凡才錬金術師と天才錬金術師   作:はごろもんフース

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次で1章エピローグです。


二十一話:月下美人

『夢の中で振られてきなさい』

「………」

 

舞踏会が終わり、早くも四日ほどが過ぎていた。

ルイズとの関係は特に変わりなく、未だに友達関係だ。

それに特に文句を言うわけでもなく、待ち続けるルイズはやはり自分には勿体無いなと思う。

 

そんな中、ルイズに言われた言葉をぼーと脳裏で考える。

あの言葉を聞いて以来、ずっとずっと考え続けているのだが、未だに答えが見つからない。

 

ルイズの言葉を受け、初恋に決着をつけようと思ったまでは良かった。

問題はどうやって決着をつけるかだ。

 

一番良いのは実際に会って振られること……なのだが、出来たらこんな苦労はしていない。

ルイズもそれとなく理解しているからこそ、夢の中でと言ったのだろう。

結局は自分自身で振られたと終わったのだと思わなければいけないのだが、未だに実感が湧かなかった。

 

「何してるのー☆」

「……カリオストロ」

 

火の塔の一番上で星を眺めていると声がかかる。

振り向かなくても分かる声にその人の名前を呼んで答えると、カリオストロは直ぐ隣に腰を下ろした。

特に会話もなく、二人して星を眺めるだけ。

 

持ってきていたワインとツマミを口にしつつ、ただただ眺める。

手を伸ばし、ツマミを取ろうとするも手が空ぶった。

見れば皿には何もなく、カリオストロが最後の一切れを口にしていた。

 

「中々だな」

「そりゃ、良かった」

 

満足そうなカリオストロを横目にワインを軽く飲む。

カリオストロは爪楊枝らしきもので歯の間の物を取っている。

なんと言うか、可愛らしさを求めるくせに変な所で親父臭い。

 

「それで……何悩んでるの~?」

「初恋の終わらせ方」

「あー……そりゃオレ様にも分かんねーわ」

「だよな」

 

悩んでいる事を打ち明けるも予想通りの答えが返ってくる。

元男性であり、可愛いもの好きなカリオストロだ。

男性に興味が無い上に、自分より可愛い女子は敵。

自分以下の女子に目が移る事もないのだろう。

後は、自分以外を見下し、常に一人で居る事もあげられる……色々と大変な奴だな。

 

「なんだ、人を可哀想なものを見るような目で見やがって」

「カリオストロの恋愛事情が酷いなと」

「まぁ、それはしょうがないだろ……今まで愛情なんて感じた事ないしな」

「……親からも?」

「親からもだ。オレ様の故郷は医者もいない辺境だ」

「………」

 

カリオストロが軽く指を鳴らすとワイングラスが出来上がる。

そのグラスにワインを注ぐと軽く揺らし飲み、唇を濡らした。

 

「やれ『あいつは終わりだ』、やれ『可哀想に』、やれ『大人になるまでに死ぬだろう』」

 

カリオストロが気だるげに指を折り、一つ一つ言葉を思い出す。

二千年経っても()()()()()()()()()事に少し思うところもあるが口にはしない。

 

「思えば……病弱でも虐待されたり、殺されなかった。生かして貰っていた事が愛情だったのかもな」

「………そうか」

「そうだよ」

 

なんと言えばいいのか分からずワインを口にする。

暫し無言でワインをお互いに飲み星空を眺めた。

 

「そういえば……カリオストロは妹が居たよね?」

「そこまで知ってるのかよ……まじで何なんだお前は……」

 

先ほどの話題を変える為に考え話すと渋い顔をされる。

 

「あいつはー……なんだろうな。あまり覚えてねーな」

「仲悪かったのか?」

「だったような気がする……んー……覚えてないな!」

「………そっか、聞いて悪かった」

「覚えてねーし、別にいいけどな」

 

罰悪く、謝罪をする。

原作のグラブルで『クラリス』と言う、カリオストロの妹の子孫らしき人物が居たことを思い出した。

あまり覚えてないが、カリオストロの()()だった筈。

カリオストロが此方の世界に来ている以上、あちらからまた何人か此方に来ているかも知れない。

もしも敵対すればカリオストロといえども危ないかと思い、少しでも情報をと思ったのだが、情報は乏しい様だ。

 

