凡才錬金術師と天才錬金術師   作:はごろもんフース

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二話:ストレスでどうにかなりそうです

「おー……すげぇ」

 

サイトの言葉に全員が頷いた。

綺麗に生徒と教員が整列している間を大きな馬車や兵士が並んで通っていく。

 

「なぁなぁ、姫様が乗ってるのってどれだ?」

「えっと……あれね」

 

興奮気味のサイトが此方に顔を向け、聞いてくる。

はしたないと思うも、初めて見る光景に感情を制御出来ないのだろう。

無理矢理抑えると後がうるさいと思い質問に答える事にした。

 

「あの『ユニコーン』が引いてる馬車よ」

「あれかー……すっげー……まじで『ユニコーン』が引いてる」

 

指を指す事が出来ないので、引いている生物を教えた。

四頭立ての馬車で、所々に金と銀とプラチナをあしらったレリーフが施されている。

そのレリーフは王家の紋章であり、その中で一つだけ聖獣ユニコーンと水晶の杖が組み合わさった紋章があった。

 

「あの紋章が王女様を乗せる馬車だって印よ」

「なるほどな」

 

立っているだけでは暇でついつい長く話し込んでしまう。

 

「あれ?」

「今度は何?」

 

話し込んでいるとサイトが、首を傾げた。

 

「姫様の馬車は分かったけど……その後ろに続く馬車は誰のだ?」

「あれは……」

「姫様のより大きいし立派だけど」

「………」

 

サイトの言葉に口を閉じた。

視線を逸らせば、周りに居た生徒やウイル達も気まずげに視線を逸らしていた。

 

「くっくっく……あれは、マザリーニ枢機卿のだろな」

「マザリーニ……枢機卿?」

 

口を閉じているとローブを着込んだ小柄な少女――カリオストロが答えた。

何が楽しいやら、笑い、ウイルの背の後ろから二つの馬車を見比べ、口を歪ませる。

 

()()()()()()()()()()だ。馬車の風格の差が今のトリステインの現状を物語っているな」

「現状を?」

「はっ、()()()()()()()()()()()()()()()()()か平民でも分かる」

「………」

 

カリオストロの小馬鹿にしたような声にサイトは困惑し、辺りを見渡す。

だが、誰もカリオストロの言葉を反論しない。

 

(少し前の私なら噛み付いたでしょうね。『そんな訳無いでしょ!』って)

 

今の自分は、素直にトリステインの現状を受け入れる事が出来た。

現状のトリステインはマザリーニ枢機卿一人で成り立っている。

それほどまでにこの国は、危機的状況で彼に依存していると……。

 

「えーと………そうだ。わるど……子爵だっけ!あの人も来てるんだな!しかも人気だし!」

 

少しばかり、空気が悪くなり重くなった。

それをサイトが一生懸命、変えようと他の話題を振っていく。

何となく、サイトがモテる理由が分かった気がする。

こういう所が、あのメイドもキュルケもいいのだろう。

 

「ワルド子爵はすごいからね」

「………え?」

「なんで驚くのさ」

 

ウイルが何気なく言えば、サイトが目を見開き驚いた。

 

「いや……ウイルって結構あの人の事を買ってるよな」

「子供の頃、憧れてたしね?見てみなよ。漆黒のマントに胸にはグリフォンの刺繍。彼の乗っている幻獣は、グリフォンだ」

「………」

「三つの魔法衛士隊の一つ、『グリフォン隊隊長殿』。選りすぐりの貴族で構成された魔法衛士隊。男子の誰もが憧れ目指し、少女は彼に恋し、彼の嫁を夢に見る」

 

ウイルがそっと微笑み、目を輝かせて言った。

ウイルの様子を見るに本気で言っていると分かる。

本当に、本当に尊敬しているのだろう。

 

「憧れ……前に滑らせたのに?」

「それはそれ、これはこれ。あの年でスクウェアで隊長だからね。才能だけでなく努力したんだろうなと……憧れる所はそこかな」

 

その事に少しばかり胸がぎゅっとした。

あぁ……いけない、いけない。

今私は――――

 

「ワルド様よー!!!」

「きゃぁーー!!」

「見た?こっち見なかった?」

 

そこまで考えて、生徒達が騒ぎ始める。

はっとなり、顔を上げればワルド様の姿が見えた。

優雅にグリフォンに乗り、此方へと手を振っている。

 

それを少しばかり顔を引き攣らせて私は見た。

ワルド様の爽かな笑顔と顔を引き攣らせる私……。

言えない、言えない……今あなたに嫉妬してましたとは。

 

「あはははは……はぁ……」

 

軽く手を振り返し、ため息を付いた。

何で私はこうなのだろうかと、嫉妬で心を燃やしながら思った。

最初の頃に比べて大分落ち着いたと言われるが、それは表面だけのお話だ。

 

ウイルと女性が話すだけで嫉妬が燃え上がる。

仲が良いとなおさらだ。

 

(前までは良かったのに)

 

思い出せばついついそんな事を思って拗ねてしまう。

前までは、ウイルの周りに女性の欠片すらなかったのだ。

ウイル自身、そんなに女性と触れ合いたいと思っていないのか、女性の影は皆無だった。

それなのにだ。

 

「なー……姫様ってあれ?」

「そうだよ。トリステインが誇るお姫様」

「……オレ様のほうが可愛くね?」

「あははははは……」

 

ウイルとカリオストロが馬車から降りてきた姫様を見て、背中合わせで仲良く会話をしている。

そんな光景を見て少しばかり、ムスっとする。

召喚の儀式以来、全てが変わった。

 

前までは、ウイルは私以外とはあまりつるまなかった。

休み時間も放課後も一緒でたまにギーシュが居るぐらいだろうか。

それが、今では大勢に囲まれ騒がしい日々を送っている。

 

(今の騒がしさも好きだけど……できれば前みたいに二人っきりも)

 

と思ってしまう。

 

「なぁ、なぁウイル……オレ様とあの姫様、どっちが可愛いよ?」

「好みで言えば……たぶん、カリオストロ?」

「おい、何で疑問系なんだよ」

「あいたっ!?」

 

そんな事を考えているとカリオストロが姫様を見てウイルに感想を強請る。

本当に仲良いなと思い口をぎゅっと閉じる。

 

(そもそも……距離が近過ぎ!)

