない!行き成り思いっきり叩けって言ったんだもん!」
「それで本当に叩くかね。てかあれは蹴りだろ」
「……うげ、
「う~~」
ルイズは頬を膨らませ呻り、ウイルは呆れ、カリオストロは
倒れている人物の名前は『平賀才人』……原作において主人公であった少年だ。
事の始まりはルイズの召喚の儀式から始まる。
原作と違い、儀式は以外にもすんなりと1回目で召喚に成功する。これには周りの生徒も何も言えず頑なに見守ったりもしていたのだが、その後がいけなかった。
自分の友人同様、人を召喚した事に驚くもウイルみたいに落ち着いて対処を試みていたルイズだが、『返してくれ』『ふざけんな!』と喚く才人にカチンときた。
才人はただの高校生であり、この様な状況で落ち着いて対処しろと言うのは無理な相談であったがそんな事ルイズが知るわけもない。元よりルイズは感情で動くタイプの人間だ。カリオストロと比べ落ち着きの無い才人にイラつき喧嘩を始め、勢いで契約までしてしまった。
ちなみに身元の確認をする前に契約するルイズを見てコルベールの髪は数本程抜け落ちたのも明記しておく。そこからの流れは原作通りの流れで他の生徒達に『歩いて帰って来い』などと言われ才人とまた喧嘩を始めた。
それを遠くから雑談しつつ眺めていたウイル達であったが、流石に止めようかと近づいた時それが起きた。
「ははは、そうかこれは夢なんだ」
「何言ってんのよ。あんた」
「殴ってくれ、俺は夢から覚める!」
「………殴って良いのね」
「思いっきり頼む!」
「なんであんたなんかが召喚されるのよ!」
「こっちが知りたいわ!」
「歯を食いしばりなさい!」
「こい!!」
などの会話をした後に綺麗な回し蹴りが才人の顎を狙い打った。あっ……殴らないんだと思いつつ才人は意識を手放す。
ちなみに才人の口から出た最後の言葉は『ありがとうございます!!』であったが、何を見たかは、何故そう言ったかは本人のみぞ知る。
「取り敢えずは……浮かして運ぶか レビテーション《浮遊》」
「へぇ~……これがこっちの魔法か」
杖を取り出し魔法を唱えるとそのまま浮かぶ才人を引きつれ歩き出す。
カリオストロは此方の魔法に興味を持ち浮かぶ才人を眺め、そこら辺の木の棒で突っつく。
「落ち込むことないだろうに……召喚に成功したんだから」
「そうは言っても……カリオストロ見たいに落ち着いていれば良かったのに」
「それは無理だろ、あれでも
「そうなんだ」
「そうだよ」
カリオストロは、そんな事を話す二人を見て少しばかり眉を潜めた。
(オレ様が経験豊富……そんなこと話してないぜ?)
確かにカリオストロは経験豊富だ。
元の世界でも侵略者である『星の民』を退けたりなど様々な事をしている。
だが、そのことは話してもいない上にこの体だ。
何処の誰がこの可憐な少女を見て経験豊富だと言うのだろうか、見てくれはルイズと変わらないのに……。
これは話すことが増えたなとカリオストロは思考する。
「な、なんだこれ~~~!!!」
「おっ、起きたか」
さてどうやって聞き出そうかと悩んでいると隣から大声が上がる。
うるさいなと思いつつも見れば浮かんでいた才人が空中で手足をバタバタとさせていた。
「うぉうぉおお!??」
「うるさい!静かにしなさい!」
才人の反応にルイズが顔を真っ赤にさせ怒鳴る。
人の前で見っとも無いとでも思っているのだろう。
そんなルイズに苦笑しつつウイルは空中で回り目を回す才人に言葉をかけた。
『ようこそ、ハルケギニアへ《魔法と危険な世界へ》』
丁寧にお辞儀をしてニコっと笑う。
☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆
「ってことは本当に異世界なのか」
「そうなるね」
あれから混乱する才人を落ち着かせ、事情を説明する。
最初こそ信じていなかった才人であったが、ウイルが魔法を次々に見せていくとすんなりと納得した。
「帰ることは……出来ないんだよな?」
「無理ね。聞いた事ないもの」
「………はぁ~」
才人は何度目かになる質問を投げかけて肩を落す。
「ところで……その赤い竜はなに?こいつも使い魔なのか?」
「あぁん?」
肩を落とした後に思い出しかのように才人は隣を恐る恐る見る。
そこには赤い竜がカリオストロを乗せ浮いている。正確には蛇なのだが。
歩くのが面倒になったカリオストロがウロボロスを呼び出し乗っていた。
「すごい竜……よね?見たことがないわ。翼もないしどうやって浮いてるのかしら?」
「げっ……こっちの世界って竜も居るのか」
