カリオストロ歓喜!
「いった!?」
「うるさい!我慢しなさい。痛くないわよこんなの……慣れよ慣れ」
サイトが悲痛な声を出し尻を押さえる。
それをルイズが注意し、サイトは渋々とまた座り込んだ。
「なぁ……これって、もうちょっと揺れ抑えられないか?」
「無理ね。これでも、ましなほうよ?」
「まじかよ……あいたっ!?」
そんな話をしていると大きな石を乗り越えたのだろう。
大きな音を立て馬車が振動した。
そのせいで乗っていた人達の体が少しだけ宙に浮かび、打ち付けるように床に落ちる。
腰を打ち付けて痛がる姿を膝の上から静かに見守る。
「っ~~~~~!!」
「やっぱりお前も痛いんじゃないかっ!」
「うっさい!こんなの痛いに決まってるでしょ!!」
お尻を押さえルイズもまた悶絶、それをサイトが咎めた。
何と言うか……何処でも喧しい二人組みだ。
オレ様達の冷静さを少しは見習って欲しいものだ。
「あ、呆れた表情で見てるけど……あんたはズルイからね!?カリオストロ!」
「あ~~?……オレ様の何処かズルいと?」
呆れた表情で見ていたせいか、此方に飛び火がかかる。
どうにもならないからと言ってこっちにイライラをぶつけるなよ。
まったくもって面倒な。
「あんたはウイルの膝の上に座ってるから問題ないでしょうけど!痛いのよ!これ!」
「あぁん?それこそ知らねーよ……お前も座ればいいだろ」
馬車の構造を見てこうなる事は予想できたのだ。
乗り込んだ瞬間にウイルの膝上を確保したオレ様を見習えば良かっただろうに……しなかったルイズが悪い。
「ほら~ルイズも座ればー……あぁ~……
「えぇ、えぇ……で、出来ないのよね」
ルイズはオレ様同様に小柄な体型だ。
詰めればウイルの膝に二人座る位余裕だと考えたのだが、それが出来ない事も同時に理解する。
そういえば……だ。
「…………」
「なんでタバサが座ってるのよ!!」
珍しく怒りを隠さずルイズが吼える。
それほどにイライラが溜まっているのだろう。
ガーッと怒りを撒き散らし怒るルイズをタバサは静かに見て、また視線を本へと落す。
こいつもこいつで結構図々しいよな。オレ様が乗った瞬間すぐに確保しやがった。
「っ~~~~~~~~~~○×△QЬ<Я!!!!」
「言っとくけどオレ様は譲らねーぞ。痛いのが嫌ならサイトでも尻に敷いとけ」
タバサの態度でルイズが言葉にならない声を出す。
こいつこんなに感情剥き出しに出来たのな。
頭を掻き毟るルイズを見てそんな感想を抱く。
ウイルの前では、乙女乙女してるくせにウイルの意識がない時はこうなるのか。
「サイトッ!!って……は?」
これ以上怒ると寝ているウイルを起すと判断したのだろう。
ルイズは怒りを抑えサイトへと振り向く。
サイトで妥協をしたのだろう、そこまでは良かった。
問題は……。
「なんでキュルケが乗ってるのよ!」
「私だって痛いもの、ダーリンに乗せてもらって何が悪いのよ?」
「やわらか……痛い!?」
既にサイトの上にキュルケが乗ってる事だ。
オレ様達の話を聞いて乗っかったのだろう。
ルイズ同様痛そうにしてたしな、膝の上には限りもある。
ルイズの気が逸れている間に奪ったか。
「それにしても………」
「………」
ルイズとキュルケがサイトを挟み騒ぎ出す。
そんな喧騒の中、上を見上げる。
「こいつ起きねーな」
上にはウイルの顔があり、これだけの騒ぎと揺れの中平然と寝ていた。
見上げ頬を引っ張っても特に反応もない、すっごい慣れてやがる。
「退きなさい!」
「い・や・!」
「あいたっ!?」
取り合えず……さっさと町に着かねーかな。
目の前で騒ぐ3人を見て、ため息をついた。
「……僕の膝の上も空いて……あいたたた。モンモランシー!?」
「余計な口を開くのはこの口かしら?」
ついでに言えば、隅のほうに居たギーシュと金髪巻きガールも騒がしい。
貴族とは、優雅さとは一体何だったのだろうか?
