リボーン×ニセコイ!-暗殺教室~卒業編~-   作:高宮 新太

6 / 30
標的6 La distanza diversa(違う道のり)

 入試を終え、事件もあったが無事にいつも通りの平穏を取り戻した並中。

 桜もちらほらと開花し始めた今日この頃に、彼らは物騒な話を続ける。

「はあ?ツーマンセル?」

「そうだ。私とお前で今後は任務にあたっていくことになる。主な内容はお嬢の護衛だがな」

 明らかに嫌そうな顔を浮かべながらそう告げるのはビーハイブのヒットマン。鶫。

「なんで僕がそんなこと」

 本来の任務、つまりお嬢である桐崎と一条の交際を辞めさせ、ビーハイブと集英組が手を組んで力をつけることを阻止する。そのことを思えばさして迷惑な話でもない。

 が、それよりもなによりもツーマンセルということが彼はとてつもなく嫌だった。

「お前ひとりに行動させていては何をするかわからんからな!私が監視役というわけだ!ちなみにこれはクロード様からの命令だ!背くことは出来んぞ!どうだ!嫌か!嫌だろう!私は嫌だ!」

 もう自分でも感情をコントロールすることが出来ないのだろう。泣きながら笑っている。

「そんなに嫌ならやらなきゃいいだろう」

「ふん。クロード様からの命令に背くわけにはいかんのだ」

「いや、じゃなくて。ツーマンセルでやってるってことにして個々で任務にあたる。それでいいじゃん」

「なるほど!」

 その発想は頭になかったようで、鶫はポンと手を叩く。 

「じゃない!それじゃ私がお前を監視できないではないか!」

「チッ」

 バレたかというように彼は舌打ちする。監視されるなどまっぴらごめんだった。

「とにかく!お前も並盛高校に合格したはずだろう?これからはお前もお嬢の護衛についてもらうことになるからな」

 決定事項らしく、例によって彼には拒否権などありはしなかった。

「・・・・了解」

 その一言を聞いて満足したのか、鶫は中学の校門から去っていく。

「あれ?エミ君?」

 入れ替わりに、彼の名前を口にするのは今まさに下校しようというハル。

「どうしたの?帰んないの?」

「帰るよ。帰る」

 今まで鶫に妨害されていたため帰るに帰れなかったのだ。そのせいで厄介な相手に見つかってしまった。

「じゃあ、一緒に帰ろ?途中まで一緒でしょ?」

「はあ?」

 こんなとこをあいつに見られでもしたらまたキャンキャンと噛みつかれる。

「なにキョロキョロと・・・・・ああ、フウちゃんは今日は用事あるって先帰ったよ」

「あ、そう」

「ムフフ」

「なに?」

 ニヨニヨといやらしい笑みを浮かべるハルに怪訝な顔で返すエミーリオ。

「いやー、本当に二人は仲良いなーって。ちょっと妬けちゃうよ」

「・・・・あのな。お前がどういう勘違いしてるか大体想像つくが、そんなんじゃない」

 そもそもフウは病的といえるほどにハルにベタベタだろう。

 そう言いたいが、それを言うとめんどくさい反応が返ってくることは自明の理なので黙る。

「ふーん・・・・ま、いいけど?」

 ウゼえ。

 そう思いつつ、二人は並木道を歩いていく。

「そういえば、三人とも高校合格して良かったね」

「ああ」

「並盛高校にはね、私のお姉ちゃんもいるんだ」

「ああ」

「あ、でも高校でも同じクラスになれるかな?」

「ああ」

「フウちゃんはね中1の時から一緒のクラスだから、高校でも一緒になれるといいんだけど。もちろんエミー君もね」

「ああ」

 話を全く聞いていない。右から左に受け流していた彼は、交差点に差し掛かるところで。

