カリオストロ成分が低い……まだ恋心芽生えてないし、しょうがないね!
「……またババだ」
「ごめんなさいね、ダーリン」
「はっはっは」
キュルケからカードを一枚引くとピエロの姿が描かれているカードであった。
何処からどう見てもジョーカーで外れを引いてしまった。
「だーっまた負けた!お前等強すぎだろ!」
「ふふっ、サイトは顔に出やすいからね」
「そうねー……素直で素敵なのだけど」
結局の所、最後までジョーカーを持ち続け負けてしまった。
対戦をしていたキュルケもギーシュも強く、これで連続3回負けだ。
あまりに悔しくて体を後ろに倒し、他の人が何をやっているのかを気分転換に確認する。
自分より弱い人が居ないかを確認する為でもある。
(えっと……タバサだっけか?)
最初に見えたのは青色髪で小さな女の子、キュルケに付いて来た子であまり話をした事がない。
常に本を読んでおり、話しかけてもまったくと言っていいほど反応をしない子である。
(強そうだし……論外、ルイズ達はっと)
眼鏡を掛けており、なんとなく頭が良さそうなので別の人を探す。
次に思いついたのはルイズだ。
ルイズなら表情に出やすいのではないかと思い、探せば直ぐに見つかる。
「相変わらず触り心地がいいな」
「結構気を使ってるもの」
ルイズは大きなベッドに座り、ウイルに髪を梳かしてもらっていた。
お風呂上りの為か頬が赤く染まり笑っている姿をとっても可愛らしい。
ついでにカリオストロも居り、ウイルの膝を枕に本を読んでいた。
此方もまた、お風呂上りだ。
(邪魔したら蹴られるな、うん)
一目見ただけで幸せそうにしているルイズを見て諦める。
人の恋路を邪魔するとなんやら……流石に蹴られたくない。
(カリオストロも……駄目だな。賢いし良い笑顔でボコボコにされそう)
悪い笑みを浮かべ、ボロ負けにされる未来が見え苦笑した。
ルイズも駄目、ウイルも論外、カリオストロはやりたくない。
結局の所、自分より弱い人が見つからず諦める。
「そういえば……サイト」
「んっ……どうかしたか?」
体を起こしもう一戦やろうかと準備をしているとギーシュに声を掛けられた。
「ルイズの姉君に会ったんだって?どんな人だったんだい?」
「あー………」
ギーシュの声で言葉が詰まった。
あの強烈な姉を思い出し、なんと言おうか迷う。
出てくる言葉が全てきつめになってしまい、殆ど悪口になってしまう。
流石にそれは駄目だよなと思い直し言葉を捜すも結局の所、言葉が見つからず素直に話すことにした。ルイズには悪いが、柔らかい表現で言い表せない。
「強烈……ルイズなんか頬をずっと引っ張られてたし、ウイルは礼儀正しくしてたのに見下されてたし……。俺なんかルイズの隣に居たのに存在なんかないように扱われてたぜ?」
「なんというか……それは」
今思い出すと悲しくなってくる。
ルイズの姉は自分に声を掛ける所か存在自体に無関心であった。
そこら辺にある石ころか置物か……いや置物のほうがマシかも知れない。
「何度も婚約も破棄になってるしね?」
「噂に聞いてたけどだいぶ……あれな人みたいだね」
「綺麗な人ではあったけど、あの人を嫁に貰うとかないわー」
三人で感想を言い合う。
少しばかり言い過ぎたかと思い、ルイズの反応を窺うも眉を潜めるだけで特に何も言わない。
……というよりフォローできないのだろう。
その後も『もうちょっと優しく』、『貰い手が~』と話が続いていく。
ギーシュも女性とはこうあるべきだと少しばかり興奮気味に言い、それをキュルケが否定した。
そんな女性の価値観で言い合う二人を苦笑しつつも見ていると『ある人』の声が耳に届いた。
『エレオノール嬢は可愛い人だと思うんだけどなー……』
「「「「はっ?」」」」
聴こえてきた言葉に耳を疑い、声の主へと視線を向ける。
声を出した人物は、カリオストロを膝の上に乗せ髪を梳いている……ウイルであった。
「ね、ねぇ……ウイル。今なんて?」
「だから、あの人可愛いと思うよ?あの性格も経歴や今の風潮を考えればしょうがないしさ」
どうやら聞き間違いではなかったらしい。
信じられないとばかりに驚くルイズにウイルが何でもないかのように澄ました表情で答えた。
