「本当に大丈夫?」
「問題ないよ、ちょっと気分が悪いだけだから」
これで何度目だろうか。
顔を青くしているからか、ルイズから何度目か判らない質問をされた。
確かに、少し顔が青い為、心配になるだろうが、そこまで酷い物ではないと笑う。
軽く笑みを浮かべ、じっと見つめてくるルイズに小さく頷く。
数秒ほどじっと見つめられた後、ルイズも納得したのか小さく頷いてくれた。
「それじゃまたな!」
「おぅ、放課後辺りにでも」
「も~……何かあったら報告ね!」
「はいはい」
流石にお腹も空き、手を振り合いその場を後にした。
才人とルイズはそのまま食堂へ、自分達は医務室へと歩く。
「………」
「………」
「………なぁ」
「なんだ?」
二人で歩いているとカリオストロに声を掛けられる。
その声は、少しばかりの躊躇いが含まれているように感じた。
それをウイルは隣に立ち静かに聞き返す。
「……やっぱり、なんでもない」
「そっか」
「あぁ……」
頭を軽く掻き、恥ずかしそうに目を逸らした。
会話は途切れるも二人の間には、特に嫌な雰囲気はなかった。
お互いに歩調を合わせるように歩く。
「ねー、ウイル」
「んっ……」
「だいぶ具合悪そうだけど血とか苦手なの☆」
「あー……」
歩いて居て暇になったのだろうか、カリオストロはまた声を掛ける。
カリオストロの言葉に、暫くウイルは立ち止まって上を向いて考えた。
「……そうだな。苦手だな……怪我したり、怪我をしてる人を見るとな」
「気が弱いんだね~☆」
「
「………」
カリオストロが急に黙ったので不思議に思い首を傾げた。
声を掛けてもカリオストロは、何かを考えているのか腕を組み黙ったままだ。
「どうかしたか?」
流石に気になり、足を止めて後ろを向きもう一度声を掛ける。
「……いや、お前も色々あるんだろうなとな」
「まぁ、あるさ。カリオストロほどではないけど」
カリオストロは顔を上げると真剣な表情でその様な事を言った。
それに対してウイルは何を今更と言わんばかりに表情一つ変えずに返す。
「………」
「いや、どうした?」
「あー……いや、軽く受け取られるとは思わなかった」
「そら、カリオストロの経歴と比べれば……俺なんて軽いだろ」
カリオストロの方が自分の何倍も苦労も努力もしてるし、様々な経験をしていると軽く予測がつく。何せ、2000年近くもの間、生きているのだ。
転生前と合わせて60もいかない自分と比べて差が歴然としている。
「そりゃ、オレ様は凄い事ばっかりしてきたからな…………って…おい、お前やっぱりオレ様の事を知ってるだろ!」
そんな事を思い、素直に口に出すとカリオストロに飛びかかられた。
特に速いものでもなく、飛びかかってきたカリオストロを抱き止め、思わず持ち上げてしまった。
持ち上げた後に、どうしようかと悩むも丁度良く開いている窓があったので、そこの縁に乗せた。
「やっぱり、知ってたな。お前」
「まぁね。そりゃ知ってるさ、錬金術士の開祖様だし」
窓の縁に座り、此方をギロっと睨むカリオストロは、容姿が整っている事もあり迫力がある。
今まで以上に睨むカリオストロに苦笑しつつも答えた。
どうせカリオストロの事だ、自分の正体など既にほぼ分かっている事だろう。
それならば嘘をつく必要がない。
「……ちっ」
「悪かったよ。知っていた事を言わなかったのは」
「別にそれは気にしてねーよ。問題は……」
「………ここには
「……そうか」
カリオストロが心配しているであろう事を伝えておく。
まぁ……カリオストロの場合は、
「信用するんだな」
「嘘つく必要性ないしな。それに……」
「それに?」
「それに……何が来ようと全てオレ様が追い払ってやる」
そう言って、彼女は快活に笑った。
暫くの間、見惚れて黙り込む。
風に揺られる彼女はやはり魅力的で……だがふとウイルは思い至る。
「……なぁ、カリオストロ」
「なにかな~☆」
「その角度といい、全て計算してるだろ」
「当たり前だろ?こういう女の子好きだろぉ?」
