凡才錬金術師と天才錬金術師   作:はごろもんフース

22 / 37
十八話:彼と彼/彼女の恋愛事情

「くっ……」

「………」

 

ゆっくりと近づき、見下ろせば子爵は親の敵を見るような目で見てくる。

人の良さそうな笑みを浮かべていても貴族か……一端のプライドを持っているようだ。

ラインである俺にやられ、誇りを傷つけられたと怒ってるらしい。

 

「ははは……参ったね。ここまでやるとは……っ!」

「いい勉強になりましたね、子爵」

 

子爵は取り繕うに笑みを貼り付ける。

それでも怒りが抑えきれないのか口元がヒクヒクと動いていた。

そんな子爵に此方も笑みで答える。

 

「だけど……まだだ!!()()()()()()()()ユビキタス・デル―――」

『フル・ソル・ウィンデ、レビテーション』

 

子爵がニヤリと笑い、まだだと宣言した瞬間魔法を詠唱する。

『レビーテション』を子爵の握っていた杖に掛け、吹き飛ばす。

 

「………」

「………」

 

最初から詠唱しとけば勝てたかも知れないのに……なんでこの人無駄口が多いのだろうか。

吹き飛んでいく杖を見て、何やら悟ったような表情をしている子爵を見てそんな事を思う。

 

「ちなみに……他に何かありますか?ないなら降参お願いします。じゃないとこのまま土の中に沈めます」

「………参りました」

 

『錬金』を唱え地面を水に変え、少しだけ子爵の体を土に埋めれば降参してくれる。

良かった、首だけ地面に出す子爵を見ずに済んだ。

杖を振り、拘束を解くと、そのまま動かない子爵を置いてカリオストロ達の下へと戻る。

 

 

 

「ただいま」

「おーおかえり」

 

戻れば、カリオストロだけがニヤニヤと楽しげに笑い、他の人は唖然としていた。

何やら信じられないものを見るかのような視線で少しばかり不愉快だ。

 

「ウイルって……強いんだな」

「なんだそれ」

 

才人の言葉に苦笑する。

別に俺は強くない、ただただズル賢いだけなのだ。

 

「子爵に『偏在』を放たれてたら詰んでたし、弱いよ」

「へん……ざい?」

「分身かな。自分と同等の思考を持ち魔法まで撃てる奴」

「なにそれ……反則じゃないか!?」

「本当に強い魔法でね。撃たせない為に必死だった」

 

軽く苦笑し本音を語る。

実際にやられていたらジリ貧で負けていた。

子爵クラスの敵を()()()()()複数も相手にするとか考えたくもない。

やりようによっては勝てるが、褒められた戦い方ではないので人目が多いところでは出来ない。

 

「怪我は……する訳ないわよね」

「むしろ子爵の方が大丈夫かな……氷の上に落ちたから少なくとも打ち身はしてそうだ」

 

ルイズがペタペタと体を触ってきて怪我を確認する。

何もされてないので怪我などある訳もなく無事だ。

俺より、先ほどから動かない子爵を診て上げた方が良いと思うのだが……。

 

「あぁー……なんだ。前々からあれは考えて……?」

「二日前に考えて、昨日朝に友達に頼み相手にしてもらい実践しました」

 

公爵が聞いてきたので素直に答える。

 

「まだ四つほど策はありますけどね」

「………あっ、子爵が倒れたわね」

 

キュルケの言葉に振り向けば、立とうとしていた子爵が膝を突き崩れ落ちるように地面に戻る様子が見える。

ごめんね、子爵。あと4回ほどならアナタに勝てるんです。

これに懲りず頑張り、越えることを願ってます。

 

「ところで先ほど『投げナイフ』使いましたけど……どうなのでしょうか?」

「文句を言う奴も居るかも知れんが戦術面では画期的だな。()()()()()()なんかは嬉しがるだろう『呼んだか?』……む」

 

