リボーン×ニセコイ!-暗殺教室~卒業編~-   作:高宮 新太

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標的7 Storia passata(過去の話)

         ~十年前~

「ちくしょう!なんだってんだ!」

「相手はガキ一人だぞ!さっさと殺っちまえ」

 暗闇にはじける銃声音。瞬く光。

 そして、低く、怪しく、蠢く赤が二つ。 

「なっ!!」

 やがてその銃声音は聞こえなくなり、その悲鳴も、息遣いも、何もかも、鳴りやんだ。

「・・・・・・」

 彼、エミーリオ・ピオッティ。この時、名前はまだない。

 自身の名前も、出生も、親も、知人も、年齢も、何もかも彼は知らなかった。

 記憶というものが彼には欠けていた。ただ、彼はそのことをさして気に留めたことはなかった。

「クフフ。いやはや、まずは及第点といったところですかね」

 誰一人動かなくなったはずのその場所で、唯一動く人影。

 六道 骸(ろくどう むくろ)。パイナップルのような髪型に、オッドアイ。ボンゴレ霧の守護者。の、はずだが、その声の主はどう見ても今しがた彼が殺した仲間のおっさんだった。

 六道骸の本体は今現在復讐者(ヴィンディチェ)の牢獄の、その最深部に幽閉されている。

 ので、今彼が見ているおっさんは、その牢獄から精神体となった六道骸が憑依したおっさんであるというわけだ。

「これで、ここら一帯のマフィアはあらかた片づけたようですね」

「・・・・・・」

 返り血で真っ赤になったその彼の肌を、彼は拭う。

「あ、骸様ぁ!」

「犬、うるさい」

「うるさいとはなんだぴょん!」

「・・・・・喧嘩は、ダメ」

「あー、もう!ほんっと埃臭いんだけどここ!」

「ししょー、もうミーホテルに帰りたいんですけどー」 

 その後ろ、ぞろぞろと引き連れているのが六道骸のファミリーだった。

「ったく、いいから早いとこ撤退するぴょん」

 城島 犬(じょうしま けん)。ヤンチャ坊主のような見た目に八重歯が特徴的な男。

「同意だね。長居していいことはない」

 柿本 千種(かきもと ちくさ)。冷静を体で表したかのような男。メガネ。そして目の下にバーコードという異様な雰囲気を纏う男。

「・・・・・・・」

 クローム髑髏。まるで骸を女体化したかのような相貌。髑髏の眼帯を着用。骸の幻術で内臓を賄ってもらっている少女。牢獄にいる骸の依代。

「ほらアンタ何ボサっとしてんのよ。これだからお金持ってないこんなガキは!」

 バシっと彼の頭をはたくのは、M・M。肩まで綺麗に切りそろえられた赤髪に乱暴な口調。

「ちょっとー、ミー乱暴なの嫌いなんですけどー」

 頭にはなぜかリンゴ。ふざけた格好をしているのはまだ幼さが残っているフラン。

 以上、六道骸のファミリーである。

「・・・・・・・」

 そして、彼も。

 なぜ、六道骸と共に行動しているのか。そこに触れるにはまず、彼の過去から追っていく必要がある。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

