「……眠いな」
「そうだね……まぁ、ウイルよりはましじゃないか?」
「だな、最後まで起きてたらしいし」
朝早く、使用人しか起きてないような時間帯にサイトとギーシュは馬に鞍を付けていく。
そんな様子を本を読みつつ先に用意された馬に乗り見ていた。
「それにしてもだ……意外だったな」
「何がだい?」
「カリオストロが付いてきたの」
「あぁ……なるほど」
男同士の話もつまらなくなり、本へと集中すればそんな事を呟かれた。
なんともタイミングが悪い問いに少しばかり不機嫌になるも、しょうがないと耐える。
「空を浮かぶ島なんて早々いけないからね~! 錬金術士として興味があるんだ☆」
「……そういえば、ボク達の錬金とは違うんだっけ?」
「そうだねー……だいぶ違うかな」
本当は空に浮かぶ大陸なんて見飽きているのだが、何しろ行く大陸の名前が『アルビオン』だ。
自分の居た世界にもあった浮遊大陸で些か気になっていた。
特に隠すこともないので素直に言えば話題が飛ぶ。
二人にとっても然して気になる話題でもなく、準備が終わるまでの暇つぶしなのだろう。
「用意は出来た?」
「おぅ、こっちは出来た。 そっちは?」
「送ってきた」
それからも眠気で集中力が途切れるせいか二人の話題はあちら此方へと飛び跳ねた。
そんな主体性のない会話を聞いていればウイルとルイズが戻って来た。
サイトの問いに準備を終えたのか、疲れたようにルイズが一言呟く。
「ギーシュ、使い魔は?」
「居るよ」
「うぉっ!? でかっ!」
戻ってきて開口一番にウイルがギーシュへと問いかける。
ギーシュはその問いかけに足のつま先で何度か地面を叩けば、土が盛り上がり一匹の生物が姿を現した。
「ジャイアントモールか」
「そう、ボクの相棒『ヴェルダンデ』さ」
茶色く少し硬めの毛皮に退化した小さな瞳の巨大なモグラ。
土のメイジの使い魔の定番、ジャイアントモールだ。
こんななりをしてるが、土の中で馬と同じ速さで潜り、光物が好きな性質を持つ。
土メイジが必要とする、貴重な鉱石や宝石を持って来てくれるので素敵な協力者と言えるらしい。
「あぁ……ヴェルダンデ、今日も素敵だね! いっぱい食事をしてきたかい?」
モグラを呼んだギーシュはすぐさまに地面に膝を突き、ひしっと抱きつく。
そんな様子をサイトは苦笑しながら見て、ルイズは呆れたようにため息をついた。
一生の相棒とも言える使い魔を可愛がることは普通であると思うのだが、人間を使い魔にした二人には些か難易度が高いのだろう。
(……あん?)
野郎とモグラの戯れを見てるほど暇ではないので視線を逸らせば、とある人物の表情に気付いた。その表情を見て馬から飛び降り近づき、目に付いた人物の脛を軽く蹴る。
「あいたっ!? ……カリオストロ?」
「……」
羨ましそうに眺めていたウイルの脛を蹴り、しゃがませると襟を掴み顔を引き寄せる。
「てめー……オレ様を呼んでおいて何だ……その顔は」
「あはははは……いや、カリオストロを呼ぶ前は憧れてたからさ」
「ちっ……」
何やらモグラを見て羨ましそうにしていたウイルに文句を言った。
錬金術の生みの親のオレ様を呼んだんだ、モグラ如きに現を抜かすとはどういう了見だ。
何より、モグラと比べられるのが癪に障る。
文句を言えば、ウイルは視線を逸らし謝りオレ様の体を持ち上げ馬へと向かう。
そのまま抱き上げられ馬に乗せられるとウイルもまた後ろに乗って抱きしめる形で収まった。
「……騙されないぞ」
「分かってる、目一杯可愛がるさ」
頭を優しく撫でて来るウイルに対して厳しい目つきで睨む。
そうすればウイルが折れてそう告げた。
少しばかり考えそれを受け入れる事にした。
「それにしても……モグラか、アルビオンって浮かぶ大陸だろ? 何で連れてくんだ?」
準備も出来、それぞれが馬へと乗馬していく。
サイトは乗りなれてないのでルイズの後ろに、ギーシュは一人で乗っている。
後は協力者の子爵を待つだけとなった。
「商人からの情報だと皇太子のほうは旗色が悪く追い込まれてるようだ」
「追い込まれて?」
「そう……俺等が着く頃にはやられてるか、追い込まれてるか」
ルイズ達の足元で何やら必死に鼻を動かすモグラを見てサイトが聞いて来た。
その問いには何時ものようにウイルが答えていく。
「追い込まれていた場合は攻城してるだろうし、敵に囲まれてるだろうね」
「うげ……まじか」
「そんな中、皇太子に接触する為に必要なのがヴェルダンデ」
「あー……土の中を移動するのか」
「空よりも安全だよ」
空を飛べば打ち落とされ、中を突っ込めばリンチ。
