リボーン×ニセコイ!-暗殺教室~卒業編~-   作:高宮 新太

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標的17 Sangue fresco(鮮血)

 エミーリオ達が交戦している最中。

 自身の家が何者かに襲撃されていると連絡を受けた桐崎千棘と鶫誠士郎は、急ぎ、ビーハイブの根城。つまりは自分たちの帰る家へと向かっていた。

 あの時、電話越しに聞こえてきたのはこれまで、自分たちが生きてきた中で、聞いたことがないほど切羽詰まった声。

 

 生き死にをかけた、男たちの声だった。

 

 ビーハイブはギャングである。決して、人に褒められた集団であるはずがない。きっと、何処かの誰かから恨みを買ったとか、きっとそういうことなんだと、桐崎千棘は思った。

 

「・・・・・お嬢」

 

 でも、だからといって襲撃されたって良いだなんて、皆が襲われても良いだなんてそんなできた人間のようなことは桐崎千棘には言えない。

 

「わかってるわよ。鶫の言いたいことは」

 

 きっと、桐崎千棘の知らない所で沢山笑いあっていた仲間たちは、違う顔でひどいことをしてきたのかもしれない。沢山の人を泣かしてきたのかもしれない。

 

「でも、それでも。私はやっぱり皆が好きなの。いっぱい笑って、心配かけたり、かけられたり。そうした皆を、失いたくなんかない」

 先ほどまで顔面蒼白でまるで生気など感じなかったその顔は、今はしっかりと前を向いて走っている。

「行った所で、私にできることなんて何もないし、足手まといになるだけかもしれないけど」

 それでも、友達が背中を押してくれた。自分のことでも精一杯だったはずなのに、それでも私を気にかけてくれた。

 

 優しい友達。

 

 だから、桐崎千棘は足を止めるわけにはいかない。押された背中を、重力を、止めるわけにはいかない。 

「足手まといだなんて、そんなことはありませんよ」

 鶫は穏やかな顔でそう告げる。

 

「お嬢がいてくれるだけで、私たちはそれだけでいい。お嬢の周りにはいつも笑顔が絶えないですから」

 

 ギャングであろうとも、守りたいものはある。 

 

 例え汚れた手のひらでも、救いたいと願う心は本物だ。

 

「だから、すいませんお嬢。やっぱり私には、これしか思いつきません」

 

「鶫?」

 走る足を止めた鶫に対し、桐崎千棘は思わず振り返る。

 

「————、」

 

「—————ごほっ!」

  

 鳩尾に、一発。

 握った拳は開かれることはなく、ただ、項垂れた体を優しく受け止めた。

「な・・・んで?」

 急なことで、まともにガードも取れずもろに食らってしまった桐崎千棘は手放しそうになる意識の中で辛うじて問うた。

 

「お嬢は私たちの宝です。いつも、その周りには笑顔があった。どれほど過酷な戦場でも、どれだけの悲劇を目にしても、帰ってこれたのはお嬢がいてくれたからです。あなたが待っていてくれるなら、私たちはどこにだって行ける」

 

 だから、と鶫は言葉を続ける。

 

 

「だから、お嬢には生きていて欲しいんですよ。変わらない笑顔のままで、私の、皆の帰りを待っていて下さい」

 

 

 眩しいくらいに晴れた笑顔。

 桐崎千棘は掠れゆく意識の中で、はっきりとそれだけは見た。

「・・・さて。ここから一番近いのは学校か」

 桐崎千棘をお姫様抱っこで抱え、鶫は再度走る。

 

 まだ見ぬ戦場へ向けて。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ~ビーハイブ本拠地~

 

「何してやがる!!相手はたった三人だぞ!!」

「無茶言うな!”ヴァリアー”だぞ!!」

「くそ!こっちはもうやられた!!」

「裏から叩け!ボスのところにはいかせるな!!」

 

 

 激しい銃撃音と、もうもうと立ち込める煙。硝煙の匂いと赤黒くこびりついている血が、ここが戦場だとどうしようもなく物語っていた。

「・・・外が騒がしいね」

「申し訳ありません。外敵の襲撃を許してしまいました」

 そう言って頭をさげるのはクロード。いつものスーツを脱ぎ、腰には何丁もの拳銃が携えられている。

「・・・行くのかい?」

 そんな彼の姿を見て、ビーハイブの首領、アーデルト・桐崎・ウォグナーは目を細めた。

「はい」

 頭を上げた彼のその眼鏡の奥の瞳には、確実に、闘志が灯っていたのをウォグナーは見逃さない。 

「彼らはヴァリアーです。生半可な気持ちでいけば、確実に皆殺しでしょう」

 マガジンを確認しながら、クロードは戦闘態勢を整えている。

「ヴァリアーだと言う確証は?」

「見ればわかりますよ。そんなものは」

 今さら何をと言うように、クロードは頭を振る。

「だから、私も殺す覚悟で行く。彼らが何のためにウチを襲撃するのか、同盟はどうなったかなど今は知る由もない」

 

 そして、闘志はやがて明確な殺意に代わり確かな冷たさを生む。  

 

「・・・・ウチのバカが、どうやらお嬢に連絡をしてしまったようです。お嬢のことだ、血相を変えてここにくるでしょう」

「・・・・」

 

「その時はあなたが止めてあげて下さい。我らのボスよ」

 

