リボーン×ニセコイ!-暗殺教室~卒業編~-   作:高宮 新太

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標的24 Segno di risoluzione(覚悟の印)

「ねえ、あれさあ・・・」

「どういうことなんだろうね」

「なにしたんだよあいつら」

「喧嘩じゃねえの」

 聞こえてんだよヒソヒソ話が。

 クラスメイトからの好奇の目線と、怯えるような声を一身に受け止めているエミーリオは内心で毒づく。

 教室は授業が始まる前の喧騒とは少しだけ毛色が違う空気で。

 その空気を醸し出しているのはまず間違いなくエミーリオであり。

 そして。

「ねえ、大丈夫?ポーラちゃん」

「どうしたのそのケガ」

 春と風、二人に心配されているポーラだろう。

「あーもう!大丈夫って言ってるでしょ!?鬱陶しいのよ!」

 そんな態度を受けるのが嫌なのだろう。一際大きな声で否定するポーラ。その体にはこれでもかというくらいに包帯が巻かれており、時折覗く生傷がそれが嘘じゃないことを証明する。

 それはエミーリオもまた同様であり、その状態が異常すぎるので教室は二人が入ってきたときから騒然としていた。

「え、えっと。エミーリオのその怪我・・・・」

「ああ!?」

「ひえっ!」

 特にこの一コマに集約されているように、エミーリオの凄みに気おされ何も会話できない空気が一番の重苦しい原因だろう。

「はーい、授業始めますよー。ってなにそれ?」

 先生が入るや否や、開口一番に尋ねる。当然だろうが。 

「ああ、気にしないで。授業に支障は出ないようにするから」

「・・・・・・右に同じくー」

 いかにもだるそうに答えるエミーリオと、毅然と振る舞うポーラ。

「そ、そっか。うん、大丈夫ならいいんだー」

 いかにも関わりたくないという意思がダダ漏れな教師にそれはそれでどうなんだと思うクラスメイト一同だったが、藪から出てくるものが蛇以上のものだったら敵わないのでそっとしておくことにした。

 そして、ポーラの言う通り重症のまま二人は普通に授業を乗り切ったのであった。

「ん、んー」  

「はっ。もう疲れたのかよダセエなあ」

 くわーっと大きく伸びをしたポーラの腕がエミーリオの言葉とともにピタリと止まる。

「あーら?それにしては私よりも包帯の量が多いこと」

 嘲笑全開で嘲るポーラの顔に、エミーリオはぐっと言葉が詰まる。 

 実際、ポーラよりも怪我が多いのは一目でわかるほどだった。

「・・・・上等だ。今日はてめえより上に行ってやるよ」

「おほほ、冗談はその包帯だけにしてよね」

「ちっ!行くぞおら!」

「命令しないでよ!!」

 二人はズンズンと放課後のチャイムが鳴り終わるや否やどこかへと消えていく。

「ねえ。風ちゃん。二人ともどこに行くんだろうね」

「さあ?案外仲良くゲームセンターでも行ってるんじゃない?それより今日は春の家で遊ぶんでしょ?」

「うん・・・エミー君とポーラちゃんも誘おうと思ってたのになあ」 

 二人が消えていった背中を寂しそうに見つめる春に。

「また今度、誘えるわよ」

 少しばかりの嫉妬を覚えながら、風はそう言った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

  

 

「ぜえはあぜえはあ」

「ぜえはあぜえはあ」

 二人の必死な呼吸がピタリと合っている。この山奥に来るだけで、変な意地の張り合いをしているせいで無駄に体力を使っている二人である。

 加えて、今から行うのは命綱無しの崖のぼりである。上を見上げるだけで首が痛くなってくるようだ。

「よし、今日もやるか~」

「い、良いわねえ。ちょうど体動かしたかったの」

 ガクブルの膝でなんとか立つ二人。よろけながら、手を、指を、崖の一端にかけ始める。

 それがここ一週間ほどの二人の習慣だった。

「おめえら、バカなのか?」

 四日目に放ったリボーンの一言である。毎日小競り合いを続ける二人に呆れた調子で言い放った。

「ああ!?バカじゃねえよ。ただコイツが無駄に突っかかってくるだけだ」

 まるでポーラがいなければそんな事しないと言いたげに。

「なによ!いっつも仕掛けてくるのはアナタでしょ!?」

 そんなポーラも同様に、エミーリオがいなければもっと大人しいと言いたげだ。

(まあ、互いに負けたくない相手がいるってのは重要、か)

