「オラオラオラ!動きが鈍ってきてるぜ!!コラ!!」
「はい!!」
並盛のとある山奥で鶫征士郎と特訓しているのはコロネロ。
「この程度の銃弾も避けられないようじゃまだまだだぜ!コラ!」
「くっ!!」
鶫の頭上から降り注ぐのは銃弾の雨あられ。
遥か頭上、見晴らしのよい丘の上からコロネロはマシンガンを連射していた。
~数分前~
「よし、お前を鍛えることはやぶさかではないぞ。コラ」
「あ、ありがとうございます!!」
目の前には最強の軍人と名高いコロネロ。鶫は軍人ではないにしろ、その名は色々な界隈で耳にしている。
特に銃火器の扱いにおいて彼の右に出る者はいないだろう。と。
その名声と確かな実力に密かに憧れと敬意を持っていた鶫は、偶然とはいえ今日会えることに非常に緊張していた。
それはもうガチガチになるほどに。
「ただし、やるからには弱音も反論も一切認めない。超スパルタでいくぞ!コラ」
「はい!」
どう見ても自分と同じくらいの年頃にしか見えないコロネロに完全に鶫はすくみあがっていた。
今まで自分を鍛えてくれたのは幼少の頃からクロードのみであり、そもそもほかの人に指示を仰ぐということも初めてなのだ。
それに最強のヒットマン、リボーンにコロネロを紹介され腑抜けたところは見せられない。
色々な条件が重なり、鶫はかつて経験したことがないほどに緊張していた。
自覚なきほどに。
「よし、それじゃあ早速始めるか。コラ」
コロネロの合図とともに修業が開始されるも。
そんな緊張じゃ上手く体を動かせるはずもなく。
「はぁ・・・はぁ・・・はぁ」
「・・・・・・」
地べたに無様に這いつくばって呼吸を乱している鶫をコロネロはどうしたものかと見下ろしていた。
「お前の事情はよく聞いてないけどな。そんなんじゃ先が思いやられるぜ。コラ」
当然、鶫だって理解している。
こんな機会など滅多にないことを。自分が恵まれていることを。だからこそ結果を出さなければいけないことを。
そしてなにより。
もう二度と大切なものを失わないように、今よりもっと力をつけなければならないことを。
けれどそう思えば思うほど、動けば動くほど。相反するように体は言うことを聞いてくれない。
もう傷はいえたはずなのに。どこも痛いところはないのに。
「少し休憩だ。コラ」
「い、いえ!まだやれます!もう少し続けさせてください!」
鶫はコロネロに反論する。自分はまだやれる。こんなものではないのだと。
しかし。
「言ったはずだぜ。”反論は認めない”と」
「・・・・・・はい」
鶫は目に見えてしょげているが、それでも素直にコロネロに従う。
「どうしたもんかな」
コロネロは頭をガシガシと乱暴に掻いてため息をつく。
すじは悪くない。どころか良い。軍人、暗殺者、格闘家。様々な達人を見てきたコロネロ、人を見る目はあると自負している。
目の前の彼女は、鍛えればそうした達人達とも対等にやりあえる可能性は秘めている。
が、その可能性が花開くのかどうかはまた違った話だ。
なにも、戦闘に限った話ではない。
スポーツでも勉強でも、才能を生かしきれないことなんて多々ある。
(けど、この俺が指導してやってるんだ。出来ませんでしたじゃ許さないぜ、コラ)
木陰で休んでいる鶫を見ながら、コロネロはそう感じていた。
そして、それが数分前の出来事。
本当に少しの休憩を挟んで、コロネロと鶫の特訓は再開していた。
「ぐっ・・・・うう!!」
休むことない銃撃に鶫の体力もそろそろ限界だ。
足は鉛のように重く、肺は燃えるように熱い。
頭は思考を停止し、口の中は砂漠のように枯れていた。
それでも、それでも動くことはやめない。完全に立ち止まることだけはしたくなかった。
一刻も早く、誰よりも強くならなければきっとお嬢を守ることはできないだろうと。
その一心で。
「よし!とりあえず基礎体力は申し分ないようだな。コラ!」