必然と会うには土の中と行動が限られる形となる。
相手もバカではないので土の中の対策をしてるだろうが、他の二箇所よりはましだ。
「……それよりギーシュ、なんかこのモグラ私に引っ付いて来るんだけど」
サイトに説明していれば、ルイズが眉を潜め足元を見ていた。
そこには先ほど同様モグラが何やら必死にルイズの足に引っ付いている。
「え? あー、貴重な宝石類とか持ってるかい?」
「姫様に貰った水のルビー持ってるわ」
「ならそれだね。 ヴェルダンデは宝石類が好きだから、貴重な宝石を持ってるルイズに反応してるんだ」
ギーシュが少し匂いを嗅がせれば満足するよと発言し、それにルイズは頷くと馬から降りて胸元から皮袋を取り出す。
皮袋は首元からぶら下げられており、中から綺麗な青い色のルビーの指輪が出てきた。
それを差し出せば、ヴェルダンデは匂いを夢中で嗅ぎ取る。
「これでその匂いを覚えた筈だから、ルイズがそれを持ってる限りは追いつくことが出来る」
「へー……便利ね。このモグラ」
ある程度満足したのだろう。
モグラは満足気に鼻を宝石から離し土の中へと戻っていった。
それを見送るとそのまま両手を上に伸ばしウイルの頬を引っ張る。
「おい」
「……すみません」
またもや頬を緩ますウイルに活を入れた。
「動物好きなんだよね」
「むーっ」
ニヤニヤと笑いモグラを見ていたウイルにこれは駄目だなと諦める。
そもそも相手は動物の類、それにイラつくのは同類と認めてるようなものではないか。
そこまで考え、些か納得いかないも放っておく事にした。
(てかだ……なんでイラつくんだ?)
「所で……子爵っていつ来るんだろ」
「さぁ……てか姫様の朝早くだろ? 俺達の想像よりもっと遅いんじゃ」
「……」
「……」
自分の気持ちに首を傾げていれば他の全員が無言で馬から下りて空を見上げた。
使用人が起き出して生徒が寝ている時間帯。
現在の時刻は朝日が昇る一時間前、朝早く正門に集合していた。
☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆
「……皆早いね」
『遅い!!』
結局、港町ラ・ロシェールへ足を進めたのは集まってから一時間後だった。
朝日は昇りきり、霧が立ち込める時になって子爵がやってきた。
驚いた様子の子爵に全員が噛み付き、馬に乗り走らせる。
そんな六人をアンリエッタは学院長室の窓から見送る。
目を閉じて、手を組んで祈る姿は様になり女神のように見えた。
「彼女達に、加護をお与え下さい。 始祖ブリミルよ……」
「あっ、いた」
「……はぁ」
祈りを捧げていれば、不釣合いな声が聴こえて来た。
アンリエッタがため息をついて其方を見ればオスマンは鼻毛を抜いていた。
「見送らないのですか? オールド・オスマン」
「ほほほ、姫様見てのとおり、この老いぼれは鼻毛を抜いております」
暢気にそんなことを言うオルマンにアンリエッタは口元を引き攣らせて答える。
何か言おうかとするもこんな状況になれてないアンリエッタは、結局ため息を吐き窓の外へと視線を向けた。
「ため息をつくと幸せが逃げるらしいですぞ」
「……元より幸せなんて全てなくなりましたわ」
何やら含みのある表情でオスマンを軽く睨み本音と思わしき言葉をバラす。
こんなお調子者であるがアンリエッタの中ではまだ本音を話せる人物らしい。
首を振りそう答えれば、扉がどんどんと叩かれた。
アンリエッタは一瞬身を竦ませるもオスマンは『入りなさい』と呟き、相手を部屋へと招き入れる。
「いいいい、一大事ですぞ! オールド・オスマン!」
「またか……君がここに来る時はいつも一大事じゃな」
「ここに来る理由なんてそれしかないので」
「……ごほん、それで何が一大事なんじゃ? ミスター・コルベール」
入って来た人物は、コルベールであった。
慌てるコルベールに対してオスマンが呆れて声を出し指摘するも冷静に返された。
案外余裕があるやり取りである。
「そうでした……城からの知らせです。 なんと、チェルノボーグの牢獄からフーケが脱獄したようです!」
「ふむ……」
「え?」
オスマンは報告を受けて髭を撫でてて考え込み。
アンリエッタは信じられないと目を見開いた。
「見つけた兵士の話では、門番は眠らされており、巡回していた兵士達が殺害されていたようです」
「……これこれ、姫様の前じゃ言葉は柔らかくの」
「……これは失礼しました」
オスマンの言葉でコルベールがアンリエッタに気付き、慌てて頭を下げた。