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「ふぁ~~~……ん~~~!!」
「よく寝れたな……ウイル」
「あ~……はふ、悪環境で寝る事に慣れてるからな」
2時間半もの道のりを終え街に着くと辺りを見渡す。
これがトリステイン最大の街か……なんかちっこい。
「なぁ……これが『トリステイン王国王都トリスタニア』?」
「あぁ、ここがそうだ。この路地裏を抜ければ最大の市街通り、『ブルドンネ街』に行ける」
路地裏ならこんな物かと思い後ろを着いていく。
ちなみにキュルケとタバサも着いて来ており、一緒に来る気満々だ。
ギーシュと巻きガールは、デートに出かけていない。
「まずはっと……武器屋行って、それからお昼を取って王城かな。終わったら仕立て屋行って帰る」
「おい、オレ様の研究機材はどうした」
「発注済み……お蔭で3年間溜めていた金貨が吹っ飛んだ」
大きなため息と共にウイルががっくりと肩を落す。
コレばっかりはしっかりとして貰わねばいけないのでしょうがない。
オレ様が研究をするのだ。小ぢんまりとした機材などではやる気が出ない。
「ほら、フード被って」
「はぁ……分かってるよ」
歩き出そうとするとフードを被せられる。
姿が姿だけに隠そうとなったのだ。
オレ様自身、面倒事は嫌だが……こう隠れるのもなんだかな。
「あれ?市街通りに行くんじゃ?」
市街通りへ出ず、裏道を進むウイルにサイトが声を掛ける。
賑やかな声を聞こえる通りが直ぐ傍にあるのに何故裏道を行くのだろうかと疑問に思ってのことだろう。
「武器屋は路地裏にあるんだ。それに市街通りは人が多くてな……この人数で歩くのはきつい」
「なるほど」
「と……ここだ」
狭い上に悪臭が鼻につく路地裏を暫く歩くと一軒のお店の前に辿り着く。
銅製の剣の形をした看板がぶら下がっており、目的の場所だと一目で分かる。
「邪魔するぞ」
「お~~!!なんかファンタジーっぽい!」
「ふあんたじー?」
石段を登り跳ね扉を開け、店の中へと入る。
お店の中は昼間だと言うのに薄暗く、ランプの灯りだけが頼りだった。
壁や棚には幾つもの剣や槍といった物が乱雑に所狭しと置かれ、その横には立派な甲冑が飾ってあった。
「ありゃ……旦那、随分早いですね」
「この後、王城へ出向く事になっててね」
「王城へ!旦那何かしたんですかい!?」
「あぁ……うん。まぁ……面倒事」
奥へと進むとパイプを吹かしていた五十がらみの親父が、ウイルへと話しかける。
話の内容的に前もって来る事を伝えておいたようだ。
相変わらずこういう所で気が利く。
「
「へい、既に用意しております」
カウンターの前へと行くとウイルが名前を告げる。
剣の名前だろうか、記憶を探り幾つもの武器の名前を思い出すも該当するものはなかった。
辺りを見渡しながらも大人しく待っていると親父がカウンターの下から布に包まれた一本の剣を取り出す。
「サイト!」
「おぅ?」
ウイルがサイトを呼ぶ。
辺りを見渡し、手にしていた剣を棚に置くと嬉しそうに駆け寄る。
学院を出る前に自分の剣を買うと伝えられていたので楽しそうだ。
「こいつ?」
「そう、こいつがお前に用意した剣……『デルフリンガー』だ」
「これ?」
「これ」
だが、そんな嬉しげなサイトもカウンターに辿り着く前までだ。
カウンターに置かれた剣を見てサイトは何度も何度も聞き返す。
「ボロボロなんだけど……」
錆の浮いたボロボロの剣をサイトが受取り持ち上げる。
(あぁん?………はぁ?!)
それを見て叫びを上げそうになった。
なんだあれは……?
何でこんな所にあんな物がありやがる!
サイトは気付いてない様だが、オレ様は分かる、
『剣に込められた魂』が、はっきりと見えている。
「ボロボロだけど一級品だよ……。
(こいつ……知ってやがったな)
驚くオレ様を見て、イタズラが成功としたとばかりにウイルがウインクを飛ばす。
そんなウイルの態度にギリっと歯を噛み、気持ちを抑え聞く。
「おいおいおい、まさか。まさか――?」
「そのまさかさ……この世界にも居るんだよ『
吼え高鳴る気持ちを押さえ、聞き返せば欲しい言葉が返ってくる。
天才、オレ様レベルの奴がいるだと?
それは――それは――とても―――とても!!
(あぁ……!!胸が躍る!!高鳴る!!)
胸の内が熱くなる。
ドクンドクンと心臓が強く胸を打ち、燃え盛る業火のような熱が体中を燃やし尽くす。
血管一本一本を熱い熱が通り過ぎオレ様を駆り立てる。
(無機物に『魂』を吹き込むだと……?なんだそれは、オレ様でも思いつかなかった事だ!狂ってやがる、この剣を作った奴は狂っている!!)
歓喜で顔が歪む。
自分でもやったことがないような事態が目の前にあるのだ。
天才だと思っていた、自分の横に並ぶ物は居ないと自分の先に居る者はいないと。
だが、実際はどうだ?目の前の剣はなんだ?
