凡才錬金術師と天才錬金術師   作:はごろもんフース

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今回から主人公とカリオストロがメイン!
ようやくだよ、ようやくだ。


十一話:罰と交渉

「ルーンの効果か?」

「そうだろうね。あれほどに輝いてるし」

 

春特有の暖かい風がオレ様の体を包み込む。

下では、春の陽気に当てられ喧しく騒ぐ馬鹿な奴等が居てそれを見る。

そして、足を空中に投げ出しながら、もう一度サイト達を見る。

 

サイト達は、楽しそうに物騒なおもちゃを持ってじゃれ合っていた。

子供なら子供らしく、もう少し健全な遊びをすればよいものをと思うも、これはこれで健全なのかも知れない。青春と言う名の青臭い遊びか……オレ様には決して真似出来ない遊びだろう。

 

「それにしても……酷いな此処の連中は」

 

先ほどから、うっとうしくて、喧しい人の群れを見る。

正直、優雅さなど錬金術士であるオレ様にはもっとも縁遠い言葉だが、

ここまで優雅さも何もない貴族は珍しく、この国の現状を表してるかのようだ。

 

「まぁ……彼等も被害者だからね、同情の余地はあるんだよ」

「は?」

 

オレ様がそんな事を思っていると、隣で見ていたウイルが正気を疑うような事を言った。

被害者とは、一体誰の事を言ったのか、一瞬だけ理解する事を拒否してしまう。

もう一度下を見れば、サイトを『殺せ』だ『ぶちのめせ』だのと、表情を嬉々とさせて優雅さの全くない言葉を叫んでいた。

何処からどう見ても奴等が被害者には見えない。

 

「痛みをね、知らないんだよ」

「痛み?」

「自分達は受けた事がないから、他人の痛みを理解することが出来ないんだ」

 

そう言って、オレ様を見たウイルの瞳は、深い憂いの光を帯びていた。

 

「子供は怒られて、痛みを知って、初めて理解することが出来る」

「………」

「彼等は平民の扱いを親から教わるから、その事で怒られた事も、殴られた事も、ましてや注意すらも、だから平民を傷つけてもなにも思えない」

 

親に怒られて、親に叱られて、子供はやってはいけない事なのだと知る。

そして痛い事をしてはいけないのだと、傷つけてはいけないのだと、他人と心から共感できて初めて理解するのだ。

 

ならば、叱られたことが、共感したことがなければ、どうなるだろうか。

簡単だ、下の広場のような他人の痛みを理解することも、共感することも出来ない人間となる。

逆に痛みを知っていれば、友人や家族、他人などの痛みに共感し相手を思い、怒る事もできる思いやりのある人間に。

という事なのだろう。

 

「もしもだ……下の子達が自分と同じ貴族を殴れば、怒られて叱られて痛みを理解する。ならば……平民を殴ったとして彼等は怒られるだろうか?」

 

怒られる筈がない、身分が違う、生きる世界が違う。

 

「ルイズも経験はなかっただろう。それでもこの学院に来て痛みを理解した」

「それでお前といい、ルイズも……」

 

ウイルが小さく頷いた。

 

「彼等は学ぶ機会(無知は罪なり)を与えられなかったんだ」

「……なるほどな、お前が考えた言葉か?」

「いや、昔の人の受け売りだよ」

 

そう言ってウイルは小さく笑った。

 

「それじゃ、行くか」

「あぁん?最後まで見ていかないのか?」

「今が絶好の機会だ。予定になかったけど動く事にするよ」

 

そう言ってウイルは、手をひらひらとさせ歩き出した。

何を仕出かそうというのか、情報も少なく大人しく後ろを付いて行く事にする。

正直な話、下の決闘は暇つぶしにもなりそうにない。

ルーンの効果も()()()()理解できたから、詳しい事は後でもいいだろう。

 

それよりも今は、目の前を歩く奴へと意識を集中する。

身長は、それなりで170後半位、容姿は黒髪に黒めの真っ黒であり、髪は少しばかり外へと跳ねていた。顔もそれなりに整っており、自分の容姿の足元ぐらいには置けるぐらいだろう。

 

「どうかした?」

「暇だから人間観察だ。ちなみに対象はお前な」

 

