リボーン×ニセコイ!-暗殺教室~卒業編~-   作:高宮 新太

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標的5 Un e indivisibile(表裏一体)

「貴様!お嬢から離れろ!このボンゴレの手先め!」

 拳銃を構えながら、そう叫ぶ男。のような女?

 肩までの短い短髪に男の制服、言動。だが、よくよく見てみると確かに女。胸とか。

「ちょっと鶫!どうしたっていうのよ!」

 桐崎は射程から隠すようにグイグイとエミーリオを自身の背に隠す。

「お嬢!そいつはあの憎きボンゴレの手先なのですよ!ボンゴレがしたこと、忘れたのですか!?」

「???」

 忘れているようだ。

「ボンゴレは度重なる商売相手を潰し、わけのわからぬ兵器で戦場をかっさらい。挙句の果てには我らと同盟を組もうなどと丸め込もうとしているのですよ!」

 怨恨、それも相当なものが感じられる。きっと嫌な事でもあったのだろう。

 今にもエミーリオを打ち抜きそうなその空気に、桐崎は待ったをかける。

「待って!見てよ鶫こんなに可愛いのよ!?」

「お嬢!背丈と外見に騙されてはいけません!」

 そろそろめんどくさくなってきた。

 エミーリオは深くため息をつくと。

「殺れるもんなら殺ってみな」 

 挑発、そんなこと鶫も重々承知だった。だが、それでも彼女はその額に、拳銃を突きつける。

 

「「・・・・・・・・」」

 

 重苦しい空気が、その場を支配する。どちらも譲らない。目線と目線がぶつかり、動かない。

 シンとした静脈音。

「はいはい。そこまでよー」

 パンパンとその静脈音を打ち破ったのは、ビーハイブのボスの優男。

「この子は大事な預かり物なんだから丁重にしないと駄目だよ鶫」

「で、ですが・・・」

「鶫」

「っ!」

 その一言で、あれほど熱を上げていた彼女が黙りこくる。

「それとそこにいるクロードも。手荒な真似したら、ダメだからね」

「――――――――――な!何をおっしゃいますやら!大事な客人にそんなことするわけないでしょう!?」

「だったらその物騒な縄と睡眠ガスしまってくれるかな?」

「・・・・・・はい」

「それとエミーも寝床はこちらで用意するかい?」

「いや、いらない。こっちはこっちで勝手にやる。用がある時だけ連絡してくれ」

「貴様!ボスに向かってその口の利き方はなんだ!」

「クロード」

「・・・・・・ぐっ!」

 なんだかややこしい所に来てしまった。エミーリオはそう思ったが、事はもう遅い。

 真っ白い天井に、ため息が浮かんで、消えた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 それからのエミーリオは多忙を極めた。

 学校のほうはといえば、もうすぐ入試。ラストスパートを掛けるべく、教室は、いや学年中がピリピリとした険悪なムード。あのフウとハルでさえ普段よりも会話が少なかった。

 エミーリオはというと。

「高校は、並盛高校がいいんじゃないか?お前の学力的にも」

「いいのか?そんな適当で」

「ああ、お前の任務から言って桐崎譲と一条の倅と一緒の高校のほうが何かと都合いいしな」

「あっそ」

 跳ね馬に言われ、高校はそこを受けることにしたのだが、いかんせん受験など初めての経験だ。準備をしておくに越したことはない。

 そして学校が終わればビーハイブからの任務。簡単なものから入念な準備が必要なものまで、様々。

 そして現在も、その任務の真っ最中。

『敵影確認。ターゲットロック』

 あたりは真っ暗。向かい風吹くビルのその屋上。大口系の対物ライフル(アンチマテリアルライフル)から覗く景色には密輸入された軍用のヘリコプター。

 ターゲットはそのヘリ。及び周辺の敵対勢力。 

 彼の任務はそのライフルを使って、密輸入されたブツを片っ端からぶっ壊していくことだった。

『準備完了だ。ブラックタイガー』

『・・・・・・了解した』

 ブラックタイガー。鶫 誠士郎(つぐみ せいしろう)のコードネーム。割と知られた名らしい。

『こちらも今準備完了した。作戦を遂行するぞBianco(ビアンコ)

 そのブラックタイガー様の任務は邪魔になる見張りや、戦闘員の無力化。バリバリの前線である。

 ちなみにビアンコとはエミーリオのコードネームである。あの優男がつけた。意味はイタリヤ語で白。外見が白いからというズバリ安直なネーミングだった。

 別にエミーリオというのは彼のボスが適当につけた偽名であるのだからそんなのはいらないと突っぱねたのだが、クロードの嫌がらせにより使うことが義務付けられた。実に大人げない。