  ~一月前~

「ああん!?ロシア!?なんで”ヤツ”がそんなとこにいやがんだぁ!?」

 長すぎる長髪に、怒気のこもったその声。

 スペルビ・スクアーロは自身の部下に対して声を荒げていた。

『い、いえ・・・流石にそこまでは』

 声を荒げられたほうの部下は、多少びくついているものの、任務報告を済ます。

「ちっ。めんどくせえな」

 スクアーロは部下からの通信を切って自身の椅子に深く腰掛ける。

 つい先日。大きな地震があった。

 その地震は、世界各国で起こるほど大規模なものでしかし被害はゼロという奇跡的なものだった。

 なぜなら、理由があるから。

 パラレルワールド。

 この世界には、無数の世界軸があって、この世界もそのうちの一つでしかないというもの。

 そしてその世界軸の中で、文字通り世界をかけた戦いが未来であり、それに沢田綱吉らは勝利した。 

 その影響で未来は変わり、本来未来の出来事のはずだったものが、過去、つまり現在生きている彼らスクアーロたちの記憶に刻み付けられたのだった。

 その副産物での地震。

 そして、その未来で彼も。

 エミーリオ・ピオッティも戦っていた。今から十年後の姿で。

 スクアーロ達ヴァリアーも、例によって十年後の記憶が刻み付けられた。

 そこで一人の人物の存在を知る。

 フランだ。

 十年後フランはヴァリアーの霧の守護者として活動していた。

 人材不足に悩めるヴァリアーは早速フランのもとへ勧誘しに行ったのだが、そこには六道骸率いる一味もいて最終的にフランは六道骸に取られてしまった。

 取られたといっても、そもそもアレは記憶を失っていたし即戦力になどならんかったから結果としてはいい。

 それが、つい先日の話。

 完全にフランを即戦力として引き込めると踏んでいたスクアーロは、空いた人材を埋めるべくエミーリオを同時進行的に捜索させていた。

 それが、見つかったのだ。

 だが正直、スクアーロは期待していなかった。 

 そもそも、十年後だってエミーリオはボンゴレ側についていたしヴァリアーに入る気配などなかった。

 が、それは未来の話だ。

 十年後のエミーリオは過去から来た沢田綱吉らと近い年齢のようだった。

 ということは、今は子供。

 実力を考えて、フランのようなアホなことがなければ少々鍛えれば十分即戦力になるとスクアーロは考えていた。

 それに子供なら、未来を変えやすい。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ということでロシア。

「もー、なんでこんな寒いのー」

「うるせえぞルッスーリア!ロシアなんだから寒くて当たり前だろうがぁ!」

 一緒についてきたのはオカマ口調のルッスーリアと、あごひげを蓄えたレビィ。

 吹雪いていて、見るだけで寒いロシアに、三人は降り立った。

「ったく、ガキはどこにいやがんだ」

 情報は、ロシアにいるというただ一点のみ。

 ただっ広いロシアで一人の子供を見つけるなど砂漠で一粒の砂を見つけるようなものだ。

 途方もない。

 が、そこはヴァリアー。

「あの性格に風貌だ、絶対に目立つ。大体の目星はついてるしな」

 ということで、聞き込み調査を続けた結果。

 ロシアの田舎。麻薬や殺しが蔓延しているその地域に、彼はいた。

「えーっと、なんでも蛇のような子供が大人相手に殺して現金や食べ物を剥ぎ取っていくんですって。これ絶対あの子よね」

 ルッスーリアの持ってきた情報に、スクアーロの部下が精査する。

『はい。どうやら本当のようです。蛇のように白い肌に赤い瞳。間違いありません』

 部下からの通信に、ようやく少々の期待がかかる。

 日も落ちて、あたりが真っ暗に染まったころ。目撃証言のあった田舎に到着すると、そこは小さな村であった。

 見渡す限りほぼ何もない。

 だが”それ”はあった。

 真っ暗な外で、目立つ赤。

 何かを貪るように、その赤は動く。

 何かとは、詰まる所死体であった。

「フッ。まるで死体をついばむカラスだな」

 レビィのその一言に反応したのか、その赤がぎょろりとこちらを向く。

「うおっ!」

「ゔおおおい!お前、”白髪”だな」 

 スクアーロは強面オーラをふんだんにまき散らしながら一人の子供に向かう。

「・・・・・・・」

 すらりと、子供は持っていたであろう武器を取り出す。

「ほお、日本刀か。剣技で俺に挑もうっていうのはいい選択だぜえ!」

「ちょっとちょっと、殺しにきたんじゃないでしょう?」  

 完全に戦闘モードに入っていくスクアーロをルッスーリアは止める。

「・・・・・・っ!」

 が、その甲斐むなしく子供はスクアーロに向かって勢いよく駆ける。

 そして、跳躍。

 全体重を乗せて、スクアーロに向かっていった。

 ガギィッ! 

