雲雀恭弥とスクアーロの戦闘は拮抗していた。今現在起こっている戦闘の中で間違いなくハイレベルなその戦い。
雲雀恭弥がトンファーで連撃すれば、負けじとスクアーロもその剣技のすべてをもって応戦する。
拮抗した実力は、徐々に、徐々に傾いていた。
「ぐっ・・・・!」
スクアーロは理解していた。自分が防戦一方になっていることを。このままでは押し切られることも。
(ルッスーリアは何してんだぁ”!そう長くはもたねえぞ!)
エミーリオ相手に長髪をなびかせ、余裕を見せていたスクアーロはもういない。
「なによそ見してるの?」「ちぃっ!」
対して雲雀恭弥はあくまでも自分のスタンスを崩さない。いつものようにいつものごとくそのクールな表情は変わらない。
いや、表情が変わらないというのには少し語弊があった。
なぜなら、今この瞬間に雲雀恭弥の表情は崩れたからだ。
そう、雲雀恭弥は笑っていた。
「・・・・あん?」
戦闘の真っ最中に笑う人間をスクアーロは何人か知っている。総じてイカれた奴らだという共通点があることも。
雲雀恭弥がイカレた野郎かどうかは知らない。が、少なくとも今、スクアーロは初めてといっていいほど雲雀恭弥の笑みを見た。
嗜虐性が現れた残忍な笑みではあったが。
「—————————っ!?」
そんなやりとりをしている最中だった。ルッスーリアが向かったはずの土蔵から扉がぶち破られる音が聞こえてきたのは。
「う”おおい!何が起こってやがる!?」
飛んできたルッスーリアが既に伸びているのを見て、思わずスクアーロは声を荒げた。
何が起こってるのか、誰がこんなことをやってのけたのか。
一人しか、当てはまる人物はいない。
「エミーリオ—————————」
スクアーロは目の前の現実が信じられなかった。
先ほどまで虫の息だったはずのエミーリオが無傷で、しかも額に炎を灯してそこに立っているのだから。
「てめぇがルッスをやったのか?」
信じられずにスクアーロは思わず訪ねた。どう楽観視しても彼がルッスーリアに勝てるなど到底思えなかったのだ。
「・・・・・・・」
エミーリオはその質問に答えない。まだ自分の置かれた立場を把握していないのか。突然手に入れた力に戸惑っているのか、その無表情な顔からは判別ができない。
「答えろぉ”!てめえがルッスをやったのかって聞いてんだよ!」
返答は相変わらずない。
「がっ・・!」
代わりに拳が飛んできた。
スクアーロの体はいとも簡単に吹っ飛び、後ろの雑木林の木の幹に激しく衝突する。
とんでもなく重い一撃だ。今まで戦っていたエミーリオとはまるで別人と言っていい。
ここから土蔵までは数十メートルはある。その距離を一瞬にして詰め、なおかつ一撃を叩き込むなど数分前のエミーリオからは考えられない。
いや、そもそも。
「その額の炎・・・」
スクアーロが目の前の光景から導き出す結論は、一つしかなかった。
「チィっ!アルコバレーノめ!」
この戦場のどこかにいるであろうアルコバレーノ、リボーンに向かって恨みごとを吐くスクアーロ。
ボンゴレ十代目の沢田綱吉。彼もまた、額に炎を灯して戦うスタイルだ。その原点はリボーンにあるということはスクアーロにとって今更な話だった。
この共通点、偶然では済まされない。
「・・・・・・」
先ほどから、エミーリオは自身の力に驚いているのか固まったままで追撃はしてこない。
(力を使いこなせてはいないのか。ならば、仕留めるなら今のうちだな)