子爵から目を離し、公爵へと問いかける。

自分でやっといてあれだが、ハルケギニアの価値観だと、どう判断されるか分からない戦術なのだ。

その事を問い公爵が答えていると後ろから声が掛かる。

 

公爵の後ろには、少し薄れた金髪をした中年が立っており不思議そうにしている。

何処となくギーシュに似ている雰囲気を持つ人で話とか合いそうだなと密かに思った。

 

「グラモンか……なに、ワルドとウイルが決闘をしたのだ、面白い結果になった」

「模擬戦です。公爵」

 

何時の間にか決闘扱いとなっていたので訂正する。

口を出したせいで此方に注目をされお辞儀をした。

 

「ウイル……?」

「トリステイン魔法学院所属のウイル・ツチールと申します」

「ウイル……ウイル……何処かで聞いたような?」

「元帥の息子である、ギーシュとは仲良くしていただいています」

「あぁ……そうだ。ギーシュから話を聞いた事が」

 

そう言って元帥が後ろを振り向き、立っていた()()()()へと視線を投げかける。

 

「やぁ、ウイル。行き成り決闘なんて頑張るね」

「決闘じゃないよ。模擬戦だギーシュ」

 

ギーシュは此方ににっこりと笑いかけ軽口を叩く。

ギーシュの後ろにはモンモランシーも居てカチカチに彼女は固まっていた。

 

「………親父さんに会わせたんだな」

 

公爵と元帥が話をしているので自然とギーシュと会話する流れとなった。

 

「君が言ったんじゃないか。『城下町に行くなら、ついでに親父さんに顔を見せて来たら』って」

「言ったけどね。別に彼女を紹介しろと言った訳ではないのだけど」

「そうなのかい?てっきりそれかと……」

 

個人的に会いに行けと言っただけなのだが、どうやら勘違いをしていたらしい。

モンモランシー嬢、ごめん。

随分と気まずい時間を過ごしただろうに……。

 

「まぁ、いいか。いずれ紹介もしただろうし。戦った相手はワルド子爵かい?」

「あぁ」

「そうか、君の事だから勝ったんだろうな」

「勿論、昨日のギーシュの犠牲のお蔭だ」

「へ?……勝ったの?」

 

ニヤリと笑い、昨日のギーシュの滑りっぷりを思い出す。

ギーシュ自身は、あれを受けた身であり、俺が勝つことを疑問にも思ってないみたいだ。

逆にモンモランシーは口を開き唖然としている。

 

「わ、ワルド子爵って……あの『ワルド様』?」

「あのってのが分からないが、グリフォン隊隊長のワルドならそうだよ」

「あなた……ラインよね?」

「ラインだね」

「嘘よっ!?」

 

モンモランシーの悲鳴の様な声が通路に木霊し、何事かと全員から注目を受ける。

注目された本人ははっとなり、口を両手で隠すと此方を睨んでくる。

叫んだのは其方なのだから俺を睨むのはお門違いだろう。

 

「嘘ではなく、勝ったよ」

「何処も怪我してないじゃない」

「魔法受ける前に倒したからね」

 

じろじろと人の体を眺めてくるモンモランシーに苦笑する。

これもまた、固定概念の弊害だろうな。

魔法を重ねられるほど強いと認識されてるせいか信じられないのだろう。

 

モンモランシーの認識も当たってはいるのだ。

魔法を重ねれば『偏在』のような強い魔法も扱えるので強いと言える。

しかしだ。コモンマジックだって、今回のように使い所を間違わなければスクウェアクラスの魔法と撃ち合える。

結局の所、使う人によって変わるのだ。

 

「信じられないだろうけど……『勝ったのは事実だ』……ですね」

 

言おうとした言葉を言われてしまった。

声の方へと向けば、元帥がニヤニヤと笑って此方を見ている。

 

