リボーン×ニセコイ!-暗殺教室~卒業編~-   作:高宮 新太

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標的8 Un cambiamento e l'origine(変化と原点)

「骸様ぁ!誰ぴょん?!そのガキは!」

「犬うるさい」

「クフフ。拾ってきました。温めてください」

「わー、師匠そんな冷凍食品みたいに」

「毛布・・・・ある」

「えー、私金にならないガキは嫌いなんですけど」

 子供を取り囲んでそれぞれは、それぞれの主張をする。

 取り囲まれた子供は、反応することなく気を失っているが。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「クフフ。はい、もう一度」

 薄暗い闇の中、時折弾ける光。

 子供が持っているのは三又の槍。

 相対しているのは、六道骸。こちらも同じく三又の槍を持っている。

 ただし、その槍は本来一つしかない。六道骸が持っているのは自身の幻術で作った虚像の槍である。

「っく!」

 その虚像の槍ですら、子供は打ち破ることができない。

 槍の扱いに慣れていないこともそうだが、完璧に実力差であった。

 さらに実力差を示す点を挙げるとするならば、彼、六道骸は憑依していたおっさんから離れ、クロームに体を借りたいわば偽りの肉体である。

 まあ、それを知る由は今の子供にはないのだが。

 そう言っている間にも、子供の槍撃は続く。

「ていうかー、才能ないのよ才能」

 M・Mは箱の上から、ふんぞり返ってそう言う。

「なーんで骸ちゃんはこんなの鍛えてんのよ」

「クフフ。こんなのとは酷い言われようですね。しかし、彼は今後マフィアを壊滅させるうえで重要な戦力になりますよ」

「ふーん。ま、いいけど」

 子供は、雪の中で六道骸に拾われた。

「クフフ、君、マフィアは嫌いですか?」

 そういって、この男は子供を介抱した。

 そして、今現在。槍の技術を教わっている。

 それは、教わるというほど丁寧なものではなかったが。 

 それでも、どうせ死んでいた命なのだ。今はこの男の命令に従っておこうと子供は思った。

 そして、一番の理由は—————————————。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「さて、本当に槍の才能はないようですね。では次は剣を」

「・・・・・・」

 こうして、先ほどからずっと手ほどきを受けている。

 が。

「っ!!」

「・・・・フム」

「さっきよりはマシだぴょん」

「そうだね」

 犬と千種。食料を買い込みに行っていた二人が帰ってきた。

 それでも、その剣技にさして変化はない。相も変わらず、六道骸に一撃も叩き込めないでいる。

「はい、じゃあ次は銃」

「・・・・・・・」

 子供は、文句も言わず、その銃を受け取る。

 手に持っていた剣を放り投げ。

 いや、銃を受け取るには剣を手放す。それは合理的で、理にかなった行動だ。

 だが、六道骸は思った。

 この子供には、執着というものがない。と。

 先ほどから槍を持っても剣を手に取っても、銃をその身に構えても。

 もっといえば、子供の故郷にも、親にも友にも。助けてもらった老人にも。果ては六道骸でさえ。

 その全てに執着が感じられなかった。

 だから、子供は才能がないと断じられようとも顔色一つ変えないのだ。

 子供なのに。

 反骨精神も、拗ねて腐ることもない。常に一定。揺れることのない水面。

 例えば突然、彼の目の前から六道骸達がいなくなったとしても、彼は何事もなかったかのように生活を続けるだろう。

 

 そしていずれ死ぬ。

 

 執着がない、言い換えれば期待がない。

 子供は自身に何の期待もしていないのだ。

「君は、なぜ人を殺したのですか?」

 六道骸は聞いた。この子供に、今まではなんとなくの興味だった。戦力の足しになるかもしれないという思いだった。

 が、子供自体に興味が沸いたのだ。 

「・・・・・・・・別に。殺したかったから」

 きっと、それが子供が発した第一声であった。

 その答えに六道骸は笑う。

 まるで眠かったから寝た。とでもいうように、ごく自然に。子供は答えた。

 その異質さに。

 六道骸は笑った。

 

 

 

 

 

 その後も数日かけてライフルや毒、手榴弾といった暗器と呼ばれるありとあらゆるものを六道骸は子供に仕込んだ。

「さて、一通りモノにしましたね」

「」(コク)

