いないいないばぁ。   作:Gasshow

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「なんでもう一話書いた!?もう終わるって言っただろ!」と思われた方、申し訳ありません!と言うのも今回の『花の名』と言う話、投稿して十五分後に正解者様が出ると言うもう過去最速の記録が出てしまい思わずーー

Gasshow「……ワケわからんでほんま」

と本気で呟いてしまいまして、そこでふと私の心にこの『いないいないばぁ。』と言う作品の中で一つの忘れていた思いが再熱しました。それは読者様に「うわ、やられた!」と言わせたい!と言う思い。ストレートに言うなれば、答えが出ていない話が無いのは悔しい!一度くらいは勝ちたい!その想いだけでこの話を書きました。まぁ本音を言うとあの話が最後ではあまりにも呆気ないと思いまして……。

私は二次創作を書く中でやり残しをすることは好きではありません(書いてる意味が無くなるので)。と言うことでこれが『ラストバトル』です!今回の話に慈悲はありません。難易度は新Lunatic.ver2改revolutionZextra(増えたなぁ)!申し訳ありませんが甘さは捨てました。そして【解】を見た時に必ず「うわ、やられた!」と言わせます。強いて言うなればこれがヒントです。



では、デュエル!




またね

人里で大きな権力や財力を持つ稗田家。歴史を刻む為に存在するその家名は、古くから幻想郷に少なからず影響をもたらしてきた。そんな稗田家の現当主が長くない。それは瞬く間に人里全体へと広まった。医師の判断では今夜まで。それ以上はどうあっても無理だと言う。それに対して当の本人の願いは単純な物だった。

 

 

『最後の時は最愛の親友と』

 

 

それが彼女の最後にして、最たる願い。満天の夜空はそれを叶えようとせんばかりに星々が輝いていた。どこまでも深く吸い込まれそうな、そんな夜空にーー。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

大仰(おおぎょう)とさえ言える大きな屋敷の中に、不釣り合いなほど小さな部屋がある。灯篭(とうろう)の火がゆらりと揺れ、それに(ともな)い部屋の壁や床に張り付いていた影も動めき揺らぐ。秋半ばにあるはずの気候が、橙色(だいだいいろ)に照らされるその暖色により、不思議と暖かく感じさせる。そのせいか、母の胎内にいるような心地よさがその部屋にはあった。そんな部屋の中心に一つの布団が敷かれおり、そこに彼女ーー稗田阿求(ひえだのあきゅう)は横たわっていた。そして彼女の側に寄り添い、今自分が握っている手の持ち主を一心に見守っている彼女の親友ーー本居小鈴(もとおりこすず)は自身の表情を心配そうに曇らせる。

 

 

「ねぇ阿求、大丈夫?」

 

小鈴は眉毛を下げて阿求に問いかける。

 

「…………ええ、大丈夫。今とてもいい気分なの」

 

阿求はそう言うが、その顔には無理をして作ったような笑みが溢れており、彼女の全身からは脂汗に似た何か拙劣(せつれつ)な液体がしたたり落ちていた。もしかするとそれには苦痛や倒懸(とうけん)と言ったあらゆる苦しみが混じっているのかもしれない。阿求は目を閉じ浅い呼吸で生を伝え、小鈴は彼女の生を目や耳、手の温もりで実感する。二人の間には静寂があった。いつもは周りが注意する程に和気藹々(わきあいあい)と話をするのに、今の二人にはそんな雰囲気は無く、もし彼女たちを知らない誰かがこの場面だけを見れば二人は初対面だとそう指摘してもおかしくなかった。それは今も変わらず、二人はただ黙ってたたずむだけ。外から聞こえる鈴虫の泣き声が、寂しげに響く。しかし、それらは唐突に萎れたような阿求の声で打ち切られた。

 

「…………小鈴、私の意識が無くなる前に言っておかなくちゃいけないことがいくつかあるわ」

 

「………何?」

 

阿求の声に小鈴はポツリと聞こえるか聞こえないか分からないほどの声量で返事をした。

 

「私が死んだ後、きっと藍さんが貴方の元を訪ねてくる。その時に私が最後に製本依頼した『幻想郷縁起(げんそうきょうえんき)』を藍さんに渡してね」

 

阿求はあまり焦点の定まっていない目で小鈴を見つめながらこう言った。その内容は事務的なもので、死ぬ間際に親友と交わす会話だとは到底思えなかった。しかし阿求の伝えたいことはそれだけではなかったようだ。続けて彼女は切れ切れの息で言葉を紡ぐ。

 

「えっと、私の書いていた日記が机の引き出しにあるの。家の者に見られると恥ずかしいから、貴方が持ち帰って」

 