「くっ」
教室の時から気になっていたが、やはりあの時と言い、今と言い計算していたらしい。
相変わらず、どうすれば自分を可愛く出来るかの一点だけに絞られている。
なんとも
「んで、どうなんだ?――ぐっときたろ?」
「あー……うん。教室の時はな」
いじわるく笑い此方を見てくるカリオストロから目を逸らす。
こう言った対応はあまり経験しておらず、正直対応に困った。
なんとか話を逸らせないかと考え、聞きたかった事があった事を思い出す。
「そうだ……ウロボロスって飛ぶ速度速いか?」
「ん~……馬よりは速いよ☆」
流石に頭の回転が速い、今の会話だけで自分が何を言いたいか理解したらしい。
「それじゃ……『決闘だー!ギーシュとゼロのルイズの使い魔が!!』……うん?」
今日の予定を話そうとすると、丁度自分達の下が騒がしくなってくる。
カリオストロと共に下を見れば、何やら生徒達が集まり、ざわめきあっていた。
お互いに不思議そうに眉を顰め、耳を澄ます。
『ギーシュと平民が……』『そうそう、なんでも平民が喧嘩を……』『ギーシュが二股?』
「………」
「………」
聴こえてきた声にカリオストロと目を合わせ不思議そうに首を傾げた。
「なぁ……」
「なんだ?」
「『譲れない物があるんだ』キリっとか言ってたのは誰だ」
「………」
今朝の事をカリオストロは言っているのだろう。
これには何と言葉にすればいいか分からない。
正直な話、ギーシュが才人と戦うという事でさえ、意味が分からないのだ。
「譲れない人は居るが……女癖は……」
「あ~……なんというか」
「言うな。あいつの家は代々そんな家だ」
何ともいえない表情をしているカリオストロに疲れた表情で声を掛ける。
冗談でもなくギーシュの家は、女癖が酷い。
父親も兄もギーシュも可愛い子が居れば口説くのだ。
そもそも貴族で複数の嫁を貰う事は別に普通の事でもある。
それだけの経済力と権力があればの話だが。
「それでも貴族の中では真面目だ。平民の扱いも俺の次にましだしな」
「ん~……平民の扱いがましね。あいつの家系って軍属か商売人か?」
「良く分かったな。ギーシュの親父さんは
「そらな……軍を預かるような家系なら子供の頃から平民の兵隊と触れ合うだろうしな」
簡単だと言わんばかりにカリオストロは、つまらなそうに答えた。
「商人とも思ったが……損得を考える奴等がこんな事をする訳もないし」
「……そうなると、軍関係?」
「そうなった。此方の貴族の貧富の差もわからねーしな。今ある情報からだとそれ位か」
カリオストロは、つまらなそうにふん、と鼻を鳴らして、下の祭り騒ぎを見下ろす。
下を見て耳を澄ませば、大勢の生徒が『平民がどんな目に合うか』を楽しそうに話し合っている。
これには正直頭を抱えた。カリオストロも呆れて黙り込んだ。
「んでだ、助けるのか?」
「いや、助けない。正確には
自分の言葉に納得したのか、カリオストロは小さく頷き、視線を戻した。
「才人にとってもこれは、大事な一戦になるだろうし」
「魔法がどういうものか身を持って知らせるのか」
「それもあるけどな」
カリオストロの言葉に頷く。
確かに言って聞かせるより、遥かに分かりやすく、覚えやすい。
「才人はたぶん……大きな痛みを負った事は無いと思う」
「かもな。あいつの話を聞いていると争い事とは無関係の場所らしいし」
「だけど……ここで
「………」
「逃げるか、謝るか、立ち向かうか、泣き喚くか……どんな行動を取るか分からないけど……」
「………」
「これから先、この世界で生きていく上で
「なるほどな」
「逃げれば……一生逃げ続ける羽目になるだろう。謝れば、相手の様子を伺う一生を過ごす」
正直な話、こんな事があった事すら忘れている。
この決闘の結末がどうなるか既に覚えていない。
だけど……願うならば―――。
「彼には……立ち向かって欲しいな」
☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆
「ルイズ、オレはこっちだから」
「あっ……。午後は使い魔との交流の授業だから、食べ終わったら迎えに来なさい」
「おう!」
厨房へと向かう為にルイズと別れる。
ルイズは先ほどの事を気にしているのか、少し上の空だ。
ウイルの青い顔を思い浮かべると確かに不安になる。
授業も何時の間にか寝ていて覚えてないのだ。
何があったのだろうかと生徒や先生も不思議そうに首を傾げていた。
(まぁ……ウイルはカリオストロも居るし問題だろう)
あまりに心配しすぎるので苦笑すら出てくる。
なんと言うか、親友とかより、親と子供だ。
ウイルの後ろを付いて回るルイズが簡単に思い浮かべられる。
その事に笑い声が漏れ辺りを歩いていたメイドに才人は笑われてしまった。
「っ~~~~!」
「くすっ、ごめんなさい」
「いや、大丈夫、大丈夫」
くすりと笑ったメイドは、カチューシャを着けた綺麗な黒髪にそばかすが可愛い子であった。
才人は何処かで見たことあるメイドさんだなと思い、少しばかり悩む。
「……何処かで見たような」
「昨日の夕食の時にお食事をウイル様に届けた者です」
「あぁ!」
メイドは、そう告げると恭しくスカートを持ち上げお辞儀した。
昨日の夜に才人と同じ黒髪だったのでよく見ていた、胸を見ていたわけではない。
そのことを思い出し、才人は合点がいき手を打った。
「あの時の……えーとっ、確か名前は……シエスタ!」
「はい」
同僚の子が言っていた名前を思い出し、口にするとシエスタは嬉しそうに微笑む。
その笑みに才人は頬を赤くし、なんだか恥ずかしくなり頭を掻く。
それを見てシエスタは、またくすくすと口に手を当て笑った。
「あっ……」
「お腹空いてるんですね」
何か話題を振った方がいいかと思っていると才人のお腹が鳴る。
慌ててお腹を押さえるも音は鳴り響き、シエスタにも届く。
更に恥ずかしくなり顔を真っ赤にさせているとシエスタの笑い声が聞こえた。
どうも、女の子に笑われてばっかりだと思うも泣かせるよりは、ましだと思い直す。
とりあえずは……。
「……厨房ってどっちだっけ?」
「案内しますね」
ここが何処なのかを聞いた。
「ぷは~……美味しかった!」
「たくさん食べましたね」
正直な話不安も結構ありはした。
だが、それも美味しい料理の前では些細な事。
満腹になったお腹を擦り、幸せな気持ちになる。
「あれ、シエスタは何処に行くんだ?」
お皿を片付け、どうしようかと悩んでいるとシエスタが外へと出ようとしていた。
やる事もなく、暇になり興味もあった為、横から覗き込む。
シエスタが持っていた銀のトレイには色とりどりのケーキが置いてある。
「デザートを貴族様にお配りするんですよ」
「そっか……ならオレも手伝うよ」
「いえいえ、貴族様の使い魔さんにお仕事を手伝わせるわけには……」
「別にいいって、それとオレは平賀……平賀才人。才人って呼んでくれ」
彼女の持っていた銀のトレイを預かり、陽気に笑った。
「それじゃ……お願いしますね!サイトさん!」
「おう!」
少し恥ずかしそうに、はにかむ彼女(シエスタ)に才人は元気に答えた。
「おー……優雅にお茶飲んでるな」
「丁度いいお時間なので、それに日当たりもいいんですよ?」
シエスタに付いて行くと生徒達がそれぞれの椅子に座り優雅にお茶を飲んでいた。
今日は天気も良い為か、外でお茶を飲んでいるようだ。
才人が銀のトレイを持ち、シエスタがケーキトングでケーキを一つ一つ配っていく。
「こっちにも貰えるかしら」
「はい、ただいま!」
「げっ……」
「げっ……とはなによ。げって!」
シエスタに釣られ笑顔で配っていくと見知った人――ルイズが座っていた。
「それでなんでアンタが、ケーキ配ってるのよ」
「あ~……オレも何か仕事しないとなって」
ルイズの疑問にそう答えた。
働いているシエスタ達を見て焦りが生まれた。
1日目だしいいかなと思っていたが、何もせず待っているのは性に合わない。
「なるほどね。う~ん……いいんじゃないかしら」