それをアンリエッタは手で押さえると先を促すようにと言葉を告げる。
「今回の学院の訪問は急遽決まったこと……それなのに魔法衛士隊が、居ない時を狙ったという事は裏切り者が……」
「まぁー居るじゃろうな」
コルベールの言葉にオスマンは何気なく軽く答えた。
その成り行きを見ていたアンリエッタは顔を蒼白にし窓へと縋る。
既に外にはルイズ達の姿はない、そのことを確認し力なく膝を突いた。
「……コルベール君、ちょっと」
「はい」
そんなアンリエッタをオスマンはチラっと見るとコルベールを小さな声で呼び出し、小声で話していく。
「頼んだ」
「……任されました」
ある程度用件を伝えれば、些か顔を顰めているコルベールを手で追い払うようにし退出を促す。
コルベールが扉を閉めて退室したことを確認し、アンリエッタへと声をかける。
「すでに杖は振られたのですぞ。 我々に出来る事は、待つだけ……違いますか?」
「そうですが……」
「なぁに、彼らならば、どんな道中も越えてくれますでな」
「……彼とは、あのギーシュという少年? それともルイズの使い魔の子? あぁ……ワルド子爵が?」
オスマンは静かに首を振る。
「では……ルイズが協力を求めた少年ですか?」
「ほっほっほ、アヤツは些か他の貴族とは変わってましてな」
「変わってる?」
オスマンの言葉を想像できなかったのかアンリエッタは首を傾げた。
それを見てオスマンはパイプを取り出し口にすると軽く笑う。
「異国の地のメイジを呼び出し、本人もまた手段を問わないという性格でしてな」
「なんというか……それは」
「まぁ……こんな時は頼りになる人物ですじゃ」
それ以外は何を仕出かすか分からず怖いけど……と小さく呟く。
しかし、その言葉はアンリエッタに聴こえず静かに考え込む。
「……名前は何と言いましたか?」
「ウイル・ツチール……ツチール家の次男坊」
「……もしかして、この間お城でワルド子爵に勝った?」
その名前に聞き覚えがあった。
アンリエッタ自身は見てないが、ラインメイジでありながら異色な方法でスクウェアであるワルド子爵を圧倒したと、お城の中で噂になっていた。
その方法が方法なので戦争や戦いに参加してない貴族からは受けが悪く、戦争や戦いに赴いた事のある貴族からは受けが良かった。
そのことを思い出し、聞いてみればオスマンは静かに微笑み頷く。
「……ウイル」
その言葉を記憶に刻むように呟くとアンリエッタは、遠くを見るように目になった。
無意識か唇を指で軽くなぞり、目をつむると微笑んだ。
「ならば祈りましょう。 異国の使い魔と異色な彼に」
《ウイルよりはましじゃないか?》
話を聞いてから大慌て、あれやこれやと準備を整えていた
ある程度方向性を決めると皆を眠らせて一人対策を考える
そんなウイルの横でカリオストロは静かに本を読んでいた
《アルビオン》
浮遊大陸アルビオン
このアルビオンにルイズの虚無をぶつけたらどうなるんだろうと考えた事がある
エクスプロージョンで風石を消していたので、沈ませることも出来るかなとウイルは思う
《用意は出来た? 送ってきた》
サイトの問いに答えたルイズ
些かおかしな会話になってるが、仕方がない
ルイズは何も嘘をついていない
《ジャイアントモール》
優秀な使い魔である
宝石の類を持って来てくれるので一生お金に困らない
奇襲やら戦術にも有用で活躍の機会に恵まれるだろう
ちなみにヴェルダンデはヴェルダンディの事と思われる
運命の女神ノルンの一人、『紡ぐ者』と言う意味で、現在を司る
《カ、カカリオストロ》
モグラに嫉妬してました
しかし、本人は首を傾げて不思議がるだけ
取り合えず考える事をやめてウイルに背を預け港町に着くまで寝ていた
《目一杯可愛がるさ》
見た目的にはカップルか兄妹
しかし、中身を考えれば( ^o^) <ホモォ
《胸元から皮袋を取り出す》
あんな高価な宝石を指につけるなよ!
盗まれても知らないぞ☆
……盗まれてたらトリステインが詰んでました! 残念!
《動物好きなんだよね》
猫、犬、コウモリ、梟にドラゴン
皆可愛く大好きである、更に研究材料になるし一石二鳥だ
《てか姫様の朝早くだろ?》
情報は大事
しっかりと話し合いましょう
《祈る姿は様になり女神のように見えた》
見た目は女神
《鼻毛を抜いております》
正直……原作で本当に何もしないとは思わなかった
《手段を問わないという性格》
身の安全を守る為なら何でも使うリアリスト
毒も常備しており、容赦なく投げます 散布します
《無意識か唇を指で軽くなぞり、目をつむると微笑んだ》
逃げろ、ウイル