口の中の血を吐き出してから、スクアーロは立ち上がる。
「う”おおい!聞こえるかぁ!?アルコバレーノ!!貴様がどんな意図で俺たちの邪魔するかはどうでもいい!だが!一度敵対したからには”てめえらのお気に入り”、ぶっ壊させてもらうぜ」
いつもの激しく唸る声から、最後はゾッとするほど冷静な声色でスクアーロは宣言をした。
「雲雀恭弥!てめーとは一時休戦だぁ!首を洗って待ってな」
「・・・・・好きにすれば」
雲雀恭弥は最早興味を失くしたのか、それとも”別の興味に移った”のか。さほど気にも留めていない様子だ。
それを確認したと同時に僅かなタイムラグもなく躊躇もなく、彼、エミーリオに向かっていく。
今までよりも確実な殺意と共に。
「あれは・・・なに?」
ポーラ・マッコイは満身創痍の体で目の前の光景を必死に理解しようと努めていた。
エミーリオに自身のプライドも友達も何もかもを託して、そしてものの数分もたたないうちにその託した相手が豹変していた。
額には炎が燃え盛っており、およそ人とは思えない力量をスクアーロ相手に発揮している。
いや、人並み外れたという意味では今まで戦っていたルッスーリアやスクアーロ、雲雀恭弥だって十分に人並み外れてはいるが。
それとは違う。何か、本当に不思議な力としか言いようがないものが彼の周りに纏っているようなそんな感覚。
「そういえば・・・・・」
そこで思い出す、ルッスーリアの言葉を。
この世にはリングと匣兵器というものがあり、それらは死ぬ気の炎で繋がっていると。
数か月前、廃倉庫で戦ったチンピラも、今の彼と同じような炎を扱っていた。
確か、”黄色の炎”は—————————————。
「くっ、がっ」
スクアーロは匣兵器のアーロを開匣し文字通り全力をもってエミーリオを殺しに来ていた。
が。
戦況はエミーリオの優勢だった。
「てめぇ!いつの間にそこまで死ぬ気の炎をコントールできるようになりやがったんだああ!?」
彼の額に灯る炎。黄色く燃えるその炎はどう見ても「晴」属性。
「・・・・・・・」
「う”おおい!だんまりか!?」
先ほどからエミーリオは武器もなしに己の体一つで戦っている。彼の炎が「晴」でなかったらとっくに死んでいるだろう。
それを知ってか知らずか、彼は躊躇なく踏み込んできていた。多少のケガは活性の性質ですぐに治ってしまう。
スクアーロは決定打を与えられずにいた。拳を避ければ蹴りが飛び、距離をとろうとしても常にゼロ距離でついてくる。
突き刺そうと押し出した剣は腕を犠牲に止められ、その傷もみるみるうちに回復していく。
右から左に、上から下に、斜めから縦横無尽に繰り出される斬撃はどれもすんでの所で躱され、いなされ、決定打には欠ける。
かといって踏み込めば体術へと組み込まれる。もちろん剣とアーロで応戦はするものの、それを凌ぐ戦闘力が今の彼にはあった。
「っは!油断したな!」
とはいえ、無能なスクアーロではない。真正面からの攻撃が無理だと悟れば、アーロを陽動に、スクアーロは彼の懐に入る。仕込み銃の射程距離だ。
「っ!な馬鹿な!」
その銃弾を、エミーリオは弾いた。
ただの拳で。
(こいつ!笹川了平クラスの身体能力をもっているというのか!)
スクアーロは内心で驚愕した。かろうじて表情には出さない当たりは百戦錬磨の経験のなせる業だろうか。
これには流石のエミーリオ自身も驚いたらしい。相変わらず喋りはしないが、ぱちくりと目を瞬かせている。
とっさにやったというのか。反射神経で思わず?
