凡才錬金術師と天才錬金術師   作:はごろもんフース

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間に挟む話が有った事を忘れてた。
閑話で書いた次の話はこの後ですね


七話:プレゼント

「乾杯」

「乾杯」

 

 貴族の相手の宿、『女神の杵』亭の二階の一室でルイズとワルドはグラスをぶつけた。

 

「姫殿下から預かった手紙は、きちんと持っているかい?」

「それならウイルが持ってるわね」

「……彼が?」

「うん、魔法が使えない私より安全じゃない」

 

 アンリエッタから預かっている手紙の安全を確かめる会話をしていればワルドが眉を潜める。

そんなワルドに対してルイズもまた怪訝そうに目を細めた。

ルイズは手紙の中身を知っている為、奪われる可能性が一番高い自分でなく安全なウイルへと渡していた。ルイズが魔法を使えない事を知っている人ならば、誰もが納得する、あるいは考える事だ。それなのにワルドは何処か厳しい表情をしていた。

 

「……どうかしたの?」

「何でもないよ、色々と変わったなと思って」

「変わった……私の事?」

「そうだね、前までの君なら姫殿下から預かった手紙を他人に預けようと思わなかっただろう?」

「……それもそうね」

 

 ワルドの指摘にルイズは苦々しくも肯定した。

前までのルイズ、ウイルに会う前の一人ぼっちのルイズ。

あの時であれば、アンリエッタの依頼に舞い上がり、嬉しがり手紙を大事に持っていただろう。

 

「人は変わるものよ……環境が違えば」

「ははは、そうだね。変わるものだね」

 

 そう言ってワルドがワインを一口目を煽る中、ルイズは少しだけワインを舌に付けて何かを確かめる。

 

「何をしてるんだい?」

「毒がないか調べてる」

 

 ほんの少し舌に付けてじっと待っているルイズの行動にワルドが聞けば、その様な答えが返って来た。暫くしてルイズが、舌に痺れはないわねと言って飲むまでワルドは視線を泳がせて言葉に詰まる。毒の警戒などなく口にしていたので恥ずかしいのだろう。それでも何とか笑みを保って会話を続けた。

 

「へ、へー……彼に教わったのかい?」

「うん、ウイルが『初めて口にするような物があった時は、舌先で少し確かめろ』って」

「ふむ」

「舌先が痺れたり、痛みを発したり、違和感があったら毒の可能性が高いって言ってたわ」

「ははは……なるほど、彼は発想力だけでなく博識でもあるのか」

「……うん」

 

 貴族は暗殺される可能性が平民と比べて段違いに大きい。

故に食べ物や飲み物には一層注意を払うようにと言われていた。

本来であれば『ディティクトマジック』などを使い魔法薬が入っているか調べる方法が一般的だ。

しかし、ルイズはその魔法を使えないため、少しでもルイズの身を守れるようにとウイルが教えていた。

 

「一滴でも掛かってしまう魔法薬があるから効果は殆どないだろうけど……」

 

 そこまで言葉にしてルイズは頬を染めはにかむ。

ウイルが自分の身を案じてこの方法を教えてくれた事が嬉しいのだろう。

 

「……彼を信頼してるな」

「信用も信頼もしてるわ」

 

 目を細め、そんな事を言うワルドに対してルイズは間も無く答えた。

 

「……彼が君に隠し事をしていても信じるのかい?」

「誰にだって隠したいことはあるでしょ?」

「確かにそうだ……自分の恥ずかしい思い出や秘密。隠したいことは山ほどある」

「……そうね」

「しかしだ、それは自分の場合だ」

「何が言いたいか分からないわ」

 

 一口だけでワインに酔った様にワルドは口を大げさに滑らせていく。

そんなワルドにルイズは眉を潜め、少しばかりイラついたような表情をした。

 

「彼の隠し事に君の秘密があっても信用するのか?」

「……私の?」

「そうだよ……ルイズ、君の秘密だ。君が知らない君の秘密を彼は知っている」

 

 ワルドの言葉にルイズは己の胸に不思議そうに手を置いた。

 

「きみの使い魔」

「サイト?」

「彼は普通の使い魔ではない」

「……それは分かってる。人間を呼んだ人なんて私とウイル位だもの」

「そうじゃない……その中でも彼は異端だ」

「……異端?」

「そうだ。彼が武器を掴んだ時に、左手に浮かびあがったルーン……。あれは伝説の使い魔の印だ」

「伝説の使い魔?」

「そうさ。あれは『ガンダールヴ』の印だ。始祖ブリミルが用いたという、伝説の使い魔さ」

 

 ワルドの目が細めまり、ルイズを見つめる。

 

「ガンダールヴ」

「誰もが持てる力ではない、君だけが持つ力だ。話を聞けば、彼はサイト君に的確な助言を与えていると言うじゃないか」

「サイトも嬉しそうに言ってたわね」

「ガンダールヴのルーン自体は、学院のフェニアのライブラリーでも確認出来る。彼はそこを見れるんだろ?」

「……なんで知ってるの?」

「情報は大事だ。何より婚約者の君の傍に居る彼がどういう人物か知りたかったんだ」

「……」

「博識で君の事を想う彼が、サイト君の事を調べない訳がない。調べたとすれば数々の正しい助言も頷ける」

 

 その言葉にルイズも確かにと頷く。

 

「僕だって考え付いたんだ、君の秘密に……。それを彼は君に話さず、隠している。それでも……」

「信じる」

 

 ワルドの言葉にルイズはきっぱりと答えた。

そのきっぱりとした態度にワルドは、口を開き呆気にとられた。

ここまで清々しく言い切られると言葉すら出てこない。

 

「あぁ……うん、そうか。信じるか」

「それにしても……私が魔法を使えない理由は、そこだったのね」

「……たぶんね。他の四属性の魔法と君の属性では合わないんだろう」

 