ウイルは、『なんだそれ』と笑い納得したのか足を進める。

目的地まではまだ遠いせいかウイルに見所がないのか、観察も終わってしまった。

そもそも、自分以外の人に興味がないので人間観察しても直ぐ暇になる。

教室であった様な胸の高鳴りでもあればまた違うのだが。

可愛く見せる歩き方でも考えようかと思っていた時、思いついたことがあった。

 

そういえば……だ。

目の前の男はどの様な戦いをするのだろうと。

先ほどのサイトとキザ男の戦いを思い出し少々気になる。

 

「ねー、ウイルは~どんな戦い方するの?」

「いきなりだなー……そうだね」

 

暇つぶし程度の話題だ。

急に振っても許されるだろう、てかオレ様が聞いたのだ。

丁寧な態度でしっかりと答える義務があると思うのだよ。

 

「周りの物を使ったり、持っている物を利用して魔法と組み合わせるような戦い方かな」

「具体的には☆」

「『アースハンド』で敵の足を掴み『錬金』で鉄に変化させ、遠くから魔法連発。オークとか相手ならこれ」

「………あー?」

「毒とか仕込んだ爆弾を投げて『発火』で爆発させたり。メイジ相手にはこれだな」

「………うん?」

「飛べない敵には『レビテーション』で浮かせて落下させる。才人と戦うならこれだな」

「………」

「最近やったのはオーク相手に予め作っておいた罠の奴かね。先を尖らせた丸太を用意しといて誘い込み『レビテーション』で丸太を浮かせ、木と木の間に張らしたゴムに着けて引っ張り発射とか」

 

なんだろうか、この貴族らしからぬ戦い方は。

いや、確かに頭脳を使い魔法の威力を高める方法は、賢いし好感も持てる。

しかしだ、やってる事がえげつない。

オレ様自身、相手の足元から剣やら斧やらを出し串刺しにしてるが他人から言われると結構酷い物だ。

 

「まぁ勝てば良し!の戦い方だな」

「まぁ……それもそうだな」

 

微笑みながら言うウイルに少しばかり照れる。

胸が高鳴り鼓動が早くなる。

なんというか、自分の好みとあっている。

優雅など関係なしと意地汚く勝ちを拾い上げる……実に自分好みだ。

元より錬金術士の身、意地汚く真理を追い求め、暴く、傍迷惑な奴等……実に好い。

 

「はぁ……上がるのが面倒だな」

「ここ上がってくの?」

「そう、最上階まで」

 

そんな事を思っていると目の前には階段が見える。

螺旋を描き、先が見えない階段に帰ろうかと思い始める。

何をするのか気になるが、ここを登って行くのは正直嫌だ。

肉体労働はオレ様の仕事ではない。

 

「ウイル~♪」

「……なにその手」

 

肉体労働は、助手に任せよう。

両手をウイルに差し出し、にっこりと笑いかける。

 

「もー分かってるくせに……カ・リ・オ・ス・ト・ロを~運んで☆」

「………」

「むしろ運べ、こんな美少女を抱けるんだ、ご褒美だろ?」

 

早く早くと急かすと、ため息をつきつつお姫様だっこをされた。

前から思っていたが、こんな美少女に頼まれてるのにため息はないだろう。

サイトなら泣き喜び、興奮するだろうに。

 

そんな事を思っているとウイルは、杖を取り出し軽く振った。

すると体が浮き上がり歩くより少し早い程度で階段を翔けて行く。

空を飛ぶ場合は、ウロボロスに乗る事が大半なので正直便利そうで羨ましい。

空を浮かぶことが出来れば、水の上に立つ美少女とかも出来るし、可愛さに磨きがかかりそうだ。

 

「へ~……便利だな。こっちの魔法も覚えるか」

「それは無理かな」

「オレ様に才能がないとても?」

「あー……そうじゃなくて、こっちの魔法ってブリミルの血を引いてる人しか使えないんだ」

「血縁のみか」

「あぁ」

 

そう言った特殊な魔法や技術も理解できる。

というか、自分自身の錬金術さえ、そういった特殊な物だ。

血か……それ位なら()()はあるな。

 

「作るのか?」

「そこまで知ってんのかよ」

 

