リボーン×ニセコイ!-暗殺教室~卒業編~-   作:高宮 新太

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標的3 Per la prima volta(初めて)

 うまく満ち潮に乗れば 成功するが、その期をのがすと、一生の航海が不幸災厄ばかりの浅瀬につかまってしまう。

 by シェイクスピア。

 

 

 

 

 

 

 

 

「どうも、英語を担当することになりました。気軽にディーノって呼んでくれると嬉しいな。卒業までの短い間だけどよろしく♪」 

 

 女子どもの色めき立つ声。男子どもの興味なさげな空気。

 そしてあっけにとられる彼。エミーリオ。

 跳ね馬ディーノ。スラリと伸びた長身と、金髪に眼鏡。ああ見えて、マフィアのボス。

 目が合った。ウインクされた。

 苦い顔になっている、鏡を見なくたってわかってしまうのが悲しい。

「わー、イケメンだー」

 隣で小野寺春が感嘆の息を漏らしている。

 後ろの風は興味なさげ。

 いや、この二人の反応など、どうでもいい。

「はーい、静かにー。早速一時間目から英語だからディーノ先生よろしくね」

「はい」

 担任とのやり取りからも、いつもの爽やかさに拍車がかかっているような気がする。

 いや。

 だから。

 それも。

 どうでもよくて。

 今重要なのは、なぜ、あいつが、跳ね馬がここに、並盛中学に先生として赴任してきているのかということだ。

 これも任務?

「はい、じゃあ早速だけど教科書を開いてー」

 普通に授業を始める跳ね馬に、彼の内心は猜疑心に募る。

 妄想と想像が繰り広げられ、彼の心は暗雲でいっぱいだ。

 黒板にチョークで英単語を書きながら説明している跳ね馬を見て、一つ気づく。

(あいつ、ドジしてないぞ・・・・?)

 跳ね馬ディーノには一つの特徴がある。

 それが部下の見ている前でないと力を発揮できない、より細かく言うのならありえないレベルでドジを連発するのである。

 つけられたあだ名が『へなちょこディーノ』。

 だというのに、今の跳ね馬はそんなそぶりを一切見せない。できる教師って感じだ。

 周りに部下の気配などは感じない。

(まあ、あいつも成長したのか。もう三十だしな)

 三十でへなちょこはない。流石に。 

 

  

 

 

 

 

 授業が終わった直後、普通に教室を出ていく跳ね馬に後ろから歩幅を合わせる。

「おい、なんだこれは。説明しろ」

 静かに、けれど的確に情報の開示を求める。

「あー、俺ちょいと昔この学校に赴任したことがあってな。だから今回は割とすんなり入れた」

「いや、どうやってアンタがここに来たかの説明を求めているんじゃなくて、なんであんたがここにいるのかの説明を求めているんだ」

「日本語。もう少しってとこか?」

 こっちの質問には答えずあくまでマイペースを崩そうとしない。

「昼休み、理事長室に来いよ。日本語教えてやる」

 がらりと職員室の引き戸を開けながら、変わらぬ笑顔。爽やかさが鬱陶しい。

 扉が閉まる。

 結局、疑問は募るばかりで。誰一人、何一つ、ヒントの欠片すら見当たらない。

 白紙の便箋を受け取った瞬間から、何かがおかしい。

 そう思う。が、彼にはどうすることもできなかった。

 昼休みになって、大人しく彼は理事長室に向かう。

 正直、行く道理などないのだがもう一度だけ事の真相を聞き出しておきたかった。

 このままもやもやしたままだといざという時に対処できないと判断したからだ。 

 ノックをして、入る。

「おっ。ホントに来たか」

 跳ね馬が意外そうな顔をする。

 そしてそこにいたのはもう一人。

「なに?君達、群れるのなら咬み殺すよ」

 トンファーを両手に、有り余る殺気を発揮する人物。

 雲雀恭弥(ひばりきょうや)

 十代目ボンゴレファミリー雲の守護者。

 黒髪短髪に黒いスーツを着こなしている。

 孤高の浮雲という雲の守護者の格言を体現しているかのような人物。 

 

 〝記憶の中では見たことあったが、会うのはこれが初めてだ”。

 

