リボーン×ニセコイ!-暗殺教室~卒業編~-   作:高宮 新太

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標的4 La parte posteriore della parte posteriore del dorso(裏の裏の裏)

 年の暮れに、学校中がなんだか忙しない。特に、三年生である彼の学年は本当に鬼気迫った空気だった。

「ねえねえ毎日毎日、ディーノ先生と何やってるの?エミ君」

「日本語の勉強なんだって。偉いよね。それでね春、昨日見たテレビがね」

 だというのに相変わらず、この二人だけは変わらない。いつもと同じ、いつも通り。

「ありおりはべりいまそかり」

「いやいつの時代の日本語よそれ」

「凄い!エミ君古文まで覚えたの!?」

 学校で不良どもにボコボコにされてからちょうど一週間。

 ハルとは何かが劇的に変わったわけではない。彼の考えも、ポリシーも何も変わらない。

 ただ、ちょっとだけ。会えば一言二言、会話するだけ。それもほぼハルが一方的に喋る。

 それだけ、それだけが、ただ変わった。

 キラキラとした眼差しを受けるエミーリオは、なぜか勝ち誇ったような顔をフウに向ける。

 当然、フウは瞳を鋭く変化させ、がるると獰猛な唸り声をあげていた。

 それら一切合切を彼は無視し、放課後、帰り支度をし廊下に消えていった。

「ねえハル。なんかあいつと仲良くなってない?」

「うん?」

「だって、エミ君とか呼んじゃって」

「ああ、ほら、エミーリオ君じゃあ長いじゃない?」

「そういうことじゃなくてさ・・・・」

 フウはなにかあったのではないかと、そう探りを入れたつもりだったのだが。失敗。

 かわされたのか、それともただの天然か。

 まあきっと後者のほうだろうと、フウはあたりをつける。彼女の性格を考えればおのずと答えは見えたからだ。

 それにしても、つい数日前までつっけんどんであからさまに無視していた彼が、いったいどんな心境の変化だろう。

 フウは心配になる。自分の親友はモテるということを彼女は自覚していた。

 もしかしたら・・・・・なんていう妄想と想像が今日もたくましく彼女の頭の中で戦っている。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「で?日本語講座はもう終わりか?」