 子供はわずか数日で、ほとんどの暗器は使いこなせるようになっていた。 

「では最後に、ご褒美ということで”これ”をあげましょう」

 そういって、ご飯の最中に手渡されたのは指にはめるリング。

「あー、ししょー、ずるい。ミーにもそれください」

「フラン。君にはもうあげたでしょう?」

「えー、あれダサいからミー嫌です」

「フラン!お前せっかく骸様からもらったやつになんてこと言うんだぴょん!」

「フラン・・・・それは・・ダメ」

「ごめんなさい」

 フランはなぜかクロームの言うことだけは聞く。

「—————————————————、」

 子供はもらったリングを眺めた。手元で転がし、光に透かしたり。

 そして、やがて指にはめ。その感触に何とも言えない気持ちになって。

 初めてだったのだ。誰かに何かを与えられるのは。そう、自覚するのは。

「それは、”大空のリング”と呼ばれるものです。覚悟を持ってそのリングを手にすると”覚悟の炎”が噴出します」

 そういわれ、子供はリングを眺める。が、特段変化はない。

「どうやら、君には覚悟が足りないようですね」

 クフフと笑いながら、六道骸は簡単にそう告げる。

 覚悟が足りないと。

 

『こいつには何もない、人間ですらないただの獣だ』

 

 子供は思い出した、長髪の銀髪の男を。自らを殺さなかった男の言葉を。

 子供は、自らが他と違うことは自覚していた。価値観も容姿も道徳も。だけど、違うことはわかってもなぜ違うのかがわからなかった。

 それを追い求めて、求めるものがなくなって。子供はここにいる。

「さて、ではそろそろ行きましょうか。我々の本来の目的を果たすために」 

 六道骸は立ち上がる。

「・・・・・・」

 本来の目的とは何か。そもそも、なぜ自分を助けたのか。六道骸は一体何者なのか。

 尚もリングを眺めたまま、子供はそこで、最初に抱くべきはずだった疑問を、ようやく抱いた。

「行きますよ」

 その子供の遅すぎる疑問に、六道骸は気づきながら、しかし。それに答えることはなく。 

 眼だけで子供を促した。

「・・・・・」

 子供もまた、己の内の疑問を質問しない。 

 質問しても帰ってこないと思ったのか、はたまた疑問を解消する気がないのか。

 どちらにせよ、子供は立った。

 自分の意志ではないにせよ、けれど明確に。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 大通り。人がたくさん通る所。

 だいぶ暗闇に染まってきたその場所は、さすが大通りだけあって、まだ夜特有の賑わいを見せていた。

 その大通りから歩いて数分。

 人通りも静かになったその場所が、六道骸の目的地であった。

「ここが”例のマフィア”?」

 M・Mが訪ねる。

「ええそうですよ。早速入っていきましょうか」

 六道骸たちの後に続いて、子供もその大きな店に入る。

 店構えはちょっと大きなスーパー。だが、店内に入るとお客は誰もいない。

 六道骸は、確かな足取りで進んでいく。そこに何かがあると確信しているように。

 やがて、業務用のエレベーター。ボタンは1から7階まで。特に怪しいものはない。

 が、骸は迷いなくボタンをいくつか押していく。

 子供は、ただ見ていた。何をするのか、どうするのかも知らずに。

 

 

 

 

 ゆっくりと下っていくエレベーターの感覚に身を任せながら六道骸は口を開いた。

「フム。この格好ではいささか不審ですね」

 子供は、白いシャツにパンツ。それ以外全員、黒曜中という日本の中学の制服を着ていた。

「ドレスアップしましょうか」

 そういうと、骸はクロームを見やる。 

 クロームの右手にあるボンゴレリングに、骸が手を添えると霧の炎が拡散される。

 その炎は、優しく全体を包んでいき。

 やがて・・・。

「ふーん。ま、骸ちゃんにしてはいい趣味してるんじゃない?お金もタダだし」

 M・Mはスリットが入った真っ赤なドレス。

「なんかごわごわするぴょん」

「犬、我慢して」

 犬と千種は黒いスーツ。ちなみにお揃いだ。

「うわー、ぷぷ。犬似合ってない」

「うるさいぴょん!」

「ちなみにミーは自分で作りました」

 そういうフランの格好は、頭に付けたアップルと、体に付けた大きいアップルがまるで雪だるま。

「チェンジです」

「うえー、ししょーの意地悪」

「あ、あの・・・・骸様これは///」

「クフフ。よく似合ってますよクローム」

 クロームは黒いドレス。胸元がバックりと開いている。その仕様にクロームの顔は真っ赤だ。

 で、なぜだか子供だけ元の白いシャツ。

「・・・・・・・」

「クフフ?不服ですか」

「・・・・・・・別に」

「残念ですがこれ以上はクロームの炎が持ちませんからね」

「・・・・・ごめんね」

「だから、別にいいって言ってる」

 どうやら丁度、エレベーターが止まったようだった。

 エレベーターが開くと、店の正体は、カジノだった。

「」(キラキラ)