「いいのか?」
理由を話せばルイズは、納得したかのように頷いてくれた。
「昨日は教えてなかったけど、使い魔の仕事って…秘薬の材料を探したり、主人を守ったりなのよね」
ルイズが指を折り、一つ一つ丁寧に仕事の内容を教えてくれる。
どれもこれも自分には、厳しく、出来そうもない仕事に少しばかり肩を落す。
秘薬の材料などは、知るわけもなく。ルイズを守ろうにも……。
「喧嘩とかした事あるの?」
「殴り合いとかはないです。はい」
カラスにも負けそうと言われ、反論しようとするも出来ない。
良く考えれば、特に体を鍛えている訳でもなく、本気の喧嘩もしたことがない。
人を守るなんてとても出来そうになかった。
「あ、あの!」
「何かしら?」
「シエスタ?」
ルイズとそんな会話を続けているとシエスタが声を掛けてくる。
視線を二人揃ってシエスタに向ければ、シエスタは顔を真っ赤にさせうろたえた。
それでも言葉にしようと必死に口を開いた。
「ががが、学院の……お手伝いとか……は」
少しずつ尻窄みになっていく言葉をルイズは静かに聴いていた。
「ん~~っ、それもありかしら?」
「ほ、本当ですか!」
「え……えぇ、実際サイトにやらせる事ないし……」
シエスタの勢いに押されてかルイズは驚きしどろもどろになる。
「……確約は出来ないわよ?学院長にも相談しないと」
「えぇ、えぇ!分かっています!ありがとうございます!」
引き気味に答えるルイズにシエスタは満面の笑みを浮かべケーキ配りに戻っていった。
そんなシエスタにルイズも才人も呆気に取られポカンと見送ってしまった。
「なに……あの子、彼女なの?」
「いや、違う。会ったのもついさっきなんだけど……」
「……そんなに人手足りないのかしら」
「……男手少なそうだもんな」
シエスタの行動や気持ちが分からず、二人揃ってきょとんと顔を見合わせた。
自分の何処を気に入ったのか分からず、諸手を挙げて素直に喜べない。
前に自分の机に入っていたプレゼントを自分に贈られたと勘違いをした事があり、
好意に対して少しばかり臆病になっているのだ。
「口説いた訳じゃないのよね?」
「ないない」
ルイズの疑うような目に才人は手を振り答えた。
思い出してみても、自分の情けない姿しか見せておらず、口説く所の話ではない。
「それもそうか……流石にギーシュみたいに口説かないわよね」
「ギーシュ?」
聞き慣れない名前が出てきたので聞いてみれば、あいつよ、と目をそちらに向けた。
ルイズの視線を追いそちらを見れば、何人かの男子生徒が集まり談笑をしている。
「真ん中の金髪でバラを持ってるのが『ギーシュ』ね」
「……あいつか」
「そそ、よく女子生徒を口説いてるわね」
「チャライのか」
「チャライ?」
「あーっと……軽いって意味かな?」
「軽い……どうなのかしら?」
思った事を口にすれば、ルイズはうーんと呻り悩みだす。
「違うのか?」
「あー……色んな子と遊ぶけど、最後はモンモランシーを選ぶのよ」
ルイズの言葉にそれはそれでどうなのだろうかと本気で悩む。
一途と言えば……これは一途と言えるのだろうか。
正直微妙な部分だ。
「ルイズも口説かれたり?」
「入学当初は……」
少し思った事を聞けば、ルイズは、ばつが悪そうに目を逸らす。
これは、ギーシュを手酷く振ったのか、口説かれてないなと結論つけた。
「あー……その、どんまい?」
「うっさい!!別にいいもん!ウイルが居るし!!」
取り合えず、フォローをしてみれば、ガーっと吼えるかのように怒られた。
なんと言うか、ウイルの前でのルイズと違い怒りっぽくなってるような気がする。
大人しく優秀なルイズと怒りっぽく子供っぽいルイズ、どちらが本物なのだろうか。
「ところでサイト」
「ん……あぁ、悪い。少し考え事してた」
腕を組み考えているとルイズに服を引っ張られた。
考え込み、聞いてなかった事を謝罪するも、それはいいのだけど、と眉を顰められた。
「ケーキ配らなくていいの?」
