凡才錬金術師と天才錬金術師   作:はごろもんフース

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十七話:これが私の御主人様

「些か、人が多いようだが……」

「すいません、学院の友人でして」

 

隣に居た男性を見て、肩を落としたが切り替えていく。

なってしまったものはしょうがない、この為に徹夜して作戦も考えたのだ。

どうにでもなれ。

 

「………?………!?」

(あっ、気付いた)

 

公爵は、イタズラめいた顔で友人達を見渡していたが、1人の少女に目が移った際に困惑の表情となる。

1人の少女――タバサに目が行った際、次第に口を大きく開け顎が落ちそうなほどに驚いていた。

タバサの正体に気付いたのだろう。

驚くのも無理はない。

 

娘と俺を呼んだら、ガリアの姫君も付いてきました。

意味が分からないだろうな。

俺も意味が分からない、いや……タバサの態度でなんとなく察してるけど、考えたくない。

これ以上厄介事を抱えて胃を痛めたくない。

青髭のおじ様に監視されてるとかナニソノ死亡フラグだし。

 

気付いて反応すれば、過剰に反応を返されそうでしょうがなく放置をしている。

諦めてくれないかなー、無理かなー。

 

そもそもタバサの態度があからさまなのだ。

()()()()()()()()()()()ような事をずっとしている。

勝手に部屋に入り、本読み漁り、居つき、俺の好きなハンモックを奪う。

全てが俺に対する嫌がらせ、自分を追い出せと……そう言ってる風に見えた。

 

キュルケが才人にくっ付いているので、俺を監視すればキュルケにも被害が行く可能性がある。

と考えての事だろう、そうでないと俺に懐く理由がない。

 

「あー………」

「ごほん、彼女達は学院の級友でして、キュルケと……」

「キュルケ・アウグスタ・フレデリカ・フォン・アンハルツ・ツェルプストーと申します」

「ツェルプストー……?」

 

今度は別の意味で表情が困惑となった。

そりゃそうか、お隣同士で因縁があるツェルプストーの娘なのだ。

タバサ同様に一緒に居る意味が分からないだろう。

そのまま頭を痛めて欲しい、俺の胃と同じぐらいに。

 

「そしてキュルケの友人であり、()()()()()()()()()タバサです」

「ガリア………タバサ?」

 

意趣返しも済んだし、フォローを入れる。

賢い人なので名前を言えば察してくれるだろうと思えば、その通りだ。

名前の部分で俺を見つめてくるので頷く。

 

「そうか……いつも娘がお世話になっている。これからも良く付き合ってくれ」

「えぇ……分かりましたわ」

「んっ」

 

気を取り直し公爵が人の好い笑顔で二人へと申し出る。

それをキュルケとタバサは特に何も言わず素直に頷く。

自分達が押しかけた側だという事を理解しているのだろう。

 

「それでヴァエリエール公爵……其方の方をご紹介してくれませんか?」

「おお、すまない。忘れていた」

 

ワルド子爵ぇ……。

婚約者に忘れられ、その父親にも忘れられるとか可哀想だなこの人。

ワルド子爵も頬を引き攣らせてるし。

 

「ジャン・ジャック・フランシス・ド・ワルド。グリフォン隊の隊長をしている者だ。そして……『ルイズの婚約者』さ」

 

帽子を取り、華麗にお辞儀をしてにっこりと笑う。

その姿は男性の俺でも唸らせるほどかっこよく様になっていた。

これでしっかりとルイズと連絡を取ってれば完璧なのに、何処となく残念だ。

 

「あー………オヒサシブリデス。ワルド様」

 

子爵の考えでは、この場面でルイズは婚約者を意識し顔を真っ赤にさせ俯き、もじもじとしたのだろうけど。

現実はそうはいかない。

ルイズは二日前まで忘れていた己の婚約者に罰悪そうに視線を泳がせ空笑いをしている。

何処となく、口に出した言葉もカタゴト交じりに聴こえた。

 

「……?」

「あはははは」

 

ルイズの態度を見てワルド子爵も不思議そうだ。

むしろ今まで連絡取らずにいた婚約者に対してはましな反応だろうに。

 

「よろしくお願いしますね。子爵様」

「あぁ……公爵から君の話を()()()()()()()()

 