末恐ろしさにスクアーロは乾いた笑いが漏れる。
その後もグーパーと自身の右手を確かめていたエミーリオだが、問題ないと判断したのだろう。すぐにスクアーロ相手に立ち向かってきた。
一通りの格闘術をマスターしているエミーリオである。そこに晴で活性化された体が加わればスクアーロをも凌ぐ強さにもなる。
案外、相性がいいのかもな。など、スクアーロは余計な事を考えた。
そう、余計な事である。
こと戦場において、目の前の敵以外のことを考えるなど愚の骨頂。
まして、戦力的に拮抗しているほどそれは致命傷となる。
一瞬。その一瞬のスキを暗殺者は見逃さない。
「・・・がぁはっ!」
腹に一発。重い一撃を叩き込まれた。
加えて右ストレートが頬骨を砕き、上段蹴りでつま先が顎を打ち抜く。
「な、めるなあ!」
スクアーロだって黙ってやられているわけにもいかない。
それはヴァリアーの誇りでも、以前一度勝ったことの驕りでも、ましてや、年下に対する面子でもない。
ただ、純粋に己の技術が、自分の死ぬ気が、目の前の敵に劣っているなどスクアーロはそんなことを決して許さない。
「・・・・っ!」
エミーリオの肩口にアーロの強固な牙が突き刺さる。
「死ねっ!」
心臓を一突き。アーロに身動きを止められ、これ以上ないタイミングで死を突いた。
はずだった。
「な・・・に・・・?」
信じられない光景を見て、スクアーロの思考は一瞬停止する。
自らの剣は体を穿つことなく、右手で止められた。
ことではない。
額の炎、確かに、先ほどまで黄色の「晴」の炎だった。
見間違いでも勘違いでもない、それは確かな事実。
だというのに、目の前の男のそれは。
「”嵐の炎・・・だと”!?」
額に灯っている炎の色は、今現在、紛れもなく赤そのものである。
彼の瞳と、同じ赤。
つまり、属性は「嵐」。
「しまっ!アーロ!!」
その特性は、分解。
アーロの鋭くとがった牙が突き立てたエミーリオの体から炎が移り、分解されぽろぽろと崩れ落ちる。
このまま近くに入ればやがてその身も朽ち果てるだろうと即座に察したスクアーロは自身の匣兵器を匣にしまう。
じっと動かないエミーリオと、ある程度の距離をとったスクアーロは冷や汗をぬぐう。
(落ち着け、冷静になれ。”ただ単にこいつは晴と嵐の二属性を持っていた”というだけだ。珍しい話でもなんでもねえ)
基本的に、一人の持つ属性の波動は一つである。が、稀に二つ三つと複数の炎をその身に宿しているというケースもある。
稀ではある。が、以外ではない。少ないというだけで、彼以外にも複数の炎を保持している者はいるのだから。
それを土壇場で切り替えたというだけの話だ。なんら臆することはないし、驚くこともない。
スクアーロは分析を終えて、再度剣を掲げた。
まだ勝負は序の口だ。負けたわけでも負けに傾いているわけでもない。目の前の敵は雲雀恭弥でもザンザスでもないのだ。
油断はしない。だが、必要以上に過大評価することも、ない。
そう思うと同時にスクアーロは今度は自分からエミーリオの懐に潜り込んでいく。
攻守交代。
今度はスクアーロが圧倒する番だった。
小野寺春は恐る恐る土蔵の中から外へと出た。
壊れた扉から一歩だけ土に足をつける。
数メートル先には先ほどエミーリオに吹っ飛ばされたルッスーリアが伸びているのが見えた。
何がどうなっているのか彼女にはてんでわからなくて。
何もかもが急で、説明も理解する間もなく状況は転じていって。
恐怖で泣く暇すらない。そんな中で。
唯一知っている。唯一わかっていること。
エミーリオ・ピオッティ。
彼についてだけは知っていたはずだった。
なのに、その彼すら知らない顔を、知らない声を、知らない態度を見せていた。
ボロボロにされて、それでも立ち上がる彼を。不思議な力で今、敵と戦っている彼を。
その一つ一つに、意味も理由も知らない彼女だったが。
「・・・・死なないで。エミ君」
それでも、知らない彼も、知っている彼も、区別なく、差別なく。彼女は祈った。
ただ、無事でいてほしいと、それだけを。
祈っていた。
「——————う、ウフフ。私を殺さなかったこと。後悔させてあげるわ」
自身の匣兵器である晴クジャクで超回復したルッスーリアのその視界には入っていなかったが。
「ぐ、おおおおお!」
スクアーロは端的に言えば押されていた。
