凡才錬金術師と天才錬金術師   作:はごろもんフース

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んー書き直すかも?


八話:亡者の群れ

「……」

 

 ウイルと分かれた後、ルイズは静かに廊下を歩く。

暫し歩けば、目的の部屋に着いたのか控えめに扉をノックした。

 

「誰だい?」

「ルイズです」

 

 ノックをすれば中から男性の声が聴こえてきて、ルイズは名前を名乗った。

名前を名乗れば少しの空白の後、入っていいよと声が掛かり中へと入っていく。

 

「やぁ……ルイズ」

「……こんにちは、ワルド様」

 

 中に入ればワルドがにこやかにルイズを迎え入れ、ルイズもまたにっこりと笑い答えた。

 

「あぁ……僕のルイ……がっ」

「……」

 

 にこやかに笑いかけるルイズにワルドは涙ぐみ、手を広げて抱きつこうと寄って来た。

今の今ままでルイズに冷たくされていたせいか、今のルイズが輝いて見えたのだろう。

しかし、その輝きも束の間のこと。

ワルドが抱きしめようとした瞬間、ルイズが身軽に飛び、膝をワルドのお腹へと決めた。

 

「……」

「ぐふっ」

 

 幾ら体を鍛えているとは言え、勢いをつけていたせいかそのまま床へと崩れ落ちた。

それをルイズは冷ややかな目で見下ろすとそのままベッドに移動し、靴を脱いで上がった。

上がれば、あぐらを掻き肘を太股に置いてその手で頭を支える。

 

「あのよー……オレ様はお前と乳くり会うために来たわけじゃないんだぜ?」

「うぐぐぐ」

 

 そんな女子がしそうにない格好のままルイズは呆れた表情で床に転がるワルドを見る。

既に前までのルイズとは何もかもが違う存在となっているもワルドは指摘をしない。

むしろ床に転がり悶絶してるので出来ないのだが。

 

「テメーの性癖を解消するのは、この娘っ子と結婚ごっこを終わってからにしやがれ」

「くっ……このっ!」

 

 上から見下ろした発言にワルドは怒りを表情に出し睨む。

それをルイズも目を吊り上げ、きつい視線で受け止めた。

 

「……」

「……っ、それで何のようだ」

 

 暫くの間無言で睨み合うも時間の無駄と悟ったのだろう。

ワルドが苦々しげに怒りを抑え、ルイズへと声を掛けた。

 

「ちっと聞きたいことがあってな」

「……聞きたい事?」

 

 ルイズはそう言って、困ったような表情で呟く。

 

「……この娘っ子は、香水にこだわりとかってあるのか?」

「なに?」

「だから、香水だよ。香水」

 

 そう言って、ルイズは自分の手を動かし匂いを嗅ぐしぐさをする。

それを見てワルドは眉を潜め考え込むも首を横に振った。

 

「僕が覚えている限りだと特になかった筈だ」

「そうか……なら、単純に匂いが気になったせいか? それとも……」

「何があったんだ?」

 

 ワルドの問いにルイズは、腕を組み唸るように考え始める。

そんなルイズにワルドも不安になったのだろう、目を細めて聞き返した。

 

「いやな、先ほど旦那のお気に入りにあったんだが」

「旦那? お気に入り?」

「あー……ウイルってガキだ」

「あいつか」

「んでだ……アイツに挨拶をしたんだが、『……香水の匂いが』と言ってなんか気にしててな」

 

 話題に上がったのは先ほどのウイルとの邂逅。

その時にウイルが香水の匂いを嗅いで困惑していたことを話していく。

 

「……匂いがきついからじゃないか?」

「あーオレ様は匂いなんか嗅げないしな。備え付けの適当な香水を使ったんだが、失敗したか。つーか、女性なら香水の一つや二つ持ってるはずだろ。なんでこいつは一つも持ってないんだよ」

「僕に言われてもね。ここ数年近くのルイズは知らないんだ」

 

 ワルドの言葉に使えねーとルイズが呟き、ワルドは膝から崩れ落ちた。

 

「まぁ……いい、それよりだ。大丈夫なのか?」

「最悪はバレてると考えて行動すべきだな」

「っ……」

 