 教室を出て、彼は理事長室にいた。それがここのところの彼の日課だった。

「ああ、流石、土台はできていたとはいえ飲み込み早いな」

 目の前には跳ね馬。ごつくていかにも偉そうな机に座っているのは雲雀。

「べつに」

「それにしても、お前が普通に学校生活を送れるようになるなんてなー。雲雀にしろ、お前にしろ、人は変わるってことかー」

 その言葉を跳ね馬が発した瞬間に、二つの殺気。

「うわー、お前ら実は仲良いんじゃねえの?」

 その殺気にたじたじになりながら、跳ね馬は意図してかどうか、火に油を注ぐ。

「咬み殺すよ」「んなわけねえだろ」

 再度、殺気。

「とにかく、これでようやく任務が聞けるんだろうな」

 一週間、跳ね馬の日本語講座に付き合えば、ここに来た意味、つまり任務を教えてくれるというそういう約束だった。

 彼にとってこの際なぜという疑問は不必要だった。

 任務があれば、依頼があれば、目的があれば。それだけでいい。

 それさえあれば、彼は何も、考えずに済む。ただ、目の前のことに集中すればよかった。

 だから、彼には任務が必要だった。

「わかってるよ。付いてきな」

 そう言ってやっと、跳ね馬はエミーリオを連れていく。

 黒いハイヤー。前にも乗ったその車にもう一度乗り込んだ。

「どこに行くんだよ」

「それはほら、ついてからのお楽しみってやつ」

 胡散臭いその笑顔に、彼は聞く気も失せた。

 なぜこうもはぐらかされなきゃならないのか、彼には分らなかったが、それも詮無きことだ。

 しばらく車は走って、やがて大きな屋敷の前で止まった。

「ここだ」

 跳ね馬は車を降りた。それにならって彼も降りる。

 大きな屋敷だった。ここらじゃ多分一番でかい。

 表札をみると『一条』と書いてある。

 ここに一体何があるのか、依頼人か、はたまたターゲットか。

 なんにせよ、彼はスイッチを入れた。仕事のスイッチを。

 目には見えないそれを、だが確実に押した。

 ピンポンと間延びした音がする。

 一瞬、自分が押した仕事のスイッチが音がしたのかと思ったが違った。

 跳ね馬が玄関のチャイムを鳴らしたのだ。そりゃそうだ。

「はいはーい」

 出てきたのは制服を着た高校生くらいの少年だった。

「えっと、親父さんいる?跳ね馬っていえば、話通ると思うんだけど」

「ああ、はいはい。いますよ。こっちです」

 その少年は、彼らを家の中へと案内する。不信感などはなさそうで、どうやら今日の事は事前にセッティングされているらしいことが分かった。

 大きな屋敷の、一際大きな居間。畳何畳分もあるその居間には、高級そうな壺や掛け軸。縁側から見える庭は綺麗に手入れされているのがわかる。

「おーい、親父。お客さんだぞ。えっと・・・・」

「跳ね馬。跳ね馬ディーノです」

 その今の中央に鎮座していたのは、襟足の長い白髪に老けた顔。着物を羽織ったその人物は、明らかに堅気ではない雰囲気。

「おお、お前さんが。・・・・そうか」

 反応を見るに初対面。

 この居間に来るまでに何人かすれ違った。その全員が、入れ墨やら剃り込みやら。

 どうやらここは、ヤクザの家らしい。それも相当な規模。

「じゃあ、俺は部屋に戻るから」

 何か気を利かせたのかここまで連れてきた少年は居間から出ていく。

 高校の制服と、立ち居振る舞い。そのどれもにヤクザの家に弟子入りしに来たようには見えない。

 この家にも慣れているようだった。お手伝いならもうちょっと愛想を振りまく。

 ということは、元から家にいたのだ。だから慣れているし、変にヤクザらしくもない。

(息子、それか孫かな)

 彼の観察と推察は当たっていた。が、今は跳ね馬とヤクザの組長の会話に戻そう。

「それで、ウチのキャバッローネファミリーと同盟を組んでくれるという件でしたが、答えはいただけそうでしょうか?」

(・・・・・っ!?)

 彼、エミーリオは内心で驚嘆した。表情として表に出るくらいに。

「うん。その話、受けよう」

 あっさりと話が決まる。

「ちょ、ちょっと待て。何の話だ」

 口を出すつもりはなかったし、今だってないのだが、思わず跳ね馬の裾を引っ張っていた。

 それくらい、衝撃で、おかしな話だった。

 なぜって、まず土地がおかしい。キャバッローネは比較的日本での活動も多いファミリーだが、イタリアと日本じゃいくらなんでも遠すぎだ。そのヤクザと同盟を結ぶなんて完全に裏、つまり別の目的がある。

「同盟について、キャバッローネからは〝こいつ”を好きに使ってくれていい。うちの屈指の殺し屋だ」

「はあ!?」

 跳ね馬は彼の反応を知りながら、それでも無視して話を続ける。

 彼の性格は一言でいえば冷静だ。その彼が、思わず大きな声を上げた。

 それくらい衝撃だった。自分がキャバッローネ所属のつもりはなかったし、同盟相手に渡されるとも考えていなかった。

 死角からパンチをもらった気分だ。

(あ!だからこいつ今までドジしなかったんだ!)

 つまり、跳ね馬は彼のことを部下としてみていたのだ。跳ね馬は部下の前では本来の力を発揮できる。

 キャバッローネファミリーのボスとしての力を。

 いや、そのことよりも大事なことがある。同盟相手に渡されるということは=人質という図式が成り立つ。

 戦国時代ではよくあることだ。徳川家康など。

「そうか。じゃあお前さん。よろしくな。名前は?」

 突然の展開に、開いた口が塞がらないような感覚。

「・・・エミーリオ・ピオッティ」

 が、そんなものは彼の生きている裏社会では常なる常識だ。

 留まっている木がどんな木だろうと関係ない。その木が枯れていようがいまいが、殺ることに変わりはないのだから。

 そう思いなおすと彼は落ち着いた。

「長いな。エミーでいい」

 返事をする前に爺さんは勝手に決めてしまった。

「おい!楽を呼べ」

「へい」

 楽?

 誰だ。幹部とかか?