アーロを再度、匣から出す暇すらない。まさに常に攻撃の核となり休むことない怒涛の嵐の名にふさわしい激しい攻撃がスクアーロを襲っていた。
頬が切れ、血が噴き出し、足が砕け、体制が崩れる。
嵐の分解の作用で上手く近づけない。いまだ敗北していないのは雨による鎮静での相殺があるからこそだろう。
炎の相性とかろうじて出力での勝利が、スクアーロの命をつないでいた。
間合いを取って剣で切り付けても晴で超回復し、嵐に切り替えて攻撃してくる。
先ほどまでとは打って変わった戦闘スタイル。まるでそうできるのを今知ったとでも言うような。
加えて足技、空手、ボクシング、サバット。それらは確実に今まで身に着けてきた経験、獲物無しでできる戦闘スタイルそのすべてを使ってスクアーロを圧倒している。
一人の限界、スクアーロはそれを感じていた。
だが運はどうやらスクアーロの方に味方していたらしい。
「———————がっ!?」
後ろからの突然のニーアタック。鋼鉄の固い感触がエミーリオの後頭部を襲った。
脳震盪による意識の剥離。
「フフ、卑怯、だなんて言わないでね?死ぬ気弾のほうがよっぽど卑怯なんだから」
「ルッス!てめえ生きてやがったのかあ!」
単純に戦闘力としても、エミーリオに一撃を食らわせたことも手伝ってかスクアーロの声はいささか喜色の色が見えた。
「まあ、危なかったけどね」
ひび割れたサングラスは片方のガラスがない。
泥と傷と血だらけのルッスーリアと、体を引きずり疲労の色が隠せないスクアーロ。
だがそれももはや気にすることはない。気絶しているエミーリオにとどめを刺せばすべては終わりだ。
最後にヘルリングを回収してイタリヤに帰る。
その任務を達成するため、スクアーロは容赦することなく、ためらうことなく、照準を真下に、地面に突っ伏しているエミーリオの首元に定める。
せめて一思いにやってやろう。
そう考えて一気に一刺し。
首の骨を折って、まるでポンプのように血が噴き出す。女子供の悲鳴と突き刺した剣の感触がスクアーロの体に染みる。
はずだった。
「なに!?」
突き刺したはずの体はまるで砂のようにさらさらと飛んでいく。
砂のように見えたそれから微かに紫色の炎。
「まさか・・・・!」
スクアーロをただ黙って見守っていたルッスーリアから思わず声が漏れる。
「霧の、炎。幻術か!」
目の前の現実からそう判断せざるを得ない。が、それはありえないとスクアーロの脳みそは否定していた。
霧の炎を扱える、しかも少なくともスクアーロとルッスーリアの二人を同時に幻術にはめる実力の持ち主などこの場にはいないはずだ。
そしてそれはある意味では事実であった。確かにこの場所に幻術を扱える人間はいなかった。
今この時に覚醒した人間を除いて。
「馬鹿な・・・ありえねえ!」
スクアーロの脳みそは急速に演算しだす。
この生き死にをかけた戦場で急速に成長していく人間というのはいる。沢田綱吉という男がそうだった。
戦うたびに強くなり、計算以上の急成長を遂げていく男。
”だが、目の前のそれはそんなものを遥かに超えている”。
成長なんてスピードではない。
これは、これはもはや——————————。
「Evoluzione(進化)だ」
目の前の男、エミーリオの額の炎が紫色のそれとなるのを視認してスクアーロは思わずそう呟いた。
「三つの属性を持っているっていうの!?あのこ!」
ルッスーリアの悲痛ともとれる叫びにスクアーロは苦い顔で答える。
「三つで済めばいいがなあ」
これまでに確認できているのは晴、嵐、霧、の三つだ。
しかも、本人はどれを扱えてどれを扱えないのかをまるで分っていない節がある。
つけこむとすればそこしかない。これ以上増やされてたまるか。
奥歯をギリギリとかみしめて、スクアーロはルッスーリアと共にエミーリオと相対する。
エミーリオは不思議な感覚に包まれていた。
今までの冷たく、硬い自分の死ぬ気の炎とは違う。柔軟性があって暖かいそんな炎を感じていた。
動けば動くほど新たな発見に満ちていて、自分の知らないところを次々に 見せられているような。
そんな感覚。
死ぬ気弾。その存在をエミーリオは知らなかったが、それを撃ったのがリボーンだということはなんとなく察しがついていた。
こんなトンデモ代物を持ち合わせていそうだとそんな理由だったが。
死ぬ気弾は死ぬ間際に後悔したことを実行に移す弾だ。
では、彼は、エミーリオは何を後悔したのか。
(死ぬ気で、あいつらに勝つ!)