少しばかり考え込んでいるとそんな事を聞かれた。

考えていた方法を当てられ、少しばかり渋い表情をする。

何処をどう知ったのか、ここまで自分の事を理解されていると僅かながら不気味に思える。

 

「なんだ……お前は、オレ様のストーカーか何かかよ」

「そんなんじゃないよ……実際に会ったのも昨日が初めてだし」

「……嘘は言ってないな」

「つく必要性がないからね」

 

じとーと目を細めれば、何処吹く風と言わんばかりに澄ました顔で答えられる。

 

「着いた」

「んっ、ご苦労様!でだ……ここ誰の部屋なんだ」

「あぁ……()()()()

 

頂上の大きな扉の前で下ろされ、そう答えられる。

ウイルは、一息つくと自然に―――そう、自分の部屋に入るかのように扉を開けた。

 

 

 

 

 

 

 

 

☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆

 

 

 

 

 

 

 

 

「ふぁ?!」

 

カリオストロを下ろし、一息をつくと扉を開ける。

豪快に力いっぱいに開くと奥のほうで驚きの声が上がる。

 

其方へと視線を向ければ、白髪に立派な白ひげを蓄えた老人――学院長のオールド・オスマンが目を見開いて此方を見ていた。

視線を少しばかり横に逸らせば、恩師のコルベール先生も目を細め此方を見ていた。

 

そんな二人を見てから奥の鏡に少しばかり目を遣り細めた。

考えは当たっていたようだ。これで優位に持っていける。

 

「学院長!!」

 

なるべく焦った様に怒りを少しを含め、足音を鳴らしオスマンの前へと歩く。

その際に後ろで小さく笑い声が聞こえた。

自分の演技を見てカリオストロが笑ったのだろう。

これでもそれなりに演技は出来るつもりだが、カリオストロには笑われる出来らしい。

 

「い、いきなり……なんじゃ」

「決闘の事はご存知ですね……『遠見の鏡』で見ていますし」

「あ~……それは……のぉ?」

 

ドンっと机を叩き、怒ってますとばかりに学院長を睨む。

此処に来た経緯を語るべく、学院長の後ろにある鏡へと目を向けて問い詰めた。

ノックもせずに入った上に此処まで来るのに飛んできた為、隠す暇なく鏡は決闘を映し続ける。

 

「ごほん……待て待て、『眠りの鐘』はだ……「それはどうでもいいです」はい?」

 

此処に来た理由を決闘を止めさせる物だと理解したのだろう。

残念ながらそうじゃない……そうじゃない。

 

「自分が此処に来たのは、決闘が終わった後に才人への水の秘薬の使用許可などを貰いに来ました」

「………ほ?」

 

理由を話せば、コルベール先生と共に顔を見合わせ呆気に取られたようだ。

それもそうだろう、今鏡に映っているサイトはルイズの使い魔で、ルイズと自分は親しいと判断されている。そんな自分が此処に来る理由を『決闘を止める為』と考えていても不思議ではない。

だが、残念ながら自分に決闘を止める気など一切ない。

考えるのは終わった後の話だ。

 

「最初の時に才人はギーシュのゴーレムにお腹を思いっきり殴られています」

「そうじゃな」

「ギーシュも気絶させて終わらそうと本気で殴った筈です。腹部の怪我は酷い物だと思われます」

「それはそうじゃが……幾らなんでも水の秘薬はやりすぎじゃ?」

 

渋るオールド・オスマンを見て、これが演技なのか本気なのかどちらかは分からない。

つくづくこういった事には才能がないようだ。

しょうがないのでいくつか考えていた正攻法を使うとしよう。

 

「良くて打撲、下手したら内臓を痛めています。ギーシュは知識や才能があっても『経験』は不足してますので……加減の仕方などわからないでしょうし」

「ふむ……今は良くても、後で大事になると?」

「えぇ……」

「それも理解はできるがの……秘薬を……ちと使うのは……」

 

自分の進言にオールド・オスマンは渋りを見せる。

オールド・オスマンは、平民に対して余り壁を作ってない人だ。

それでもここまで渋るのは、周りの反応を気にしてなのだろう。

高価な秘薬を平民の為に使った……それで周りが不審に思うのを避けたいのだと判断する。

 