「じゃあ僕こっちだから」

「うん。また後でね」

 振り返りもせずに自身のマンションへと彼はただ歩いていく。なびく風も、春を感じさせる桜の木も。鼻孔をくすぐる花の香りも。

 彼は気にも留めないし、それらに感じいることもない。

「ん?“後”で?」

 いくらか歩いたところで先のハルの一言が、引っかかった。

 そこで初めて振り返るも、もうそこに人はいない。

 まあ、言い間違えたんだろうと勝手にあたりをつけ歩みを再開した。

「・・・ああ、疲れた」

 ただ、ため息をつくだけだった。今までそんなこと、思いもしなかったのに。

 振り返ることなんて、なかったのに。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

パン「高校合格おめでとーう!♪」パン

「・・・・・はい?」

 自宅であるマンションに帰ってくると唐突にクラッカーが鳴らされ、馬鹿みたいに頭に紙テープを乗っけられている。

 呆けたような顔をしていると、先ほど別れたはずのハルの顔。頭には浮かれたように派手な三角帽子。

「えっへっへー、ビックリした?」

「・・・・なにこれ」

「さっき別れてから全速力で走ったんだから!」

「いや、そういうことを聞いてるんじゃなくて・・・・」

「よう!エミー。高校合格祝いだ」

 そこには爽やかな笑みを浮かべた跳ね馬。

「いや、なんでウチ?なんで勝手に入ってんの?」

「それはほら、合鍵で」

「なんで合鍵持ってんだ!」

「ま、まあまあ」

 そこで、ようやく彼は自分の家をぐるっと見回す。

 ところどころに飾り付けがされてあり、ほとんど物なんてなかったのに完全にパーティー仕様に変化していた。

 しかも、跳ね馬とハルだけでなく、彼が突き落とした少年や、桐崎千棘。他にも鶫や一条楽。それに、知らない人が二、三人。

「ちょっとこっちきて」

 フウもいた。

 その集団の塊から少し離れた廊下まで引っ張られる。

「なんだよ、用事じゃなかったの」

「だから、用事よ」

「?」

 いまいち噛み合わない会話。

「だーかーら、“これ”が用事だったのよ」

 てか、そんなことはどうでもよくて。と切り替えるようにフウはぶんぶんと頭を振る。

「ディーノ先生の事なんだけど、あれ本当にディーノ先生?」

「は?」

 またもや、彼には意味が分からない。

「アンタの部屋飾りつけするときやたら脚立から落ちるし、何もないところで勝手に転ぶし」

 ああ、なるほど。

 彼は顔を背けながら心中で納得した。跳ね馬ディーノは部下が目の前にいないとその力を発揮できない。逆に言えば究極のボス体質であるわけだが、部下がいないと本当にへなちょこだ。

 しかも本人には自覚なしというのが質が悪い。

 学校でもちょくちょくその片鱗を見せてはいるが、フウは直で目にするのは初めてだったのだろう。

 さて、どう言い訳しようものかと頭を悩ませていると。

「もしかして顔がそっくりな双子がいてディーノ先生は度々入れ替わっていたりして」 

「いや、ないから」

 そこで跳ね馬をちらと見て気付く。

「ほら、あいつ今日メガネしてないだろ?だから視界が悪かったんじゃないか?」

 今日の跳ね馬は学校じゃないからかメガネ無しverだ。そういうことにしておいた。

「・・・・・ったく。なんで僕があいつの尻拭いをしなきゃならないんだ」

「なに?」

「いいや、なんでもない」

 とりあえずこれ以上自分の寝床を荒らされるのもいやなので、早々に戻ることにした。

 

 

 

 