「おいおい、ちょっと待て。言っといたろ。今日ここ使うって」

「・・・・・・ふん」

 

 やはり記憶より成長している。まあ十年経っているのだから当たり前だが。

 

 雲雀はエミーリオの方を一瞥すると、それ以上興味を失くしたのか肩に乗せた黄色い小鳥、『ヒバード』と戯れている。

 エミーリオの方もそれ以上は気にしない。突っつきすぎると藪から蛇どころか大蛇が出てきそうだったから。

 雲雀恭弥はこの中学の理事長であり、現風紀委員長であり、秩序である。

 なぜ理事長が風紀委員長も兼任しているのか。その疑問を解消しようとするやつなどこの学校にはいない。

 人はそれを愚行と呼ぶ。

 着信音。聞いたことのあるメロディー。

 並中の校歌だ。

 そんなのものを着信音にするやつなど一人。

「・・・・・ああ、わかった」

 雲雀である。

 誰と電話していたのかは知らないが、用事ができたらしい。スタスタとまるでエミーリオ達などいないかのように部屋から出て行った。

 緊張感が緩和する。

「よし、じゃあ日本語講座開講するか」

 嬉しそうにそう言う跳ね馬に、しかし、彼はそれを遮る。

「まて、その前になんでアンタがここにいるのかちゃんと説明しろ。新しい任務なのか?」

 一度だけ、瞳を鋭く尖らせ反応を見る。

 これではぐらかされたらもう諦めるつもりだった。 

「・・・・・はぁ。分かった。言うよ」

 観念したように瞳を閉じる跳ね馬。

 その言葉にようやく彼は安心した。自身の殺るべきことをようやく実行することができるから。

「ただし、お前が日本語をちゃんと習得してからな」ニッコリ

 

「・・・・・・・はぁ」

 

 もう、舌打ちする気もなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 昼下がりの日差しが廊下に差し込む。