「…………うん」

 

「それと、永遠亭から貰った栄養剤が、日記の仕舞ってある引き出しと同じ所にあるから貴方にあげるわ。勿体ないから必ず飲んでね」

 

「…………うん」

 

「あと、私の子供と仲良くしてあげてね。稗田家の子供は何かと不憫(ふびん)な事も多いから」

 

「…………うん」

 

「…………それとね…………それと……」

 

阿求は言葉を詰まらせる。次に繋げる言葉が見つからない。うっかり無くした文鎮(ぶんちん)を探すかのように、彼女は言葉を探した。しかしようやく見つけて取り出した言葉(もの)は、空気のかすれたような言葉未満のものばかり。

 

「…………うん」

 

しかしそれでも小鈴は変わらず、何も心配はするなと、そう言っているかのように彼女は頷くのだ。阿求はその様子に思わずほころんで瞳を閉じる。

 

「…………もう、そんな顔をしないでよ」

 

「だ、だっで!」

 

小鈴に握られた阿求の手には、いつしか水滴がぽつりぽつりと滴り落ちていた。彼女の悲しみと言う犠牲から流れる涙はとても危なげで、しかし(はかな)く、そして美しくも感じられた。阿求は自分の手の甲に落ちた涙をそっと袖を伸ばし(ぬぐ)い、それからもう片方の手を今度は小鈴の手の上に重ねた。

 

「…………ねぇ小鈴。私のこの短い人生の中で起きた、最も幸運な出来事は貴方と会えた事なのよ」

 

「…………私と?」

 

小鈴は止まることのない涙を流しながらそう疑問を口にする。

 

「ええそうよ。稗田家の当主として育てられた私には、小さい頃から親しい友達はいなかった。たまの休みに私が人里の子供と遊んでも、彼らはどこか遠慮がちで心の底から私と遊んでくれる子はいなかった。そんな時よ、貴方と出会ったのは 」

 

阿求は瞳を閉じながら、そっと大切な物を取り出すかのように優しく一言一言を発していた。そして閉じていた瞳を開き、濡れた小鈴の目を見つめる。しかし、もうまぶたを開ける力さえも残っていないのか、隙間から覗かれる黒々とした瞳は半分ほどしか見えておらず、もう光を映していないようにさえ思えた。

 

「貴方は私の立場に臆することもなく、私と対等に接してくれた。それは私にとって何よりの喜びだった。唯一の光だった」

 

阿求は息を吸うこと無く続ける。肺から空気を絞り出す。

 

「生きてから今この時まで、私の全てを(さら)せるのは貴方だけ。私と並んで歩んでくれた貴方は私にとってそんな存在なのよ」

 

一気に話し続けたせいで、阿求の呼吸が大きく乱れる。額から流れ出る水滴が、一つまた一つと彼女の肌を滑り落ちる。

 

「まぁただ単に馬鹿なだけだったのかもしれないけど」

 

そんな汗が流れるように、自然に阿求は悪戯気(いたずらっけ)の含む言葉を発しながら不敵な笑みを見せる。始めは呆気に取られたものの、元気に会話していた頃と変わらない親友の悪態に小鈴は思わず微笑んで、くつくつと喉を鳴らした。

 

「ふ、ふふっ。あぁもう、酷いよ阿求」

小鈴は今この瞬間だけ、自分達が人里を駆けずり回っていたあの頃に戻った気がした。木に登って使用人にはしたないと怒られた。一緒に本を読んで過ごした。日が暮れるまでお互いの話をした。そんな頃に。でもそれはもう戻らない。取り返せない幻想なのだ。目の前の阿求(彼女)を見ると、嫌でもそれに気づかされる。

 

「…………ねぇ阿求。もし阿求がいなくなっちゃって、そして私も年老いて死んで、阿求はきっとまた百年後に『御阿礼(みあれ)の子』としてここに現れる。その時、私はどこにいるのかな。転生して幻想郷にいるのかな?それとも外の世界?もしかするともっと遠くにいるのかな?」

 

それはふとした疑問だった。今しがた生まれた疑問。不確かな未来に対する疑問。そんな疑問を小鈴は口にした。

 

「…………それは分からないわ。転生した人間がどこにいくのか、それは人間(わたしたち)には分からない」

 

「………………そっか」

 

その呟きには何の色も無かった。落胆や失望、そんなものは何一つとして含まれていない。恐らくきっと心の中で分かっていた。ただの確認だったのだから。でも、それでももう一つ、ただの確認だとしても聞きたい事があった。たとえ返ってくるのは否定以外の何でもないとしても。