 しかし、彼は便宜上クロードの手下となっているので上司の指示には従うほかないのである。

「ほんと、めんどくせえ」

 そう呟く声は、風に乗って消えていく。

 代わりに、ボンっという銃声音が周りに響く。

 続けて二発、三発。銃声音とともに、爆発音。そして悲鳴。

 数百メートル離れたここからでも燃え盛る炎と逃げ惑う人々が見える。

 次弾を装填しながら次の目標にスイッチする。

 目標のブツは5機。弾も丁度5発。

 時間的制約と、この潜伏場所が漏れる可能性を考えるとマガジンを入れ替える暇はない。

 つまり、外したら作戦失敗。

「いいねえ。分かりやすくて」

 スコープから覗く景色に身を委ねながら彼はまた、引き金を引いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「作戦は成功だビアンコ。撤収するぞ」

 目標をすべて潰し、落ち合うと事前に決めた集合場所で鶫と作戦状況の確認をした後。各自撤収する。

 燃え盛る炎が闇夜に美しく揺らめく。

 こういう景色と、作戦を成功させた高揚感が彼はたまらなく自身を満たした。 

 

 

 

 

 

 

 

 

 そうした多忙の中で、しかし唯一。集英組からは何の音沙汰もなかった。

 仕事にしろ、プライベートにしろ、あの時跳ね馬と一緒に行った時以来なにもない。

 別にいいのだが。こうも音沙汰がないと警戒してしまうのは暗殺者という職業病だろうか。

「ほらー!エミー君何してるの?試験会場こっちこっち!」

「・・・・・・ああ」

 そう。今日は試験である。入試である。

「緊張するね」

「そうか?別に普通だろ」

「アンタに話しかけてないんだけど。私はハルに言ってるの」

「あっそ、じゃこっち向いて言うんじゃねえよ」

「なによ!大体、アンタ合格できるの?最近日本語覚えたばっかのくせに」

「抜かりはない」

 その後もギャーすかギャーすかと緊張感に欠ける会話。まるで今から入試とは思えない。

「ホント、二人って仲良いね」

「「どこが!?」」 

 息ぴったりだった。 

 試験会場というか並盛高校に入ると、もう既に人はいっぱいだった。

 ここにいる人間すべてがこの並盛高校に入りたいという願いを持っている。その事実は彼を多少圧倒させた。

 が、それだけだ。

 手元にある受験番号を見る。その番号と連動している席が自分の席だ。

 受験開始まではもう少し。自分の席に座る。

「なんでアンタが隣なのよ」

「こっちのセリフだ」

 隣に座っていたのはフウだった。こんな偶然はいらない。

「これで集中力切れて落ちてハルと一緒の高校に行けなかったらアンタのせいだからね」

「はっ。たかが僕程度で切れる集中力なんてそんなもん無いほうがマシだな」

「なによ?」

「なんだよ?」

 バチバチと今にもファイトしそうな勢い。

「ちょっと!君たち静かにしてくれないか!?集中できないじゃないか!」

「「あん?」」

「ひっ!」

 メガネのガリ勉はその凶悪なオーラによってすぐに目の前の単語カードに目を移した。

「はーい、では試験始めますよー」

 こうして、様々な思いが入り乱れた入試が始まったのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

「はー、終わったー」

 げっそりとした表情のハル。

「大丈夫?ハル」

 心配そうなフウ。その顔には若干の疲労を滲ませつつもいつもの笑顔を忘れない。

「・・・・・・チッ。しまった、あそこの回答間違えたな」

 エミーリオは既に自身の問題点を洗い直していた。

 三者三様。まさに人それぞれの試験を終えて、歯車は着々と動いていた。

 事件が起こったのは、それから間もなくの事だった。 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 試験も終わり、エミーリオはろくに授業にも出らずもっぱら屋上の貯水槽の上で寝ていた。