 その日差しに当たらないよう端っこを歩きながら、彼はまたため息をついた。

 跳ね馬の日本語講座をみっちり昼休み中受けていればため息をするのも致し方ない。

 どこか、人気のないところに行きたかった。もう昼休みも終わるが、彼にはそんなのどうでもよかった。

 校舎の裏。ちょうど日陰になっている場所。いい感じに人気がない。

 校舎を壁に背を預け、ゆっくり息を吐く。

 最近急速に周囲を取り巻く環境が変わって、疲れていた。

 いや、変わったことそのものに疲れているわけではない。そのこと自体は今までと一緒、変わることが日常だった。

 だけど、依頼がない日々。任務がわからない日々。目的が、見えない日々。

 そんな日々を過ごすのは、初めてで。

 どうすればいいのかわからない。

「やいやいやい、黄昏てんじゃねえぞ。おい」

 聞いたことのある声。どこでだったか、思い出す必要は、なかった。

 どごぞのチンピラが十数人。なぜか既に傷だらけの中学生が数人と、どうやら他校の生徒が混じっている。というかほとんどだ。

 背格好を見るに、多分、高校生くらい。

「てめえだな。うちの後輩をボコボコにしたってのは」

 その中の一人、太ったさまがまるで豚のよう。見覚えがあるような気がしないでもない。

「どちらさま?」

 とりあえず、名前くらい聞いておこう。

「お前がこの前、ボッコボコにしたやつの先輩だよ!」

 後ろにいる連中は全員武装している。やれ金属バットだ、やれチェーンだと物騒だ。

 あからさまな敵意。  

「・・・・・覚えがねえな」

「・・・・ほう。それが遺言と受け取っていいんだな」

 相手はこめかみをひくつかせ、完全にキレていた。

 憂鬱だ。

 前回はおよそ人の気配のない路地裏。だからこそ、何も考えずにただ敵を殺しつくせばよかった。

 だけど、今回はそうはいかない。

 なにより舞台が悪い。学校の敷地内だなんて、うかつに問題を起こせない。

 それもこれも、任務の内容さえ把握できていれば、回避、あるいは上手く対処できたことなのに。

「おらあ!」 

 何人いるのか、数える気にもなれないが、その全員が会話もそこそこに一斉に襲い掛かってくる。

 バットを振り下ろし、チェーンを振り回す。そんな集団が、個としてではなく、集団で、襲い掛かってくる。

 攻撃を避けながら、それも長くは続かない。

 いくらなんでもこの人数、リングとボックスがあれば別だが、それもない、暗器も使えないとなると手詰まりだ。

「―――――――――――っぐ!」

 後ろから、頭をバットで殴られた。

 その衝撃で、頭から真っ赤な血が流れる。

 彼の瞳と、同じ赤。

「ひっ!」

 思わず殺意を向けてしまう。鋭く尖った獰猛な瞳。赤が揺らめく。

 だが、それも一瞬。

 最初の一撃で手ごたえを感じたのか、他の奴らも次々に殴る蹴るの暴行を加えてきた。

 エミーリオはただ黙って耐えている。突っ伏した地面が、土の味が嫌に苦い。

 なんでこんなことになったんだっけ?

 舞う土埃の中心で、そんな無意味なことを考える。

 なんでもいいから早く、意味を与えて欲しかった。この空虚な空を、眺めなくてもいいように。

「こらー!何やってるのあんたたち!」 

 声が聞こえた。怒号と暴力が飛び交う中で、それでも聞こえた。

「あん?」

 先の豚が反応する。

「やめなよ!寄ってたかってこんなこと!」

 その声の主はいつも彼にまとわりついてきた人物。笑顔を向けていた人物。

 小野寺春。

「おい。お嬢ちゃん。今俺ら立て込み中だからよ。おままごとならあっちでやってくれや」

 笑い声。下賤で下品な声が校舎裏に響く。

 それでも、小野寺春は怯まない。いつもの笑顔とは裏腹に、眉間にしわを寄せ、似合わないほど瞳に力を込めていた。

(なにやってんだあいつ?)

 彼にそこまでする義理も、道理も、彼女には存在しない。

 それでも、彼から見える彼女はそこから一歩も引かなかった。

「おい・・・いい加減にしろよてめえ」

 豚は我慢の限界のようだった。せっかく気持ちよくサンドバックをタコ殴りにしていたのに、その楽しみを邪魔されるのが豚は一番我慢ならなかった。

 一歩、二歩と、差を詰める。それでも彼女は退かない。

 からからと豚が手にしているバットの音だけが、空間を支配している。

 

「ねえ、君たち何してるの?」

 

 その空間を割って入る声が一つ。

「今度は何だってんだよ!」

 豚はキレた口調で振り向く。

「群れてると咬み殺すよ」

「なにわけわかんねえこと言ってんだ!」

 威勢のいい罵倒。だが、後ろで控えていた傷だらけの中学生たちは、その姿に恐怖で足がすくんでいた。

 雲雀恭弥。並盛をこよなく愛し、一人でいることを好む孤高の浮雲。

 手錠を手に、体育倉庫の上から、全員を見下ろしていた。

 フッと笑う。まるでちょうどいい暇つぶしを見つけたような、そんな笑顔。

「てめえなに笑ってんだ!ああ!?」

 その笑顔に、ブチギレる豚。

「や、ヤバいっすって先輩!あれ、ヒバリですよ!」

「はあ?」

「雲雀恭弥!並盛の秩序!逆らったら最後、スプラッタにされて東京湾に沈められるとか」

 口角の上がった表情のまま、雲雀恭弥は倉庫の上から飛び降りる。

「・・・・ひっ!」

 その威圧感に、ついに中学生たちは逃げ出してしまった。

 残った高校生たちも、ようやく事の重大さが身に染みたのか、全員もれなく青ざめた表情を浮かべている。

 クルクルと雲雀の手元で回している手錠は、一つから二つになり、やがて三つになって四つになった。

「な、なんだそれ!手品か!」

 アラウディの手錠。

 ボンゴレ初代雲の守護者が使っていたとされる武器。

 その手錠には雲の炎が注入されている。特性である増殖を繰り返しているようだ。

 ボンゴレ匣。エミーリオは直で見るのは初めてだった。

「・・・・・・むぐぐ」

 あっという間に、残っていた十数人を幾層にも重なった手錠で拘束してしまう。雲雀には傷一つどころか、汚れ一つついてない。

 敵に回すと厄介な人物。瞬時にエミーリオはそう悟った。

 雲雀は一人残らず相手を地面に伏したところで興味を失ったのか、「次群れているのを見かけたら今度こそ咬み殺すからね」そう言ってどこからか飛んできたヒバードとともに校舎裏から去っていった。

