リボーン×ニセコイ!-暗殺教室~卒業編~-   作:高宮 新太

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標的25 Notte di intrigo(陰謀渦巻く月夜)

 修行を初めて、早一か月が過ぎた。

 梅雨の停滞した空気はいつの間にか過ぎ去り、教室の中にはこれから来る夏に浮かれている、そんな空気が充満していた。

「なあ、楽。どの競技にでるよ」

「そうだなー、どうせ運動部の連中が張り切るんだろ?余ったやつでいいよ俺は」

 二年のクラスは今現在、一学期を締めくくる最大の学校行事。体育祭に向けて話し合いが行われていた。

「いいのかよー、そんなこと言って。二人三脚とかにでもエントリーすれば小野寺と一緒になれるかもしれないぜ」

 ニマニマと一条楽をからかう舞子集。

「なっ!何言いだすんだよ!」

 そんな集の期待通りに顔を真っ赤にしながら楽は否定する。

 大体、仮にエントリーしたとして小野寺が二人三脚にエントリーするとは限らないし、仮に小野寺がエントリーしたとしてパートナーになるとは思えないし仮に。

「うるせえ!そんなのは話術でどうにでもするんだよ!!」

「んなことできてたら苦労しねえんだよ!」

 大声で反発する集に楽も自然と声が大きくなる。

 そのことに気づいてチラと視線を後ろにずらす。

「—————————、」

「————————!」

(よかった・・・)

 どうやら小野寺は友達と談笑しているようで、こちらには気づいていないらしい。

 ほっと一息ついて、元凶である友人を締め上げる。

「ぐ、ぐえっ。わ、悪かったって」

 まったくもってこの悪友はこれだから油断ならないのだ。

 悪いといいつつ顔のにやけは消えていない悪友に、楽は呆れつつ時間は進んでいった。

 

 

 

 

 

 

 

 そして、昼休み。

「ダーリン、ちょっと」

「なんだよハニー」

 持参した弁当を早々に食べ終え、手持ち無沙汰になっていたころ桐崎千棘に呼ばれた。

「いいからちょっと来て」

「??」

 要領を得ない千棘に困惑しながらも、おしどり夫婦で通っている楽に断る選択肢はない。  

「おい、どこに行くんだよ」

 階段を下っていく千棘の背中からは物々しいオーラが。

 一体全体なんだというのだろうか。心当たりなんか一ミリもない楽は変に不安になりながら、それでもついていくしかない。

 階段を下り、一つ下の階、一年生の教室が並ぶ階に降り立った千棘。どうやら用事はここにあるらしい。

「あ、いた」

 その中の教室の一つを覗き込む千棘は、傍から見て大分不審だが。

「だーから、何だってんだよ」

 イマイチ状況が掴めずにいる楽に、ようやく千棘は説明する気になったらしい。

「ほら、エミーとポーラちゃん。最近ずっとケガしてるみたいなの」

「・・・・・え?それだけ?」

 もっとなんか、こう重大な秘密を打ち明けられるのかと身構えていた楽は千棘の言葉に目を白黒させる。

 ドアからこっそり覗いている千棘の後頭部しか見えないが、どうやら心配しているらしいことは伝わってくる。

「それだけってなによ。変でしょ?あんなケガ、毎日増えてるのよ?」

「あー、大丈夫じゃねえの?」

 楽はポリポリと頭を搔きながらポロリと言葉をこぼす。

「・・・何を根拠に言ってるわけ?」

 ジロリと睨みながら、顔を上げる千棘。

「根拠ってほど、確かじゃねえけど」

 そう前置きして、楽は言葉を続ける。

 

「でも、アイツなら大丈夫な気がするんだ」 

   