 ぎゃーすかぎゃーすかと言い合いが再開したところで、リボーンは静かな木陰へと移動しながらそう思った。

 ・

 ・

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 それから二人は飽きもせず毎日同じように小競り合いを繰り広げてきているが。

「思ったより、進みが早いな」

 見上げるリボーンの頭上の遥か上。

 崖の半分以上の場所に、二人はいた。

 小さな窪みに手をはめ、足をかける。また同じような窪みを探しては、を繰り返して登っている。

 現時点で、一歩リードしているのはポーラのほうだ。体一つ分ほどの僅かな差だがそれでも勝っている。 

「きゃ!」

 油断した、わけではないだろうが。ポーラが足場としていた窪みが崩れポーラの体は真っ逆さまに落ちていく。

「くう!」

 何度も体を打ち付けて、なんとか途中でナイフをブレーキ替わりに地面に突撃だけは避けられた。

 こうして体に傷をつけるものの、未だに二人とも地面に接触したことはない。

「なんとしてでも地面にだけはつくもんか!」

「はっ!無様に転がってればいいものを!」

 悪役のような残虐な笑みを携えながら、上を目指すエミーリオ。

 にしても、ただの崖のぼりがここまできついとは思わなかった。

 さっさと死ぬ気の炎を使った訓練をしろよと思わないでもないエミーリオだが、どうせ肉体を鍛えてないと死ぬ気の炎をいくら操れたって無意味。と言われるのは目に見えている。

 それくらいの状況分析はできた。どの道、全部が足りないと実感したところだ。どこからだって強くなってやるよ。

「あり?」

 雑念に囚われ、ガラガラガラと今まで登ってきたほぼ全てをフイにしてしまうエミーリオ。

「あ、アブネエ」

 すんでのところでなんとか地面に接触だけは回避したものの、また一からやり直しだ。

「あっはっは!下ばっかり見るからそうなるのよ!」

「にゃろお!」

 爆笑しているポーラに追いつこうと、エミーリオはまたスピードを上げた。

 

 

 

  

    

 

 

  

 

 

 

 

 

「あ、あと一歩・・・!」

「はぁ、あああああ!」

 日も落ち、辺りが真っ赤に染まってきたころ。

 ほぼ同時に、崖の頂上の淵に手をかけた二人。

 青筋を浮かべながら、なんとか自身の体を地面へと投げ出す。

「や、やった・・・・」

「・・・はは、やったわ」

 この一週間、毎日同じようにこの崖へと向かっていったのだ。達成感や充実感といったものもひとしおだろう。

 そう、感極まってつい二人でハイタッチしてしまうくらいにはテンションが上がっても仕方がない。

「・・・・・う///」

「な、なによ///」

 我に返ったときの二人の顔の赤さは、夕陽のせいではないことは確かだ。

「さて、青春の一ページを刻んでいるところ悪いが、修行は第二段階へと移行するぞ」

「全然悪くないですから!早くいってもらって大丈夫です!!」

「ていうか、刻んでねえしそもそも青春なんて名前の本なんざ持ってねえっつの」

「そうか、まあいい」

 案外早く引き下がるリボーン。その真意はこの修行を通じて協調性を身につけてほしいというリボーンの願いからだったが、押し付けすぎるとこの二人は引いてしまうので程々に、が重要なのだ。

「次からはいよいよ、死ぬ気の炎を使った特訓だ」

 キタキタキタ!

