少女よ、大志を抱け   作:七瀬 凌

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7.壊れていく家族

 ガープさんがきたその夜、僕たちはダダンの家を出て独立することになった。どうやらエースたちはガープさんによほどひどい目にあわされたらしい。頭のたんこぶが語っていた。

 

『独立する ASRL』

 

そう書いた紙をはり、僕たちはこっそりダダンの家を抜け出した。ダダンの家に帰らなくなるというのは多少寂しさを感じたりしたが、それでも三人がいるから問題なかった。秘密基地を作り、海賊旗を立てた。海賊旗は、僕らが自由だという証でもあるように思えた。

 

 

 そしてそれから一週間ほど経ったある日。

 

「ねえ見て!拾った!」

 

「なんだそれ…鳥?」

 

エースはそう言って、首を傾げる。

 

「うん、すごい弱ってるんだ」

 

 僕はもふもふした小さな黒い鳥を拾った。怪我をしていて今にも死にそうだったから助けたのだ。

 

「怪我してるな。休ませてやろう」

 

 

 サボが言ったとおりに拾った鳥の世話をして、二週間くらいすると鳥はすっかり元気になった。

 

「カァ」

 

「よかったな、クロウ」

 

 鳥はクロウと名付けた。よく懐いて、四六時中僕のそばにいた。

 

 

 四人と一匹で暮らしていたある日、嵐が来て秘密基地がボロボロになってしまった。

 それでエース達は直すための材料をグレイ・ターミナルに取りに行くことになった。その間に僕は川へと水を浴びに行った。

秘密基地の前で落ち合うことになっていたのに、なかなか帰って来ない。何かあったのだろうか?と思い、僕はグレイ・ターミナルに向かった。

 

「っ!」

 

 グレイ・ターミナルにつくと、そこには海賊に捕まってるサボとエース、ルフィがいた。それによくよく見れば、サボのお父さんがいる。どういう状況だ、と考えていると、体が急に持ち上げられた。

 

「わっ!」

 

「船長!こっちにも仲間がいましたぜ!」

 

そんなことを言う海賊。しまったと思い、暴れる。

 

「レム!やめろ、レムに手を出すな!!」

 

 サボが叫ぶ。エースとルフィも口々に叫んだ。僕は必死に捕まっている腕から逃げ出そうともがいた。

 

「っ、離せ!!」

 

「暴れるな!」

 

 ガンッと頭を殴られて、まぶたが切れる。ドクドクと血の流れる感覚と痛みに、泣かないよう唇を噛み締めた。

 

「レム!!てめーらレムに何してやがる!!」

 

 エースが暴れる。それを抑えるように、海賊がエースを地面に叩きつけた。そのひどい仕打ちに息を飲む。

 

「わかった!」

 

たまらなくなったようにサボが叫んだ。

 

「なにがわかったんだ」

 

静かな声で、サボのお父さんが言う。サボはエースの制止の声も聞かず、口を開いた。

 

「なんでも、言う通りにするよ。言うとおりに生きるから…だからこの三人を傷つけるのだけはやめてくれ。お願いします…大切な、兄弟なんだ」

 

「さ、ぼ…?」

 

なんでもこの言うとおりにするって…サボはそれが嫌で逃げ出してきたのに?僕たちのために、サボは犠牲になるのか?

 

「ならば、今すぐうちに帰るんだ。くだらん海賊ごっこは、おしまいにしなさい」

 

 その言葉に、後ろを向いて歩き出したサボ。痛みより、海賊の怖さより、サボがいなくなることの恐怖が勝って僕は叫んでいた。

 

「待ってよサボ!!僕はサボの妹だって言ってくれたじゃんか!自由になるんだろ!?行くなサボっ……行か、ないでっ…」

 

小さくなる背中に涙がこぼれ落ちた。

 

ーー僕の声にも、エースやルフィの声にも、サボが振り返ることはなかった。

 

 

 

 それから、エースとルフィはブルージャムの手伝いをすることになった。僕はサボを僕達から奪った奴らの手伝いなんてしたくなかったから、断った。あいつらは初めから僕は役に立たないと踏んでいたのだろう、強要してくることはなかった。

 ルフィとエースを置いて、先に帰った。一人ぼっちの秘密基地の中で、頭に浮かぶのはサボのことばかり。サボはどうしてるだろうか?初めてできた僕の家族はサボだった。

 

”おれの妹になるか?”