というよりルイズよ。自分の姉を可愛いと言われて驚くなよ。
「……そこまで言うなら根拠があるのよね?」
「あぁ、話す?」
「お願いするよ。君が何故そんな事を思うのか気になるしね」
「分かった」
キュルケとギーシュに促され、ウイルが口を開く。
「最初に結論から言えば……エレオノール嬢は――臆病で優秀な人だと俺は思うな」
「……臆病?」
昼に会ったルイズの姉を思い出し、ウイルの言葉に当てはめる。
何処から見てもあの人が臆病には見えない。
ギーシュとキュルケにも確認するが首を横に振られた。
どうやら二人も同じく信じられないらしい。
それもそうだ、あんなに気が強い人が臆病とか……考えられない。
「あー……確かに臆病かも知れないわね」
「え?マジで?」
何を言い出すのかと三人で苦笑しあっているとルイズが、肯定した。
「えっとね、前に姉さま達と三人で廊下を歩いていた時だけど……、外の天気が悪く雷が鳴った瞬間、姉さまは隅っこで頭を抱えて震えていたわ」
ルイズの言葉に思い浮かべる。
あのきつい人が、雷に脅え隅っこで縮こまり涙目で頭を抱える様子を……。
(……そこだけ抜き取れば確かに可愛いな)
ギャップもあり、普通に可愛く思える。
「あの性格のきつさもしょうがないしね」
「どういうことだい?」
ウイルは、カリオストロの髪を梳かしつつ説明しだす。
カリオストロはウイルに梳かれ気持ち良さそうにうとうとと眠りこけている。
静かだなと思っていたら全力で癒されてたのか。
「そもそもハルケギニアにおいて、あの人って『異端』なんだ」
「異端?」
「サイト。サイトはさ……この学院に居る女子生徒が卒業後、どんな職業に就くか分かる?」
いきなり此方に振られ慌てつつも考える。
貴族の娘のお仕事……。
腕を組み呻り考えるも特に思いつかない。
日本であれば、職業も多く分かるのだが、ここは異国の地。知識が足りず両手を挙げて降参した。
「答えは『お嫁さん』。女性が働くって難しいんだよ」
「……難しい?」
それはないだろうと辺りを見渡すもキュルケは面白くなさそうに鼻を鳴らし、ルイズは頷く。二人の女性の態度に真実と分かり絶句した。
「ハルケギニアは『男尊女卑』、どれだけ権力があり優秀な女性でも結婚すれば、表に出ず影から夫を支え、顔を立てる。政治面で女性が出る事もないし口も出さない。それが普通」
「………」
「働くなんて持っての他、エレオノール嬢が働いている研究所でも女性は僅か、若い人はほぼ居ないだろうね」
「………」
「さて、そんな風潮の中エレオノール嬢は学問の道を歩む事を決めたわけだ。本来すぐに結婚すべき所を……彼女は優秀が故に仕事に就いてしまった」
ウイルの淡々とした説明が続いていく。
「周りの男性はどう思っただろうね?プライドが高い貴族の男性は……『生意気な』『女性の癖に』『常識も知らぬ小娘が』『女性の癖に男性と並びおって』。まぁ……若く未婚である彼女を快く思わない。年老いた人であれば別だったろうけど」
ウイルの言葉で脳裏に少しばかり幼いエレオノールが暗い闇の中、不安気に辺りを見渡す様子が思い浮かぶ。
先ほどの雷のエピソードのせいだろう。
脳内のエレオノールは頭を抱え周りから聴こえる声から自分を守るかのように耳を押さえた。
「なまじ彼女が優秀なだっただけに周りの反発はすごいと思うよ?陰口、研究の邪魔、成果を上げても葬り去られ無視される」
「………」
「もちろん、学問の道を行くのをルイズの両親は反対する。それでも彼女は説得し道を進む、無理を言った事は彼女も知っている。故に親にも泣き付けない。ただただ周りの言葉に傷つき耐える日々。頼る友人も少なかっただろうね、何しろ彼女は普通じゃない道を行ってしまったんだ。笑われるのがオチだ」
『まぁ、本人に聞いたわけでもないし予想だけどね』と付け加える。
「彼女は、社会に出て厳しさに直面したわけだ。学院の頃の輝かしい日々とは真逆の……絶望しただろうね、泣いただろうね、辛かっただろうね。本当ならそこで戻れば良かったんだ、親に泣きついて仕事を辞め結婚する。そうすれば良かった」
そこまで説明し休むように言葉を切る。
ウイルは、優しく寝ているカリオストロの頭を撫でた後に言葉を続けた。