「ヴァリエールから話は聞いた」

「……そうですか」

「これから学院に?」

「えぇ……帰ります、なので戦術の件ギーシュに聞いて下さい」

「ん?」

「ギーシュとは毎日のように一緒に訓練してまして、俺の事をよく知っています」

「そうか!そうか!!」

「あれ?」

 

元帥は自分の言葉に嬉しそうにしギーシュの手を引っ張っていく。

戦術の件を聞きたくてしょうがなかったのだろうが、これから帰るのでギーシュを犠牲させてもらった。

流石に王宮に寝泊りとか嫌である。

主に何か核級の地雷を踏みそうで怖い。

 

「モンモランシーはこっちで連れてくからなー!!」

「頼んだー!!!」

 

残されたモンモランシーが居たので此方で引き取る事にした。

流石にこれ以上は気まず過ぎるだろう。

 

「公爵、時間が押していますのでそろそろ……」

「そうか、子爵のほうは私が何とかしておこう」

「お願いします」

 

そういえば、まだ落ち込んでいたのか。

広場で寝ている子爵をもう一度だけ見てから王城を後にした。

結局の所、時間もなくなり仕立て屋でカリオストロと才人の洋服を受取った後、夕食を済まし帰ることにした。

 

 

 

 

 

 

 

 

☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆

 

 

 

 

 

 

 

 

「それにしても参ったな」

「ふぁ~……何がだ」

 

夕食も終え、帰りの馬車の中でウイルが呟く。

その呟きに答えながらも辺りを見渡すと他の奴等は寝ているようだ。

学院の都合上、街に中々行けないのではしゃぎ過ぎて疲れたのだろう。

 

「結婚しないと思ってた」

「そうか」

「コルベール先生見たいにさ……。何処かの小屋で一人で研究に没頭する物だと思ってたんだ」

 

見上げれば、ウイルは隙間から空を見上げていた。

その顔は、何処か遠くを見ていて……。

 

「実感湧かないか?」

「あぁ、湧かない。ルイズの事は好きだよ。でも……」

「………」

 

辺りをそれとなく見渡し、ルイズを見つける。

ルイズは、貰ってきた衣服をクッションにし寝ていた。

 

「恋愛感情じゃない」

 

ルイズが少しだけ動いたように見えた。

暫くの間、ルイズを見るも規則正しく肩を上下に動かしていた。

視線をウイルへと戻し、続きを促す。

 

「なんでそう思う」

「ん~……小さい頃に好きになった子が居たんだ。その子と良く遊んでさ。お互いに好きだった」

「………」

「その子は引越しで遠くに行ってしまってそれっきり。その後も色んな人に会って付き合って、別れて……それでも結局()()()()その子を忘れられなかった」

「………」

「今でもたまに夢に見るんだ、()()は気付けなかったけど……本当に本気で好きだったんだ。そして理解した、これが『愛』なんだってね」

 

そこまで言うと恥ずかしくなったのか、ウイルは『女々しい奴だろ』と言い頬を掻く。

 

「残念だけどルイズにその感情を抱いてない」

「なるほどな……六十年近く経っても忘れられない相手か……強敵だな」

「あはははは………それにしても知ってたんだ。()()()()()

「体は騙せても魂までは騙せねー。お前の魂は年老いたソレだ」

 

そういうと、ウイルは胸に手を当て『こればかりは無理だな』と笑う。

苦笑するウイルを見て、心がざわめく、何処か幸せそうな顔で……イラついた。

 

「カリオストロ……?」

「ちっと疲れたから寝る」

「そうか……おやすみ」

「あぁ……」

 

それだけ伝え、背を預け目を瞑る。

暗い暗い闇の中で思考する。

自分には忘れられない存在が居ただろうかと――思い出そうとするも誰も思い浮かばない。

 

六十年と二千年、ウイルとカリオストロには大きな差がある。

二千年も生きてきた自分が忘れていても仕方が無い………それは分かってる。

それでもウイルならきっと覚えているだろう。

二千年経ってもきっと……その子の事を……。

 