「なんでそんな事を聞くんだ」

「………カリオストロの妹の子孫でカリオストロの天敵が居たことを思い出したんだ」

「……オレ様の妹の子孫……天敵……?」

「たしか……開祖の家系の看板を掲げていた筈」

 

素直に口に出せば、カリオストロは腕を組み考え始めた。

それを横目にワインを飲み、自分もまた思い出そうと頭をひねる。

 

「あーあー……そんな奴等も居たかも知れねー」

「居たかもって……もしかしたら自分の妹の子孫だろうに」

「他人に興味ないしなー」

 

ツッコミを入れればカリオストロはケラケラと笑う。

本当に他人に興味がないのだろう。

 

「たくよーお前は自分の初恋に悩んだり、オレ様の事で悩んだりと抱えすぎじゃね?」

「とはいってもな。カリオストロはパートナーだし、安全を確保するのは当たり前だろう」

「………パートナーね」

 

思った事を口にすればカリオストロが眉を潜め、首もとのルーンに触れた。

 

「カリオストロが俺に飽きたり、離れていくまでパートナーだよ」

「………」

「それまで俺からは何があっても離れない」

 

今ここにカリオストロが居るのは、知識を貯め、愛情を知る機会があるからだ。

地盤を作り、知識を貯め、愛情を知れば、自分の下を離れていくかも知れない。

そのことを思うと胸が痛む、あの時の焼き増しのようで痛い。

それでも………。

 

「………なんだ」

「カリオストロ?」

「えっと……そ、そんなにオレ様の得た真理が知りたいか」

「いや、知りたくないけど」

「………あー?」

 

胸を張り、答えるカリオストロに間もなく答える。

カリオストロの知った真理を教われば、ほぼ不死身の体になる。

しかしだ、聞いたところで理解出来ると思えない。

猫に小判、豚に真珠、そんな訳で特に興味はない。

 

「カリオストロとこうやってお酒を共にして、一緒に過ごして、一緒に会話して……それだけで十分だよ」

「―――」

 

前世の時に好きだったカリオストロと一緒に過ごせて話せるだけで満足なのだ。

カリオストロを利用する気がないと言う事が伝わればなと思ったのだが……少しばかり、露骨過ぎただろうか。

不自然に固まるカリオストロを見てそんな事を思った。

 

 

 

 

 

 

 

 

☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆

 

 

 

 

 

 

 

 

「カリオストロとこうやってお酒を共にして、一緒に過ごして、一緒に会話して……それだけで十分だよ」

「―――」

 

ウイルの言葉に何も答えられなくなった。

真意を探ろうにも特に嘘を言ってる訳でもない、純粋な好意を此方に向けてきている事が分かる。

 

真っ直ぐな言葉に純粋な好意。

なんというか……むず痒い。

体の奥からむず痒くなり、何とも言えない感情が生まれる。

 

冷静を装いつつ、首もとのルーンに触れた

ルーンからは力が感じられず、光もしていない。

つまりは、今の感情はルーンから与えられた物ではなく……オレ様自身が感じた感情だと分かる。

 

(ありえねー……あえりねー……)

 

二千年もの間、感じなかった感情に驚愕し慌てふためき、何とも言えない感情に言葉が出ない。

暫く視線を辺りに彷徨わせるとウイルの顔へと視線がいく。

 

「………」

 

ウイルは静かにワインを口にし空を見上げている。

そんなウイルの顔を見て、ストンと納得が落ちてくる。

そうか、そうだったのかと自分の中で結論付けた。

 

今まで自分に寄って来た奴等は、自分の真理や知識を必要とした者、または排除しようとしてきた奴等だ。

それに比べ、目の前の男は知識を求めず真理を求めず、排除するわけでもない。

むしろ傍に居るだけ、自分の事を知りながらも邪険にせず傍にいて一緒に過ごすだけ。

それが堪らなく……堪らなく……嬉しい。

 

(そうか……気に入ってんだな。オレ様)

 

自分の気持ちを知り、薄く笑う。

どうやら自分はこの生活が気に入ってるらしい。

 

「分かんないな」

 

そんな事を感じていると隣から声が聴こえる。

ウイルの呟きに隣を見ればまた眉を潜め悩んでいた。

 

「………」

 

まだ悩んでるのかと呆れため息を付く。

これだけ悩んでも分からないなら、他の面から考えれば良いものを……しょうがない。

 