一体、どんな話をしたのだろうか、俺の話なんて数分で終わるような事だろう。

ラインメイジで男爵家のツチール家次男坊で変わり者。

ほら………数分も要らないな、むしろ10秒も要らない。

 

「それで公爵様、今日のご用件の程をお聞きしても?」

「あぁ、何少しの会話と手紙に書いてあった使い魔が気になってね」

「そうでしたか」

 

『娘を欲しくばこやつを倒すが良い!!』とか言われるのかと思い構えていたが、そうでもないらしい。

ほっとしつつも思考し、こうなるのも当たり前かとも思った。

人間を召喚し、あまつさえ名前を貸して欲しいと言われるほどの使い魔。

興味が惹かれて当たり前だろう。

 

「カリオストロ」

「んっ」

 

名前を呼び、近くに来るとカリオストロがフードを……外さない。

いや、顔を見せる為に呼んだのだが、カリオストロが分かってない筈もないしと考え、不思議に思い覗き込む。

 

「………」

「………」

 

カリオストロの顔を覗きこみ察した。

カリオストロは此方を見てニヤニヤと意地の悪い笑みを浮かべている。

 

-分かってるだろう?察せ-

「………」

 

そんな事を視線で投げかけてくるので、ため息を付きつつもリクエストに答える。

カリオストロのフードに手を掛けると恭しく自分がフードを取った。

つまりは……自分で外すより、他人から外された方が印象強いと言うことだろう。

 

「っ―――」

「――――」

 

フードを取り外し、顔を晒せば公爵と子爵が固まる。

まぁ、無理もない。

綺麗に全てが整えられて完璧なのだ、完璧過ぎるのだ。

 

髪の毛1本1本にも気を配り、()()()()()

身長が低く、子供と間違えられる以外はほぼ完璧だ。

誰もが将来絶世の美女になるだろうと確信するほどの美貌。

見惚れるのも仕方がないことであった。

 

「……お父様、ワルド様?」

「―はっ!」

「いやいや、うむ。うむ……な、なるほど公爵家の名が必要だと良く判った」

「………」

 

女性陣の冷たい視線に晒され、二人は急いで取り繕う。

やっぱり、公爵も人間なんだと再認識した。

ルイズに縋り付き、夫人に言わないように説得している公爵を見てそんな事を思った。

 

 

 

 

 

 

 

「もうこんな時間か、遅くなる前に帰りなさい」

「そうですね。お暇させてもらいます」

 

あれからお茶を出され、皆で座り話し込む。

話と言っても婚約などの話は一切せず、ただ『学院の生活』や『使い魔』の事等当たり障りもない事だ。

本当にカリオストロの顔を見るだけに呼んだのだろうか、もしくはルイズに会いたかっただけか。

 

「少しいいかい?」

「ワルド?」

「ワルド様?」

 

そんな事を思っているとワルド子爵に呼び止められる。

ここに来てきたかと思うも、そんな事をおくびにも出さずに不思議そうに首を傾げる。

 

「君の実力が知りたい」

「………はぁ」

「これほどまでに公爵に気に入られる君が気になってね。少し話しただけで、君が聡明だという事は分かった。なら……魔法の腕はと思ってしまってね」

「ワルド子爵ほどではありませんよ。ラインメイジですし」

「何、それならそれで構わない。将来の為に経験を積んだと思ってくれればいいよ」

「そうですか」

 

そこまで言われて考え込む。

正直な話、戦う事自体は構わない。

元よりその気でやってきていたので準備も出来ていた。

問題なのは……勝つか負けるかだが。

 

「分かりました。やりましょうか」

「そうか!」

「ウイル?」

「うん、スクウェアメイジと戦う機会なんて滅多にないからね」

 

心配そうに寄って来たルイズの頭を優しく撫でる。

 

「公爵様、構いませんか?」

「ふむ……あい、分かった。訓練場を借りるとしよう」

「ありがとうございます」

「それでは、先に行っているよ。許可も取っておく」

 

それだけ言うと子爵は、公爵に頭を下げ微笑み出て行く。

 

「ウイル……大丈夫かよ?」

「問題ないな」

 

子爵が居なくなると才人が心配そうに聞いてくる。

流石に公爵の前で俺を殺すようなこともしないだろうし、重症を負わせるような事もないだろう。

本人としては、自分との実力差を知らしめる為に軽く捻るといった所か。

 

「怪我しないでね?」

「多分」

「随分落ち着いてるのね?」

 

