いないいないばぁ。【解】
私はゆっくりと扉を開けて、食堂から外へと出た。どこまでも真っ直ぐに伸びる廊下を見据えて、そっと扉を閉める。こつこつと歩き始め、足元から発せられる乾いた靴音が廊下を反復するように響いてくる。そんな中で私は長い長い廊下をただ無心で歩き続ける。
その時だった。私の目の前に、大きな影が急に飛び込んできた。目を見開く。曲がり角にいた誰かにぶつかりそうになる。体に急ブレーキをかけて、自分の動作を停止させる。危機一髪。一切の接触もなくその場を切り抜けた。一体誰なんだと、引き気味の顔を目線ごとその人物へ向ける。
「あっ、お燐!」
意外も意外。それは私の同僚である
「……なんだ、お空か」
それを聞いたお空はムッと表情を曇らせた。
「何だとは何よ!」
お空はぷくっと頬を膨らませる。怒っているにしてはまた随分と可愛らしい。しかし駄目だ。お空は怒らせると面倒になる。取り合えず話を逸らそうと、私は今適当に思い付いた質問をお空へと投げかけた。
「ごめんごめん。ところで何でお空はこんなところにいるの?」
「…………何でだっけ?」
全くこの子は……。
いつまでたっても鳥頭。覚えたことも、次に聞いた時には忘れてしまう。そして何よりも単純に馬鹿。それがお空と言う娘だった。
「……あっ!思い出した!」
「思い出したの?」
お空が一度忘れた事を思い出すなんて珍しい。
「うん!私、探し物を探してるんだった。さっきまで本館にいて、それで次は別館に行こうと思ってたの」
「探し物?」
「えっとね。こいし様の帽子を探してたの」
その答えに思わず表情が固くなる。
「…………こいし様の帽子ね。それなら私が見つけとくから、お空は気にする必要はないよ」
「えっ?でも二人で探した方が絶対に早いよ」
お空の言うことは正しい。でもそれは探すだけ無駄なのだ。今日一日。いや、これから死ぬまでずっと探し続けても見つかりはしない。
「実は私、今朝こいし様の帽子を見かけたから当てがあるんだ」
「本当に!?ならお燐に任せるよ!」
お空は嬉しそうにしながら、私に笑顔を向けてきた。その場でピョンピョンと跳ねる無邪気っぷりに思わず笑いそうになる。
「あっ、そう言えばお燐に聞きたい事があったんだ」
お空は急に跳びはねていた足を止めて、私に向き直おり、そう元気良く言った。
「何?」
「えっとねーーーー」
ーーーー私、こいし様って言う人を