 

どこの馬の骨とも知らない僕に、そう言ってくれた。そんなサボが…僕の知らない場所に行ってしまった。貴族だとかよくわからないけど、僕じゃ手に届かないほど遠いところに行ってしまったんだってことくらいはわかる。

 

 夜になって、エースとルフィが帰ってきた。いつもより元気のない二人。僕は夜中眠れなくて、起き上がってエースに声をかけた。

 

「…エースは、これで良かったの?」

 

「いいも悪いも、あいつはもともとあっち側の人間だ」

 

 ずっとエースとサボと一緒に暮らしてきた。今ではルフィも一緒だ。楽しかったときはあっという間に過ぎてしまった。

 

「エース…」

 

「なんだ」

 

「寂しい、よ」

 

 ポタリポタリ、落ちた涙が床を汚していく。サボとずっと一緒にいた。サボは優しくて、あったかくて、僕にとっては初めての家族だった。

 

「っ…泣くな、レム」

 

 そう言われても、涙を止めることはできなかった。エースにしがみついて、ひたすら涙を流していた。

 

 

 

 翌日も、エースとルフィはブルージャムの手伝いに行った。僕はその間、秘密基地でじっとしていた。いつの間にか眠りについていて、目がさめるとなんだか外が異様に明るかった。

 

「…火?」

 

 外を見て、目を見開く。グレイ・ターミナルいっぱいに炎が燃え広がっていた。

 

「っ、エース!ルフィ!」

 

 僕はエースやルフィまで失うのか!?そう思ったら背筋がゾッとした。

 

外に出て急いで炎に向かって走っていくと、クロウが飛んできた。クロウは僕の先導するように、炎に向かって進む。

 

「お前…二人の居場所を知ってるのか?」

 

返事をするように振り返って一鳴きしたクロウの後を追って、僕は走った。炎の中につくと、ブルージャムの奴らがエースとルフィを捉えてるのが見えた。

 

「エースとルフィを離せ!!」

 

 ガンッ、とルフィを掴んでる男に棒を叩きつければ、男は倒れる。

 

「うっ、いでェよ〜、あちィよ〜!じにだぐねェ」

 

涙やら汗やら鼻水やらで顔をぐちゃぐちゃにして泣いていた。

 

「っ、ルフィ、大丈夫か!?」

 

「このクソガキが…」

 

 ハッとして上を向けば、剣をこちらに向けてる男がいた。ルフィを抱きしめて、目を瞑る。

 

 

 

「そいつらに手を出すなっ!!」

 

 

 

 エースがそう言った瞬間、”何か”がおきた。バタバタと海賊達が倒れ、ブルージャムとエースだけが炎の中に立っている。

 

「クソガキっ!お前らまで俺をコケにするのか!!?」

 

「エースっ!!」

 

 怒り狂ったブルージャムにエースに銃が撃たれそうになったとき、ダダンがきた。

 

「そのガキはうちで預かってんだ、手ェ出すなら容赦しないよ!!」

 

「大丈夫かおまいら!ルフィのやつひどい怪我だニー…レム!その目はどした!?」

 

 山賊のみんなが、加勢に来てくれたらしい。そのことに安堵して、ホッと息をついた。

 

「これは昨日できた傷だから平気…ルフィを頼む」

 

 僕はルフィから離れて、ブルージャムと向き合う。逃げるぞ!と言ったダダンに、ついていくことはしなかった。

 

「…お前は先に逃げろ、レム」

 

「いやだ、僕も逃げない」

 

エースの隣に立つ。

 

「なァにしてんだ二人とも!さっさと逃げるぞ!」

 

そう言われても、逃げる気はなかった。

 

「…いい。お前らルフィとレムを連れて先に帰ってな。エースはあたしが責任を持って連れて帰る」

 

 ダダンはそう言うと、エースの隣に立つ僕を掴んで山賊たちの方に放り投げた。

 

「なっ、やめろ!離せ!」

 

 山賊の一人にうけとめられ、ひょいっと担がれる。暴れても暴れても、手を離してくれない。僕だって戦えるのに、それなのにどうして…!!?

 

「エース!いやだ!いやだああああ!!!」

 

 小さくなっていくエースにいくら手を伸ばしても、この手が届くことはなかった。


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