そこまで考えて急に胸が苦しくなった。

ぎゅっと縮むような感覚で涙が溢れそうになる。

 

『■しい』『寂■い』『■■い』

 

様々な負の感情が心を支配した。

 

「……!」

 

そんな感情に囚われていると不意にウイルに抱きしめられる。

目を開き驚き上を見上げれば、ウイルの澄ました表情が見えた。

 

「なっ―――「まだ……寒いしね」……」

「そうか……落ちないようにしっかりと抱きしめておけよ」

「あぁ」

 

何かを言おうとして言葉を遮られた。

ほんの少しだけ、自分の抱いた感情を告げようかと思うも口を閉じ目を瞑る。

告げてもどうにもならない。そう決め付けた。

 

 

目を瞑るとウイルの体温が自分の体へと移ってくる。

 

あぁ、暖かい。火とは違う暖かさだ。

心地よく、くすぐったく……気持ちが良い。

それでも……それでもきっと―――オレ様はこの暖かさを忘れるだろう。

 

今度こそ本当に眠りに就く。




《風は偏在する!!》
お馴染みのアレである。
意外にも詠唱が短く、凶悪な魔法。
これを放たれたら大変なので完封をした模様。

《フル・ソル・ウィンデ、レビテーション》
お馴染みの物を浮かせる魔法。
これは他の人にも作用し大変便利である。
片足を引っ張り、転ばせる。
スカートを捲るなど様々な用途で使用可能。
錬金に続いて第2位の使用率を誇る魔法。

《何やら悟ったような表情》
ワルドは、真顔になりました。
人生はこんな筈ではと嘆き、哀しみ悟る。
理不尽の根元に出会い、ちょっかいをかけたのが運のツキ。
この後も何度も悟るだろう。

《子爵の体を土に埋めれば》
最後の最後まで油断はしない。
相手を完璧に動けなくするまでが決闘です。
ここで降参しなければ顔から下は本気埋める気でいた。

《「ただいま」「おーおかえり」》
もっとも信頼するあなたへ、ただいま おかえり

《こんな所で複数も相手にするとか》
場所が場所なら誘導してふるぼっこだドン!
隠れる所がない場所だと厳しい物がある。

《褒められた戦い方ではない》
ワルドを盾にしてワルドの攻撃を防いだり。
レビテーションの魔法でワルドの杖先を他のワルドに当てるなど。
他にも逃げて物陰に隠れ暗殺なども上げられる。
勝てばよかろうなのだァァァァッ!! を素でいくウイル君。

《氷の上に落ちたから》
ワルドの足元を氷にした為、彼が落ちる場所もまた氷である。
寒い冬に思いっきり転んだ時は泣くほどに痛い。
作者は暫く動けなくなり、その場で泣いてました。

《ルイズがペタペタと体を触ってきて》
役得である。ルイズが……。

《ごめんね、子爵。あと4回ほどならアナタに勝てるんです》
これが実力差である。絶望するがよい。

《主に何か核級の地雷を踏みそうで怖い》
帰った数分後にお花畑が登場した模様。
地面に寝ていたワルドを見て引いていた。

《最後までその子を忘れられなかった》
ウイルの愛情は重い。
振られる事もなく、最後の言葉を言えなかったことが心残り。
故に、忘れず/忘れられず……ひたすらに想い続ける。
初恋の人はいつまでも忘れないものである。

《『■しい』『寂■い』『■■い』》
ひたすら孤独で過ごしてきたカリオストロだからこそ、理解出来なかったもの。
ウイルと触れ合い、ルイズ達と出会い、少しずつカリオストロもまた成長する。

《まだ……寒いしね》
いつか、かっこつけて言って見たい……と思うから駄目なんだと思った。
自然と出てくる言葉こそが本当にかっこいいのだ。

《オレ様はこの暖かさを忘れるだろう》
永遠を生きれるカリオストロだからこその言葉。

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。