「オールド・オスマンの言葉も分かりますが、ここは使うべきです」

「というと?」

「平民の才人に高価な薬を使ったという事は、それだけの『価値のある人間』と思わせることが出来ます」

「ふむ」

()()オールド・オスマンが水の秘薬を使ってまで治したとなれば……才人の評価を周りも直しますよ」

「………」

「それに……今回の事は学院の責任では?」

「いいすぎじゃろ……第一これは使い魔君が先に手を出したと聞いておるが」

 

あぁ……かかった。この言葉が欲しかった。

 

「えぇ、えぇ……才人が先に手を出したらしいですね」

「そうじゃろ……学院の責任として取られるのはちと言い過ぎじゃな」

 

オールド・オスマンの言葉に深く同意したかのように頷く。

それを見て少し安心したのか、ゆっくりと髭をなで始めた。

 

「だからこそ!学院の責任でしょうに」

「なんじゃと?」

「昨日の儀式の報告でカリオストロと才人が、ハルケギニアを知らない異国の地の人間と報告が有った筈です!」

「まぁ……それは」

 

チラっとコルベール先生を見て訴える。

確かにカリオストロを召喚した時にそう告げているし報告もお願いした。

二人で見つめているとコルベール先生は少し気まずそうに空咳を何度かした。

 

「た、確かにしましたな」

「そうですよね……しない筈ないですものね」

「むむむ」

 

当たり前と言わんばかりに笑顔を見せ牽制をする。

 

「異国の地の人間なら、常識も習慣も何もかもが違うでしょう。学院が才人やカリオストロから話を聞くべきだった筈です」

「それは……」

「今回才人が手を出した原因は、常識が分からなかったからと言えません?」

「あー……」

「もしも学院が生徒に任せず、二人の話を聞いて此方の常識を説いていればもっと穏便に済ますことが出来た筈です」

 

じとっとした目で見ればオールド・オスマンは動揺して視線を彷徨わせる。

悪いがこれだけでは終わらない、もっともっと言いたいことも欲しい物もあるのだ。

この決闘に託けて全てを貰おう。

 

「2~3日ほど拘束しお互いに知識を共有すべきでしたね。ここで才人が亡くなったり重傷を負えば国際問題になりますよ?」

「子供の喧嘩で……あぁ、いや……確かに此方が悪かったか」

 

言葉を続けようとして改め直す。

それもそうだ、その言葉の先を教育者が言ってはいけない。

それにこれに関しては自分達にも責任がある。

昨日の晩にもう少し貴族の話をすべきであった。

しかし、そう言ったのは生徒に丸投げするのではなく、学院が責任もってやらねばならない問題だ。

 

「才人の国を昨日聞いたのですが……人口は1億を越え、魔法はないものの、1秒間に何百発も撃てる銃があるとか」

「い、一億!?」

「それに……銃を連発できると?」

「そんな所とトリステインが戦えばどうなるか……分かりますよね?」

 

その齎された情報に二人は、言葉を続けられず唖然とした。

それもそうだろう、なんせハルケギニアの人口を全部合わせた数と大差ないぐらいの人口の数なのだ。そんな国に攻められたら一溜まりもない。

 

「しかし……それは本当の事かの?」

「これ見てもらえますか?」

 

暫く待っていると冷静になったのだろう。

真意を問うてくる。

所詮は子供の言葉、嘘を言っている可能性もあると考えたのだろう。

 

昼休みに暇つぶしがてらルイズと遊ぼうと思って持って来ていた物を取り出す。

 

「なんじゃこれ」

「危機一髪という才人の国のおもちゃですね」

 

取り出したのは昨日の晩に遊んだ、『○髭危機一髪』だ。

 

「おもちゃ?」

「えぇ……人形を樽の中に設置し『タ~ル☆』……カリオストロ?」

 

おもちゃの説明をしているとカリオストロの声が聴こえてきて意識が逸れる。

何事かと皆でカリオストロへと視線を向けるとカリオストロはソファーに座り口を押さえていた。

 

「あ~……あははは、なんでもない。なんでもないから続けて☆」

「あーうん、そうか」

 

何かを誤魔化すようなカリオストロに言われ、空気を戻す。

何故突如あんな事を言い出したのか判らないが、先に此方を説明しなければ。

 