 鉄と鉄が激しくぶつかり合う音が、散る火花が静かなその村に響く。

「―――――――――――――、」

 子供の斬撃を、いなしながらスクアーロは感じた。

 

 これは、ダメだ。と。

 

「アッ!?」

 そう思うが早いか、スクアーロは剣技をやめ、子供を組み敷いた。

 そのまま、一瞬にして首を落として気絶させる。

 当たり前だが、それほどの、実力差。

「あら?いいの?結構筋はいいと思ったんだけど」

「ふん、技は良くても心がダメだ」

「心・技・体ってやつ?」

「こいつには信念がねえ。剣の道だろうが殺しの道だろうが、信念がなきゃやっていけねえんだよ。そいつは快楽でも怒りでもいい。道を極めるには強烈な”何か”ってのが必要なんだ」

 たった数秒、剣を交わしただけ。

 それでもわかった。それほどまでに分かった。

 この子供には、なにもない。と。 

 迎えるべき信念も、支えるべき怒りも。寄り添うべき快楽も。

 何もなく、何もない。

「――――――――――っ!!」

 そのとき、真後ろから殺気。

 砂利をける音。真上から振り下ろされる短刀。

「へっ。今のはちょっと良かったぜえガキぃ!!」

 気絶したふり。敵を欺くための思考。 

 が、そんな子供の浅知恵も大人の前ではただの遊びだ。

 スクアーロの剣によって、いともたやすく弾かれてしまう。

「――――――がっ!!」

 そのまま地面に叩きつけられる子供。

 首元を絞めながら、それでもなお、その赤は揺るがない。色褪せない。

 しっかりと、こちらを睨み付けてやまない。

 首元を絞める力をだんだん強くする。

 ギリギリと音がして、口から唾がこぼれだす。

 それでも、子供の瞳だけは。何一つ、変わらなかった。

「・・・・・・止めだ」

 そういうとスッと、スクアーロは首元の力を抜いた。

 抜いた瞬間、その瞳はようやく苦痛にゆがんだ。

「あら?殺しちゃうのかと思ったけど」

「・・・・こいつはただの獣だ。人間ですらない。そんな奴殺す価値もねえ」

 横目で今度こそ意識を失った子供を見ながら、そう吐き捨てる。

「ていうか、レビィのやつはどこ行ったんだゔおおおい!!」

「ああ、あの子なら帰ったわよ。寒さでダウンして」

「本当に何やってんだあいつはああ!!」

 田舎の隅で、一人、絶叫が響き渡っていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 朦朧とする意識の中、子供はその言葉を聞いていた。

「・・・・・こいつはただの獣だ。人間ですらない。そんな奴殺す価値もねえ」

 子供は、それまで負けたことなどなかった。

 喧嘩にも、かけっこにも、社会にも。

 大きな大人にだって、何一つ、負けたことなどなかった。

 けれど、それは小さな世界の話。世界の片隅の、片田舎での話。

 それは、ある日突然やってきた。

 地震。今まで経験したことのないほど大規模で、けれど不安ではない。不思議と安心できるような地震。

 その瞬間に、頭に流れ込んでくるのは記憶。それも膨大な量の。

 そこで、自分は笑っていた。

 見たこともない人間と、喋ったこともない人間と。

 笑って、怒って、泣いていた。

 意味も理屈もわからない。けれどそれがただの事実なんだとそう認識できる。

 十年後の自分だと。

 けれど頭では理解できていても、心では理解できなかった。

 十年後に何があり、自分はどういう行動を選択して、どういう人間だったのか。

 その全部が分かるのに、分からない。

 あまりにも、現実味がなさ過ぎて。

 あまりにも、今の自分とはかけ離れすぎていて。

 それまで子供は笑ったことがなかった。悲しいと思ったこともなかった。

 だから、十年で、たった十年であれほどまでに自分が変わることが分からなかった。

 わからないまま、負けた。

 うざいほど伸ばした長髪に、いきり立ったような口調。鋭い眼光。

 朦朧とする意識の中で、それでもなんとかそいつの風貌だけは目に焼き付ける。忘れないように、消えないように。

 そいつに、子供は生まれて初めて敗北の味を知った。

 気絶するような、ひどい味だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 子供は目が覚めた。

 目が覚めた瞬間、瞬時に悟った。

 そこが、子供がいた村ではないことを。

「やあ、目が覚めたかい」

 そこにいたのはしわがれた声の老人。あごには白いひげが蓄えられており、一見すると優しそうな柔らかい印象を受ける。

 子供はあたりを見回した。 

 見慣れないレンガ造りの壁。暖炉には灯がともっており、暖かい。

 暖かいのはそれだけではなく、自身にかぶさっている毛布や柔らかい布団。来ている白いシャツも、洗剤の香りも。

 子供にとってその全てが新鮮な感覚だった。

 村には、こんなものはない。

 いつもぼろぼろの布切れか、よくて麻。

 つまりここは、村ではない。

「うん。私が君をここに連れてきたんだ。道端に倒れていたからね」

 道端?