オレ様でも
(ははは――いいだろ、この挑戦受けてやる。オレ様が一番だと思い知らせてやる)
天才はオレ様1人だけで十分だ。
他にはいない、横に並ぶ奴が居てはいけない、故に『乗り越え』『排除し』『跪かせる』。
(何時以来だ……オレ様が挑戦者側に立つのは……はは、アハハハハハハハハハハハ)
あぁ、楽しい、楽しい、楽しい、実に楽しみだ。
『……あの嬢ちゃん、怖いんだけど』
「ウン、ナンカスッゴクコワイ」
「そうかな……実に楽しそうで可愛いと思うけど」
「やっぱりウイルって変だわ」
笑っていると3人の声が聴こえる。
其方に視線を戻せばサイトの持っていた剣が
どうやらあの剣は喋る事も出来るらしい。
一体どうやって声を発しているんだ?テレパシーの類か……帰ったら研究だな。
『ふぁ!?ナンカ寒気が!』
「お前、剣だろうに……なぁ……ウイルもっと立派な奴じゃ駄目なのか?」
「サイトは剣を振った事ないだろ?」
「ない!」
『なんだ相棒ド素人か』
自信満々に胸を張るサイトにデルフが呆れたような声を出す。
「
「そうなのか?」
『おうよ、掘り出し物だぜ?』
「故に素人の才人に指導を行なえる訳だ。ぴったりだろ?」
「なるほど……な」
カチャカチャと鎺を鳴らしデルフが誇らしげな声をあげた。
「代金の方は……」
「へい、百で結構でさ」
「あれ……お代はウイルが払うのか?」
店主の声に従い、ウイルは懐から袋を取り出し金貨を置いていく。
サイトとしては自分の主人であるルイズが出すものだと思っていたのだろう。
不思議そうに首を傾げ、キュルケとまた言い合っている主人へと目を向けていた。
「学院からの給付金だ。スリも多いから俺が預かっていたんだ」
「スリとかいるのか!」
「居ますぜ。最近だと盗賊なんかが城下町を荒らしてます」
「……盗賊?」
「そうでさ。なんでも『土くれ』のフーケとかいう、メイジの盗賊が居るみたいです」
「へー……」
「それじゃ、また来る」
「はい、またのお越しをお待ちしております。旦那」
代金を払い、まだ言い合っているルイズ達を伴い外へと出る。
薄暗い店内に居たせいで目が慣れて日差しが眩しい。
腕で顔を隠し、そっと空を見上げた後に一言声を掛ける。
「サイト~……」
「な、なに?」
「
骨の隅々まで研究してやる。
だから、寄越せ。
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『相棒ー!相棒ー!助けてー!』
「あーあー何も聴こえない」
「いいのあれ?」
「別にいいだろ、分解しないって本人も言ってるし」
「ダーリンならもっと高い剣が似合うと思うのに」
「………」
あれからサイトに剣を受取り、探りつつ昼飯を終える。
王城へと歩きながら軽く見てみるもすごいなこの剣。
人の魂を移しただけでなく、様々な機能が隠されている。
(本気で何者だ……?『魔法吸収』『魔力を溜めた分使用者を自分で動かす』『剣が崩壊した場合、自動で他の剣に魂を移させる』……なんだこれ)
軽く調べた機能だけでこれだ。
正直、『跪かせる』とか『オレ様以上の天才は居ない』と豪語したが、顔が引き攣る。
ここまでの強敵なんか2千年以上、生きてきて初めてだ。
「止まれ、王城に何用か」
「トリステイン魔法学院に所属しております。ウイル・ツチールです。今日はヴァリエール公爵に呼ばれて参上いたしました」
「そうか、確認してくる。暫し待たれよ」
研究に没頭をしていると王城に着いた様だ。
門番に止められ礼儀正しくウイルが告げれば、門番の1人が確認に走った。
「というより、キュルケとタバサは……入れるのか?」
「えー入れないの?」
「キュルケ達は呼ばれてない上にこの国の人間じゃないしな。微妙だな」
「………」
普通に付いて来たけど、この二人は無理だろう。
お友達も入れてください!とかで入れたら正気を疑う。
そう簡単に王城には入れるなら苦労はないな。
「確認が取れた、此方へ」
暫く雑談で時間を潰していると門番が戻ってきて綺麗な敬礼をした。
その後、手を奥へと差し出し、通してくれた。
その際にウイル達がキュルケとタバサに目を向けるが特に何事もなく通れたので黙り込む。
それでいいのか、トリステイン。
「入れたな」
「入れたね」
「王……城?」
思わず、疑問を投げかけてしまう。
そんな会話を案内をしてくれる門番に聞かれないようにこそこそと話す。
「お連れしました」
『……入れ』
暫く歩くと、一つの部屋の前で止まり、門番がドアをノックした。
中から1人の男性の声が聴こえる。
男性の声は、聞くだけで重みがあり、威厳が感じられた。
門番が扉を開き、ドアノブを持って横に立つ。
入れと言う事だろう。
最初にウイルが案内してくれた門番へとお辞儀をしてから入っていく。
次にルイズ、キュルケ、タバサ、オレ様で最後がサイトだ。
中に入ると二人の男性が居た。
1人はソファーに座り、此方を見てニヤりと笑う。
何処か、イタズラ小僧めいた笑い方で中々に好感が持てそうな、中年であった。
もう1人は……髭を生やし、仏頂面で此方を睨んでいる男性。
「よく来たな」
ソファーに座っていた中年が口を開く。
その声は先ほどの扉の前で聞いた声だ。
何処から楽しげな声にウイルが肩を深く深く落とした。
デルフ、まじデルフ。
あれ作った人、カリオストロ級の天才ですよね。
むしろ……。
次回『前哨戦』