「ウロボロス!」

「……カリオストロ?」

 

ウロボロスを呼び出し、跨るとウイルへと手を伸ばす。

ウイルはいきなりの事で驚き、手を見てウロボロスを見て困惑していた。

 

「乗れ」

「あーと?」

 

手を引っ張り、困惑するウイルを後ろに乗せると、そのまま空を飛んでいく。

 

「いくら考えても分かんねーなら、諦めろ」

「諦めろって……」

「あくまで一時的にだ。案外後でポロリと解決策が出てくるもんだぜ?」

「………」

「今だけは……忘れろ。疲れるだけだ」

 

暫く飛べば、雲をつき抜け星空の下へと出た。

 

雲を下に目の前に浮かぶ大きな双月を二人して眺める。

暫く塔の上よりも大きくなった双月に心が奪われるも、雲の上のせいか寒く身を震わせる。

普段着を着てきた為に寒い。

両手で体を抱きしめるも寒さは収まらず、歯がカチカチとなった。

 

(あー……考えてなかった。流石にこの格好じゃ寒いな)

「おろ」

 

そんな事を思っていると腰に手が伸びてきて引っ張られた。

きょとんとしていると抱き込まれ、マントに包まれる。

上を見ればウイルの顔があり、微笑している。

 

「寒いからね」

「前にも聞いたな……そのセリフ」

「そうだっけか?」

「あぁ……確かに聞いたな」

 

聞いたことある言葉にツッコミを入れれば、ウイルは首を傾げ不思議そうに見つめてくる。

どうやらまったくもって、覚えてないらしい。

その事に対して笑えば、ウイルは視線を泳がせ頬を掻いた。

恥ずかしいなら言わなければいいものを……いや、自然と言葉にしてしまうのか。

本当こいつは……天然物の人誑しか。

 

「―――――」

 

暫く視線を泳がせた後、ウイルは杖を取り出し、何やら呪文を唱える。

それを静かに眺めていると効果がはっきりと分かった。

マントを巻かれても寒かったのに今はほんのりと温かみを感じられる。

 

「へー……便利だな。風を避けたか」

「初めて使う魔法なんだけど……よく分かったね」

「はっ!当たり前だろ?オレ様は天才なんだからな!この位は軽い軽い」

 

風が自分達を避け始めたお蔭で寒さがぐんと減った。

 

「………」

「………」

 

その後、特に会話もなく、お互いに双月を眺め続ける。

この世界に来て、既に1ヶ月近く経つがこうやって、星々をじっくりと見るのは初めてかもしれない。

手を伸ばせば届きそうなのに届かない。

太陽もないのに明るく、優しく、それでいて冷たく自分達を照らしている。

 

「あん?」

 

怖いほどに綺麗な双月を見ていると頬に液体がかかる。

一瞬雨かと思ったが、雲より高い位置に居るのでそのはずは無い。

頬を伝う雫に手を触れ見ると無色透明な水であった。

 

「………ウイル?」

「………」

 

不思議に思い見上げればウイルが静かに涙を流していた。

 

「どうした……何処か痛むのか?」

「……痛くは無いよ」

「なら………なんで泣いている」

「……ただ、ただ……()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

そう言って、ウイルは腕で顔を拭き、真っ直ぐ双月を眺める。

そうしていれば、また静かに涙が流れる。

 

もう一回腕で拭くも結果は同じだ。

 

「……おかしいな、おかしいな」

「………止まらないなら、止まるまで泣いてろ」

「っ………」

 

最後には腕で顔を隠し、嗚咽を漏らしながら泣き始める。

何故泣いたのだろうか、双月が綺麗なせいか?……違う気がする。

なら何故泣いたのだろうか……理由が分からない。

 

ただ、ルーンからウイルの感情が伝わってくる。

 

―――

 

―――

 

それだけが伝わってくる。

何故、―――のか―――のか理解が出来ない。

だけど……一つだけは理解出来た。

 

どうやら………泣かしてしまったのはオレ様のようだ。

 




《月下美人》
たった一年に一回、一晩だけ咲く花。
花言葉は

はかない恋
ただ一度だけ会いたくて
強い意志
やさしい感情を呼び起こす

ウイルが抱える月下美人は一晩だけでなく永遠に咲き誇る。

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