 内心で欲しいおもちゃが手に入った子供のようにはしゃぐエミーリオ。内心で、というからにはそれが表面には表れてないということを指す。

 ぐったりと地面に横たわり、最後の体力もハイタッチで全部持ってかれた。

 全身が痺れてるし、足にも手にも力が入らない。辛うじて動いているのは肺だけで、他のすべては何より休息を欲していた。

 横を見ると、ポーラも同様で。

 最早言い合いをする気すら起きない。

「・・・と、言いたいところだが、こりゃ明日以降だな」

 んなことねえよまだできる。

 そう強がることもできないエミーリオは、舌打ちしながら素直に従うしかない。

「ああ、もう・・・」

 歯嚙みするポーラは、悔しがることくらいはできたようで。

「もうちょっとで・・・アンタに勝てたのに」

 そっちかよ。炎の特訓ができなくて悔しがってたんじゃねえのかよ。

 呆れたように呟くエミーリオ。

 勿論、心の中で。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「あー」

 どさりと、家の畳に倒れこむエミーリオ。なんとか家まで帰ってこれたがもう一歩も動けない自身がある。

 ここ一週間の疲れというやつが、一気に襲ってきた感覚。このまま泥のように眠りたい。

「大丈夫?」

 目線を上にあげると、なぜだかエプロン姿のクローム髑髏。

「ああ」 

 言葉になっていない声を上げて、手をひらひらさせることで意思表示するエミーリオに、クロームの表情から心配の色はさらに濃くなる。

「お風呂、入ってるよ」

「うあー」

 ついに、手もだらりと下げられ、完全に寝る気だ。

 クロームを頼みますよ。 

 脳内で響くその六道骸の言葉に、反吐を吐きながらエミーリオは深い眠りについた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「んあ?」

 ピーチクパーチク、小鳥のさえずる声で起きるエミーリオは爆発したような寝ぐせの髪と寝ぼけた頭で考えた。

 えっとー?昨日は何をしてこうなったんでしたっけ?

「朝ご飯、できてるよ」

「うん」

 味噌汁のいい香り、ご飯の温かさを感じながら食卓を囲む。

 ズズズと味噌汁をすすり、ご飯を口に運ぶ。 

 ふと、我に返った。

 なんか、これ新婚みたいだな。

「・・・・ふざけんな!」

 突発的な大声に、クロームはビクゥ!と肩を震わせた。

「ああ、いや。悪い」

 自分の考えに自分で寒気がした。ないない。ありえない。

 くそ、なんか、こっちに来てから調子狂うことばっかだ。自分はもっと環境に順応するタイプだと思っていたのに。

 はぁ、と一つ大きな息を吐いてから納豆をかきこむ。

「修行、大丈夫?」

「ああ?ああ、まあな」 

 日に日に体を巻き付ける包帯は増えていくばかりで、心配そうなクロームの表情はそれに比例するように増していく。

「私に、出来ることある?」

 こう聞いてくることが増えてきた。が、返答は変わらずに。

「ねえよ」

 こう返すのが最早、定例と化していた。

「そう」

 そして、沈黙が支配する。

 二人の間に会話がないことなど珍しくないのに、そんな沈黙はなぜだか胃がキリキリする。

「・・・飯」

「え?」 

 ぼそりと呟くエミーリオの声に、クロームは俯いていた顔を上げる。

「飯、作ってくれりゃあそれでいい」

 クロームがくるまで、エミーリオのキッチンはそれはもうひどいものだった。

 カップ麵、コンビニ弁当、十秒チャージ、etc.

 残骸という残骸が置きっぱなしで、リビングに物がない分それはより一層目立った。

 だから、クロームが来てからまともな食事にありつけるというのはそれだけでマシなのだ。

 口にしたことはなかったし、するつもりもなかった。

 はずなのだが。

 ああ、くそ。

 赤くなっていると自覚する顔を隠しながらエミーリオは悪態をつく。

 これもそれも、アイツらのせいだ。

 アイツらがいるからこっちまでぬるま湯に浸ってしまう。変えられてしまう。

 望んでなんかいないのに。

   

 

 

 

 

 

 

「さて、それじゃあこれから修業は第二段階に入る」

 傷も癒えていない中、リボーンは二人の前でそう告げる。場所は相変わらずの山奥だ。

 流石に疲れたのか、二人は今のところ会話を交わしてはいない。いざこざもちょっかいも出していないが、その代わり今まであった連帯感みたいなものも綺麗さっぱりなくなっていた。

(・・・なにかあったのか?)