 ルイズの言葉にワルドは歯を噛み締め、怒りを露にする。

そんなワルドを見てルイズはニヤニヤと笑った。

 

「相手も迂闊には手を出せないだろうし、様子見かね」

「……ウイルに触れさせて操り、首を掻っ切るのは?」

「無理だね。出来るけど……それは無理な相談だ」

「何故だ? アイツが一番厄介だろう」

 

 ルイズの物言いにワルドは理解出来ないと首を振る。

今回の任務を達成するにあたって一番邪魔な存在なのだとワルドは指摘した。

 

「オレ様の雇い主がそれをゆるさねーのよ」

「雇い主? お前の主人はレコン・キスタではないのか?」

「違うな、あくまでレコン・キスタの協力者って立場だ。んでだ、雇い主様があの坊主に夢中でな。アイツを煽る程度で危害は直接加えるなと言われてるのよ」

「っ……!」

「あぁ、あくまでオレ様が危害を加えるのが駄目ってことでお前さんが奴を殺すのは止めねーよ」

「そうか、まぁ……ルイズが手に入るなら、それぐらいは目を瞑るか」

「ケケケケ、こんなスタイルが悪い娘っ子が趣味かい」

 

 ルイズはニヤニヤと笑うとベッドから飛び降り靴を履くとスカートの裾を掴み少し持ち上げる。

そうすれば、白い綺麗な太股と太股に付けているナイフホルダーがワルドの目に入った。

 

「……ルイズの体には興味ないさ。欲しいのは魔法だ」

「なんでぃ……つまんね」

「まったく、それでこれからどうするんだ」

「一旦娘っ子に体を返す。勿論これまでの記憶は消してだ」

「戻すのか?」

「戻すさ、相手は操られてると疑ってるんだぜ? その最中に娘っ子が元に戻れば混乱するだろ。『どうして一瞬だけ操ったんだ』と」

 

 ワルドの指摘にルイズはくすくすと笑い、扉を開き外へと出た。

そして扉を閉めると廊下で目を瞑り、一呼吸置いた。

 

「……あれ、私こんな所で何をしてるんだろ?」

 

 暫くするとルイズは不思議そうに辺りを見渡し首を傾げた後、自分の匂いを嗅いで眉を潜めた。

 

「なんで香水してるのよ。ウイルが苦手でしてなかったのに」

 

 朝からお風呂に入れるかしらと一階へと降りていった。

 

 

 

 

 

 

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 その夜、個室で椅子に座り考え込む。

考えている内容はこれからの行動とルイズをどうするかだ。

 

(……分かんないな。一時的な魔法薬か? それだとしたら今操る意味が分からないし)

「手止まってるぞ」

「おう」

 

 朝のルイズを見て違和感を覚えたもののその後は何時も通りのルイズであった。

香水もしてない上に表情や仕草、此方への態度もあまり変わりない。

 

(朝の出来事を覚えてない時点で確定なんだけど……治し方が分からない)

 

 あの後、会った時に香水の件を聞くもルイズも不思議そうにするばかりであった。

曰く、気付いたらサイト達が泊まってる部屋の前に居て香水も付けていたと教えてくれる。

 

『私……もしかして……』

『ちょっと疲れてるのかもね、出発までゆっくりと休むといい』

『……ウイル……分かったわ。後はお願いね?』

『おう』

 

 その時の出来事でルイズ自身気付いてるのも分かっている。

しかし事を荒げれば相手がどう出るか分からない。

朝の出来事を解明し、適切な対応をしなければ悪化するばかりだ。

確実に治さなければ、その後で一人行方を暗ます。ルイズを自殺に追い込む、などその他色んな所で利用される。

 

(やはり香水が肝か? カリオストロなら……分かってるんだろうな)

「はぁ……相変わらず、オレ様は可愛いな」

 

 人の膝の上で手鏡を見ているカリオストロを見つめる。

カリオストロなら既にルイズの状態も予測もついているだろう。

しかしだ。

 

(教えてくれるわけないよなー)

 

 元より自分の興味を引く存在以外はどうでもいいと思ってるのがカリオストロ。

自分に害、もしくはイラつくことがない限りは手伝いはしてくれないだろう。

必死に頼めばもしかしたら手伝ってくれるかもしれないが、不機嫌になるだけで終わるかもしれない。

どちらにしろレコン・キスタより厄介なカリオストロだ、軽く扱えない。

 