「で、なんで知らないやつもいんの」

 跳ね馬やフウ、ハルは分かる。少年も、まあわかる。だが解せないのが桐崎他数名。おまけに知らない奴も交じっているときた。

「あ、自己紹介まだだったね。エミーリオ君でしょ?ハルから話は聞いてるよ。私、ハルの姉の小野寺 小咲(おのでら こさき)。よろしくね」

「はぁ・・・・」

 確かに、言われてみれば似ている。髪型とか、目元とか。

 だが、ハルが活発少女に対して、こっちは見るからに大人しそうだ。

「わたくしですか?私は楽様の未来の嫁。橘 万里花(たちばな まりか)と申します。以後どうぞ良しなに」

 肩まで切りそろえられた茶髪に清楚な佇まい。良いとこのお嬢様を想起させる。

「おいおい、未来の嫁とかあんま勝手な情報を付け加えるなよ」

 そして、なぜか一条楽もいる。

「ねえ、それより早くケーキ食べましょうよ」

「お、お嬢?一応これは小野寺様の妹君たちの合格祝いなのですから・・・」

 先ほどまで任務云々と喋っていた鶫に、ホールのケーキを目の前に瞳をキラキラと輝かせている桐崎嬢。

 元々一人暮らしというのもあって、いくらなんでも手狭だった。 

「ほらもやし!早く切り分けなさいよ!」

「わーった、わかったよ。だからそのフォークを置きなさいまず」

 エミーリオは諦めた。どうせ何を言ってもこの状況が覆ることはない。と。

「ていうかエミ君って一人暮らしだったんだね。ビックリしちゃった」

「ああ、そう」

 目の前に差し出されたジュースをちびちびと口にしながら答える。

「しかし、殺風景だな。家具とか全然ないじゃないか」

「うるせえな。必要最低限ありゃいいんだよ」

 鶫の指摘に反論し。

「でもお前テレビくらいあったほうがいいんじゃねえの?テーブルもこれ俺が用意したんだぞ」

「あんたはなんでそんなに違和感なく溶け込んでんだよ。ちったあ遠慮しろや」

 跳ね馬を罵倒し。

「なにこれ?沢田綱吉。って、中身白紙だよこれ」

「あーもう!勝手に触んな!」

 ハルに怒って。

「はい楽様、あーん」

「いや、ちょっと//」

「バカもやし!なにやってんのよ!」

「ちょ、ちょっと千棘ちゃん落ち着いて」

 騒がしくなってきたところで、とうとうエミーリオは耐え切れなくなったのか気づかれないように玄関から外に出た。

「あー・・・・」

 なおも扉一枚隔てたそこからは喧噪が聞こえてくる。

 甘いケーキの匂いとその雑音が自分に残る。たった扉一枚向こうの世界のはずなのに、ひどく遠くの世界の出来事のように感じた。

 振り返るとマンションの廊下から見えるのは市内の景色。夕焼けに彩られたその町を見下ろして、彼はひどくちっぽけな気分になった。

 自分にはこの任務は向いていないんじゃないか。そう思うほどに。

 今までこんなこと、やはり思ったことなどなかったのに。 

「なにしてんのよ」

 後ろから掛かった声は、フウのものだった。

「別に」

「あんたの家どうなってるのよ。冷蔵庫もないんですけど。どういう生活してるの?おかげで私、ジュース買い出しに行かなきゃいけないんだけど」

 本当のところは、一条その他の空気に耐えられなくなって自分から言い出して出てきた。とは、言わないフウ。 

「うるさいな」

「ていうか、あんたがいなくてどうするのよ。あんたの家でしょ」

 

「・・・・・・・慣れてないんだ。ああいうの」

 

 思わず、ポロッと出てしまった。そんな感じだった。

「――――――――――驚いた。素直ね」

「はあ?・・・・今、僕なんて言った!?」

 自分で気づいていないようだった。

「ふふ、顔真っ赤よ」

「っ!!うるさい!見るな!」

「あらあら、本音を語るのは恥ずかしい年頃なのかな?思春期?」

「うるさいバカ!」

 からかわれ、さらに真っ赤になったその顔は茹でたタコのよう。

「ずっとそうやって素直にしてればいいのに」

「・・・・無理だね。そんなの、僕じゃない」

 殺さない自分なんて、依頼をこなさない自分なんてそんなもの自分ではない。

 そうだ。だから、向いていようが向いていまいが、きっちりと仕事だけはこなさそう。

 じゃないと、自分が自分でいられなくなってしまう。

 彼の、瞳が変わった。

「なに?戻らないの?」

「買い出し、行くんだろ?」

「・・・・素直じゃないわね」

 階段を駆ける足音は、いつもと変わらず。けれど少しだけ、軽やかに聞こえた。 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 時は進んで、それから丁度一週間たった頃。鶫に呼び出されたエミーリオは、街中のど真ん中。繁華街に来ていた。