「大丈夫?エミーリオ君」

 春はそんな光景に呆気にとられながらも、エミーリオのもとへと駆け寄った。

 フラフラと立ち上がる彼は、春の差し伸べた手を払う。

 ズズ、と校舎の壁伝いに足を引きずりながらも、それでもなんとか足を進める。

「――――――――――――、」

 不意に、体重が軽くなった。

 見ると、隣で春が彼の腕を抱えている。

「邪魔だ」

 腕をほどいて、体を押す。

 必要ないと、態度で示す。

「――――――――――――、」

 それでもまた。彼女は手を差し伸べる。

「ウザイ。やめろ」

「やめない」

 一言。けれど芯のある、一言だった。

 それまでずっと地面ばかり移していた光景が、初めて上を向く。

 泣きそうな顔。

 けれど、

 泣かなそうな顔。

「なんで?」

 聞いた。ただの興味本位で。

「だって、仲良くなれそうだと思ったの」

 ハンカチで、彼の血で汚れた顔を拭う。

「・・・・・やめろって」

「やめない」

 さっきより、さらにずっとずっと確かな一言。 

「やめないよ」

 不安定に揺れる瞳は、真っ赤に濡れている。その瞳が自分のものだと理解するのにそう時間はかからなかった。

 日本に来てからこれまで生きてきて、味わったことのないものばかりだ。

 未来への不安も、自身への焦りも、上層部への不信感も、沢田綱吉への憤りも。

 何もかもすべて、初めての経験で。

 どうしたらいいかなんてわからない。

 今この時だって、かける言葉の一つも見つからない。

 そんなもの、今まで不要だったから。

 抵抗していた腕が、だらりと下がる。

 だから、ただ黙って、なすがまま、拭われる。

「よし、できた」

 彼女はいつもの笑顔で、そう言った。

 額にはバンダナのように巻かれた彼女のハンカチ。

 授業が始まるチャイムが鳴る。

「あ。鳴っちゃったね。とりあえず、保健室までいこっか」

 こんな気持ちに、なったことなんてないから。

 

 

「・・・・・・Grazie(ありがとう)」

 

 

 

「ん?」

 どうしたらいいかわからないから、わからないように、わからないままで。 

 それでいい。

「お?なんだお前ら。サボりか?」

「――――――――――っ!!」

 急に聞こえた声にびっくり。その声の正体にびっくり。

「ディーノ先生」

 春の言葉通り、真横の廊下から窓を開けて覗き込んでいた跳ね馬。

「お?どうした?顔赤いぞ?」

「うるせえ!血だバカ!!」

 恥ずかしくて、恥ずかしくて、いたたまれなくて、気づいたら逃げ出してた。

 こんな気持ちも、初めてだ。

 

 

「ありがとう。ねえ」

 柔らかく微笑むディーノの目の前には、走り去っていくエミーリオと、それを追いかけようとする春。

「あ、ちょっと。春ちゃん」

 呼び止めて、振り返ったのを確認してから。

「アイツのこと、よろしく頼むな」

「・・・・・・はい!」

 元気な笑顔。いい笑顔だった。

「それと伝言も頼む。一週間。ちょっと空けとけって」

「わかりました!」

 もう行っていいよと合図をすると、思いっきり駆け出していく少女を見て、ディーノは郷愁に駆られる。

「ツナたちにもあんな時期があったなぁ」

 なんて。

「おお、寒い」

 カラカラと窓を閉めて。

 蒼く澄み切った空に、風が舞った。

                              To be continued.




 どうもゲスの極み高宮です。
 ニセコイのキャラで好きなキャラはポーラです。抱きたい。間違えた。抱きしめたい。
 はぁ、あれですね。あとがきが実は一番つらいです。書くネタとかほんとないんだ。ほんとなんだ。
・・・・次回も頑張ります。

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