 その名前に不審に思っていると、数分もしないうちに先ほどの少年が現れた。

「なんだよ親父。って、あれ?まだお客さんいるじゃねえか」

「おう、お前に紹介してえやつがいてな」

「なんだよ、また千棘みたいなのは勘弁だぞ」

「ちげえよ、今度は男だ」

 息子と思ってみると、完全に親子の空気感。

「これから家族になるエミーだ。年は・・・・・いくつだ?」

「そちらのお子さんの一個下ですよ」

 彼の代わりに跳ね馬が答える。

「だ、そうだ」

「だ、そうだ。じゃねえよ。これから家族になるやつの年齢くらい覚えておけよ」

 ったく。と、ガリガリと頭をかく楽。

「ま、急だけどさ。よろしくな」

 腰を屈んで、屈託のない笑顔をさらす楽に、しかし、当然のごとく彼は応じない。

「お前と仲良くする気はない。帰る」

「おいおい、ちょ。はぁ・・・・すいません。じゃ。俺もこれで」

 スタスタと歩いていく彼に、後ろから跳ね馬も追いつく。

「どういうことだ?なぜ俺がお前の命令下に入ってる」

「あれ?ツナから聞いてねえの?」

「聞いてない。来たのは白紙の便箋が一つだけだ」 

「白紙?なんだそりゃ」

「俺に聞くなよ」

 どうやら、情報系統で齟齬が生じていたようだ。

 本当に、そういうのはしっかりしてほしいと思う。

「っておい。またどこ行くんだよ」

「あ?もう任務内容は分かった。これ以上お前と一緒にいる意味が俺にはない」

 彼はただでさえ混乱して機嫌が悪い。

「ばか野郎。まだ任務は全部じゃないっつの」

「あん?」

 そういって、跳ね馬は強引に彼をまた車に乗せた。

「なんだってんだよ」

 ボスである直属の上司ならともかく、跳ね馬にこき使われるのは癪だった。

「まあ聞けって。これから行くとこは『ビーハイブ』っつーアメリカのギャング組織だ。最近勢力を広げてきてその手がイタリアにまで伸びてきたんだ。つってもそこはさっきの『集英組』とすこぶる仲が悪くてな。しょっちゅう小競り合いを起こしてた。そのおかげでそこまでの脅威にはならなかった。事実、そう判断した」

 黒いハイヤーが動きだす。舎弟と思しき厳つい男たちが何人か頭を下げ、見送っているのが分かった。

「そこまではよかったんだがな。今年の春。集英組とビーハイブが手を組みそうだって情報が入ってきたんだよ。そうなるとコトは厄介だ」

 彼は、ただ黙って話を聞いていた。任務内容と言われればそうせざるを得ない。

「調べたらさっきの楽とビーハイブの嬢ちゃんが付き合ってるらしいんだ。それで和解しようって腹だろうな」

「あ、そう。結局俺の任務は何なんだよ」

 しまった。我慢できずに口をはさんでしまった。

「そう、そこでお前の出番だ。上手く両者に潜り込んで関係を悪化させてほしい。できればビーハイブのほうを潰してもらえると助かる」 

 つまり、一言で言ってしまえばスパイ。と、そういうことだ。

「ふーん。でもそういうの、沢田綱吉は嫌いだろう?」

 ボンゴレ十代目は変わり者。それが裏社会での話のネタだ。

 沢田綱吉は争い事が嫌い。極力すべて平和的に解決する。

 けれど、仲間が傷つけられたときはその力をもって相手をたたく。

 まったくもって、まるで物語のヒーローのようだ。

 調和の大空の名にふさわしい。

 力を持った者の特権だ。

「ああ、ツナはな。だから、戦争になんかならないために、今から牽制しとくのさ」 

 ツナは。その言葉は言外に、自分はそうでもないと言いたげだった。

 同じ大空なのに。

「ツナにはツナの、集英組には集英組の。そんでもってビーハイブにはビーハイブの、守りたいものってのがあるのさ」

 守りたいもの、ねえ。

 別に、それを糾弾する気も、憤慨する気もない。それを悪いことだとは思わない。

 ただ、自分とは違うだけで。

 彼が思うのと同時、車は止まった。

 先と同様に、話を通して中に入れてもらう。

 西洋風の豪邸。内装も外装も違うのに、中にいる人間は似たようなものだった。

「おお、来たね。キャバッローネ」

 金髪をなびかせやってきたのは、ビーハイブのボス。爽やかな優男といった感じだ。

 この世界、これ見よがしな外見をしてるほうが珍しいが。ザンザスとか。

 ここでもまた、集英組と同様に同盟がまとまる。

 と、思いきや。

「いや、君等とは同盟は組まない」

「・・・・なぜです?」

 どうやら、雲行きが怪しくなってきたようだ。

「僕らはね、イタリア進出を考えている。そりゃキャバッローネ。ひいてはボンゴレの後ろ盾があれば鬼に金棒だが、ボンゴレには昔痛い目にあわされていてね。九代目のときだけど」

