「こい、ウロボロス」
カリオストロが、指を鳴らすと空間が歪む。
そして放電するような音が鳴り響き、そこから恐ろしい何かが這い出てくる。
誰も声を出さず、出せず、動かず、動けない。
裸で雪におおわれた冬の山に投げ出されたかのように体が震え凍えてくる。
両手で自分を抱きしめても歯がガチガチと鳴ってしまい、どうすることもできない。
使い魔達は、即座に逃げるか気を失い精神を守った。
だが、主人である生徒達は気を失う事が出来ず、出来るのは原因を作り出した少女を見ることだけ。
それはまるで、蛇に睨まれた蛙の様に捕食されるのをただただ待ち続けているように。
「っ……ぁああぁぁ」
「………」
そしてそれは無差別に行なわれた。
隣に居たウイルは勿論、ルイズや才人さえ巻き込んだ。
才人は早々に机に突っ伏し意識を失っている。
現代日本、ハルケギニアより危険が少ないせいもあり、こう言った事に耐性がなかったのだ。
少しばかり耐性があり、耐えることが出来てしまった他の生徒に比べ、ある意味幸せである。
「っ――」
「―――」
ルイズは先ほど以上に震えてウイルにしがみ付く。
それをウイルが片手で抱きしめ返すと、静かに涙を流しルイズも意識を失った。
カリオストロはそれを冷たい視線で見下ろすと、もう一度手を高く上げ指を鳴らした。
「――――――」
その瞬間、カリオストロの後ろで回っていたウロボロスは、大きく轟かすように咆哮した。
生徒達の意識があったのはそこまで。
ウロボロスが吼えた瞬間意識を根こそぎ奪われた。
「ふぅ……やっちまった」
そして辺りを見渡し、誰も起きてない事を確認するとカリオストロは頭を抱えた。
正直ここまでやるつもりはなかったのだ。
所詮は子供同士のじゃれ合い、何千年と生きているカリオストロにはどうでもいい事であった。
それなのに――。
(――危険か?……勿体ねーが早々に消した方がいいか)
ウイルの事を馬鹿にされた瞬間、頭に血が上り大人気なく行動を起こしてしまった。
こんなにも怒ったのは、星の民の話を聞いた時以来である。
首のルーンを触りながらそんな事を思った。
研究の為、残しておくつもりであったが、毎回こんな風になるのはカリオストロも勘弁だ。
「はぁ……しょうがな……あぁん?」
ルーンを消そうと力を入れた瞬間、誰かに服を引っ張られた。
「カ……リ……オス……トロ」
怪訝そうに下を見れば、ウイルが涙を流し青い顔をしながらも此方を見ていた。
これにはカリオストロも驚くほかない、本気でないとはいえ、それなりの力を出したのだ。
耐えるとは思いもしなかった。
「……なるほどな」
「っ……!」
「無茶すんな。お前も」
どうやって耐え抜いたか考えるまでもなくわかった。
ウイルの足に短剣が刺さっていた。
なんとも無茶をしたものだ、こいつは……意識を飛ばさないように足を自分で刺しやがった。
「はっ!何頑張ってんだよ。素直にそんな事せず、気を失ってれば良かっただろ」
「……かが、意識を保って……ないと」
「……ちっ」
目を細め、カリオストロの表情が暗く冷たくなった。
1日だけの付き合いだ、信用するほうが難しい。
何を仕出かすか判らない人間を野放しにはしないだろう。
それでも……ルーンの効果か、
(そんなにもオレ様が信用できねーか)
心に来るものがあった。
故に本に力が入り、ウロボロスが静かに回りだす。
「っ……はぁ、意識を保ってないとっ……カリオストロが悪者になるだろう」
「……なんだって?」
聞き間違いかと思い、目をパチクリと開き、もう一度ウイルを見つめる。
ウイルは息も絶え絶えながらも、カリオストロを見つめ返した。
その目には脅え、恐怖、が混じっているものの、ぴくりとも目を離さない。