ゼロの主従は興味津々にウロボロスを眺める。
ルイズは翼も持っていない竜を見て先住魔法か何かかと聞き、才人は竜が闊歩する様子を思い浮かべ顔を青くする。
「この子の名前はウロボロスって言うんだ。仲良くしてあげてね☆」
「仲良く……食われそうなんだけど」
「確かに」
カリオストロの説明にもなっていない紹介にルイズとウイルは少しばかり顔を引きつらせる。
名前を呼ばれたせいか此方に顔を向けてくるウロボロスは大きさもあり威圧感バッチリである。
「な、なぁ……本当にそれウロボロス?」
「そうだよぉ~何か文句ある?」
「いや……そのさ。ウロボロスって
「ふーん」
「よく知ってるな。才人」
才人はゲームで覚えていた知識を元に疑問をぶつけた。
そんな才人にカリオストロは目を細め、ウイルは素直に賞賛した。
対応や行動を見てる限りでは普通の少年かと思っていたが、意外にも知識を持ち合わせているらしい。
カリオストロの中で才人への好感度が上がる。どうやらこの少年は馬鹿ではないらしい……と。
「……これって蛇なの?」
「そ……の筈、どっからどう見ても竜にしか見えないけど」
「それに何で杖が刺さってるのかしら?」
「尾を噛まないようにさせてるからねぇー☆」
「えっ……なんで」
「そうしてないと尾を噛んで自分の身を食べちゃうの☆」
ウロボロスは、何本もの杖が体に刺さっており痛々しい見た目をしている。
それを気にして聞いてみれば、そのような答えが返って来て二人は顔を引きつらせる。
自分の体を食べる事もだが、それを防ぐ為に杖を刺すと言う発想に到るカリオストロに少し引いた。
「そ、それでこいつって本物なのか?」
「うん☆そうだよー!」
空気を変える為に聞いてみると本物だと言われ才人の目は輝く。
未知の体験、未知の魔法、未知の領域、伝説の生物。
様々な事を体験し才人は感動する。元より才人は好奇心の強い少年だ。
これで興奮するなと言う方が無理があるだろう。
「すげー!」
「でしょー☆乗ってみるぅ?」
幼い子供のように騒ぐ才人にカリオストロは鼻を高々に自慢する。
ついつい興が乗りそんな事を提案すれば才人は喜び飛び乗った。
(ふむ、度胸もありと……案外ルイズも当たりを引いたかも知れねーな)
「おおーすげぇ、俺ウロボロスに乗ってるぜ!!」
「わ、私も!」
そんな事を思いつつ自分の横でウロボロスに乗ってはしゃぐ二人を眺める。
なんとも判りやすい二人についつい頬が緩む。
(それに比べて……こいつは謎すぎる)
そんな二人を静かに見守るウイルをチラっと横目で見てそんな事を思う。
ウロボロスの事を才人が話しても知っていたとばかりの態度、自分の事を知っている風でもあり謎だ。よく思い返せば、才人が召喚された時も一息ついただけで何の反応もなかった。
人間が召喚された事は今まで無いとコルベールが言っていたのにも関わらず、
最初こそは、人当たりが良い奴と思っていたが時間が経つにつれ不気味でしょうがない。
(一体腹の中に何を抱えているんだか……)
いつのまにか腕を組み何かを考えるウイルにカリオストロは鋭い視線を投げかける。
そんなカリオストロの視線に気付いたのだろう。
ウイルは真剣な表情で何かを頷き、此方へと歩み寄る。
じっと見ていると用事は自分ではなく……。
「ルイズ!」
「ん、なに?」
ルイズは真剣な表情で名前を呼んでくる友人に首を傾げる。
ここまで真剣な表情なのはお父様に追われたあの時以来である。
「頼みがある」
「……私に出来る事なら」
頼みと言われルイズは重々しく頷く。
ここまで自分を頼ってくれる友人に少しでも何かを返そうと思った。
今思えば、自分は彼に我侭をかけっ放しだ。
愚痴を何も言わずに大人しく聞いてくれて、一緒に自分の失敗する魔法を研究してくれて、何時だって傍に居て支えてくれていた。
そんな彼の力になれるなら、自分が出来る範囲で役に立とうとそう思った。
ただし――彼から言葉が発せられるまでであったが。
『下着を俺に売ってください!お願いします!!』
地面に勢いよく頭を付け土下座したウイルがそんな事を言ってきた。
真剣に本気に……大真面目にだ。
何が起きたし……ランキングに上がってるし評価が赤いし、コメントもUAも上がりお気に入り登録も増えた……イミガワカラナーイ。
評価を下さった人、読んでくださった人、お気に入り登録してくれた人、コメントをくれた人、皆様ありがとうございます!!
これからものんびりとやって行きますのでご愛読お願い致します!
追記:話が進まない、テンポ悪いかね。細かい所が気になってしまうので1日が終わらない