「ごほん……人形を設置し順番に短剣を穴に差し込んで行きます」

 

昨日のように短剣を一つ一つ差し込んでいく、勿論人形は付属の人形で『姫様』ではない。

あれを他の人に見られたら自分の首が空を飛んでしまう。

 

「当たりを引けば……こうやって人形が飛ぶおもちゃです」

「ほ~」

「これはなかなか」

 

遊び方を実演すれば二人は面白そうにその光景を見る。

 

「中々に楽しい遊びですが……これ問題があると思いません?」

「………うん?」

 

両手を広げ、参ったようなポーズを取る。

これ位の問題はこの二人なら軽く解けるだろうし、説明するより理解が早く進む。

 

「そうか……()()()()()()()()()()()()!!」

「コルベール先生、正解です」

「むむむ」

 

指を鳴らし、目を輝かせてコルベール先生が答えた。

嬉しそうな先生とは逆にオールド・オスマンは悔しそうだ。

なんというか、ノリがいいな、この人達。

 

「そう……最初は自分もそう考えました。1度当たりを見つければ次は当たらないと……しかしですね」

 

もう一度人形を差込み、先ほど当たった穴へと差し込む。

人形はピクリとも動かなかった。

中の仕組みが動き、当たりの位置がズレたのだ。

 

「これは……」

「どういうことじゃ……魔法は使われておらんようだが」

「すごいですよね……魔法も使わずにこれほどの技術をおもちゃに入れたんですよ」

 

驚愕する二人に説明を差し込む。

今思えば、このおもちゃは良く出来ていた。

子供のお小遣いで買える物にこれだけの技術が詰め込まれている。

 

「これが子供のおもちゃなんです。……才人の国では」

「………」

 

オールド・オスマンは震える手でおもちゃを取り、厳しい目で見る。

ゆっくりと手で触れ、材質などを確認するかのようにあちこち見て触る。

 

「1度……才人と話し合うべきです」

「そうじゃの……機会を作ろうかの」

 

真剣な表情で頷き合う。

これでようやく話を進められる。

 

「つきましては……学院の監督責任で学院の負担で水の秘薬を使用」

「うむ」

 

オールド・オスマンが深く頷く。

 

「水の秘薬を使っても油断は出来ませんので2~3日ほど安静にしてもらう為にメイドを1人貸してもらいます」

「分かった、話を付けておこう」

 

ルイズは看病なんてしたことないだろうし、貸してもらわなければいけない。

 

「あと明日には、生徒達に才人とカリオストロの説明お願いします」

「……先生達を納得させてからでいいかの?」

「なるべく早めにお願いします」

 

出来れば直ぐにでもしてほしいがこればかりはしょうがない。

我慢して次に進もう。

 

「才人とカリオストロの生活費の負担に」

「……うむ、うん?」

「『フェニアのライブラリー』の閲覧許可と……それに」

「ちょ、ちょっと待つのじゃ!」

「何か?」

 

一体何を慌ててるのだろうか。

先ほど才人の国の危険性を説いたばかりだ。

変なところなど一つもないだろうに。

 

「まぁ……生活費は分かった……しかしだ。閲覧許可は……」

「何を言ってますか、もしも才人の国がやってきた時のポーズになりますでしょうに」

「ポ、ポーズ?」

「才人を返す手段をしっかりと探してました!と言い張れるじゃないですか」

「………」

「それに他の先生達が平民の才人の帰る手段を真面目に探してくれますか?」

「ムリじゃな」

 

コルベール先生ならまだしも、他の先生方も典型的な貴族だ。

平民の為に帰る手段を研究しようと思わないだろう。

危険性を説けば、最初こそ真面目にやるかも知れないが後々『何故私が平民の為にっ!』とでも思って放棄するに決まっている。

なら最初から期待せず、此方で自由に調べれる方がよっぽどましだ。

 

「ということでくれません?」

「か、考えさせてくれないかの?」

「………分かりました。それでは他の件をお願いします。決闘も終わったようなのでコルベール先生、水の秘薬を持って広場の仲裁に行って貰えますか?」

「分かった、学院長」

「うむ、任せた」

「それでは自分はこれで」

 