「あっ……やべぇ」
慌ててシエスタを見れば、苦笑しながら此方を見ている。
ルイズと話をしているという事もあり、待っていてくれたのだろう。
手に持ったトレイを落さないように急ぎ足で向かっていく
「ん?」
と、足で何かを蹴っ飛ばした。
拾ってみたら、何かが入った小瓶であった。
オシャレな小瓶に紫色の液体が入っている。
匂いを嗅げば、微かに花の香りがした、どうやら香水らしい。
「これお前等のか?」
「あん?」
取り合えず、誰が落としたか分からないのでそのまま近くのテーブルの生徒へと聞く。
手で小瓶をゆらゆらと揺らし、誰のか聞いてみた。
生徒達は、一斉に怪訝にサイトを見る。
「お前か?」
「いや、俺じゃないな」
生徒達は、お互いに顔を見合わせ違うと否定していく。
そんな生徒達の中、1人だけ会話に参加をしない人が居る。
その生徒は優雅に足を組みお茶を飲んでいたが、手が震え、お茶を零している。
才人が気付き、じっとその生徒を見ていると他の生徒も気付き、そこに居た全員が
「なななな、なにかね?」
じっと見ていると汗を掻き、どもりながら答えた。
誰が見ても分かるその態度に才人は呆れ、目の前に小瓶を置いた。
「今度は落すなよ。色男」
「これは……僕の……僕の……」
小瓶を見て否定するのでもなく、何やら難しい顔をして言葉を続けようとしていた。
暫く待っているとぶつぶつと小さな声で何かを呟き、キッと顔を上げた。
「ありがとう、そうだ。これは僕のだ」
そう言って、すぐに小瓶を手に取りポケットに仕舞う。
取るまでに些か時間がかかったが、何か事情でもあるのかと不思議に思った。
そんな事を思っていると、他の生徒が小瓶の出所に気付いたのか大きく騒ぎ始めた。
「おいおい、それモンモランシーの香水だろ!!」
「あぁ……どっかで見たことあると思ってたらモンモランシーのか!」
「確か、あれってモンモランシーが自分の為に作成してる奴だろ?」
「つまりは……だ。それがギーシュの物だとすれば…今付き合ってるのはモンモランシーだな!」
「あー……やっぱり、こうなったか。しょうがないよなー……」
ほとんど箱庭のような学院では、娯楽に飢えている生徒が大半なのだろう。
他の生徒はギラギラとした目でギーシュの話しで盛り上がり、大声で笑った。
正直な話、気障な態度に澄ました表情、見ているだけで恥ずかしく死んでくれとさえ思ったりもした。だが、今のギーシュを見ていると同情しか湧いて来ない。
「ギーシュ……様」
「あぁ……ケティ。これはだね」
そんな事をしていると、栗色の髪をした、可愛らしい少女がギーシュに声を掛けた。
ケティと呼ばれた女の子は今にも泣きそうな表情をしている。
「ミス・モンモランシーと付き合ってたんですね」
「あぁ……泣かないでおくれ、モンモランシーとは、付き合ってはいな……」
なんとか泣き止まそうとギーシュが慌てて言葉を告げるも、ケティは思いっきりギーシュの頬をひっぱたいた。
「信じられません!さようなら!」
「………あぁ」
ギーシュは、去っていくケティを見て頭を抱える。
すると、遠くの席から1人の女性がずんずんとした足取りでギーシュへと向かって来ていた。
そのことを才人は、注意しようかと悩むも相手の方が早くギーシュへと辿り着いてしまう。
「ギ~~シュ?」
「………やぁ、モンモランシー」
モンモランシーと呼ばれた女性生徒は、見事な巻き髪の女の子であった。
モンモランシーの表情はにこにこと笑っているものの、どこか寒気すら感じる。
それをギーシュも感じ取ったのだろう。顔を真っ青にしてモンモランシーを見上げた。
「その……すまなっ」
「さいってい」
謝ろうとしたのだろう。
頭を下げた瞬間にモンモランシーが、テーブルの上に置いてあったワインの瓶を掴むと、中身を全てギーシュの頭へとかけた。
全ての中身をギーシュへとぶちまけ、鼻を鳴らし去っていった。
場に沈黙が流れる。
ギーシュは、ゆっくりと頭を起こしハンカチを取り出すと顔を拭いた。