そう、それが彼の後悔だった。
何もなかった人生に、いつ死んでもいいとさえ思っていた人生の中で唯一、彼が譲れなかったもの。恐怖を感じていたもの。
敗北の味、負けたまま終わること。
それだけは嫌だった。それだけが嫌だった。他にどれだけ惨い終わりを迎えようと、どれだけ悲惨な最期を迎えようとも。
それに勝るものはなかった。
だから、死に行く中で後悔したのは負けたまま終わるという事実だった。
何もない空っぽな人生でも、守るものも、執着も、絡み合う糸なんてない空虚な人生でもなく。
それよりも。
負けて終わることが彼にはどうしようもなく我慢ならなかった。
額の炎は灯る。
そんな気持ちに応えるべく、死ぬ気の炎は燃え盛る。
「————————春!!」
そして、彼は叫んだ。
「え?」
呼ばれるなんて思っていなかった彼女は呆けた表情でエミーリオを見る。
「刀!!こっちに投げろ!!」
春が両手に大事そうに抱えていた日本刀。エミーリオが持っていたもの、土蔵の中で転がったままのやつを思わず持っていた。
「・・・・わかった」
春は困惑した表情から一転、何かを決意したような固い顔になる。
「させるわけないじゃない!!」
ルッスーリアは当然、邪魔をしようとエミーリオと対峙する。むざむざ獲物を与えてやることなどない。その余裕はもはやとうに失われている。
「なっ!!」
それに呼応するかのようにエミーリオの額の炎の色は変わる。
紫から、今度は青へ。
「まだあるっていうの・・・!?」
戦場において手数というのはそれすなわち戦局を握る力そのものだ。
真の強者と相対するとき、一線級の手数を、殺しの手段をいかに持っているかが生死を分ける。
その点において、今現在のエミーリオは正にこの戦場を一人で手玉に取っていた。
「・・・・・っ」
青色の炎。属性は「雨」その特性は鎮静。
エミーリオの右手から放たれた掌底にありったけの雨の炎を撃ち込まれたルッスーリア。
超回復した体の細胞を急速に鎮静化させられ、意識が揺らぐ。
「くそ・・・が・・・」
唇を強くかみしめ、サングラスの奥から滲む強い視線も虚しく、ルッスーリアはここで倒れた。
「————————!」
「・・・ちっ」
その隙をついて後ろから斬りかかったスクアーロだったが霧の炎で紛れられる。
「エミー君!!」
そうこうしてるうちに、春から日本刀が投げ込まられエミーリオの手に収まる。
額の炎は紫から今度はバチバチと轟轟しい雷へ。
その特性は「硬化」
「う”おい、刀を強化してんのか」
明らかに、先ほどまでよりも使いこなしている。このまま長引かせれば確実にその力はスクアーロ達にとって脅威となるだろう。
「ひっさびさだぜぇ。ここまで血沸き肉躍るってやつは」
残忍な笑顔を浮かべて、スクアーロは剣の切っ先をエミーリオに向けた。
そして、もう一度宣言する。
「生きるか死ぬか、殺し合いといこうじゃねえか」
「・・・・・・そうだな。殺ろうか、殺し合い」
そして彼もまた、同じ人殺しの目で向かい合う。
「っくく。てめえ逆境では素直になるタイプだな」
沢田綱吉は冷静になり、跳ね馬は逆境で頼もしさを発揮するタイプだった。
エミーリオは、どうやら素直になるらしい。開き直るともいうが。
「・・・っ!」
「はぁあああ!」
開戦の合図はなく、言葉もない。どちらからともなく斬り合いが始まった。
スクアーロの剣技はまず間違いなく剣士の中ではナンバーワンだろう。山本武とはいい勝負だが、やはり純粋な剣技のみに絞れば彼に軍配はあがる。
対して、エミーリオの剣技は言うほど対したことはない。
多くの暗殺術をその手に持っている彼は、逆に言えば一つのものを極めたことはない。よってその道のプロには負ける。
だからこそ、なおのこと彼は手数を、戦略を増やすのだ。負けないように。
それは保険でもある。
一つで負けても、二つ目で、それで駄目なら三つ目といったように切り替えができるように。
