「諸君……決闘だ」
「やっちまえ!」「ぶっ潰せ!」「怖いねー」「ねー」
「………」
広場の真ん中でギーシュが颯爽と立ち、バラを口に咥える。
容姿が整っており、大変様になっている。
それでも何処か気障ったらして、気に食わない。
「なぁ、なんでオレがお前と戦わなくちゃいけないんだ?」
「………君は、貴族と言う者を知らないんだね」
決闘の方法を伝える為に、近寄ってきたギーシュへと才人は、問いかけた。
ケーキをぶつけた相手となら、まだ納得も出来た。
なのに相手がギーシュでは、気落ちしやる気が出ず、困惑しかない。
「君は平民と認識されている」
「あぁ……そうだな」
「平民が貴族に楯突いた。しかも大勢の前でだ……君は貴族に恥を掻かせたんだ。その責任を取ってもらわなければならない」
「そりゃ……手を出したのはオレだし悪かったけど」
ギーシュの言葉も分かり、少しばかりばつが悪そうに頬を掻いた。
「残念ながら、言葉で収めるには遅すぎたし、やりすぎてしまった」
「………」
「だから、君は……他の生徒の自尊心を満たさなければならない」
真剣な表情で此方を見てくるギーシュに何も言えない。
周りを見れば、既に大勢の生徒が集まり、今か今かと嬉々とした表情で待っていた。
つまりは……見世物、自尊心を満たす為の生贄に自分はされていると才人は感じた。
「君に残された選択肢は3つ、一つは貴族に手を出した大馬鹿者として倒される事。一つは泣き喚き謝罪し笑い者になること。そして……最後は」
3つの指をサイトに見せ、一つ一つ教えるように折り込んでいく。
「最後は……僕に勝ち、己の正しさを証明する事」
ギーシュが目を細め、最後に無理だろうけどね、と付け加える。
「っ……!!なんで無理って決め付けるんだよ」
ギーシュの言い様に少しばかりカチンと来た。
最初から出来ないと決め付けられ、少し気分が悪い。
「平民が貴族に勝つ事は出来ない。そう
「やってみなくちゃ……」
「やってみた結果が……それなんだよ」
先ほどの真剣な表情ではなく、さめた目を向けられる。
軽快さも軽さもなく、ただただ冷たい。
才人は背中に冷水を浴びせられたような感覚を覚え、息がつまった。
「さて……時間だ。決闘方法は簡単、どちらかが参ったと言うまでだ」
「………」
「勿論、僕はメイジだから魔法を使う。君も好きなように戦うといい」
ギーシュは、そう言い切ると、あとはもう何も言わずに背を向ける。
「それでは、始めよう。この持っているコインを上に投げる。これが地面に落ちたら開始だ。いいね?」
「あぁ……」
釈然としない気持ちを抑え、神妙に頷き拳を構える。
喧嘩などしたことないのでボクサーの真似事の様な構えとなった。
ギーシュが手に持っていたコインを観衆に見せ、大きく上に弾く。
太陽の光を浴び、金色に輝くコインをその場に居た全員が見つめる。
コインが一瞬だけ上空で留まり、重力により下へ下へと落ち、地面に着いて跳ねた。
その瞬間を待っていた才人は、すぐさま足を動かし、ギーシュへと向かう。
勿論、魔法も警戒しており、すぐさま横へと飛びのけるように準備もしていた。
そんな才人をギーシュは、特に何をする訳でもなく、ただただ見つめる。
杖であろう薔薇を片手で持ち軽く動かし、遊んでいる。
余裕を保ってる気かと思い、イライラが溜まり、誰が相手でも良くなった。
「がっ!?」
ギーシュまで後、数メイルと言うところで才人は突如何かにぶつかる。
走っていて思いっきりぶつかった為、勢いを殺せず全て自分が受ける羽目となり、無様に転がる。
壁にぶつかったような衝撃に体が悲鳴をあげた。
「いつ……な、何がっ」
混乱しつつも状況を確認するべく、前を向く。
そこにあったのは、一体の鎧であった。
淡青色に輝く金属に綺麗に整えられたフォルム。すらっとした体型で何処となく女性を思わせた。
武器などは持っていないが存在感が強く、太陽の光を浴びて立っている姿は神秘性も増し神々しい。
「な、なんだこれっ!」
「
「……ゴーレム」
状況を確認する為に、ギーシュが言った事を復唱する。
(これが魔法っ!!)
