リボーン×ニセコイ!-暗殺教室~卒業編~-   作:高宮 新太

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標的30 「球磨川禊」(Misogi Kumagawa)

「君に恨みはない。だから殺す」

 

『やだなあ、僕は悪くないのに』

 

 ピンチはチャンスの裏返しだ。

 そんな言葉があるけれど、きっとそれは正しくない。

 正しくないというよりかは、その先にあるものを説明していない。

 

「暗器使い、宗像形。殺人衝動の異常(アブノーマル)、押してまいる」

 

『やっだー、君ってばやっさしー。ちゃんと初めましての人には自己紹介できるんだ』

 

 ピンチはチャンスの裏がえし。

 そしてそれは。

『だけどごめんね。君の出番はここで終わりだ。噛ませ犬ちゃん』

 チャンスを掴んだところで、何も得られはしない。そんな虚しい勝利。

 そんな感想を、エミーリオは目の前の惨状を見て抱いた。

 血、血、血、血、血。

 流れる血。飛び出る血。固まる血。

 おおよそ惨状と呼ぶにふさわしいその現場で、エミーリオはただただ突っ立っていた。

『やあ、おまたせ。ちょっと掃除だけ終わらせたよ』

 球磨川禊は変わらない笑顔でそう言う。

「いやいや、待ってはないんだがな」

 あの白い箱のような部屋から出てきて、開幕。

 エミーリオ達は何物かもわからない人物たちから襲われた。

 いや、襲われたというよりはこちらから一方的な不意打ちをしたというか。

 およそ死角からの攻撃を逡巡することすらなく繰り出して、約十名ほどをさっさと倒してしまったのは間違いなく球磨川だ。

「で?なに?こいつらは?」

 事情なんか一つも分からないエミーリオは、ただ球磨川禊のやる行いを傍で見ているだけだった。

 加わることはせず、かと言って止めることもせず。

 我関せずとただ突っ立っていただけだった。

『さあ?よくわかんないや』

 てっきり、何かの因縁があってだからあれだけ動けたのだと思った。

 やってることは暗殺者のそれで、人をここまで暴力的になぶり殺しにできる何かが。

 だが、目の前の男は首をひねらせてわからないという。

 多分、本気で言っているのだろう。

 この数時間、たった数時間しか知りえないがそれでも十分だった。

 彼がいったいどんな人間なのかは。

 それほどまでの、強烈な個性。

 

「そうかい」

 

 そんな個性を、その一言で片付けてしまうエミーリオも、それはそれで十分イカれているのだが。

(にしても、あの攻撃。死角を的確についていく嫌な攻撃だ。あれほどのもの、暗殺者でだってそうできるもんじゃない)

 事情はともかくとして、エミーリオはひとまず冷静に戦況を分析する。

 よっぽどのことがない限り、基本的に人数というのは=暴力だ。

 特に1対10なんて絶望的な戦力差、そうそう覆せるものじゃない。

 つまり、球磨川禊にはそれを覆すだけの”何か”があるのだ。

 まったくもって、その何かってのが何なのかはわからないのだが。

『それじゃあちょっと手伝ってくれるかい?』

「手伝う?何を?」

 

『球磨川禊演出家の演出をさ』

 

 

 

   

 

 

 

 

 

  

 

 

 そんな遠回しなことを言うのが、どうやら球磨川禊という男らしい。

 手伝え、そう言われてエミーリオは言葉どおり手伝った。 

『よいしょ、よいしょ』

 球磨川が(相変わらずどこから出しているのかわからない)螺子を使って襲った人物たちをつるし上げていくのを。

 この行為の意味を、エミーリオにわかるはずもなく。

「ったく、何やってんだろうな僕は」

 ついには、仕事のスイッチを入れる証でもある一人称すら変わってエミーリオは黙々と人をつるすという奇怪な仕事をこなしている。

 ちら、と、横目で球磨川を盗み見ると鼻歌なんかを歌いながら大層機嫌がよろしいらしい。

 演出家の意図は、この世界の素人であるところのエミーリオには読めない。

 

 全員をつるし上げ終えて一息ついたころだった。

 

 彼女たちがやってきたのは。

 

裏の六人(プラスシックス)が、チーム負け犬が全滅・・・?」

 

「な、なんだこりゃ・・・・・。何がどうなったら、こうなるんだ?まさか、相打ちにでもなったのか?」

 