 

「…………阿求。私たち、また会えるかな?」

 

小鈴は体内の隔膜を押し出すようにしてそう言った。自然と彼女の視線が下へと落ちる。その様子は先程と違い、明らかな負の感情が見て取れた。それは予想された返答が分かっていたからだろう。

 

「ええ、きっと会えるわ」

 

しかし、返ってきたのは予想外の返答だった。それに思わず顔を上げ、小鈴は自身の膝を向けていた視線を阿求へと移す。

 

「ほんとに!?」

 

「ええ」

 

「ほんとのほんとに!?」

 

「ええ、必ず」

 

小鈴からすれば全く根拠の無い言葉だったのだが、それが親友(彼女)の言葉だと思うと自然と確信に近い感情が生まれる。たとえ別れ(ぎわ)のただの慰めだとしても、彼女にはそれで十分だった。そのせいだろう。そこで小鈴の限界が来た。溢れ出た感情が、目からそして喉を伝って口から排出される。

 

「私、何回繰り返しても阿求の所に行くから!きっとその時、私たちはお互いの事を忘れちゃってるけど、それでもきっと会いに行く!絶対に会いに行くから!」

 

気づいた時にはそう言っていた。発していた。叫んでいた。感情のままに小鈴は口を開いていた。そんな稚拙(ちせつ)で、素直で純粋な言葉を阿求は笑って受け止めた。そして受け止めたそれを想いと言う形で返す。

 

「…………ええ。でも小鈴、でもそれは少し勘違いよ。追いかけるのは私の方。待つのは貴方」

 

阿求は震える手をゆっくりと上げ、それを小鈴の頬に添えた。

 

「もしかすると次に私が貴方と会った時、貴方は私を殺したいほど憎んでいるかもしれない。いえ、もしかすると単に再会の嬉しさをお互いの笑顔で表すかもしれない。それはその時になってみないと分からない。それでも私は貴方のどんな感情も受け入れるわ」

 

先程までの弱りきった彼女はどうしたのか。そう言って笑った彼女は今まで見たどんな時より輝いて見えた。それは小鈴が彼女と出会ってからの二十年で見せた一番の笑顔だった。

 

「また会いましょう」

 

だから小鈴も笑顔で返す。きっとこれが最後だ。彼女の前にいる間は、この部屋を出るまでは、泣かないで涙を見せないでーー。

 

「うん!また会おうね、阿求!」

 

「ええーー」

 

二人は再会の願いをある三文字に乗せる。二人で遊んだ後にはいつもこう言った。そしてその約束が破られた事は一度たりともなかった。だからきっと次もーー。

 

 

 

 

「またね。小鈴」

 

「うん、またね。阿求」

 

 

 

 

そこで阿求の手が地面へと落ちる。小鈴の頬からするりと滑るようにして抜け落ちた。それを小鈴はそっと見つめる。阿求の指の跡をなぞるようにして頬から涙が伝った。だか小鈴は表情を変えない。泣いたとしても、せめてこの部屋を出るまでは毅然としていようと、小鈴はそう決めていた。だから、涙が流れたとしても、その表情は崩さないーー

 

 

 

 

 

 

 

 

ーーその筈だった。

 

「……………………寂しいな」

 

その言葉が、切っ掛けだった。

 

「っ!」

 

忍び泣きが嗚咽(おえつ)に変わる。口から、喉から、全身から溢れる悲しみが、今にも沸き上がらんとしていた。体が動かない。部屋を出るための一歩が踏み出せない。踏み出したら、きっと溢れ出して、流れていってしまうから。だから耐えた。目元に力を入れて、口を結んで。それでも、それでもーー

 

 

 

限界だった。

 

 

 

今まで貯めていたダムが、崩れるようにこぼれ落ちた。声を上げて泣く。声の限り泣き叫ぶ。自分の中にある理性や、摂理。そんなものをすべてかなぐり捨て泣いた。こんな姿を彼女が見たら、呆れ笑われると分かっていても、それでも泣き続けた。

 

 

 

 

 

満天の夜空の下で声にならない叫びが、何時までも涙と共にこだまし続けた。

 

 

 

 

 

 




文章力が欲しい~!スランプ抜けたはずなのに……。かなり落ち込みです。こう啖呵を切ったのにも関わらず、ちゃんと話ができているか心配です。

話は(恐らく)ちゃんと妄想とか無しでいけます。さて、とりあえずもう本当に最後です。この話で正解者様が出たのならばもう潔く諦めます。感想もこの話に関する返信はいたしません。あと解説はこの話が終われば活動報告に載せると思いますので。

ではーー





ーーまたね。



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