「お前なー、なんで授業でないんだよ。一応俺が保護者ってことになってるんだからな。ほかの先生の風当たりが強いんだけど」

 以前、跳ね馬にこう聞かれたことがあった。

「だって、試験は終わったろ。だったらもう授業なんて出る必要ないだろ」

「お前、そういうとこあるよな」

 エミーリオはそう答えると理事長室を出て行った。

 そんな記憶を思い出していると、ふと周りが騒がしいことに気付いた。

「うるさいなあ」 

 あたりを見回してみると、どうやら騒がしいのはグラウンドのようだ。体育中の生徒や教師たちが何かを叫んでいる。

 よくよく耳を澄ましてみる。

「やめろー!!」「おい!はやくマット持って来い!」「降りて来なよー!」

 どうやら、この屋上に向かって言葉を発しているらしい。

 屋上にいるのは彼一人だ。つまりその言葉は彼に向けられているのか。しかし、彼には心当たりなどない。確かに授業をふけってはいるが、そんな鬼気迫る表情をされるようなことではない。

 ということはつまり――――――――――――――いた。

 そこには彼以外に、もう一人いた。

 きっちりと制服を着こなし、丸い眼鏡。およそ印象の薄いその人物。こんなところで授業をサボるような人間には見えない。

 彼は貯水槽の上から、その人物をそう観察した。

「よし、二度寝だな」

 結論を導き出すともう飽きたのか、再びごろんと反対側に寝転ぶ。

 まるで自分とは関係ないみたいに。

 状況と、下の反応を見てきっとその生徒は今から飛び降りようとしているのだろう。

 だが、そのことに気付いても彼は関係なかった。

 沢田綱吉なら、死ぬ気で彼を助けただろう。

 跳ね馬なら、その場でその少年を説き伏せただろう。

 だが、彼はアクションを起こさない。

 ガシャガシャと屋上を囲んである金網のフェンスをよじ登る音がする。もちろん少年から発せられている音だ。

 その音は耳に届いているはずなのに、やはり彼は動じない。

 そのとき、携帯の着信音が鳴った。

「・・・・・もしもし?」

『エミーリオ。今お前が屋上にいることは分かってる。そこに今飛び降りようなんてことしてるバカがいるだろ。止めろ』

 電話の主は跳ね馬だった。

「なんで電話番号知ってんだ?教えた覚えないんだけど」

『今そんなことはどうでもいい。いいから止めろ』

「はぁ。いや、僕今日は屋上にはいないんだ」

『嘘つくんじゃねえ。お前のサボりスポットは屋上か校舎裏。今の時間だと校舎裏は西日がきつい。よって今お前がいるのは屋上だ』

「気まぐれで、今日は違う場所でサボっているなんてことあるだろ」

『いや、そこから聞こえてくる声は遠い。けどクリアだ。ていうことは建物内じゃねえ。もう残ってるのは屋上しかないんだよ。まだ他にも証拠はいるか?』

 黙っていると、最後に、命令だ。止めろ。の一言。

「今“僕”はあんたの部下じゃないんだが?」

『名義上はな。もう一回だけ言う。さっさと止めろ。命令だ』

「・・・・・・はぁ」

 深いため息。そこまで念を押されると彼には歯向かう理由がなくなってしまう。

 仕方なく、彼は貯水槽を降りた。

「おい。お前」

 彼が声をかけると、少年は大袈裟にびくついた。

「な、なんだよ!もう止めに来たのか!ほっといてくれ!僕は死ぬんだ!」

 矢継ぎ早に言葉を叫ぶ。少年はひどく憔悴しきっていた。

 エミーリオはガリガリと頭をかく。

「もう生きてても意味ないんだ。高校受験失敗なんて、笑いものにもなりゃしない。必死でやったのに、どうせ僕なんてここが限界なんだ。だから死ぬ。死んで楽になるんだ」

 どうやら受験失敗を苦に、飛び降り自殺しようというらしい。

「くだらな」

「っ!!君にはくだらないことかもしれないが、僕にはそれがすべてだったんだ!」

 少年は叫ぶ。

 そして、もう一人の少年は――――――――。

「死んで楽に・・・・ねえ」

「なんだよ」

「いや別に、実際どうなのかと思ってよ。“俺”もお前も死んだことないから分かんねえよな」

「・・・・・・っ!」

「この世の中なんてロクでもない。食い物にする連中と、食い物にされる連中。どっちも星の数ほど殺したが、楽そうに死んでいった奴はいねえな」

 みな、苦悶の表情を浮かべていた。マフィアのボスも、裏切った連中も。自分で自分を殺してくれと、頼んだやつすらも。

「だから、なんだよ・・・・!」

「別に、俺の中の事実を告げたまでさ」

 その少年は俯く。目線を泳がせて、迷っているようだった。

 その姿を見て、エミーリオは。

 

「気が変わった。お前、そんなに死にたいんなら俺が殺してやるよ」

 