 さほど、話をしたわけでもない。昔から知っているというわけでもない。

 それでも、なんとなくそう感じる。

 安心感とも信頼とも違うのだろうけど。

「なにそれ、男同士の友情ってやつ?」

「いや、そーいうのとも違うんだけどな」

 そんな不確かなものを口にするのもどうかとも思ったが、でも本当にそう思うのだから仕方ない。

 千棘は不満そうだが。

 モソモソと一人で弁当を食っているエミーリオと、不満を言いながら人に囲まれているポーラ。

 楽が心配しているのはどちらかというと、こっちのほうだろう、

 友達とか、いるのかな。と。

「まあ、学校に来てる内は大丈夫なんじゃねえの?」

「・・・そうかな」

 心配そうな千棘の顔は解消されることはないが、それでも先ほどまでの焦りは消えたらしい。

「なんだよ。やけに気にかけてるじゃねえか」

 それが楽には引っかかる。

 そこまでの接点があったのだろうか。と。

「そりゃそうでしょ。私達、助けてもらったんだから」

「あ、それもそうか」

 もうあの襲撃から二ヵ月以上が経とうとしている。

 記憶は薄れ、ただの日常に戻っている今。あれが本当に現実にあったことなのかすら楽にはよくわからなくなっていた。

 組の人間にいくら尋ねても返ってくる言葉は変わらず「そんなことはない」という。 

 楽自身も襲撃後すぐに気絶させられたこともあって、どこか現実感に欠けていた。

 しかし、それは千棘も同様なはずで。

「私、ずっと保健室で寝てた。自分の家が襲われてるって言うのに、呑気に」

「それは、仕方ないだろ」

 硬い表情の千棘。最近はそんな表情が増えてきた。

 何かを考えているような、そんな表情が。

「ううん。そんなことない。私がもっと強ければ、みんなを助けられたかもしれない」

「強ければって・・・」

 ギャングの娘とはいえ、千棘は普通の女の子だ。きっとそれを彼女の父親も願っているだろう。

 そんな普通の女の子の、きっとそれは願いではないのだろう。

 

「鶫にだけ、あんな思いをさせずに済んだ」

    

 ああ、そうか。

 目の前の彼女の本意はそこにあるのだろう。唯一無二の親友に一人で辛い思いをさせてしまったと。

 それがわかったからこそ、楽はそれ以上何も言えずに視線をエミーリオたちに戻す。

 相も変わらず、エミーリオの周囲だけ流れる空気が違う。

   

「お嬢!こんな所におりましたか」

 

 そうこうしてるうちに、どうやら昼休みが終わったようだ。時間を知らせるチャイムが鳴り響くのと同時に、鶫が現れる。

「鶫!あんたまた怪我が増えてんじゃない!」

 千棘の大きな声がチャイムに負けず劣らず響く。

 それも無理なかろう。エミーリオやポーラに遜色ないレベルで、鶫もまた体はボロボロだ。

「大丈夫です!お嬢!それもこれも修行の中での勲章ですから!」

 なぜだか、鶫は誇らしそうに自らの胸を張る。  

 修行とは一体何なのか、詳しいことは知らない楽は一人疎外感を感じるしかない。

「さあ、教室へと戻りましょう」

 鶫の声からは、確かに悲壮感や悲痛なものは感じられない。

 むしろ、瞳はキラキラと生き生きとしているようにすら感じられた。

「う、うん」

「どうした?」

 そんな楽の感覚と千棘だってそうは変わらないはずだ。楽なんかよりもよっぽど長く一緒にいるはずなのだから。

 

「楽。私、決めたわ」

 

 急な言葉に、なにを?と思わないわけでもない楽だったが。  

「そっか」

 千棘の顔を見て、楽はそれ以上何も言わない。 

 思うところがないなんてそんなわけはないのだ。

 きっと、自分なんかよりもよっぽど—————————。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「で、あいつらいったい何しに来たんだ」