 ぞろぞろとエレベーターから出てきた集団。

 その中の快活そうな男子が目を白黒させながら、動揺していた。

 見れば集団内の誰もが彼と同じ反応で、どうやら彼らにとって今しがた討ち取られたこいつらは相当信頼があったらしい。

 仲間だったのかどうかまでは定かではないが。

 

『いいや、相打ちじゃあこうはならないね』

 

 そんな中で、この惨状を事件と呼ぶのなら。

 その犯人がいけしゃあしゃあと名乗り出る。

『十四人全員が同じように串刺しにされている。これは明らかに第三者の仕業に違いない。一体どういう目的があってこんな面白半分の惨状を演出したのかはサッパリわからないけれど』

 ・・・本当にいけしゃあしゃあと。

「誰だ!」

『おおっと、早とちりしないでおくれ。僕が来たときにはもう、こうなっていたんだ。だから』

 きっと、ただ名前を名乗るよりもよっぽど彼の自己紹介にふさわしい。

 

『僕は

 悪くない』

 

 その一言を。

   

『めだかちゃん、久しぶりっ。僕だよ』

 

「—————————っ!球磨川っ・・・!?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 めだかちゃんと呼ばれた女の子の球磨川を見る目は、人を見るそれではない。

 黒髪が腰までなびく凛とした少女。なぜかボロボロなのは彼女だけではなく、その後ろにいる連中も同じくボロボロだ。

 一貫して我関せずの立場を続けてきたエミーリオだが、流石にここまで状況が進んで触れられないわけがない。

「それで?球磨川よ。そこのそいつは一体誰だ?」

 立ち位置として、エミーリオと球磨川、めだかちゃんという女の子たちは向かい合っているので敵視されるのもしかたない。

 が、エミーリオとしては今の少ない情報量で敵味方をわけてしまうのはいかんせん危険だ。

 そもそも、エミーリオがここにいる目的がわからない以上、どう動いたら正解なのかなどわかるわけもないのだが。

『ああ、この子かい?僕の無二の親友さ』

 なんていう思惑を、きっと悟っていたのだろう球磨川は間髪入れずに手を打つ。

「・・・誰が親友だ」

『ちょっとシャイボーイでね、皆、よろしく仲良くしてあげて』

 

「・・・・・・・」

 

 ほれ見たことか、一斉に相手さん方が僕をじろりと恐ろしい風貌で睨み付けてくるじゃないか。

 返答しない方がよかったか。 

 もう遅い後悔をしながら、それでも会話は続く。

「それで球磨川?貴様は一体なんの目的でここにいる」

『やだなあ、そんな怖い顔しないでよ。めだかちゃん。僕ってば今日付けで箱庭学園に転校してきたんだからさー。同じ学園の仲間だぜ?』

『今日は理事長室に行きたかったんだけど、道が分からなくってね。よかったら教えてくれないかい?』

「箱庭学園に転校だと?」

 どうやらその事実は彼ら彼女らにとってはショックだったようだ。動揺が隠せていない。

 いや、それは最初からそうだった。球磨川禊という男が現れてからずっと。

『そうゆうこと、それはそうとめだかちゃん。今、生徒会長やってるんだって?あの時の僕のように』

「・・・・ああ、あの時の貴様を反面教師にな」

 どうやら球磨川とめだかちゃんは昔からの知り合いらしい。雰囲気を察するにそんな人間がそちらにももう二、三人いそうだ。

『ふーん、そっか。ま、頑張ってね。応援してるよ』

 その言葉を最後に球磨川禊はくるりと反転し歩き出す。

 理事長室の場所、わからないんじゃなかったのかよ。 

 そう言いたくなるほどには確かな足取りで。

『じゃ、行こうか。エミーリオちゃん』

「・・・だいぶ恨むぜ、球磨川」

 この状況、ちょっとやそっとじゃ覆せないこの雰囲気を意図して作ったことに。

『やだなあ、エミーリオちゃん。そんな焦った顔しちゃって』

 そんなエミーリオを見てニコニコ笑う球磨川と、多少の覚悟の上で一緒に歩き出すエミーリオ。

『ま、取り敢えず敬語つかえよ。先輩だぜ?』

「・・・へーへー。球磨川先輩」

 

 

 

 

 

 

 

   

 

 

 

 

 

 

 コツコツと廊下を二つの足音が木霊する。

「それで?球磨川先輩、状況説明くらいはあるんでしょうね?」

『黒髪が綺麗な女の子が黒神めだかちゃん。その女の子を一途に慕っているのが人吉善吉ちゃん。やけにキラキラしていた長身の男の子が阿久根高貴ちゃん。後は僕は知らないなあ』