ただ、今の彼は少し違った。
「ぬうっ・・・!!」
ほんの数時間前、剣技で圧倒したはずの相手にスクアーロは押されていた。
剣技そのものが格段に飛躍したわけではない。やはり厄介なのは炎の使い方。
ここぞという場面で霧で隠し、雷で強化し、隙あらば嵐で防御を食い破ってくる。
そして。
「う”おおい!そろそろ打ち止めだろう!!」
また一つ、彼の手数は増える。
文字通りの意味で、増殖する。
額に灯るは雲の炎。増殖の特性を持つ炎だ。
その炎で彼は無数に刀を増殖させていた。
一本一本を使い捨てるように、時にナイフのように投げ、時に折られ、それは剣士にはあるまじき戦闘スタイルだった。
自らの刀を放棄するということは自らの流派すら否定することになる。
一つの剣と共に頂点を目指すのが剣士という生き物だ。
だというのに、目の前の彼はそんな剣士を嘲笑うかのように使い捨て、吐き捨てる。
「・・・・・っ!」
ついに、その音が戦場に響いた。
幾重にも蓄積されたダメージと、雷で強化された刀による一方的な連撃がとどめとなって、スクアーロの剣は折れた。
まるで相打ちとでもいうようにひびが入ったその刀をエミーリオは即座に捨てる。
左手に構えたもう一本でスクアーロの心臓を穿とうと全体重を載せて、彼は足を踏み出した。
ドス。
鈍い音だ。骨と金属がかち合い、肉が避ける音だ。
だが、それは心臓を穿つ音ではなかった。
間一髪、切っ先を逸らしたスクアーロの機転だった。
だが。
「うぐっ」
右肩に突き刺さった刀と、勢い余って倒れこんだエミーリオ。
もう一刺し、刀を雲の炎で増殖させてもう一刺しすれば完全にエミーリオの勝利だ。
絶望的状況からの土壇場で盤面をひっくり返した。
その奇跡のような状況と、目の前にある勝利に、エミーリオは”安心した”。
「あえ?」
だからというわけではないのかもしれない。単純に、もう限界だったのかもしれない。
真意はそれこそ撃った本人、リボーンにしか見えていないのだろうが。
エミーリオの額から死ぬ気の炎は消失した。
「あ・・・・ぐ・・・」
今までの反動が来たのだろう。視界は霞み、体に力は入らない。先ほどまでの万能さはどこにもなく、あるのはただ薄れゆく意識だけだった。
「がっ!!」
そんなエミーリオを見逃してくれるほど、目の前の敵は優しくない。
今にも倒れこみそうな彼の体を、スクアーロは一蹴りで吹っ飛ばしその態勢と、戦況を吹っ飛ばす。
「こんな、とこで・・・」
確実に、今意識を手放せば負ける。どころか殺される。
最悪だ。最悪のシナリオだ。
一番恐れていたことなのに。一番嫌な幕引きを迎えたくなくて力を得たのに。
それは偶然で意識したものではなかったけれど、それでも確かに一度は勝利に手が届いたのに。
結局、自分はこういう人生だったのだ。手を伸ばすことすらなく、唯一諦められないものでさえこうして手から零れ落ちていく。
ああ、まるで自分の人生の縮図のようだ。自分の人生がこの一瞬にすべて詰まっている。
「————————————————————、」
後悔しながら、エミーリオは、ようやくその戦いからしがみついていた戦場から滑り落ちた。
「クフフ。予想以上の収穫です。君は十分、この僕にその力を見せつけてくれましたよ」
そして、まるで入れ替わるように戦場にその身を表すのは。
「六道・・・骸」
「ええ、お久しぶりですね。スクアーロ」
そして、長かった戦場は終わりを迎える。
To be continued.
どうもお日さま園の高宮です。
つい先日にもう十一月ですねー、やっべーわー、とか言ってたのに見てください。気づいたらもう十二月ですよ。中頃ですよ。もう今年あと二週間ちょいですよ。
色々あった2016年ですが読者様はいかような一年だったでしょうか?
それでは、きっと今年最後の投稿になると思われるので皆さんよいお年を。
2017年で会いましょう。