そのコロネロの一言と共に銃撃が止む。
「たはー」
やっと一息つけると、鶫はその場に倒れこんだ。
汗で前髪は額に引っ付き、長袖のシャツを腕捲りしてもなお、体の熱は逃げてはくれない。
肺は空気を欲しがり、心臓は今にも飛び出しそうで、呼吸は短く早い。
今まで鍛えてきた自負はあった。サボっていたつもりも、手を抜いたこともない。
けれど、その修行のどれもとは今のこれは違う。
何が違うのか、それは明白だ。
「ほら、水分補給はちゃんとしとけよ。コラ」
「あ、ありがとうございます」
それは緊張感。
憧れのコロネロを前にしている、という緊張感ではない。
いや、最初に書いたようにそれもあったが体を必死に動かしているうちにそれは上書きされていた。
消えた、というよりかは上書きされた。
そしてでは何に上書きされたのかといえば。
もしかしたら、本当に殺されるのではないかという緊張感にだ。
クロードとの特訓も、それなりに緊張感はあったが。
しかしそれはまだ優しいものだったのだと鶫は今更ながらに気づいた。
一歩間違えば本当に死ぬかもしれない。その思いがどれほど体に重くのしかかってくるか。
それは自分で考えているよりも遥かに重い。
けれども。
鶫とて今までぬるま湯のような平和に浸っていたわけではない。戦場の悲惨さを、戦闘の無慈悲さを。
知らないわけではない。
「もう一回。お願いします」
それでも足りなかった。あの金髪ティアラ王子には手も足も出なかった。
足りないのだ。きっと、何もかもが。
頭を下げて、鶫は息が整ったと同時にコロネロに頼み込んだ。
「おいおい、まだ体力戻ってないだろ。コラ」
コロネロは目を見開いて窘める。あれほどの銃撃をかわし続けるのは精神的にも体力的にも辛いはずだ。
ちょっと寝転がったくらいで回復する程度のことではない。
「いえ、もう大丈夫です。それよりも、早く続きを」
とてもじゃないが、コロネロにはそうは見えない。コロネロをだませるほどに彼女の嘘はうまくなかった。
ただのバカなら戦場ではいの一番に死んでいく。
見込み違いだったか。
そんな思いを念頭に置きながら、コロネロは口を開いた。
「どうしてそんなに急ごうとする?まだ修業は始まったばっかだぜ?コラ」
鶫が焦っていることなど誰が見ても明らかだ。その理由をコロネロは知りたかった。
「・・・・急ごうとしているわけではないんです」
鶫はそんなコロネロの問いかけに静かに答える。
「ただ、今のままじゃあいつらがもう一度来た時、私はお嬢を守れないんです」
段々と言葉尻に心が灯っていく。
「ヴァリアーに勝つには、今のままじゃダメなんです」
ヴァリアー。あいつらの底なしのような強さ、きっとあの戦いでは本気を見ることすらなかったあいつら。
そんな化け物みたいな連中に勝つには、並大抵では敵わない。
自分を鍛えてくれる師は、並大抵から大きく外れた大物だ。
だったらもうあとは、自分が頑張るだけでいい。シンプルで実に頑張りがいのある状況じゃないか。
「そうか、ヴァリアーか・・・」
コロネロはその名前を聞いて、何か思うことがあるのか思案顔になる。
「よし、お前の理由はよくわかったぞコラ!となれば俺も生半可な気持じゃお前に応えられないな」
コロネロは、鶫の顔を上げさせて言葉を続ける。
「もし、自分のためっつー理由だったら俺はお前の家庭教師を降りてた。だが、お前の理由は”死ぬ気”に値する理由だった」
「死ぬ気?」
聞きなれぬ言葉に、つい鶫はオウム返し的に疑問を口にする。
「ああ、敵から大事な人を守りたいのなら。ましてやその敵がヴァリアーだってんなら。修行方法を変えないとな。コラ」
コロネロの笑みに鶫は言葉の半分も理解できていなかったが、次のコロネロの一言で鶫の不安は吹っ飛んだ。
「だから、これからは俺がお前の家庭教師だ。よろしくな」