「いや、僕が聞いてるのはそういうデータ情報じゃあなくてですね」

 なぜ、あの連中あんなにボロボロだったのか、なぜ、あそこまで恐怖と敵対の感情を持たれているのか。

 まあ、どうでもいいか。

 だってもう戦況は決している。ここから何かが変わるのは天地がひっくり返る代物だ。

 あり得ないとは言わない。この現実、いつだってありえないことが起きている。

 事実として今ここにエミーリオがいるのが証拠。

『エミーリオちゃんも不服だろうけど、諸々詳しいことはこのおじいちゃんに聞いてよ。僕なんかよりよっぽど詳しいんだからさ』

 そう言って、球磨川先輩は扉を開ける。

 やっぱり理事長の部屋知ってたんじゃないですか。

 その言葉は呑み込んで、エミーリオはその部屋に足を踏み入れた。

 

「やあやあ、球磨川禊君。待っていましたよ」

 

 その部屋の中央、一目でわかる高級そうなソファにゆったりと腰を掛けているお爺さん。

 全体的に皴が深く、白い髪の毛は年齢を感じさせている。

「・・・エミーリオ君も、無事に目が覚めたんですね」

「—————————俺のことを知っているのか」

 その細い目がこちらを捉えエミーリオの名を呼ぶ。

 途端に切れかけていたエミーリオのスイッチは押され、声にも真剣味が宿った。

「ええ、知っていますとも。君をあの部屋にやったのは私ですから」

『どーでもいいんだけどさあ、お茶の一つでも入れてくれないかな?僕、喉が渇いてるんだ』

 そりゃ一体どういうことだ。

 そんなセリフを吐く前に、いつの間にかソファに座っていた球磨川先輩が会話を遮る。

「おっと、これは失礼」

「お茶を入れながらでいい、知ってることを教えてもらおうか」

 ここまでほとんどゼロといっていいほどの情報できたエミーリオにとって、目の前の老人は貴重な情報源だ。

 ここはどんな手段であれ、知っていることを教えてもらわなければならない。     

「ほっほっほ、そう慌てなさるな」

「ちっ」

 相手に主導権を握られているこの感覚、いつになっても慣れないものだ。 

「とはいえ、あなたのことについて知っていることは多くはありませんよ。私は」

「知っていることでいいと言ったはずだぜ」

『悪いんだけどさあ、理事長センセ、手短に頼むよ。今日の僕は割と忙しいんだ』

 黙ってお茶をすすっていた球磨川先輩だったが、痺れを切らしたのか理事長の余裕さが鼻についたのか会話に割り込んでくる。

「・・・そうですか、それでは仕方ありませんね」

 球磨川先輩の嫌なプレッシャーにより、すこし冷や汗を垂らしながら理事長は口を開く。

「でも本当に、エミーリオ君のことは詳しくはないんですよ。私は、ある人物に頼まれて君をあの部屋へと入れてあげたのです」

 もっとも、その時の君はそこまで若くはなかったんですがね。

 それだけ言うと、理事長はまたほっほっほ、と高笑いをあげる。

(頼まれた?十年後の俺をあの部屋にいれるように?)

 その情報は現状を進展させるのは足らず、ただ混乱をもたらしただけだ。

 うなだれて、考え込むしかない。

 そんな僕を尻目に会話の矛先は球磨川先輩へと移る。

「それで?球磨川君、君の目的も聞いておきましょうか」

 

『目的?そんなのは決まっているじゃないですか。この学園に巣くう十三組(アブノーマル)の連中を一人残らず抹殺します』

 

 さらりと、とんでもないことを言ってのける球磨川先輩。

 これには流石の理事長もあっけに取られて返す言葉がない。

『だってあいつら』

『気持ち悪いでしょ?』

 まったくもって普通の表情。

 そうか、これが球磨川禊か。

 自分のことで手一杯だったエミーリオですら、そんな感想を抱くほどだ。

 当の本人である理事長の心情は押して図るまでもない。

「・・・球磨川君、あなたはこの学園に招かれた意味をちゃんとわかっていますよね?」

 どうやらその球磨川の真意は理事長にとってはよくないことらしい。

『もちろんですよ、誰も悩むことなく誰も困ることない平等で平和な世界を作る』

『その素晴らしい思惑に僕は大いに共感します』

 さらっとでたが、エミーリオにとってはその情報も貴重なものだ。

 頭を垂れて、今後の未来に押しつぶされている場合ではない。

 今はどんなことでも糧にすべきだ。

『ただ、どうでしょう。そんな世界を作るために、わざわざ完璧な人間を作るというのは、僕にはちょっと効率が悪いように思えますね』

 完璧な人間を作る?