 最後の一口をパクリと食べ終わり、エミーリオは呟く。

「さあ?大方手のかかる後輩でも見に来たんじゃないかしら?」

 そんなエミーリオの言葉に皮肉を混ぜて投げ返すのはポーラ。

「ああ、お前とかな」

「あんたのことよ」

 間髪入れずに返す彼女に、エミーリオはむっとしながら。

 やがて今日もまた変わらぬ放課後がやってくる。

 ・

 ・

 ・

 もはや、山登りにも慣れ息切れすることもなくなったころ。

「おい、またいねえんだけど。アイツ」

「仕方ないわ。自主練しとけってことかもしれないし」

 ここ二、三日。崖登りを成功し、ようやく次のステップ。つまりは”死ぬ気の炎”を操る修行に入るのだとばかり思っていたのに。

 実際蓋を開けてみれば、それを言い渡されたのはポーラのみでありエミーリオは手持ち無沙汰そのものである。 

 だからだろうか、ポーラは満足気な表情で言い渡された練習メニューをこなしている。

 それもまた、エミーリオのフラストレーションを溜める原因となっていた。

 といっても、ポーラがしているのは初歩の初歩。まずは炎の出力を安定させることに重きを置いている。

 すぐに追い越されることはないだろうが。このままでは時間の問題なのは火を見るよりも明らかだ。

「・・・・・・」

 このままここにいても意味はないと判断したのか、くるりと体を反転させエミーリオはその場を後にした。

「な、なによ。ちょっとばかり勝ち誇っただけじゃない」

 怒っていると思ったのか、少し声のトーンを落としたポーラの声はエミーリオには届かなかったが。

  

     

 

   

 

 

 

 

 

「おい、クローム」

「・・・どうしたの?」

 エミーリオは山を降りたその足で自身の家へと帰ってきていた。

 クロームは驚いた顔で同居人を迎える。

 エプロン姿におたまをもって味噌汁の味見をしている姿に一瞬エミーリオは期待が揺らいだが、構わずクロームに問いかけた。

 

「リングが手に入る所、どこか知らないか?」

 

 リボーンが修行場に姿を見せないのには心当たりがある。

 

 それは、ポーラが嵐の炎を顕現させた時のことだ————————。

 

「そういえば、お前はなんで炎を使わなかったんだ」

 リボーンが心底不思議だと言いたげな顔でエミーリオに質問した。

 林の木陰の下は思いのほか涼しく、修行で火照った体に吹く風が気持ちいい。

「はあ?わけわかんねえこと言ってんじゃねえぞ」

 しかし、この二人の間にそんな爽やかさなどは微塵もなく。

 そんなリボーンに半ギレでエミーリオは口を開く。

「”テメエら”が俺からリングと匣を没収したんだろうが」

 今更何を言ってんだ。そうエミーリオは付け足して抗議する。

「・・・・・・何の話だ。それは」

 あ?と、エミーリオはそこでようやくリボーンの顔を見上げた。

 その顔はハットによって隠れてはいるが、動揺しているらしいことは感じ取れる。

「何の話って———————」

 そんなめったにない反応に驚きつつもエミーリオは素直に、事の顛末を話す。 

「日本に来る前に、ボスに没収された。だと?」

「ああ、そうだよ。こっちにはリングと匣の技術はまだ伝わってないからっつー理由でな」

 が、結局はそれも嘘っぱちだったわけだが。

 だがしかし、これはいったいどうゆうことなのだろうか。てっきりエミーリオは上の命令。つまり沢田綱吉の命令でそうしたのだとばかり思っていた。 

 エミーリオが所属していたのはファミリーの中でも末端の下部組織。上の命令がなければ動くこともできないそんな組織のはずだ。

「・・・・・」

 考え込む仕草をしているリボーンをみて、ようやく今エミーリオの中にも疑問が広がっていった。    

 なぜ、自分からリングと匣を没収したのか。

 いやそもそも始まりからたどれば可笑しなことだらけだ。

 沢田綱吉からの突然の手紙。それまではあったことももちろん連絡を取ったことなんて一度たりともなかったのに。

 確かに、十年前。謎の地震と共に妙な記憶が流れてきたことはあった。

 そこでは十年後に白蘭という敵を倒すために沢田綱吉たちと共闘していた自分がいた。

 が、それは現実とはならず、事実として白蘭なんていう敵の存在は現れず。裏社会を取り仕切っていたのは巨大なボンゴレだ。

 だというのに、沢田綱吉はわざわざ連絡を取ろうとしてきた。まるで旧知の友人のように。

 中身が白紙だったということにも、もっと気を配るべきなのだ。普段ならばもっと慎重に取り扱っていたはずなのに。

 しかも、それを渡してきたのはどこのどいつだった?あのヴァリアーだぞ。

 独立暗殺部隊ヴァリアー。よほどのことがないかぎりボンゴレの本部と手を組むなどない。それが、手紙を渡すというお使いをするだろうか。

 