 思惑とは少しずれたリボーンの胸中は複雑だが、仲違いをしているというわけでもなさそうだ。

 ただ単に疲れているだけだろうとあたりを付けたリボーンは修行の説明に入る。

「いいか、これからは死ぬ気の炎を扱う。特にポーラはその扱いに不慣れなところもあるだろうからな」

 ポーラは名指しされ、ごくりと生唾を飲み込んだ。

「ポーラ、死ぬ気の炎についてはクロームからレクチャーを受けているはずだな」

 いつの間にか、そういうことになっていたらしい。エミーリオは知らなかったが、大したことでもないとかぶりを振った。

「はい。死ぬ気の炎は7つの種類があって、晴、嵐、雨、雷、雲、霧、大空の七つです」

 前回の対戦からルッスーリアに聞かされた情報と、入院中にクロームに補足してもらった情報。

 それこそ死ぬ気で頭に叩き込んだ。

「よし、じゃあその死ぬ気の炎を発現させる条件は?」

 だからこそ、リボーンは問う。それこそが一番重要だと言うように。

 

 

「覚悟」

 

 

 そしてポーラもまた同様に即座に答えた。それが一番重要だと言うように。

「フン。知識は大丈夫なようだな」

 安心したのか、不敵な笑みを浮かべるリボーンにフンスっとドヤ顔をエミーリオに向けるポーラ。

「それじゃあまずは、リングに炎を灯すところからだな」

 だが、エミーリオはそんなポーラに気づくことなくリボーンの言葉に耳を傾けていた。

 いや、傾けているわけでもない。何か、考え事をしているかのようにぼーっとしていると言った方が正しい。

 先のポーラの表情も無視というよりは本当に気づいていないようで。

「ねえ、ちょわっ!」

「とりあえずリングはこちらで用意したぞ。まずはお前が何の属性なのかを知る必要があるからな」

 ポーラがそんなエミーリオを不審に思い、声を掛けようとした矢先、七つのリングが飛んでくる。

 慌ててキャッチすると、既にエミーリオは隣にはおらずスタスタと木陰のほうへと移動していた。

「なによ、もう・・・」

 そんなエミーリオに不満げな表情をするも。

「どうした?」

「い、いえ!なんでもないです!」

 時間は待ってはくれない。

 即座にリングを一つ嵌めて、ふーっと一つ息を吐く。

 エミーリオのことは今は無視だ。自分のことに集中しなきゃ。

 そうひたすらに念じて。

「・・・・ダメだな。次」

 どうやら晴は反応がなかったらしい。

 次に渡されたのは雨のリング。

 ・・・これもダメ。

 

 なんてことを六回繰り返した。

 

「な、なんで出来ないのよぉ!」

 もう半泣きスレスレ状態のポーラに厳しい目線を送るリボーン。

「死ぬ気の炎は誰にでも灯せるわけじゃねえ。相応の覚悟が必要だ。が、今手にしているリングはその中でも最低ランク。出力こそないが、一番灯しやすいリングだ」

 その説明で、さらにポーラの心に追い打ちをかけるリボーン。

 そして、ポーラは最後のリングを手にする。   

 真っ赤に染まったその石が、心なしか重く感じる。

「うぐぐぐ」

 これで灯せなかったら。そう思うと、指にはめるのすら恐ろしい。

 覚悟、そう、覚悟だ。

 落ち着いて、深呼吸をして。もう一度大切なものを確認するように思い出す。

 負けたくないと思った気持ちを、あの時の胃がひっくり返るような悔しさを。 

 そして————————、いや、いい。これはやめだ。

 少しの恥ずかしさを隠すように、ポーラはリングをはめた。

 

「————————っ!!」

  

「フッ。出たな」

 

 真っ赤な炎。嵐の炎が、リングを明るく照らしている。

 覚悟が、伝わったらしい。

(あ、あの子たちのおかげ?)

 その炎を見ながら、脳内に映し出されている二人の女の子。

 炎よりも真っ赤になった顔を見ながら、リボーンは満足げに笑った。

 そして、修業は過酷さを増していく。

 

                                                   To be continued.

  

 




どうも皆さんこんばんわ高宮です。
さて、改編期ですねえ。四月アニメも楽しみです。三月アニメは、鉄血が、鉄血が良かった。しんどい。
まだまだ一話も見れてない作品が多すぎて何もわからない状態ですが、こういう時が一番楽しかったりします。
遠足の前日に楽しさのピークきちゃうみたいな、本番そんなにみたいな。損な気もしますが。
SSに改編期などなくてよかった。 
それではまた次回もよろしくお願いします。

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