そして、首を振りそのまま燃え尽きたのかのように椅子に深く深く座り込む。
そんなギーシュに煽っていた友人達も慌てた。
あれこれ、とギーシュを元気付けようにもギーシュは落ち込んだままだ。
「それじゃ……俺はこれで」
災難だったと思うが、浮気をしていたのはギーシュである。
同情はするが、それだけで才人はケーキ配りに戻る。
「そうだ!待て!そこの平民!!」
「……俺?」
戻ろうとして、生徒の1人に捕まった。
その生徒を見れば、気持ちの悪い嫌な笑みを浮かべており、才人の感が嫌な気配を感じ取った。
「そうだ、お前のせいだ」
「は?」
「お前が小瓶を気を使って持っていれば良かったんだ!」
この生徒は何を言っているのだろうか。
確かに才人が拾いはしたが、騒ぎ立て事を大きくしたのはこいつ等だ。
「お前が軽率な行動を取るからこうなったんだ!」
「はぁ~~!?」
これには才人も驚き呆れた。
「謝れよ!」
「………」
生徒の1人にそう言われ、どうしようかと悩む。
この色男が全面的に悪いが、自分のせいとも言えた。
最初こそ嫌悪感しかなかったが、今のギーシュは同情が湧いてくる。
「あー……その色男。悪かった」
「あぁ……気にしないでくれ。僕が悪かったんだ」
素直に謝罪すると力ない笑みで軽く手を上げた。
二股をしていたのは気に食わないが、意外といい奴かもしれない。
「それじゃ、今度こそ俺はこれで」
「まてまて」
「今度はなんだよ?」
今度こそを去ろうとするも先ほど同様捕まった。
同じようなやり取りにいい加減飽きてきた。
「俺達にも謝れ」
「………はぁ」
胸を張ってそんな事を言ってくる生徒に大きなため息が出た。
結局は、自分に謝らせて今回の事を全て自分に着せようという事なのだろう。
「いやだね。勝手にやってろ」
「ふん……」
付き合い切れない、そう思い、背中を向け歩き出す。
「あぁ、そうか、お前は
生徒の言葉に足が止まり、振り向く。
そして思いっきり手に持っていた銀のトレイを顔面に向けて放った。
「ぶべっ……おい!てめー!!なにしやがる!」
「あぁ……悪い、悪い。あまりにケーキを食べたそうにしてたからな」
顔や服にケーキがべったりとついた生徒は怒り狂う。
そんな生徒に才人は、メンチを切り顔を合わせた。
ゼロのルイズと聴いた瞬間、先ほどの授業の事を思い出したのだ。
あの時、確かこいつも教室でルイズを笑っていたと……覚えていた。
別にルイズが好きだからとかそういう訳じゃない。
正直好みだが、胸が足りないし。時たま偉そうだし。
それでも……ルイズは女の子だ。
女性を泣かせる奴は、
「よーく判った。平民……貴様は丸焼きがお好みか」
「……上等。殴ってやるよ」
生徒は杖を取り出し、才人は拳を握り構える。
そんな
「まった」
「ギーシュ?」
「なんだ、色男」
先ほどまで落ち込んでいたギーシュが颯爽と立ち上がり、バラを綺麗に振る。
「その勝負は、僕が受けよう」
「何言ってる?ケーキをぶつけられたのは俺だぞ!」
横槍をしてきたギーシュに生徒が掴みかからんばかりに吼えた。
しかし、ギーシュはそれを軽くいなし、笑みを浮かべる。
「君がケーキをぶつけられる原因を作ったのは、僕だ」
「いや……でも」
「僕の為に怒ってくれてありがとう。君のかっこいい風貌がケーキで台無しだ。そのままだと、多くの女の子を悲しませてしまう。君はケーキを落とし着替えてきたまえ」
「………ちっ」
ギーシュは優しげな笑みを浮かべ、諭すように友人へと話す。
暫しの間、サイトとギーシュを見比べていたが、舌打ちをして去っていった。
「そういうことだ。君との
そう言い切るギーシュの表情は、先ほどの澄ました顔でなく……。
覚悟を決めた真剣な表情であった。
次回は決闘。
原作より、かっこよく二人には戦ってもらいます。
ギーシュの女癖は治ってません。それも彼の魅力だからね!
ちなみに最初の決闘がギーシュって良く考えられてるなと思いました。
土メイジでゴーレム使いだしね。火や風だったら………。