才人は、心の中で確認するように呟き、歯を食い縛る。
魔法があると分かってはいた、使う事も予測していた。
だが、実際に見たことがある魔法は、ウイルによって見せられた些細な魔法。
こうして人間に危害を加えられる魔法を受け、改めてデタラメさを思い知らされる。
「………立たないのかい?」
「やってやる!!」
周りの生徒は、倒れているサイトを見てくすくすと笑う。
ギーシュの言葉に自分の状況に気付き、顔を赤くして才人は立ち上がる。
(つっても……どうするか)
立ち上がり、拳を構えるも攻めあぐねる。
本格的な喧嘩も初めてな上に鎧なんて相手にした事がない。
殴れば自分がダメージを受ける上に下手に蹴り込むと足を痛める。
「うおりゃ!」
結局の所、選択肢は1つしかなく、足裏で相手を押し倒すように蹴り入れるしかなかった。
動かない相手にヤクザキックをかますも鈍い音が響き、足にジーンと鈍い痛みが走る。
「………」
「くっ!」
それでもこれしか方法がなく、何度も何度も蹴りを入れていく。
ガンガンと金属を叩く音だけが虚しく響き渡った。
次第に蹴り込んでいくと、息が上がり足も蹴り込んでいないのに鈍い痛みを走らせるようになった。荒い息を吐き、ゴーレムを見れば相変わらず動かず、此方を見ている。
「あはははははははははは」「だっさ!」「くすくす」
「っ」
暫くすると周りの生徒がお腹を抱えて笑う。
そんな生徒達の笑い声を聞いて、才人は顔を真っ赤にさせ唇を噛んだ。
自分の滑稽さが分かる為に反論出来ず、ただただ悔しさだけが心に残った。
「終わりにしよう……やれ、ワルキューレ」
「がはっ!」
棒立ちの状態で才人は息を整えていると強烈な一撃を腹に受ける。
腹を見れば、ワルキューレの拳が容赦なく突き刺さっていた。
重い響くような音が体内から聞こえ、熱が痛みと共に襲ってくる。
才人は膝から崩れ落ち、そのまま地面に転がりお腹を押さえて丸まった。
胃から込み上げてくる物があり、気にする暇なく口から出す。
強い酸味のある胃液で気分が悪くなり、目の前が暗くなった。
「―――っ!!」
(だれ……?)
痛みで意識が遠のく中、誰かに頭を抱えられた。
「もういいじゃない!!」
(ルイズ……?)
ルイズの声に意識が戻され、痛みでぼやける視界で見上げた。
見上げると目に涙を溜め、必死に庇うように叫んでいるルイズが見える。
「もう十分でしょ!……十分じゃない」
ルイズは、涙を溜めながらも目を吊り上げ、周りの生徒を睨む。
涙ながらに訴えるルイズに才人は、心が震える。
「何言ってんだよ。これからだろ」
「ケーキをぶつけた事はこれでいいでしょう!」
1人の生徒が呆れたように見下すように否定した。
「なールイズ、その
「っ!」
「貴族と平民は、
生徒の1人は、馬鹿にしたように諭すようにせせら笑う。
その事にショックを受けたのか、ルイズは何も言えず口を開いては、閉じた。
周りを見渡しても、その生徒と同じ考えなのか、他の生徒も頷きルイズへの援護はない。
中には眉を顰める者も居たが、結局は黙り込み、見ない振りをするのかのように口を固く閉じる生徒が大半だ。
力なく俯き涙を流すルイズを才人は、ただただ見上げる。
何時の間にか膝枕をされており、ルイズの涙が頬に触る。
(あぁ……オレが泣かしたんだよな。これ)
周りの言葉に傷つき、ルイズが泣く結果を作ったのは才人だ。
涙を手で拭こうとするも初めて味わう強烈な痛みに手がお腹から退いてくれない。
そんな自分を情けなく思う。
なんとか場を収めようと辺りを見渡す。
ルイズを罵倒する声に、もっと痛めつけろという声が周りから聴こえて来る。
(あっ……)
未だに吐き気と痛みが襲ってくる中、生徒から外れた木の下にシエスタを見つける。