(考えろ、思考を止めるな。 何か何か情報があるはずだ)

 

 カリオストロの髪を梳かしつつも考える。

何か何か見落としてはないだろうかと……。

 

「ウイル!!」

「才人?」

「あぁん?」

 

 そんな時だ。

扉が荒々しく開き、息を切らした才人が入って来た。

 

「襲撃だ! 一階が襲われてる!」

「は?」

 

 才人の言葉に意味が分からず、少し惚ける。

急いで耳を澄ますも戦闘音は聞こえてこない。

むしろ、昨日よりも静かであった。

 

(……待て、何で外の喧騒も聴こえてこない?)

「ウイル!」

「あぁ……くそっ! やられた! 『ディテクトマジック』!!」

 

 静かな事に気づき、慌てて杖を振り探知魔法を唱えれば、部屋全体が淡色で満たされた。

光る理由は魔法がかけられているから、部屋に魔法をかけられていた。

 

「なんだ……これ」

「『サイレント』の魔法だ。辺りの音を消してくれる魔法、それを部屋に使われてたんだ!」

 

 カリオストロを抱き上げ、そのまま廊下へと飛び出る。

すると先ほどの静けさが嘘のようになくなり、様々な音が耳を満たす。

 

「一階は?」

「大混乱だ。キュルケ達が抑えてるけど数が多い、中は勿論外までいっぱいだ」

「くそっ!」

 

 才人と廊下を駆け抜け、階段手前で才人に合図を送り止める。

 

「ウイル?」

「状況を確認しないまま突っ込んだら更に混乱がますだろ、少しだけ時間を掛けて探る」

「っ……でも」

「ほんの少しだ」

「分かった」

 

 才人はどうなってるか分かっているだろうが、俺は分かっていない。

故に階段をゆっくりと居り、ぎりぎり一階が見える位置で様子を伺う。

 

そこには複数の鎧を着込んだ兵士らしき者達が、己の持っている武器を振り上げ攻撃をしていた。

ルイズ達は、大きな丸テーブルを盾に相手の攻撃を耐え、魔法を撃って対処をしている。

相手の剣や弓がテーブルに通らない所を見るに『固定化』の魔法をテーブルに使用しているのだろう。

 

「ウイル……まだか」

『落ち着け相棒! 焦る気持ちは分かるが、抑えろ」

「くっ」

「……」

 

 相手は子爵かタバサの魔法で切り裂かれたのか腕がズタズタになっている者も居た。

通常な人であれば泣き叫び、あるいは痛みで気絶するような傷なのだが、その者は何の感情もない表情で攻撃に加わっている。

中には胸や頭からギーシュが放ったであろう矢を生やしている者もいた。

 

「……おいおい、屍人鬼かよ」

「グール?」

「あぁ……屍人鬼(グール)だ」

 

 襲ってくる者を見て屍人鬼の同類だと判断した。

屍人鬼……吸血鬼が血を吸い殺した相手を使い魔のように操り、従わせる存在。

生前の容姿と知能をそのまま保持し、太陽の光の下でも活動でき、主人と同じく普段の外見は普通の人間と変わらないと厄介な相手だ。

しかも死んでいる為、腕を裂かれようが、首を折られようが活動を停止することはない。

 

(……しかし、どうもおかしい……屍人鬼にしては数が多い)

「ウイル!」

「あぁ……行こう!」

 

 屍人鬼の数に首を傾げていると才人が強く名前を呼ぶ。

気になる点もあるが、これ以上は時間を掛けられないかと思い一斉に飛び出した。

 

 

 

 

 

 

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「ウイル!」

「あぁ……サイト、呼んできてくれたかい」

 

 階段から飛び降りて相手をいなし、テーブルまでやってくると全員がほっと一息ついた。

そんな皆の様子を見て、ウイルは本当に頼りにされてるんだと微笑む。

 

「取り敢えず……子爵とタバサは相手を一度壁際に押し込んでください」

「分かった」「了解だ」

 

 ウイルは皆の様子に手を軽く上げるだけで答え、指示をすぐさま出していく。

 