 ルイズはそれを聞くと憂いを帯びた表情をしてワインを軽く揺すった。

始祖ブリミルの用いた使い魔、誰もが羨むであろう使い魔だ。

そんな使い魔を得たと言うのにルイズは喜ばず、逆に悲しそうだ。

 

「嬉しくないのかい?」

「そうね。……前までの私なら嬉しかったでしょうけど、今は逆ね」

「何を言っているんだい! 彼が伝説の使い魔と言うならだ! 君は……」

「ワルド様、何処に耳があるか分からないわ」

「……そうだったね、失敬」

 

 ルイズの態度に逆上したかのように立ち上がり告げるワルドをルイズは冷ややかに見つめた。

見つめてワルドが座った後は、ワインを回しそれを静かにじっと眺める。

 

「名誉……とは考えないのかい?」

「うん……特別な力ってことは、特別な役割を求められるってことでしょ?」

 

 ワルドが静かに頷いた。

 

「なら要らない。私は人並みの静かな幸せがいい」

「分からないな……偉大な力だ。国を……、このハルケギニアを動かせるほどの大きな」

「人には相応の器がある。私の器は小さな物、小さな小屋で好きな人と幸せに暮らすぐらいの……」

 

 脳裏にその光景を浮かべているのだろう。

ルイズは先ほどの憂いた表情と違い、幸せそうに微笑んでいた。

ルイズの脳内で誰を想って、誰と暮らしているのかは誰から見ても分かった。

 

「そうか……君の心には本当に彼が住み着いているんだね」

「はい……ごめんなさい」

 

 そんなルイズの表情を見て、ワルドは力なく笑う。

 

「これも君を放っておいてた罰か……」

「ワルド様……」

「しょうがない、君の事は諦めるよ。……幸せにルイズ」

「絶対に幸せになります」

 

 もう一度ワインを継ぎ足すとお互いにグラスを合わせた。

 

 

 

 

 

 

 

「そうだ、君に渡しておく物がある」

「私に?」

 

 それからの会話は比較的、穏やかなものであった。

和やかにお互いの日常を語り合う程度のもの。

そんな会話をしていれば結構な時間が経ち、そろそろ解散となる。

ワルドが立ち上がり退出しようとした時に思い出したのか、懐に手を入れた。

 

「公爵から君へと……」

「これを?」

 

 ルイズはワルドが差し出してきた物をまじまじと見つめる。

 

「君達が王城に来た後に『機会があったら渡してくれ』と頼まれていたんだ」

「……プレゼントなのかしら? 正直、私には似合わないわね」

「そうかな、持っておいて損はないと思うけど」

 

 暫くの間、それを見つめ戸惑うも結局ルイズは受取った。

 

「ありがとうございます。それじゃ、おやすみなさい。ワルド様」

「おやすみ……いい夢をルイズ」

 

 お互いに微笑みあい、今度こそ本当に解散となった。

 

「……呆気ないものだな」

 

 そして、扉を閉めてニヤりとワルドは笑った。

 

 

 

 

 

 

☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆

 

 

 

 

 

 

 

「……おはよう、カリオストロ」

「おっ……起きたか」

 

 起きると目の前にカリオストロのと思われる背中が見えた。

服装や流れる金髪からカリオストロだと判断し声を掛ければ、カリオストロが挨拶を交わしてくれる。

 

「……今どのぐらい?」

「んー……朝食を少し過ぎたぐらいだな」

「そうか、なら情報を集めながら何か食べるか」

「あぁ、お腹ぺこぺこだ」

 

 起き上がり、仕度をしながらも今日の予定を口にする。

そうするとカリオストロがお腹を押さえて肯定してくれた。

どうやら俺が寝ている間、ずっと傍に居てくれたらしい。

 

「何か食べたい物ある?」

「そうだなー」

 

 朝食は、その事に感謝してカリオストロの食べたい物にしようと決めた。

 

 

 

「おはよう、ルイズ」

「おはよー☆」

「はぁ……やっと起きたのね」

 

 仕度をして廊下に出ればルイズと出会った。

軽く手を上げてルイズに挨拶をすれば、ルイズは腰に両手を当ててそう言ってきた。

 

「だいぶ疲れてたみたいだ」

「それは分かってるけど……敵が何処に潜んでいるか分からないんだから」

「そうだな、気をつけるよ」

 

 ルイズの危機感足りないんじゃないと言う言葉に素直に頷き、軽く微笑む。

そうすれば、ルイズも手を腰から外し微笑んだ。

 

「朝食は?」

「カリオストロと外で食べてくる。ついでに情報もね」

「分かったわ。なら別行動ね」

「おぅ……ところで」

「なに?」

 

 今日の予定を話し合った後、先ほどから気になっていたことを確認する事にした。

ルイズの顔に顔を近づけ、ルイズの肩付近で匂いを嗅いだ。

 

「ちょ! 何してるのよ!」

「……香水の匂いが」

 

 顔を近づかせたせいで驚くルイズにそう聞いて見た。

先ほどからルイズから匂う香水が気になってしょうがない。

 

「あぁ……持ってきたのが切れちゃって、ワルド様から貰ったのだけど……」

「……そうなんだ。正直この匂いは少しきついと思うぞ」

「やっぱりそうかしら……もっと大人しい匂いだったら良かったのだけど」

 

 そんな日常的な会話をして軽くルイズと笑いあった後、ルイズと別れる。

 

「顔がやばいことになってるぞ、どうした?」

「……何でもない、何でもない」

  

 別れたあと、カリオストロに指摘されるも拳を痛いほど握り締め答えた。

 

 




次回が『亡者の群れ』になります

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青髭さんからの最後の嫌がらせ

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