 それが、この理事長の目的か。

 こっちにはそれを吐き出させておきながら、自分はのうのうと隠し通そうとしているのだからこの老人も中々にタフである。

『何事も、作るより壊す方が簡単ですよ』

「つまり?」

 

『エリートを皆殺しにすればいい、そうすれば世界は平和で平等です』

   

 またまたとんでもないことを平然といいのける。

 が、もうこれくらいではエミーリオは驚かなくなってきた。感覚がマヒしてきたとも言えよう。

『軍事兵器とかー、悪法とかー、不公平なシステムとかー。ああいうのって基本的にエリートが考えてエリートが作るでしょう?』

 だから、そいつら全員消してしまえって?

 言うのは簡単だが、横にいる球磨川先輩は本当にやってしまいそうな。

 そんな現実味がある。

 

「・・・わかりませんね。どうしてそこまで目の敵にするのです?エリートを」

 

『えー?理由?理由ですか、弱りましたね』

 大仰に手を振って、球磨川先輩はわざとらしく困った顔をする。

『あ、そうだ!エリートに両親を殺されたからってのはどうです?』

『実の妹がエリートに攫われたからとかー、実の親友だと信じていたエリートに裏切られたってのも萌えますよねー。うーん、どれにするか迷うなあ』

 意味なんてない。

 今の言葉のすべてがたったその一言に集約されていた。

「そんなことを許すはずがないでしょう!?」

 仮にも教育者、そんな誇りがあるのか理事長は机をたたいて講義する。

 瞬間だった。

 刹那、その言葉がぴったり当てはまるその時間。

 理事長の胸には串刺しになった螺子が数本。

 

「!?」

 

 当の理事長も、何が起こったのかわかっていない。

 だがエミーリオは見ていた。横で、確実に。

 球磨川先輩によって投擲されたその螺子が。

(あれだ、あれを確かに俺も受けた)

 あの時の攻撃が夢でもなんでもなかったことが今証明される。

『老人なら攻撃されないと思った?』

『黒幕ぶってれば安全だと思った?』

『僕がかわいらしい顔立ちだから』

『おしゃべりの最中なら死なないと思った?』

 そして最後の一撃を、球磨川先輩はハイキックで決める。

 

『甘ぇよ』

    

「—————————はっ!?」

 

 そしてエミーリオの時と同じく、まるで何事もなかったかのように理事長の体は元に戻っていた。

『・・・が、その甘さ、嫌いじゃあないぜ』

 なぜここでいいセリフを?

 と、誰もが思ったことだろう。

『心配しないでくださいよ、理事長。あなたは取り敢えず愚か者の方に入れといてあげます。僕は弱いものと愚か者の味方だ』

 それは、裏を返せばエリートとは敵対するという確固たる意志の表れで。

 いつの間にかエミーリオは自分のことを忘れて、球磨川先輩に対する言い知れない不安感でいっぱいだった。

(・・・たくよお、こんな人間会ったことないぜ)

 経験からくる対処ができない人間なんて初めてでどうしていいかわからない。

      

『ま、楽しみにしててくださいよ。エリート共は僕が一人残らず螺子伏せてあげますから』

 

 そう言って、球磨川先輩は理事長室を後にする。

 ついでにエミーリオは怖い笑顔になっている理事長に尋ねた。

「俺をあそこに入れるように頼んだのは、どこの誰だ?」

「・・・ふっ。球磨川君といい君といい、まったく。・・・いいでしょう、教えてあげます」

 大分憔悴しきっているその顔で、それでも理事長は教えてくれる。

 

「入江正一。私は彼に頼まれてあなたをあそこにいれたのですよ。といってもつい昨日の話ですが」

 

「——————————入江、正一だと・・・?」

 

 こうして、エミーリオは巻き込まれていく。

 大いなる流れと、その中に点在する小さな流れに。

 

To be continued.

 




どうも!僕も上野で小学生と戯れたい!高宮です。
ギリギリ、まさに締め切りギリギリのこの状況、嫌いじゃあないぜ。
ということで次回もまたよろしくお願いいたします。

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