 その言葉の節々に子供は疑問を持つが、持つだけで解消することはできなかった。

 不気味。

 そんな言葉が子供の脳裏を掠めた。

「温かいミルク。飲むかい?」

「・・・・・・」

 子供は飛び出た。

 その老人の世話になるつもりはなかったし、村に戻るつもりでいた。

 戻ったところで、何もないのは百も承知だ。その全てを自分が壊したことも。

 けれど戻るしかなかった。結局あの狭い箱にしか、子供の居場所はなかった。

 たとえ、そこに誰もいなくなったとしても。

 だが、扉を開けたそこは子供の歩みを止めるものだった。

「・・・・・・・・・・、」 

 

 銀世界。

 

 雪、雪、雪。重ねて雪。

 

 そこは、一面雪で囲まれた、銀世界だった。

 ここはロシアだ。雪国であるロシアでこの光景はさして珍しくもない。

 が、子供がいた村ではここまで豪雪ではなかった。

 道路の脇や、屋根の上にこれでもかと白が塗りたくられている。

 地形に見覚えがないどころか、きっとあの村からは遠く離れていると、子供は実感した。

「どうするんだい?」

 後ろから、老人の声がする。

 どうするのかと。

「――――――――――――、」

 考えるまでもない。どちらに行くかなんて。

 子供は飛び出した。迷いなく、疑うことなく。

「ふふ、若いですねえ」

 老人は、閉まった扉を薄い目を開けて見る。  

 いつまでも。

 いつまでも。

 ・・・・・。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 子供は力尽きていた。

 そもそも行く当てなどないのだ。彼には。

 そうなることは、必然だっただろう。

 それでも、彼は選んだ。そうなることを。

 寒い。

 痛い。

 苦しい。

 つらい。

 そんな感情に、頭は支配される。

 歯の根は合わないし、肌の震えは止まらない。先ほどの温もりなど、とうにどこかへ飛んで行った。

 ここがどこかもわからない。一面が真っ白で、どこに行こうとも景色が変わることはなかった。

 

 このまま死ぬ。

 

 そう思ったし、事実そうであっただろう。

 子供はそれでもよかった。

 死んでもよかった。

 スクアーロの言葉が彼の内に残る。

 その子供には何もない。と。

 そしてその通りであった。

 子供には何もなかった。

 生への執着も、死への恐怖も、何もなかった。

 何もなかったから殺した。殺せば何か出てくるのだと思った。

 それを探して、殺して、殺して、探しているうちにいつの間にか、村の人間はもう一人もいなかった。

 親も、友人も、何もかも。

 残ったものは何もなかった。 

 そして今、彼も死に行く一人として村の皆と同じ運命を辿ろうとしている。

 子供はそれに抗おうともしなかった。

 ここで死ぬ。それで良かった。

 白い雪に、白い肌が重なってまるで保護色。おまけに吐く息も白。

 最後に残った赤が、白に埋め尽くされようとしていた。

 その時。

「君、マフィアは嫌いですか?」

(・・・・?)

 唐突に、その声はやってきた。

 天使か、はたまた悪魔か。

「クフフ。勿体ないですね。その技。僕が拾ってあげましょう」

 微かに残った赤でぼやく視界を広げようとする。

 パイナップルのような髪型にオッドアイ。

 どんな表情をしているのか子供はぼやけて見えなかったが、その顔は、きっと笑っていた。 

 まるで悪魔のように。

 こうして、子供は六道骸という人物と、出会った。

   To be continued.




 どうもトッティ高宮です。
 題名を変えました。思ってたよりシリアスに行ったのでそれに合わせて題名もそれっぽく。
 あと活動でいうとこれ以外にラブライブのssもやっているのでそちらもまだ知らないという方は良ければどうぞ。
 これからはそっちのラブライブの奴と交互に更新していきたいと思ってます。
 では次回もよろしくお願いします。

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