「仕事をやめなかったのは、人一倍プライドが高いせい。負けるものかーと奮起しちゃったせいだ。臆病な自分を出せば笑われ攻撃される、だから身を守る為に強く自分を見せる」
「その結果が……あのきつさ?」
「だと思う。彼女は軽い『男性恐怖症』。または男性に強い『コンプレックス』を抱いてると思う」
「男性恐怖症……でも姉さま結婚しようとしてたわよ?男性恐怖症ならしないんじゃ……?」
「彼女は公爵家の長女だ、責任がある。次女は病弱で結婚できない、三女であるルイズは……魔法が使えないしね。頑張れるのは自分だけ、ヴァリエール家を守れるのは自分だけ……そんなプレッシャーに押されてだね」
「………姉さま」
ウイルの言葉にルイズが落ち込む。
自分が魔法を使えてればとでも思っているのだろう。
慰めようにも異世界の住人である自分にはどう慰めればいいか判らない。
「結婚出来ない理由としては『優秀』『男尊女卑』の二つが問題かな。自分より『優秀な女性』を娶るような貴族は少ない、なにせ『男尊女卑』が根強く残っているんだ。コンプレックスで気を強く見せてきて、尻に敷こうとする彼女に耐えれる人がトリステインでは居ないよ」
「………ならどんな男性なら合うのかしら?」
「そうだねー……」
キュルケの言葉にウイルが暫し考え込む。
「包容力ある男性……彼女の全てを優しく抱きしめ受け入れてくれる人。ああ言った人は認めてあげて心に余裕を持たせるのが大事だ。後は嘘をつくのも駄目だね、相手を不安がらせるような行動は駄目」
「………トリステインじゃ無理だね」
「無理だと思う。他の国よりプライド高いし、女性の顔を立てるとか無理だろな」
ウイルとギーシュがお互いに苦笑するのを見守りサイトは考える。
1人だけ当て嵌まる人物が目の前に居るなと……言うとルイズが怖いから言わないが。
「まぁ……そんな訳で俺にとっては彼女は、『扱いを間違わなければ可愛い人』。彼女を受け入れ顔を立ててあげれば問題なしだな」
「……もうウイルが貰えばいんじゃない?」
「ちょ!?」
ウイルがそう言って締めくくるとキュルケがニヤニヤと笑い口にする。
そのキュルケの言葉にルイズが声を出し否定する。
なんというか分かりやすいなー……やっぱり賭け事とかに弱そうだな、ルイズを今度ババ抜きに入れてやろ。
「それは無理」
「そうよねー……ルイズがいるものねー」
一言でバッサリと切るウイルにキュルケが突貫する。
絶対楽しんでるなこれは。
「というより、俺がヴァリエール家の人と結婚する事、自体が無理」
「え?」
次に出てきた言葉で場が固まる。
ルイズは悲しげな表情となり、キュルケはやってしまったとばかりに視線を泳がせる。
ギーシュは口を開くも結局は閉じ考え込むかのように黙り込む。
タバサは……先ほどから変わらず本を読み続けていた。
「勘違いしてるようだし言っておくけど……俺は『男爵家の次男坊』、ルイズは『公爵家』。同じ貴族でも『格』が違うんだよ。位が足りない」
「で、でもほら……こんなにも家具も送られてきて優遇されて……ルイズの親御さんは乗り気なんじゃ……?」
どんどん涙目になるルイズに焦ったのか、キュルケがフォローを入れた。
「まぁ……俺も馬鹿じゃないし、ルイズの好意も公爵の考えも分かってるよ」
「だったら……」
「それでも無理だ。たとえ俺がルイズと愛し合っていても公爵が認めても……『周りの貴族が許さない』」
「待てよ。なんで周りが関係するんだ?」
黙っていようと思うもついつい口を出してしまった。
納得がいかない。ルイズとウイルの関係を見ていればお似合いだと分かる。
だから一層に納得がいかない。
「貴族って言っても一枚岩じゃないんだよ。派閥と言う物が存在するんだ。『グラモン家を中心にした軍事派』『王家を尊重する王家派』『ヴァリエール家を中心にした公爵派』様々な派閥がある」
「………だからなんだよ」
「俺みたいな『弱小の男爵家の次男坊』で何の功績もない若造を婚約者にすれば周りが黙っていない。公爵を見限り離れていくのさ。そうなれば公爵家の未来は終わる」
「………」
場に重い沈黙が下りる。
誰も言葉を発さず、気まずそうに視線を泳がせる。
暫くの間、誰も言葉を喋らず、喋れず居るとぼそりとウイルが呟いた。