最後にしっかりとお辞儀をしてからカリオストロを連れて出る。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ここでの目的は達成できた。

しっかりと次の策の準備を終えれたことにほっとしたら、汗が吹き出る。

やはり、こう言った交渉など人を相手にすることは苦手だ。

 

「中々やるじゃないか」

「好評でなによりで……だいぶ渋られたけど」

 

横でからかうように笑うカリオストロに困ったような表情を向ける。

たった数分の出来事なのに心臓がバクバクと鳴り汗が噴き出す。

 

「別にいいんじゃないかな☆」

「うん?」

「本当に恩を売りたかった人には売れたんだし☆」

「………」

 

カリオストロの言葉に答えられない。

いつだ、いつからこの少女は気付いていたのだろうか。

自分が欲しかった物を……。

 

「いつから気付いてた?」

「交渉の最中、数多の件を突っ張られたのに嫌な顔をせずに頷いた時かな☆」

「………」

「此方はあくまで正論を言っていたんだ、もうちょっと強めに出ればその場で許可を得れただろうに」

 

カリオストロの言葉が次第に素に戻っていく。

それを何も言わずに大人しく聞き入る。

と言うか、言いたくない……自分が何故このような交渉をしたのかを。

 

「結局得れたのは……サイトの治療と待遇の改善。誰に恩を売りたかったか一目瞭然だな」

「………」

 

ニヤニヤと笑うカリオストロを見て理解した。

この少女は全てを理解していると。

 

「なぁ……」

 

とんとカリオストロに押され背中が壁へとくっ付く。

見れば、カリオストロが自分のお腹辺りに抱きつき押し込まれていた。

 

「なぁ……誰に恩を売って、お前は何をしたかったんだ?」

「………カ」

 

視線を下に向ければ、妖艶な笑みを浮かべるカリオストロと目が合う。

その瞳は好奇心と少しばかりの淡い願望に染まり綺麗に輝いている。

ごくりと唾を飲み込み、少しばかり震えた声で言葉にしようとする。

 

「カ…?」

「はぁ……分かった、分かったよ。売ったのはルイズにだ。どうしてかと言われれば()()()()()()の為だ。これでいいだろう」

「ふふーん♪そうか、そうか……オレ様の為か」

 

これ以上飲み込まれないように一息で言い切る。

少々不貞腐れたように拗ねる表情を作るも、カリオストロは満足げに目を細め楽しそうに笑う。

 

「カリオストロの容姿は……完成されているものだ」

「当たり前だ。オレ様が一番可愛い!」

「だからこそ、狙う貴族は数多い」

 

平民の綺麗な子を無理矢理、自分の物にする貴族も居るのだ。

カリオストロほどになれば手を出さない訳がない。

 

「俺は男爵家の次男坊……少し上の奴に寄越せと言われたら渡すしかないしな」

「………」

 

その際に暴れて拒否してもいいが、そうなると後が面倒になる。

家族にも迷惑がかかり、命も危険だ。

 

「だから……ルイズに恩を売り、『ヴァリエール公爵』の名を借りる。それが今回の目的だ」

 

才人の待遇改善?怪我?そんな事どうでもいい。

ライブラリの閲覧許可も、欲しいが機会は幾らでもある。

お金も色々と金策をしており、そこそこは貯まっている。

 

だからこそ、欲しかったのはカリオストロを守れるだけの『後ろ盾』。

それを得るのが今回の目的であった。

 

「だが、これだけで頷くのか?仮にも公爵家だぜ?」

「ルイズの手紙と一緒に手紙を出す。そうすれば絶対に読むだろうし……あちらには貸しがあるんだ」

「貸し?」

「そう、貸し。まぁ少々無理な事言われそうだけど……なんとかするさ」

 

深い深いため息をついて窓の外を眺める。

どうしてこうも生きるのに色々な枷をつけないといけないのだろうかと。

空を飛ぶ鳥を眺めそんな事を思った。




ウイル「………タル」
カリオストロ「タ~ル☆」「タル!!」
ルイズ「タ、タル?」
才人「タル!」
ギーシュ「タルッ!」

地味にすごい危機一髪。
あれってハルケギニアでは、すごい技術のような……。
プラスチックなんて複雑過ぎて錬金で作れる気しないっす。

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