「ギーシュは俺とそこの酒樽を『レビテーション』で店の中央へ運び中身をぶちまけろ」

「なるほど……そういうことか、わかったよ」

「キュルケは酒をぶちまいたらそれに火を!」

「なるほどね……よく考え付くわね」

 

 指示に従い、それぞれが行動をしていけば、お店の中央で酒が燃え一時的な火の壁が作り出された。

相手はそれを見ても突っ込んで来るも体が燃え上がり、風の魔法でまた店先へと追い返される。

 

「うぷっ……」

「大丈夫か、才人。あまり見ない方がいい」

 

 人が燃える光景と人が焼ける異臭で吐き気を催した。

それを見ていれば首根っこを捕まれ、机の下へと戻された。

 

「っ……おぇ」

『相棒、大丈夫かよ』

「だいじょばない」

 

 今まで人の死に触れる機会がなかった才人にはきついものがあった。

 

(なんでこいつらは平気なんだ)

 

 先ほどの光景を見ても具合悪そうにするのは、俺のみ。

ギーシュもキュルケも若干顔が青いぐらいで俺より酷くない。

なんだか、自分だけが浮いてる状況に苛立ちが募り、別の世界に居るのだと改めて思い知らされた。

 

「……それでこれからどうするんだい?」

「……」

 

 鼻を押さえ異臭を嗅がないようにし、ウイル達を見る。

会話に耳をすませば丁度これからの行動に関する話し合いをしていた。

全員が全員、腕を組み考え込むウイルを期待した目で見る。

 

「……逃げる」

「え?」

 

 期待して見ていた時、ウイルが静かに腕組を解きそう言った。

ウイルの言葉に全員がシンっとなる。

聴こえてくるのは外の喧騒と店が燃える音のみ。

 

「……そうか、それしかないか」

「ない。どう考えてもこれだけ」

 

 そんな状況で最初に口を開いたのはギーシュだ。

ギーシュは軽く息を吐き、そう言うと天井を仰ぐ。

 

「具体的には」

「裏口から出て、俺とルイズと才人と子爵は桟橋に行きアルビオン行きの船へ。ギーシュとキュルケはタバサと共にシルフィードで王都へ飛んでくれ」

「それしかないのね」

「最良の行動だと思う」

 

 次はタバサが、その次はキュルケがウイルに言葉を投げかけ納得し頷く。

ルイズも子爵もウイルの言葉に頷き、カリオストロは静かにそれを静観していた。

 

「それじゃ……行動を……「なぁ」……どうした? 才人」

 

 ふとそれを聞いて思った事があり、手を軽く上げ割り込んだ。

割り込めば、全員が今度はこっちに注目した。

 

「……俺達が逃げてだ。アレはどうなるんだ?」

「屍人鬼のことか」

「あれってゾンビとかそう言うのだろ? 俺達が逃げたら……」

 

 外の居る屍人鬼を指差し、聞いて見る。

正直な話、屍人鬼とかよく分からないが人を襲うゾンビ同様な存在と認識は出来た。

そんな存在を放置したら……この町はどうなるのだろうか。

 

「どうなるだろな……大人しく戻っていくのか、そのまま人を町を襲うのか」

「っ……!」

 

 その言葉を聞いた瞬間、頭に血が上った。

衝動的な感情だと分かっていても止められずウイルの胸元を掴む。

 

「サイト!」

「放っておくのか? あれを……町の人を襲うかも知れないんだろ?」

「……」

 

 思い出したのは先ほどの焼けた死体だ。

あれは自分達を襲ってきた存在であったが、それがこの町に住む人に変わるかも知れないのだ。

それを知りつつも冷静に逃げる算段をしていた事に腹が立った。

 

「俺達には時間がないんだよ!」

「船が出るのは明日だろ? 皆で倒してから行けば……」

「無理だ」

 

 希望的観測を言うも即座に否定された。

 

「あれだけの屍人鬼の騒ぎ……そんなことが広まらないとでも? 間違いなく広まり桟橋にも情報が行く」

「っ……」

「そうなったら船なんか皆飛び立って逃げるだろうが」

「……」

「シルフィードでも行けない。他国の人間である二人をこれ以上巻き込めないんだよ! グリフォンだと人数制限やあそこまで飛べない」

 

 ウイルの言葉に歯を噛み締めた。

 