「それじゃあ」

「いや、ダメだよ。感情というのはそう簡単に変えられないんだ。特にうちのクロードは憎んですらいるようだし」

「・・・では、この話は無かったことになさると?」

 話が長くなりそうだなと、彼は一つあくびをした。異国の地で仕事をするといつもこうだ。若干寝不足になる。

 ふと、視線を感じた。

 目線を横に流すと、腰まである長い金髪。端正な顔だち。およそ低く見積もっても美人。そして何より、頭に浮かぶ赤いリボンが印象的なその女の子。

 視線の正体だった。

『か、かわいい・・・!』

 建物を隔てたそこに、女の子はいた。声は届かないが、口の動きと表情でおおよそ何を言っているのかはわかった。

 ガラガラと窓が開く。もちろん、その少女が開けた。

 嫌な予感。彼のこういう予感は、不思議とよく当たる。

「う、っんん」

 彼女は咳ばらいを一つ。

「あんた、ちょっとでいいからモフらせてくんない?」

 目は血走り、息は荒く、手は忙しない。

「いやだ。ヘンタイ」

 彼は、容赦なく言葉の鉄槌を下す。

「ちょっと!ちょっとでいいから!」

 男がラブホ前で女の子にせがんでいるような、そんな感じだった。

「・・・じゃあこうしましょう」 

 その光景を見ていたビーハイブのボスは、口を開く。

「〝あれ”はウチで預かります。娘が気に入ったようだし」

 この任務の本来の目的は、彼をスパイとして内側からビーハイブのイタリア進出を阻止するというものだ。

 つまり、この提案は跳ね馬にとって、願ってもないものだ。先ほどまで、それが叶わなかったのだから。 

「そんな都合のいい話が通るわけないだろう」

 しかし、跳ね馬はそんなことおくびにも出さずに、提案を一蹴する。ここで鵜呑みにしてしまえば不信感を持たれやすい。

「もちろん、タダでとは言わない。そうだな、代わりにウチのポーラをやろう。あれは優秀だから、足手まといにはならないと思うよ」

 内心、跳ね馬はガッツポーズをした。

「・・・・・・わかったよ。それで手を打とう」

 渋々といった様子で、跳ね馬とビーハイブのボスは握手を交わした。

 契約成立である。

「ねね、名前は!?」

「・・・・・エミーリオ・ピオッティ」

 なんだかデジャブ。

「長い!エミーでいいわね!私は桐崎 千棘(きりさき ちとげ)

 これもデジャブ。

「おい!ちょ!コラ!首元を引っ張るな」 

 なんだかキラキラとした目で連れ込まれそうになる。

「言っておくがな!お前らの任務は受ける。完璧にこなしてやる。だが、それでお前たちと仲良くなるつもりは毛頭ない!」

 捕まれていた手を勢いよく払いのけ、彼は大声でそう認識させる。

 ハルのせいで、彼は自身の思いにストッパーがかからなくなってきていた。自覚はないが。

「かわいい!」

「なんでだ!!」 

 だというのに、一向に千棘からの視線は変わらない。どうやらそんなつっけんどんな姿勢も、逆効果だったようだ。

「じゃあ、そういうことで」

「はい。あいつのこと、よろしく頼みますよ」

 その光景の裏で、跳ね馬は勝手に帰ろうとする。最後に、ちらりと彼を見送って。

「あ!おい!バカ!俺を置いていくんじゃねえ!」

「貴様!お嬢から離れろ!」

 声とともに、銃声が二発。彼の足元に着弾した。

 銃弾の射線を追うと、そこには一人の少年?少女?

「ちょ!(ツグミ)!」

「離れてくださいお嬢!そいつはボンゴレの手先です!」

 ああ、まためんどくさくなった。

 

 

 新たな登場人物に彼は、天を仰ぎ、ため息を漏らすのであった。  

                              To be continued.




 どうも亜人になりたくなくなくない。高宮です。
 今期のアニメも大体出尽くしましたね。個人的には「このすば」とか「ギャル子」辺りが楽しみです。
 皆さんの一押しアニメは何でしょう?
 次回も頑張ります。

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