「———————はい!師匠!!」
先ほどまでの暗い顔はもう鶫にはない。
少しの会話と、インターバルを経て、より密接に修行は再開を迎えた。
そしてそんな師弟関係が結ばれているころ。
こちらもとある山奥。並盛とは少し離れていた。
「くそっ、歩きづらいったらねえぜ」
山中を道の整備もされておらず正に自然に囲まれた山をエミーリオは登っていた。
「・・・・・・きゃ!」
「はは、やっぱ家に帰って勉強でもしてれば良かったんじゃねえの?」
ポーラとともに。
温泉から数日後。今度は本当にリボーンからの手紙で修行の日時と場所が伝えられた。
それがこの山。ポーラと共にこの山頂に行くのがリボーンからの指令である。
そんなポーラが足を滑らせ、小さな悲鳴を上げたのをエミーリオは嘲笑するように笑った。
この山は所々道が整備されていない険しい山で、一歩踏み外せば即奈落の底へと叩き落されるだろう。
「・・・・・・・・」
そんなことは百も承知だろうポーラは、エミーリオの嘲笑も無視してまるで自分のほうが早く歩けるとばかりにズンズンと先に行ってしまう。
「あんにゃろぉ」
ビキビキと額の血管を浮き上がらせるエミーリオのそんな姿もここ何日かでもう見飽きた。
元々そこまで二人はしゃべっていなかったのだが、ポーラが勝手にライバル視していたのがこれまでの二人の関係だった。
そこにあのヘルリング争奪戦を経て、ポーラの心境に変化があったのだろう。今まで突っかかっていたのが嘘のようにポーラはエミーリオを無視していた。
それがどうにも彼は気に入らなくて。たまに挑発しては無視されてイラつくという日々を過ごしている。
今回も同じように、ポーラはズンズンと山奥の奥に進んでいた。
それに負けじとエミーリオもすぐに追いついてはポーラを抜いた。
「ふっ・・・」
振り向き様にこれ見よがしにドヤ顔をするエミーリオ。
「~~~~~!!」
とても腹が立った。そう顔に書いてあるポーラはさらに歩くスピードを上げ再度エミーリオを抜き返す。
「フッ」
短い笑い。意趣返しのようにその笑いを返すポーラはほくそ笑んでいた。
「ああ!?」
その笑いを見るや否やすぐに追いつき、追い越すエミーリオ。
今度は笑いを返す暇もなく、すぐにポーラも追いつき追い越す。
そして今度はエミーリオが。という風に追い越し追い越されのデットヒートを繰り広げていた二人だが。
「はぁ・・・・はぁ・・・・」
「ああ・・・・・くっそ・・・・きつ」
思ったよりも山登りというのはハードだったらしく、加えて余計なレースによりペース配分も乱された二人は山頂の地べたに座り込んでいた。
「なんだ、二人とも情けないぞ。これくらいで息が上がってちゃな」
そんな二人のもとにきっと最初からそこで待ち受けていたのだろうリボーンが声をかける。
「うる・・・・せえっ」
上下する肩と同時に声を吐き出すエミーリオと、息も絶え絶えながらなんとかエミーリオより先に立とうとするポーラ。
そんなポーラの意図にエミーリオも即座に気づき、彼もまた整っていない呼吸のままに立ち上がろうとする。
「ぐっ」「あっ」
小さい呼吸が二人同時に口から漏れる。
「「どっち!?」」
「・・・・・息ぴったりだな。お前ら」
どちらが先に立ち上がったのか、第三者のリボーンに同時に尋ねるさまを見て、リボーンはニヒルに口角を上げる。
「俺の方が先に手が地面から離れた」
「はぁ!?私の方が先に背筋を伸ばしたわ!私の勝ちね!」
そんなリボーンを無視して二人は勝手にヒートしてしまう。
が、途中で普通にしゃべっていたことに気付いたのか、ポーラは「あ」という風に口を紡ぐ。
「ん?なんだお前ら。まだ仲直りしてなかったのか」
「つか最初から仲良くねえよ」
リボーンの問いに間髪入れずに否定するエミーリオ。
「まあいい。どのみち、これから二人には行動を共にしてもらうからな」