「だから……今公爵が動いている」
「……どういうこと?」
何処か不満そうな口調ではあったが、希望が灯る。
「俺に箔があればいいんだ……誰もがこの人ならしょうがないと思うような功績を挙げればいい」
「それって……」
「あぁーちくしょー……だから今回の王城の件もそれ関係だ!!だから胃が痛い!!」
ウイルは力なく後ろに倒れベッドに寝そべる。
その瞬間膝の上にで寝ていたカリオスロが『ふみゃ』っと声をあげ驚き飛び起きた。
カリオストロは頭を掻き辺りを見渡し不思議そうに首をかしげている。
まじでこいつ寝てたのか。
「俺は『若き天才 ジャン・ジャック・フランシス・ド・ワルド』と競い合わないといけないんだ」
「ジャン……誰?」
聞き慣れない名前に疑問に思い声が出る。
「ジャン……面倒だな。ワルド子爵でいいや」
聞いといてなんだが、結構扱い雑だな……ワルドさん。
「26歳にして『風系統のスクウェアメイジ』で魔法衛士隊の1つ『グリフォン隊』の隊長殿で……ルイズの『婚約者』」
「「「婚約者!?」」」
「あー………忘れてた」
婚約者と言う言葉が出てきて三人同時に驚く。
ルイズは今思い出したとばかりに呆気に取られている。
……婚約者に忘れられるワルド子爵ってどんな人なんだろうか。
「婚約者がいる相手と結婚できるわけないだろ。顔良し、性格良し、誰もが憧れるワルド子爵。それに対して男爵家の次男坊で『ライン』止まりの俺。どうしろと?」
「あはははは………」
「ワルド子爵以上の功績を上げるとなれば……戦争で大活躍とか歴史に残る大発明をするとか、無理難題を吹っかけられるに決まっている」
いつも冷静なウイルが珍しくうろたえている。
それほどに追い詰められているのだろう……少しばかり同情した。
「……もしもワルド子爵に勝てない場合は、エレオノール嬢とくっ付けられそう」
「………」
ウイルの言葉にルイズの顔が引き攣った。
まぁ、想い人と結婚できず。姉に取られるとか想像したくないわな。
「もしくは……ワルド子爵とエレオノール嬢かな?」
「それよ!それ!うん、それがいいわ!」
ぼそりと呟いた言葉に目を輝かせルイズが同調する。
もうくっ付けばいいと思うなこの二人……爆発しろ!
………駄目だ。自分がルイズに爆発させられる未来しか見えない。
「それがいいわと言われてもねー……あぁー嫌な事を思いついた」
「嫌な事?今度は何を思いついたんだい?」
興奮気味のルイズに揺られながらウイルが顔を青くした。
ギーシュの言うとおり今度は何を思いついたのだろうか?
「ワルド子爵に勝つ方法と同時に周りの貴族を黙らせる方法」
「むしろ……それ、朗報じゃね?」
何を言ってるんだコイツ。
むしろ喜ばしい事じゃないか、現にルイズは、飛びっきりの笑顔を見せてる。
まじ可愛い、天使だ。
……シエスタに会いたくなって来たな。
「へー……それで何で嫌なんだい?朗報だろうに」
「方法が嫌な上に……公爵もその方法を考えていそうで嫌だ」
「どんだけ嫌なのよ。それでその方法は?」
キュルケが呆れ聞けばウイルが体を起こし口にする。
『大勢の貴族の前で俺がワルド子爵と決闘をして勝つ』
ヴェリエール家の人って基本優しいんですよね。
公爵と夫人は娘思いだし、次女は普通に優しい、ルイズも優しい所ありますし。
何だかんだいって平民であったサイトとの結婚も許しましたし。
それなのにエレオノールだけがあれだけきついのは、何かあるのではと考えた所。
外の世界を知っているか否かなんですよ。
カトレアは箱入りですし、ルイズは外へ出てるけど学院の中ですし。
貴族の娘さんですから、普通は学院卒業後、嫁に行くと思うのです。
それなのに研究所で働くエレオノール、プライド高い男性貴族からしたら嫌ですよね。
外で自分の身を守る為に強気な性格になったんじゃないかと妄想。
男性が怖いから有利に立とうと尻に敷く。プライドが高い上に男尊女卑である世界だと厳しい物がありますねー……だからきつい、もう無理。
アニメとかでも、風石の暴走に脅えてサイトの屋敷に逃げてきますし、基本臆病ですから余計にね?
そう考えるとしょうがないなと思います。
男性を怖がり自分を大きく見せ守る臆病な子……こう考えれば可愛いよね!