扉を開け、公爵に案内されるまま付いて行くとルイズとキュルケに声を掛けられる。

先ほどから皆に心配され続け、苦笑する。

心配される事がむず痒く、少しだけ悲しかった。

自分が負けると思われている事に対して若干気が落ちる。

 

「ねぇ、カリオストロも何か言ったら?」

「言うって何を?」

「ほら、怪我しないでね。とか頑張ってね!とか」

 

ルイズがカリオストロへと声を掛けた。

先ほどからフードを深く被りなおしたカリオストロは、特に何も言わず。

心配もしてなさそうだ。

その事に少しばかりルイズがイラついてるように見えた。

 

「心配ね……するわけないだろ。どうせ()()()()()()()()

「え?」

 

カリオストロが何気なく言った言葉に微笑む。

 

「そうだろ……ウイル?」

「あぁ……そうだね、カリオストロ」

 

カリオストロは、フードを少しだけ上げて視線を合わせてくる。

紫色の綺麗な眼をしっかりと見つめ返した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「大丈夫かよ。あいつ」

「無茶しなければいいけど」

「流石にね?」

「………」

 

訓練場に着けば、既に髭子爵が真ん中に立ち待っていた。

それを見た瞬間、笑いそうになるのを堪える為に口を押さえる羽目になる。

かっこつけている髭を見て笑いを堪えているとサイト達が見当違いな事を言い出し、更に笑いそうになった。

 

「くくく……」

「カリオストロ」

「あぁ、わりぃ……笑いが漏れた」

「カリオストロ!?」

「甲高い声で叫ぶな、耳が痛い」

「あのね!」

 

我慢が出来ず、笑いが漏れるとルイズに睨まれ怒りをぶつけてくる。

 

「はっ、お前こそアイツの強さを知らねーのかよ」

「え?」

 

驚くルイズを見て本当に知らないのかよと驚く。

毎朝ギーシュと模擬戦をしているのを見てないのかと。

 

「あいつは負けねーよ。ほら始まるぞ」

「………」

 

此処まで言っても他メンバーの顔は優れない。

それほどまでにこの世界では魔法の優劣がハッキリとしているのだろう。

公爵の顔を覗くように見ても半信半疑のようだ。

 

「それじゃ金貨を弾く。地面に落ちたら始めでいいね?」

「分かりました」

 

少し前に見た決闘の始まり方にサイトの方をチラっと見る。

サイトは、少しばかり眉を潜めた。

自分の事を思い出したのだろう。

 

キンっと音が聞こえコインが空中に浮かぶ。

全員が見守る中、コインは特に何事もなく、地面に落ち、二人が動く。

 

先に動いたのはワルドだ。

ワルドが真っ直ぐウイルに杖を向け、口を開く時にウイルが丁度杖代わりの籠手をワルドに向ける。

 

この場の誰もが、ウイルが間に合わずワルドの魔法が先に完成すると思っていた。

そう思っていた、ウイルが行動に移すまでは。

ウイルは、籠手を持ち上げたと同時に()()()()()()()何かをワルドに投擲した。

 

「くっ!」

 

呪文を詠唱しようと口を開いていたワルドは、詠唱をしながら体を逸らす。

さすがは隊長をしているだけあり、反応も良い。

だが……

 

「は?」

 

ワルドが体を逸らした瞬間、彼が宙へと浮かぶ。

丁度空中で寝そべるような体勢で暫く留まり、地面にそのまま胴体から落ちた。

見ていた誰もが口を開き唖然とするのもしょうがない。

 

誰がどう見てもワルドが、体を逸らし足を滑らせ転んだようにしか見えないのだから。

 

「くっ」

 

ワルドから苦痛に呻く声が聴こえる。

彼自身転ぶと思っていなかった為、受身を取れず体をしこたま打ったのだろう。

その衝撃のせいで詠唱も途切れたようだ。

 

『アースハンド』

「なぁ?!」

 

訓練や実践の経験だろう。

ワルドは転びながらも素早く体を動かそうとして()()()()

 

「『錬金』……これでお終い」

「………」

 

土で出来た手に囚われ、逃げ出そうとするも慈悲のない声が響く。

土で出来た手は、土から鉄へと変化させ完全に動きを止めた。

ワルドが、もがくも鉄を払いのけるほどの筋力もなく、次第に諦め動きを止めた。

 