「任務を忘れるな、才人。俺達の任務一つで国が滅ぶかもしれないんだ」

「っ……でもよ!」

「サイト……町の人も馬鹿じゃない。警備隊も居る。ボク達に注意を少しの間でも向けたんだ。ある程度の人は逃げてるよ」

 

 ぐっと腕に力を込めるとギーシュが横からその腕を優しく押さえてくる。

暫くウイルとギーシュの顔を交互に見てから震える手を解いた。

 

「……本当にこれしかないのか」

「これが一番人が死なない」

 

 俺はそれほど頭がいいとは言えない。

それでもギーシュの言葉が今ではなく未来の事を話していることぐらいは分かった。

 

「くそ……情けねぇ」

『……相棒』

 

 床を見つめ、溢れ落ちる涙を眺める。

これだけのことがありながら出来る事は逃げるだけ、それが悔しく悲しく、犠牲になる人を思うと泣けた。

 

『相棒……お前さんの気持ちは皆分かるけど、これを決断したウイルの気持ちも分かってやれや』

「……デルフ」

 

 デルフの言葉にウイルへと視線を向ける。

ウイルは移動し、カリオストロを後ろからぎゅ、と抱きしめていた。

 

(……そうだよな。ウイルも不安だよな)

 

 その光景を見て思い出す。

一番辛いのは、この作戦を考えたウイルだ。

人を犠牲にし逃げる事を選択したウイル……彼の心を考えれば自分なんかより辛いだろう。

 

「ウイル……ごめん」

「……いいさ。それより早く行こう」

「おう」

 

 ウイルに先ほどの件を謝り、後ろ髪引かれる思いで駆け出した。

 

 

 

 

 

「それじゃボク達は王宮に報告に行く! 無事で!」

「ギーシュもな!」

 

 シルフィードに乗り、空を飛んでいく三人を見送るとそのまま桟橋へと走る。

 

「すっげー……」

「ボサっとしないの」

「あっ……悪い」

 

 走って桟橋に着けば、そこは大きな樹木であった。

見た事がないような大きな樹木でその枝の先に幾つもの船が停泊していた。

 

「だいぶ飛んでるな」

「急がなければ」

 

 ルイズに急かされ足を動かし階段を登っていく。

その際にウイルと子爵が空を飛ぶ船を見て顔を顰めた。

ウイルの言ったとおり、下の騒ぎを聞きつけ船が逃げているのだろう。

 

「……あった」

「よし、あの船にしよう」

「交渉はお任せしても?」

「あぁ、君には出番を取られてばかりだからね。ここで私も役に立つさ」

 

 未だに停泊している船を一隻見つけ、子爵が交渉へと前に出た。

その光景を少しだけ見つめてから下の町を眺める。

そこでは先ほどの宿が燃えてるのか赤々しく光が灯っていた。

 

「……やっぱり気になる?」

「……あぁ、気になる」

 

 見ていれば、ウイルがやってきて声を掛けてきた。

先ほど謝ったからと言っても、やっぱり気まずく顔を見れない。

 

「最善の策はうった……後は祈るだけしかできない」

「……」

 

 ウイルの言葉に耳を傾けつつ、首を振る。

そして町から視線を逸らし、ルイズ達のほうを見て気付く。

 

「……なぁ、ウイル」

「なんだ?」

「……カリオストロは?」

 

 子爵にルイズにデルフにウイル。

ここに居るのは自分含め四人と一体。

何処を見ても先ほどの宿に居たカリオストロが見えない。

シルフィードに乗ったのかと思い、思い出すも乗っていなかった。

 

「ウイル! カリオストロが!」

 

 まさか置いてきてしまったのかと思い慌ててウイルへと投げかける。

するとウイルはニヤリと笑い口を開いた。

 

「言ったろ? 最善の策だって」

 

 

 

 

 

 

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「たくよー……ここでオレ様を使うか」

 

 宿が燃え、異様な集団を見て人々が逃げ惑う中、カリオストロは拗ねたように唇を尖らす。

出てくる言葉全てウイルに対するものが殆どで文句たらたらだ。

 

「まぁ……言い出したのはオレ様なんけどな」

 

 そう言って思い出すのは先ほどのこと。

逃げる算段が付いた後、ウイルが自分に抱きついてきた。

その時の事を思い出した。

 