 思えば思うほど、考えれば考えるほどに疑問はわいてくる。

 

 最初から疑問だったのは依頼内容だ。わざわざ下部組織の一殺し屋でしかないエミーリオになぜ日本まで飛ばして、こんな高校生どうしの恋愛をどうにかしろだなんて。

 それに、何度か送ったレポートにしたって返信などまるでない。催促の連絡も、依頼の方向性も何もかもだ。

「・・・やーめた」

 そこまでいって、エミーリオは思考を放棄した。

 大体が自分の仕事ではない。そう割り切って。

 末端の自分がすることは、疑問を思うことではなく。任務に忠実であることだ。善悪を考えるのではなく、いかに確実に遂行するかを考えることなのだ。

 それが組織であり、それが社会だ。

 彼のように学もなければ道徳も、倫理観すらない人間が考えることではない。

「————————————おい、ポーラ」

 リボーンが、遠くの木陰で休息しているポーラを呼ぶ。

 そうだ。そういう仕事は、きっとリボーンのような人間がするべきなのだ。適材適所という言葉があるように、人間与えられた役割というものがある。

 エミーリオは人形。与えられた命令のみ動き、操る糸のさきに手がないと動くことすら許されないそんな人形。

 だから、今は本当に居心地が悪い。

 与えられた命令が投げやりで。半端な自由を与えられているのが気持ち悪くてしょうがない。いっそ、無様に横たわっていたほうが楽なほどに。

 

 地面には揺れる影がゆらゆらとたゆたっていた———————。

 

 —————————そんなこともあって、エミーリオはさっさとリングを手に入れたほうが早いと方法を模索していた。

 リングがないことの不便さは身をもって知ったところだ。

 そも、こっちに技術が伝わっていないからという理由ならとうの昔に破綻している。

「リングって・・・四丁目の角の雑貨屋さんなら知ってるけど」

「いやそういうリングじゃねえよ!」

 アクセサリーじゃなく死ぬ気の炎を灯せるリングを教えてくれって言ってんだよ。普通わかんだろ。

「んだよ。知らねえならいいよ」

 前になにかできることはないかと言われたことを気にかけていた。わけではないのかもしれないが、クロームは頼られたことが素直にうれしくて。

「うん、知ってる」

「・・・なら最初からそう言え」

 頼ることの恥ずかしさを隠すように前髪を抑えながらそう発するエミーリオに「ごめん」とクロームは謝ってから。

 エプロンを脱いで、コンロの火を止めた。

 何をしているのかとエミーリオはポカンとしていると。

「じゃ、行こ」

「え?今から?」

 外を見る。暗くはないが、もうすぐ夕焼けこやけでも聞こえてきそうな太陽の位置だ。

「早いほうがいいでしょ?」

「まあ、そりゃ・・・・」

 いつまたヴァリアーたちが襲ってくるとも限らないのだ。ヘルリングを狙っている以上は。

「で、どこにいくんだよ」

「うーんと、マッドサイエンティスト?」

「は?」

 よくわからない答えに白黒となりながら。

 また一人、エミーリオは出会うことになる。 

 世紀のマッドサイエンティストに。

          

    To be continued.

  




どうも月がきれいですね。高宮です。
ゴールデンウイークいかがお過ごしでしょうか。僕?特に何もしていないですけどなにか?あ、どんたくには行きました。友達とその彼女のイチャイチャを見せつけられました。きゅうりの浅漬けをおごりました。三百円でした。末永く爆発してほしいです。
それではまた来月もよろしくお願いします。

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