「………えっと、ラッキー?」

「馬鹿か。何がラッキーだ……あれは実力だ」

 

あっという間に幕が下ろされ、誰もが呆気にとられる中、サイトが見当ハズレの事を言った。

 

「あぁ……運も実力のうちっていうしな」

「アホ、あれは狙ってやってんだよ」

「へ?」

 

微妙な場の空気を変えようとするサイトを一刀両断する。

場の空気を変えようとしたサイトは偉いが、流石に検討外れの事を言われれば文句も出てくる。

 

「まずは……最初に投擲しワルドの体勢を崩す、その後籠手を上げる間に唱えていた『錬金』でワルドの足元に『氷を練成』」

「………氷を?」

「そうだよ、葉っぱであんな勢い良く滑るわけないだろ」

 

呪文を唱え魔法を撃つより物を投擲した方が断然に速い。

しかも詠唱を唱えながら投げれるので効果的だ。

 

ワルドは多分、魔法で打ち落とすか避けるかで悩んだろう。

しかしだ、ウイルが呪文を詠唱している事に気づき、避ける事を選択した。

魔法で投擲物を排除すればウイルの魔法の餌食になると考えての事だ。

 

だが、それもウイルの策の内だ。

唱えていたのは『錬金』、足元に氷を『練成』し滑らせ転倒させる。

あとは、拘束の魔法を詠唱してお終いだ。

 

「どれだけ凄い魔法を使えようがよー……唱えさせなければ問題ないよな?」

 

物を使い、頭を使い、魔法を効率良く使う。

これが―――

 

『これがオレ様の御主人様だ』

 

ニヤリと笑い自慢げに胸を張った。




《門番》
キュルケとタバサを通したお人。
タバサには気付いていたが、公爵にお呼ばれされているので華麗にスルー。
色々と上の人はあるんだろうなと思い首を突っ込まなかった。

《タバサバサ》
最近、ウイルにイジワルをしてくる青い悪魔。
この青い悪魔は、青髭の叔父様と繋がっていて更に面倒だ。
彼女の目に触れた事は全て青髭の叔父様に連絡が行く模様。

《青髭の叔父様》
何処かの国の有能な狂った王様。
自分が人を召喚したので、他にも呼び出した人が居るのではと思い、タバサに連絡すように伝えていた。結果、二人見つかり興味津々である。
今回の決闘の報告受け、ワルドの滑り具合に大笑いした。
そのうち、ウイル君にアプローチしようと考え中。

《意趣返し》
胃を痛めつけてくるアナタへ。
タバサとキュルケが呼ばれてない事をわざと告げなかった。
宿敵の娘とガリアの姫君、この二人を連れて行ったのはわざとである。

《察しろよ、公爵》
タバサの偽名で名を隠していることに気付く。
気付いた公爵はただの娘の友達と扱い事を得た。

《髭子爵》
婚約者にも公爵にも忘れられた存在。
かっこいい所見せ様と頑張った結果、滑って転んだ。
子供相手に大人げないような事はしないほうがいい。

《オヒサシブリデス。ワルド様》
二日前まで忘れていた婚約者。
いろいろと思うところもあるが、今は幸せです。
アナタも幸せになれるといいですね!

《分かってるだろう?察せ》
1週間程度の付き合いだが、なんとなく意思疎通が可能。
可愛さを求めるカリオストロのため、今日もウイルは使いまわされる。

《ワルド子爵ほどではありませんよ。ラインメイジです》
勝てますけどー!
はは、ざまぁwww
とは思っておらず、ただただ面倒だな。この人と思われた。

《どうせウイルが勝つんだ》
朝の訓練は見逃さず見学中。
ルイズがすやすやと深い眠りの中、ギーシュとウイルはひたすら己を磨き続ける。
守るべき人の為に……。

《甲高い声で叫ぶな、耳が痛い》
くぎゅうボイスなのでご褒美です。

《投擲》
よーい、ドンっ!で始まる決闘で最初に投げれば、ほぼ決まる。
不意もつける上に相手に当たらずとも詠唱を中断できる優れ物。

《足を滑らせた》
氷で納得できないなら『レビテーション』で相手の足を掬ってしまえばよし。
マジ便利、まじで便利。

《これがオレ様の御主人様だ》
別に借金があるわけでもないし、メイドでもない。

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