「カリオ……ストロも遣り過ぎたが、元々の原因はあいつらだっ」
「………」
「俺が意識を保ってないと……説明しないと、カリオストロが一方的に悪者になるだろ……」
「っ――!!」
あぁ……参った、本当に参った。
サイトと違い自分の方だけ洗脳の効果が高いなと思っていたが、理由が良く分かった。
「ねぇ、庇ってくれるのは嬉しいけど☆このままだと大勢の貴族を敵に回すよ?」
「俺はな……昔から、大勢の友達より1人の親友を選ぶんだよ」
「………まだ会って1日も経ってないぜ?」
「ルイズを笑うあいつ等と、どっちを選ぶか言われたら……カリオストロだろ」
「………」
見誤った、まじで見誤った。
こいつは……あれだ、
しかも才能無しの癖に
足掻いて足掻いて最後には、なんとかしちまう、理不尽の根元。
「あーあー……だいぶ厄介な奴に当たっちまったな」
「………」
「でだ、何時まで泣いてんだ」
ため息をつき、ウイルを見れば今だに涙を流し青い顔で倒れ込んでいる。
そうだった、こいつ短剣を足に刺してたんだ。
「泣くぐらいならすんなよ」
「思ったより痛いし、気持ち悪い」
「あぁ、もうまったく。しまんねー奴だな」
しくしくと泣き続けるウイルに呆れ、頭を掻き目を逸らす。
原因が自分にあるだけに気まず過ぎる。
「取り敢えず、治すか」
「………っ、てっぇ」
この程度の傷なら流れた血を代価に使えば楽に治せるだろう。
短剣を引き抜き、指を鳴らす。
すると足から流れていた血と地面に滴っていた血が綺麗に消えていき、傷が塞がる。
血と傷ついた細胞を代価として、傷の部分だけを新しく練成して当て嵌めたのだ。
「うっし、これでよしと」
「………」
「おい、何とか言えよ」
「………無理っぽい」
ウロボロスの威圧を痛みで耐え切っていたのだ。
むしろ良くぞここまで意識を保ったものだと関心するべきだろう。
「あーもう、どうせ全員寝てるんだ。人が来たら起してやるから寝とけ」
「………」
「たくっ……あぁ、
ウイルが意識を失うように目を瞑るのを見届けると
首に当てていた手を退け、ただ1人窓の外の空を眺めた。
☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆
「ふぁ~………なんで寝てるんだ?」
「知らない。使い魔も寝てるし」
「先生は………寝てるな」
次々に生徒達が起きだし、不思議そうに辺りを見渡す。
辺りを見渡すも特に何かが変わってる訳でもなく、
「うみゅ……ういる?」
「おはよう、ルイズ」
「……顔真っ青だけど大丈夫?」
「あー……午後は休むよ」
机に肘を乗せ顎を支えながら待っていると隣で寝ていた、ルイズが起きた。
目を擦り、ルイズもまた
「どうかしたか?」
「うう~~ん、何か怖いような、嫌な夢を見たような」
「………気のせいだろ、こんなにも
ルイズは納得してないのか、そのまま腕を組み考え始める。
そんなルイズを横目で見た後に、ふと隣に座っていた筈のカリオストロへと視線を送る。
「………」
カリオストロは窓の縁に座り、遠くを眺めていた。
窓は開いており、風がカリオストロの髪をふわりと浮かし、後ろへと流した。
暫く見ていると此方に気付いたのか視線が合わさる。
「――――――」
カリオストロは、静かに何かを言って首のルーンを指でなぞった。
その瞬間、ルーンが淡く光り輝く。
「何を――っ」
何を言ったかは聴こえなかったけど――カリオストロのあの表情は決して忘れないだろうと思った。
蜂蜜梅さん、リドリーさん、誤字報告ありがとうございます!
今さっきこんな機能があったのかと気付きました。
カリオストロがどんな表情をしていたかはそれぞれ想像で……。
いたずらっぽく笑ったのか、微笑んでいたのか――。
デレはまだ20%程度