 その言葉に少年はぎょっとする。それもそうだ、死ぬのを止めに来たと思った人間が自分を殺すというのだから。

「嘘じゃねえ。俺は殺し屋だ。これで喉物を掻っ切れば一瞬だ」

 そういって彼は、懐に忍ばせていたナイフを握った。

「お前、自分の死にいくら払える?」

「金をとるのか!?」

「おいおい、俺は暗殺者だぜ?金をもらえなきゃタダ働きじゃねえか」

「・・・・・・・・」

「払えないんなら、今すぐそこから退くことだな。自分にしろ他人にしろ、その死に正当な対価を払えないようならその死に価値はない。お前は無価値だ」

 いつの間にか、目と鼻の先まで迫っていたエミーリオに、少年は答えない。答えられない。

「死にたいんだろ?じゃあ選べ。自分で自分を殺すか。自分で俺に殺されるか。二つに一つだ」

 金網を隔てたその足場は、わずか数十センチ。足を一歩でも踏み外せば落ちる。落ちれば死ぬ。助かる高さではない。

 少年は金網の向こうにいるエミーリオのその真っ赤な瞳に、殺気に気圧された。

 

 少年はその凄みに後すざりをした。否、してしまった。

 

 体重を支えていたはずの足場が急になくなる。

 かくんと後ろに倒れ、支えるものは何もない。

 悲鳴も浮遊感も何もない。

 落ちた。

 瞬間的に、少年はそう悟った。

 が、その思いとは裏腹に少年の体は止まる。

 見ると、エミーリオのまっすぐに伸びた手が少年の腕をつかんでいた。

 少年の代わりにガシャンという悲痛な音と悲鳴が響く。

 下を見ると、フェンスの金網が落ちていた。エミーリオが切り裂いたものだった。

 自分もああなっていたのだと思うと、背筋がぞっとする。

 残ったもう一本の腕で、足場をつかみ、なんとか体を起こした。

「な、なんで・・・・・?」

 少年にはわからなかった。止めようとしたり、殺そうとしたり、救ったり。

「言っただろ。選べって、俺の選択肢に足を滑って死ぬなんてのはない。自分で、自分の意志で飛び降りるか。それとも俺に殺されるか。その二つしかないんだよ」

「・・・・・ぼ、僕は!死に、たくない!やっぱり怖いよ!」

 足はガクガクと震えていて、口元はどもり気味。

 それでも、少年は意思を伝えた。どうしようもないほどさらけだした意思を。

「あっそ、じゃあ死ね」

 けれどあっけなく、エミーリオは少年を突き落とす。

 少年は何を思う前に、ただ、落下していた。

 

「エンツィオ!!」

 

 よく通る爽やかな声。その大きな声よりもより一層大きな怪物がそこにはいた。

 エンツィオ。跳ね馬ディーノのペットでありスポンジスッポン。普段は肩に乗るほど小さいが、水を与えると急激に成長する。

 そのエンツィオが、巨大化して少年を腹で受け止めていた。

 おかげで、少年には傷一つない。

 その事実を皆が知るや否や、割れる歓声。下にいた人たちは何が起こったかわかっていなかったが、とにかく少年が助かったという事実だけがその場のすべてだった。

「―――――――――、」

 少年はエンツィオの腹から、屋上を見上げる。が、そこにはもう人影はいなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 エミーリオはすでに校舎の中に入っていた。人気もない廊下を一人歩いていく。

「・・・・・・なんだよ?不満か?」

「いーや、助かったよ」

 その進行方向を塞いでいたのは跳ね馬。

「ただ、別に突き落とす必要はなかったんじゃないか?」

「別に、ムカついただけだ。それに自殺を止めろとは言われてない。僕は命令通り時間稼ぎしていただけだ」

 どうやら彼は跳ね馬の言葉をそう受け取ったらしい。

「そっか。ま、なんにせよ助かったよ」

「あ、あの!」 

 そこに、二人の空間にもう一人加わる。

 先ほどの少年だった。

「さっきはありがとう。止めてくれて」

「だから、止めてないって言ってんだろ。お前が死のうが生きようが僕にはどうだっていい」

 早歩きで、少年の横を通り過ぎるエミーリオ。

「無様に生き残っちまったお前は、這いつくばって苦しんで、生きていくのがお似合いだよ」

「うん。そうするよ」

 その言葉は、彼に届いたのだろうか。

 振り返ることなく、彼はそのまま、歩いて行った。

                              To be continued.




どうも将軍かよおおおおお!高宮です。
・・・・・・ありがとうございました。次回もよろしくです。

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