 

今では普通に話し、触れ合っているがこれでも時間がかかったのだ。

最初なんて触れ合うどころか会話も長続きしなかった。

お互いに探り探り、距離を詰めていったのにカリオストロは一ヶ月でこれだ。

良く考えれば、召喚した時からこんな風だったかも知れない。

まるで男友達と話すような自然さに嫉妬をしてしまう。

 

(姫様には悪いけど………早く終わらないかしら)

 

嫉妬に駆られる心を落ち着け、二人を横目に式典を見続けた。

早く終わって下さい、姫様。

これ以上は堪えられそうにありません。

 

 

 

 

 

☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆

 

 

 

 

 

式典も終わり、夕食を食べ終え自室へと戻ってきた。

服もそのままで、ぐてんとベッドに横になると冷たいシーツが大変気持ちが良い。

昼間の疲れも出てふぁっと小さく欠伸が出てくる。

もう、このまま寝てしまおうかとさえ思った。

 

「なぁ、ルイズ」

「ん~~~、なによ」

 

眠気に誘われているとサイトが声を掛けてくる。

 

「今日はウイルのところに行かないのか?」

「今日は、駄目ね」

 

このままでは寝てしまうと思い、座りなおすとぐぐっと背を伸ばす。

 

「なんでだ?……出来れば行きたいんだけど」

 

体を軽く動かしているとサイトがそう告げた。

たぶん、暇なのだろう。

サイトは此方の文字が読めないので本を読む事も出来ない。

簡単に言えば、やることがないのだ。

 

だからか、サイトはよくウイルの部屋へと行きたがる。

あそこならば遊び道具もある上にも結構な割合でいる為、暇をしない。

正直言えば、私も行きたいのだ。

 

髪を梳かしてもらいたいし、頭を撫でて貰いたい。

会話もしたいし、膝枕もして欲しい。

それでも今日ばかりは行けない。

 

「姫様がお泊りになられてるから、警備がきついのよ」

「あー………」

「流石に今日ばかりは外を出歩かない方がいいわ」

 

『不審者として捕まりたくないでしょ?』と言えば、サイトは納得してくれた。

ただでさえ、姫様に近づこうと昼間に生徒が押し寄せたのだ。

警備に当てられた護衛隊もいい加減、嫌になってる頃だろう。

そんな中仕事を増やすような事をすれば、下手すれば捕まる。

捕まるといってもお説教とか軽いものであるだろうが、恥は掻きたくない。

 

「あれ、誰だろ?」

 

そんな事を思っていると扉が叩かれた。

初めに長く二回、それから短く三回……私はこの叩き方を知っている。

何故、今、この時間にと頭の中で混乱するも開けない訳にもいかない。

 

慌てて扉を開ければ、黒い頭巾を被った少女がするりと中へと入った。

その少女は入ると後ろ手で扉を閉めた。

 

「……だれ?」

「しーっ」

 

サイトが疑問を挙げれば、件の少女は口元に人差し指を持って来てウィンクした。

それから頭巾と同じ漆黒のマントの隙間から杖を抜くと軽く振った。

同時に短いルーンが詠唱される。

その瞬間、部屋中に光の粉が舞い散った。

 

「ルイズ……?」

「ディティクトマジック……探知魔法よ」

 

サイトがデルフを握ってるのを見て、慌てて止める。

 

「ごめんなさい、どこに耳が、目が光ってるかわかりませんから」

「探知魔法で聞き耳を立てる魔法や何処かに通じる覗き穴がないか確認したのよ」

「なるほど、魔法って便利だな」

 

魔法の便利さにサイトが羨ましそうな声を挙げるが私は、それどころではない。

なんで、なんでこの人が此処にいるのだろうか。

 

「ふぅ、お久しぶりね!ルイズ!!」

 

頭巾を取って嬉しそうに微笑む、アンリエッタ王女を見てそんな感想を抱いた。

姫様ぇ……あなたは嬉しそうですけど、これからの事を考えて私は胃が痛いです。

こんな事ならウイルの部屋で過ごせばよかったと内心思った。

 




《早く終われ式典》
早く終わらないと爆発するぞ、物理で。

《アンアン大脱走》
ただでさえ、ゲルマニアやレコン・キスタで大騒ぎの時にこれである。
ただし、これには黒幕が居て……。
次回名探偵ルイズの名推理が炸裂する。

《ワルド子爵》
憧れてました。過去形です。
今ではカリオストロが一番の目標です。
ありがとうございました。
地味に出番が多い人。

《男友達の様な気安さ》
ルイズはカリオストロの素性を知らない。
知らないから嫉妬が溜まる。
もっとも男性でも親しげだと嫉妬する模様。

《遊び部屋ウイル亭》
遊び道具満載である。
遊び相手満載である。
チェスにトランプに危機一髪……。
最近ではサイトの案で囲碁や将棋も作ってもらってる。

お風呂とトイレも完備!
食事もメイドが運んでくれるので到りつくせりである。

《ユニコーン》
処女厨。
やったら一発で分かる。
もしも、姫様が拒否られたら……ある意味で危機一髪。

《マザリーニ枢機卿》
聖人。


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