『……カリオストロ』

『ねぇねぇ、カリオストロの力がひつよぅー?』

『あぁ……カリオストロの力が必要だ』

『分断が敵の策ってわかってるぅ? ここでカリオストロを使えば敵の思う壺だよ☆』

『分かってる、それも……切り札をここで使う意味も』

 

「……切り札か、切り札。いい響きだ」

 

 会話を思い出し、斧を振り上げ近づいてきた輩を軽く血祭りに上げニヤニヤと悶えた。

 

(何より……アレだな。ウイルが他の奴等に目もくれずオレ様だけを頼ってくるのもいい)

 

 本来であれば、自分に助けを求める行為など言語道断、あまり好きな部類ではない。

助けを求める前に全力でやってそれでも無理な時に頼る程度でないと人は成長しないのだ。

今回助けを承諾したのは及第点に達した為だ。

 

(一応相手の策に対して、しっかりと最善の策も出した。全員で敵を倒してウロボロスに乗って行くとか言ってたら見放してたぜ)

 

 ウロボロスならアルビオンまで全員を乗せて行けると言い切れた。

しかし、それだけなのだ……それだけ。

運べてもアルビオンの位置も上陸する位置も分からない。

今日手に入れた情報では、王党派は既に最後の砦に篭ってるとのことだ。

誰から見ても時間が足りない状況なのに右も左も分からず進むのは馬鹿がやること。

 

(船乗りならアルビオンの位置も停泊すべき位置もしっかりと分かっている。時間を無駄にしない)

 

 しっかりと決められた所で上陸すれば地図が使える。

適当な所で上陸すると何処に居るのかを確認する時間が必要となる。

ウイルの策は確かに最善であった。

 

「……後はだ。オレ様がこいつ等をぶっ倒して被害を最小限にすれば万事OKだ」

「あなたにそれが出来ると?」

「出来るさ……何せ、オレ様は――」

 

天才美少女錬金術師(ウイルの使い魔)だ』

 

 先ほどから此方の様子を伺っていたフードを被った女性にそう啖呵を切った。




《オレ様ルイズ》
見た目ルイズの中身はカリオストロを思い浮かべれば早いかも知れない。
カリオストロに対抗するために出てきたヒロイン・その3である……嘘だけど!

《結婚ごっこ》
この言葉が一番しっくりくると思われ

《香水だよ。香水》
ウイルは香水の匂いが苦手である
ルイズもそれを知っているので社交界以外では基本的に付けていない
なのでここでバレてしまった

《相手も迂闊には手を出せない》
捕まえてコイツ操られてる! で終われない
解除方法も見つけないといけないので厄介である
しかも操られているので目も離せない
故に分かってない振りをして解除方法を探した方が良い

《……ウイル……分かったわ。後はお願いね?》
信用と信頼をしているが為に出る言葉
怖いけど、ウイルならどうにかしてくれるだろうと思いつつ深い眠りに就く

《屍人鬼》
とても厄介な相手
吸血鬼の出番も後で結構出てくる予定である
やったね! ウイル! 新しいちびっ子が増えるよ!

《なんでこいつらは平気なんだ》
日本育ちで人の死に様に関係なかった才人にはきつい問題
船に乗っても暫くの間はぐったりとしていた

《そうなったら船なんか皆飛び立って逃げるだろうが》
グールがいっぱい居ます!
そらすぐ逃げるわな

《ウイルは移動し、カリオストロを後ろかぎゅと抱きしめていた》
不安がると人肌が恋しくなる

《言ったろ? 最善の策だって》
どんな状況でもあら不思議!
カリオストロを投入するだけで最善の策へとはや代わり!
たんなるごり押しでござる

《何より……アレだな。ウイルが他の奴等に目もくれずオレ様だけを頼ってくるのもいい》
顎に手を掛けてニヤニヤと笑っていた
その間にもグールは襲ってくるか気にせず全員を血祭りに上げた

《運べてもアルビオンの位置も上陸する位置も分からない》
原作でもシルフィードに載った三人はうろうろと空を彷徨っていた
時間がないのに地理もない絶望である
何より適当に上陸して敵兵に見つかったら終わりである

《天才美少女錬金術師》
敵で会ったら諦めましょう

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