 M・Mが、やけに瞳を輝かせている。

「え!なにこれ!骸ちゃんのおごり!?」

「なわけないでしょう。僕が破綻してしまいますよ」

「ちぇ。なーんだ」

「ここはマフィアが経営している裏カジノです。今からここを、僕らで潰します」

「!?」

 そう聞いて、動揺したのは子供だけだった。

 ほかのメンバーは聞いていたのかいないのか、いつもと変わらずけれどいつもよりちょっとだけ、真剣な表情。

 元々からまともな連中ではないと思っていたが、とてもじゃないが正気の沙汰とは思えない。

 自分を外せばたった6人でマフィアを壊滅させる。それも本気で言っているのだ。本気で言っているのがわかるからこそ、子供は混乱した。

「クフフ。では手始めにカジノでもやりましょうか」

「俺この回すやつやるぴょん」

「じゃあ僕はポーカー」

「私はもちろんブラックジャックよ!カジノと言ったらこれよね!」

 各々好き勝手に六道骸に指示されたまま、カジノに興じる。

「ミーはカジノとかあんま好きじゃないんでー、こっちでジュース飲んでよーっと」

 ほら、白い人も来ます?

 と、フランは子供を共に誘う。

「————————、」

 子供は、大人しくフランに従う。

 異様なカジノの隅っこの休憩スペースでそこだけまるで兄弟のように隣並んで骸たちを眺めていた。

「・・・・・・ここいい?」

「はい、大歓迎ですよ。ね?」

「・・・・・・・」

 クロームや、なぜか瞳を輝かせているフランのことなど意にも介さず、子供はじっと、食い入るように骸たちを眺めていた。

 今から、何が行われるのかと。

「なんだよー、かわいくない子供だなー」 

「ふふ。大丈夫だよ、骸様は強いから」

 その表情は、まさに全幅の信頼を置いているといった様子。

 まさか、このカジノの全容を暴くなどというつもりではないだろうな。と、子供は思考を巡らせる。

 裏カジノ相手にボロ勝ちするなんてこと、考えられない。

「うえーん!負けたー」

「ありゃ。もうなくなったぴょん」

「犬。お菓子ばっかり食べてるからそうなるんだよ」

「そういう千種だってすっからかんだぴょん」

「犬、うるさい」

「いだだだだ」

 ・

 ・

 ・

「ま、負けてんじゃねえか!!」

 子供は、思わず突っ込んだ。

「クフフ。いいえ、ここからが本番ですよ」

 六道骸は不敵に笑う。

「六道輪廻。天界道」

 そういうと、骸の右目の紋がゆらゆらと揺れ、「六」に変化した。

 すると、骸の目の前にいたスキンヘッドの青年が。

「おい!なんだこれは!!イカサマだろ!」

 急に人が変わったかのように大声を出し始めた。

「ああ!?なんじゃワレ」

「って、この子供が言ってました」 

「・・・・え?」

 その青年は打って変わって子供を指さす。

「おお、いい度胸だなガキ!!」

 明らかにカタギではない血の気の多そうな大柄なお兄さんが、裏からぞろぞろと。

「では、頑張ってください」

「なっ!」 

 六道骸はそういうと、霧に消える。

「クフフ。私は活動限界です。あ、ちなみにクロームたちはできるだ手を出してはいけませんよ」

 声は、どうやらクロームの肩に乗っているフクロウから発せられているようだ。そのフクロウも、六道骸と同じくオッドアイ。

 そうこうしているうちに、どうやら囲まれてしまったらしい。

 子供が持っているのは懐に忍ばせた短剣と拳銃が一つ。

 対して奴さんは数が二十、三十、かそこら。斧やら拳銃やら物騒なものを持っている。 

 子供と大人という点を差し引いても、勝てる戦ではなかった。

「おうおうおう!よくもまあ、いい加減な難癖つけてくれたもんじゃな」

「・・・・・・」

 子供は、覚悟を決めたのか、それともただ単に諦めたのか。

 ようやく、敵に向き合った。

「やれ」

 敵の中の一人がいうが早いか、カジノの中は怒号と喧騒に吹き荒れる。

 