遠め目で分かりづらいが、シエスタもルイズ同様、泣いているのか手で顔を覆っていた。
(………二人も泣かしちまった)
二人の女性を泣かし、傷つける事になった自分に笑いが漏れた。
これでは色男同様ではないかと、いや……自分の方が性質が悪い。
(………)
次に見つけたのは、ウイルとカリオストロだ。塔の2階の窓から、此方を眺めていた。
カリオストロは、窓の縁に座り足をぶらぶらとさせ、ウイルは縁に肘をついてのんびりと眺めているように見える。
知らず知らずの内に、才人の手が動き二人の方へと向けそうになり、近くの草を強く掴む。
(何やってんだ。オレが原因を作ったんだ。……なのにあの二人に助けを求めようなんて)
虫が良すぎる、今自分がこうなっているのもルイズとシエスタが泣いているのも、全て自分が招いた結果だ。ルイズを巻き込んでしまった後悔、無知な為に犯した自分のうかつさ。
それをあの二人に
(どうすればいい、どうすればこの場を解決できる)
痛みの中でぼーとする頭を回転させ、この場を収める方法を考える。
(あぁ……そうだ。
考えてみればそれは簡単な事であった。
最初から解決方法を言われているではないか。
「くっ……がぁ!」
「だめ!」
体にムチを入れ気合で立ち上がる。
体を起すだけでお腹が痛み口から胃液が零れる。
それでもなんとか体を起こし、前かがみになりながらもふらふらと立ち上がった。
「動いちゃ……」
「悪い……これしか思い浮かばねーや」
涙目で服を掴み止めようとするルイズに笑いかける。
痛みのせいで今の自分は笑えているか分からないが、これが今の精一杯だ。
「ちょっと……ばっかし、ケリつけてくるぜ」
「……サイト?」
ふらつく足で立ち上がり、ギーシュを見る。
ギーシュは、周りが笑う中で1人、苦しそうな表情をしていた。
(悪かったな……色男)
今となっては何故ギーシュがこの決闘をしたかを理解できた。
もしも、決闘の相手がギーシュ以外であったならば、自分はもっと酷い目にあっていただろう。
自分を庇う為に、これ以上場を荒らさないように調停してくれたのだ。
二人の女性に逃げられ、悲しみに暮れる中……本当に女性関係以外は、いい奴だ。
(悪いけど……最後まで付き合ってもらうぜ)
そんな事を思いつつ不敵に笑えば、呆れたかのように首を振りギーシュも笑い返してくれた。
(場を収めるのは簡単だ。オレがボロボロにやられればいい)
周りもそう望んでいる。
これ以上、自分のせいでルイズが笑われるぐらいなら、痛みなんか気にしない。
「……受け取り賜え」
「……!」
拳を握り、息を荒くして立っているとギーシュが薔薇を振り才人の前に一本の剣を作り出す。
「平民の牙だ。素手のままだと格好がつかないだろう」
「……はっ。後悔すんぜ?」
「あぁ……見せてみたまえ、君と言う男を」
薔薇を嗅ぐ様に鼻に持っていきギーシュが答えた。
それに返すように才人もまた、剣を握り締める。
「そういえば……名前を名乗ってなかったな。僕はギーシュ・ド・グラモン。二つ名は『青銅』。君の名は?」
これから自分はボロボロにされるだろう。
だが、見ていろ。お前等が笑った女の子が召喚した奴を。
どれだけボロボロにされようと退かず、無様に倒れるまで抗い続ける様を。
お前等に真似が出来るか。やれるもんならやってみろ。
「才人……平賀才人。『ゼロの使い魔』のサイトだ!!」
剣先をギーシュへと向け、名乗り上げる。
その瞬間、体の痛みがなくなり、ルーンが眩しいほどに光り輝く。
「意地を張らせてもらうぜ」
カリオストロ「ヒロイン誰だっけ☆」
ウイル「主人公誰だっけ?」
二人の出番は次の次になる模様。