 休日とあって右を見ても左を見てもがやがやと騒がしい。

「おい、こっちだ」

 指定された場所で突っ立っていると、不意に後ろから声をかけられた。

「なんじゃそりゃ・・・・」

 声をかけてきたのは紛れもなく鶫。彼のその発言は、彼女の格好についてだった。

「なんじゃそりゃとはなんだ。ちゃんと任務内容は伝えたはずだろう」

 鶫から伝えられた任務内容は、お嬢の護衛。それも対象には気づかれずに。

 ということで、当然多少の変装は必要になってくる。事実、エミーリオも、白いニット帽にメガネという出で立ちだ。

「ああ、だから言ってるんだ。なんだそれはと」

 対して鶫は、おっさんのような付け髭に、目深に被ったキャップ。いかにも年老いていそうな丸メガネ。

「なぜだ?ちゃんとクロード様に見てもらったのだが」

「いや、不自然だ。まずコンセプトから何から何まで間違っている」

「そんなことはない。完璧な変装だ。誰も私とは思うまい」

 なぜか鶫はその格好に自信があるようで、まあ別にバレたところでいきなり殺されるわけでもなし、さしたる不都合もないので放っておいた。

「で、対象はどこにいるんだ?」

「む。もうすぐ時間のはずだ」

 鶫の言う通り。物陰で待っていると、すぐに一条楽の姿が見える。

「あん?いや、桐崎は?」

「なんだ、聞いてないのか。お嬢と一条は恋人関係なのだ」

「いや、それは知ってるけど」

 そこまで言って、彼は悟った。

「ああ、なるほどデートか。そんでそのデートの護衛ね」

「物分かりがいいな。そういうことだ」

 任務の全容がわかると、途端に気が抜けるエミーリオ。

「うわ、どうしよう。帰りたくなってきた」

「おい。任務を放棄する気か貴様。これだからボンゴレは」

 そうこうしてると、一条のもとに桐崎がやってくる。

 二人は傍から見る分には仲睦まじく出発していった。

「よし、尾行するぞ。気づかれるなよ」

「お前がな」

 明らかに不審者と尾行をすることになった。

 結論を出すとするならば、尾行は概ね成功だった。

 ファミレスで完全に不審者扱いされたり、道行く人たちの後期の視線に晒されたりしたことを除けば概ね成功と言えるものだった。

「こんな任務初めてだ・・・・」

「なんだ、尾行は初めてだったのか」

「そうじゃねーよ」

 一番質悪いのが本人の自覚がないということ。

 まあそれでも尾行して分かったことがいくつかある。

 まず一つ目に、二人の仲は良好ということ。

 互いに「ダーリン」「ハニー」などと呼び合い、見てるこっちが吐きそうになるほどイチャイチャとしたものだった。

 家で見たときはそれほど仲が良いとは思わなかったが、二人きりになると変わるということだろう。

 これでは、目的である二人の仲を破局に追いやることは容易ではなさそうだった。

 二つ目に。

「あ、クロード様だ」

 これが二つ目。

 ことあるごとにクロードが二人の邪魔をするのである。邪魔といっても直接的なことは何もしないが、ただオーラをこれでもかというほどに出す。それだけで二人のムードはブチ壊しだった。

「ていうか何やってんだよアイツ」

「クロード様は自身の時間がある限り、こうしてお嬢たちの監視を続けておられるのだ」

「しかも常習犯かよ、手に負えねえなおい」

 最早病気だった。

 以上が一日で彼が感じたことだった。

「ああそうそう。なんでも一条とお嬢は幼少の頃から契りを交わしているらしい。なんでも永遠の愛を誓い合ったそうだ」

「なんだそれ。くだらねー」

「下らんとは何だ。良い話ではないか」

 益々別れさせるのが容易ではなくなった。彼にとってはただそれだけの話だ。

「・・・・・・・」

「?どうした?」

 エミーリオの空気の変化を感じ取ったのか、鶫は今は公園で休憩している桐崎と一条から目を離し、振り向く。

「別に、なんでもねえよ」

「おい、どこに行く!」

「もういいだろ任務は。クロードの野郎もどっかいったし。もうこれ以上は意味がない」

「おい!」

 そう言い残して、彼は消えた。

「まったく・・・・」

 

 それ以降、彼は、姿を現さなかった。

 学校にも行かず、ひと月の間、彼を見た者はいなかった。  

 そして、卒業の日がやってくる。

                              To be continued.




 どうも高宮は思春期!高宮です。
 野球ももうキャンプインし始めましたね。個人的にはホークスが好きなんですけど、和田が帰ってきたということが一番のグットニュースだったりします。
 松坂と同年齢ということで二人とも活躍してもらいたいものです。
 柳田もケガから早く万全になって将来は4番を打ってるところ、是非見たい。
 あと今季はルーキー上林にも注目です。なんせプロ初本塁打が逆転満塁ホームランですからね。そりゃ期待しますよ。
 まあ外野はイデホがマイナー契約になって内川がファーストコンバートでしょ?レフトが中村晃でライトに柳田を持ってきた場合センターが空きますからね。ケガ明けの長谷川と福田と上林。この三人で争っていくんではないでしょうか。
 あれ?なんか全然関係ない話になっちゃった。と思ったけどどうせいつも関係ない話してたわ。
 ということで次回もよろしくお願いします。

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。