「っ!!」

 

 子供は、その喧騒に押されながらも、赤い瞳を鋭く尖らせ。

 右手に短刀。左手に拳銃。

 その二つを携えて敵の塊に突っ込んでいった。

「な!なんだこいつ!」

 銃口と引き金を引くタイミングを合わせて銃弾を短刀でかわし、返す刀で拳銃を突き出し、引き金を引く。

 一人、二人、三人。

「おらあ!」

 後ろから。刀が飛んでくる。

「———————ぐっ!」

 それを肩で受け止めながら、後ろ向きのまま、拳銃をぶっ放した。

 そのまま、自らの鮮血もいとわずに刀と銃を振るう。

「クフフ。ほらね。戦力になるといったでしょう」

 子供は笑っていた。これまで、泣こうとも笑おうともしなかった子供が。

 修羅の戦場で、初めて。

「ふーん。ま、いいけど」

 M・Mも、同じ言葉を返す。変える気はないと示すように。 

「いけー、白いひとーそこだー」

「フランうるさいぴょん!」

「そういう犬もうるさい」

「おいおいおい!やたら余裕だな!貴様らあの子供の仲間だろ!助けてやったりしないのか!」

 敵の一人が指を刺しながらそういう。

「ミーはヤダ」

「いやだぴょん」

「めんどい」

「骸様が・・・言ったから」   

「お前ら道徳心とかないのか!!」

 マフィアに道徳心を説かれた。

「そんなこといいからやっちまえ!」

 周りにいた五、六人の連中も加わり、クロームたちに襲い掛かってくる。

「はあ、めんどい」

 が、しかし。

「ゴングチャンネル」

「ヘッジホッグ」 

 それぞれに武器を砕かれ、あっけなく倒される。

 はたと子供を見やると、残りはすでに十数人。

 が。

「はっはは!どうした弾切れか!?」

「・・・・・・・」

 カチカチと、引き金を引くもそこから銃声はしない。

「よし!殺せ!!」

「チッ!」

 軽く舌打ちをした瞬間、子供は走り出す。

 男の持ったサブマシンガン。空になった拳銃を投げつけ、相手の挙動を一瞬凍らせる。

 そしてそのサブマシンガンをうまく扱えていないと判断し、突っ込む。

「な!」

 小さな体を駆使し、肘と脇に手を入れ、そこから相手の体を百八十度回転させる。

 バババババ!とサブマシンガンの引き金はひかれたまま、天井にあたって四方八方に散る。

 その散った銃弾がカジノの明かりを奪った。

 一瞬にして真っ暗。

 だが、そこに唯一光る赤。

「ぐうう!!」  

 いつの間にか、残るのはたった一人になっていた。

「なにやってんだよ!相手はガキ一人だぞ!」

 当然、その声に答える者はいない。

 暗闇に、荒く響く息。恐怖がここまで伝わってくる。

「——————————。」

 何を感じているのか、何を考えているのか。子供は先までの笑顔はない。

 やがて、その鼓動も息遣いも、何もかも、消えてなくなった。

「クフフ。まずは及第点といったところですかね」

 いつの間にか、六道骸はフクロウからクロームの体を借りて一時的に実体化していた。

 活動限界など嘘だったということだ。子供に”これ”をやらせるために。

 真っ暗の中で、赤が揺れる。

「うえー、グロ」

 フランがもう動くことのない体を突っつく。

「それでは、帰りましょうか」

「あー、結局一銭も勝てなかったぴょん」

「ふふ」

「なに笑ってるのM・M」

「この私がタダで帰るわけないでしょ!ほら!あんたらも持ちなさい」

 どこかに消えていたと思っていたら、M・Mは両手に札束を抱え。

「うーん。この匂いがたまんないのよ!」

 抱えた札束に顔をうずめて、恍惚の表情を浮かべるM・M。

「めんどい」

「ほら!早く持つ!!あんたも!」 

「・・・・・・やだ」(ツーン)

 子供は、自然とその輪に加わっていく。

 違和感なく、自覚なく。

「骸様・・・・」

「クフフ。結局、”アレ”は出てきませんでしたね」

 後ろの会話には気が付かずに。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 そして、一か月が立ったころ。

「・・・・・クロームが、攫われた」

 事件は起こる。

                              To be continued.




 どうもめぐみん教信者高宮です。めぐみんかわいい。
 なーんにも書くことないわあ。誰かあとがきに書くこととか提供してくんないかな。割とマジで。
 

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