「「はぁ!?」」
またもやシンクロして異議を唱える二人。
「意味が分かりません!なんでコイツと!!」
「おいおい!それはこっちのセリフだね!なんでコイツと!?」
リボーンのその言葉の意味を問いかける二人だが、帰ってくるのは冷たい事実のみ。
「いいか。お前らに足りないものは圧倒的に協調性だ」
心当たりがあるのか、二人ともその言葉に押し黙る。
「あの戦いで感じたはずだぞ、一人じゃ限界だってな」
「はっ。そうか?結局、俺一人くらいしか活躍してねえじゃねえか」
「なによ。一番ボロボロだったくせに」
「負けっぱなしでボロボロだった奴よりマシだね」
「なに・・・・ふん」
「ああ、また黙んのかよ」
「おい、ちょっとうるせえぞ」
低い声。重いその雰囲気に二人、というか主に喋っていたエミーリオが黙る。
「ったく。お前らまさか一人で強くなる気か?」
リボーンの問いは二人ともに考えるまでもなかったようで。
「たりめーだ」
「はい」
間髪入れずに答えるその目には強い意志が宿っていた。
「そうか、まあそれでやってみればいい」
リボーンは諦めたのか、それとも最初から説得などしていなかったのか。
なんとなく後者のような気が、エミーリオはしていたがとにかくあっさりと引き下がった。
「多少休憩したら、早速修業を始めるからな」
リボーンはそう言うと一人で山を下りて行った。
「いや、登った意味は?」
そう呟いたエミーリオの言葉にはやまびこすら帰ってこない。
こう言っては矛盾しているようだが、別にエミーリオは是が非でも一人で強くならなければいけない理由はない。
それならそもそもリボーンに指示を仰いでいる時点でダメな気がする。
ではなぜそんなことを言っているのかといえば。
「んっんっんっ。ぷはっ」
休憩と言われて即座に水を飲みにいったポーラに尽きる。
あれに頼るのだけは御免だ。末代まで調子に乗られる気がする。
強くなれれば何でもよかったのに、他人なんぞにこんなに何かを思うことは初めてだ。
ふと、そんなことを思った。
登ってきたルートから反対方向に少し降りた場所。
今までとは少し景色が違い、多少開けた場所に出る。
そしてその中央に鎮座しているのは大きな崖。
数十メートルはありそうな崖が天高くそびえていた。
「ここで、お前らに朗報だ」
「登れっていうんだろ?」
「ええ!?」
リボーンの言葉を待たずしてエミーリオは口を開く。
その彼の言葉にポーラは驚いた風に声を上げたが。
「・・・ここは、今のボンゴレ十代目が特訓した場所でもある。お前らにできるかな?」
リボーンは今までずっとただじっと過ごしてきたわけではない。
家庭教師をやるか、その判断として二人を今までじっと観察してきた。
当然、なにでやる気を出すかは把握している。
「・・・・フーン」
そしてリボーンの思惑通り、一人は目の色が変わった。
「ちょっと!正気!?命綱も無しにあんな崖登れるわけないじゃない!」
「じゃあお前はそこで指加えてみてろよ」
スタスタと気の迷いなど見せず、彼は崖のほうへと歩いて行った。
「~~~~~!!もう!ホントバカ!!」
そしてもう一人の目の色も変わる。エミーリオがやるとなれば、ポーラがやらないわけがなかった。
「フッ。ま、ほんとはもうちっと小さい崖だったがな」
そんなリボーンの呟きも二人の耳には入っていない。
二人の背中を見守るリボーンは被っている黒のハットを指で押し上げて。
「修行の第一段階。スタートだな」
そう、呟いた声も当然、彼らの耳には届かない。
To be continued.
どうもサターニャちゃんと一緒に悪巧みしたい高宮です。
時間がいくらあっても足りないよぉ。まだしばらくは月一更新でいきたいと思います。
積みゲーが、積みゲーが襲ってくるよ!
それではまた次回もよろしくお願いします。