「ああ。分かっているよ」

 

 爆発音と男たちの悲鳴が段々と恐怖を帯びながら近づいてくる。

 

「では、行って参ります」

「クロード」

 扉に手をかけたところで、ウォグナーはクロードを呼び止める。

 

「ちゃんと帰ってくるんだよ。ウチのじゃじゃ馬を見守ってくれる物好きは君しかいない」

 

「・・・・・・約束は、しかねます」

 

 それを最後にクロードは血風吹きすさぶ戦場へと、足を踏み入れた。

 

 

 

 

 

 

   

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「あら?どうしたの鶫さん。桐崎さんを抱えて」

「先生、どうやらお嬢が体調が悪いらしく、暫くここで寝かせておいていただけませんか?」

「ええ、別にいいけれど」

 学校の保健室。窓から入ってくる風が新緑を思わせるそんな空間で鶫はゆっくりと桐崎千棘をベットに寝かす。

 もうすぐ梅雨がやってくる。

 

「すいませんお嬢。すぐに戻ります」

 

 小さな、本当に小さな声でそう告げる鶫の視線は窓の外へ。

 ほふっ、と一つだけ息を吐いて。

 彼女もまた、戦場へと足を踏み入れる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「・・・・・行ったわね。—————————まったく、こんな所に置いていくなんて案外不用心なんですねぇ。学校なら安全と考えるのは愚直ですよ?マフィアの娘」

 保険医の怪しく光るオッドアイには、気づかぬままに。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「はぁ・・・はぁ・・・こ、これは」

 鶫が息も絶え絶えにたどり着いたそこは、最早自身が寝泊まりし、同じ釜の飯を共にした場所などではなくなっていた。

 炎は燃え盛り、所々壁が崩壊している。一体どんな戦い方をすればこうなるのか。鶫は想像したくもなかった。

「———————っ」

 奥歯を噛み締める。こんな状態ではもう、仲間は残っていないかもしれない。

 

 しかし、鶫はそんな”妄想”を「いいや」と否定する。

 

 お嬢に誓った。すぐに戻ると。ならば、自分がやるべきことはたった一つだ。

 この元凶となった人物を止めること。

 俯きがちだった頭は、真っ直ぐと前を見据える。

 力なく項垂れた手足は、一歩一歩確かに前へと進んでいく。

 一歩、二歩、三歩。と。

 やがて間隔は短くなり、足早に駆け、最後には走っていた。

 

 

「誰か!!誰かいないか!!」 

 

 

 大声を張り上げて、生存者を探す。

 崩れた壁から内部へと侵入して、鶫は息をのんだ。

 

 倒れている人、人、人。

 

 昨日まで、同じように笑っていた人。今日の朝まで挨拶を交わした人。さっきまで確かに、生きていたた人たち。

 

 なんでこうなった?さっきまで、本当についさっきまでいつもの日常だったはずだ。今だって夢だと言われれば信じてしまいそうなくらい、目の前の光景には現実味がなかった。

  

 むせ返るほどの血の匂い。

 吐き気がするほどの死の匂いだ。

 

「ごほっごほっ!」

「お、おい!大丈夫か!?」

 手元で息をするものが一名。

 鶫は血相を変えて駆け寄る。何か、鋭利なもので全身をズタズタにされていたその男は、鶫を見るやら目の色を変えた。

「つ、鶫か・・・!?お、お嬢は?お嬢、は、今どこに?お、俺が、俺が安易に連絡なんてしちまったばかり、に・・・お嬢が、ここ、に、来るかもしれねえ」

 目の前の男は細い息を吐いては吸って、吐いては吸ってを繰り返して短い言葉を連ねる。

「そうか、貴方が連絡をしてくれたのですね。安心してください。お嬢は安全な場所にいます。ここに来ることはありません」 

「そ、そうか・・・・良かった」

 きっとこの男はずっと悔いていたのだろう。自分が死の淵に晒されながら、それでもなお他人のことを、桐崎千棘のことを思いやっていたのだ。

「くそ・・・あいつら、好き勝手に、暴れまわりやがって・・・っぐ」 

「喋らないで!傷口が広がります」

「いいん、だ。どうせ、ロクな死に方などしないと、分かっていた。ここに、いる連中、全員な」

 がしりと、その男は血まみれになった掌で鶫の手を握る。

 

「い、いいか。敵は、”ヴァリアー”だ」

 

 短く、それでいて的確に情報を伝えた男は、それで満足してしまったのか、深い眠りに落ちた。

 

「・・・・・・・・・・・」

 

 ぎゅっと、握った拳に力が入る。

 

 今までに死を見たことがないわけじゃない。仲間の死が初めてというわけでもない。

 だが、いつまでたっても

 どれほど任務を成功させても

 これだけは

 慣れなかった。

 

 そしてきっと、慣れてはいけないのだ。

 慣れてしまってはいけないのだ、

 

 

 

「センパーイ。ミーにも下さいよー、そのアイス」

 

「駄目。これぜーんぶ王子の♪」

 

 

 何事もないかのように普通に歩いていた。

 その二人は、ここが戦場だということを忘れているかのようで、まるで通いなれた通学路を歩く子供のように。

 ただ、普通に歩いてきた。

 

 死など、慣れていると言いたげに。

 

「ぼ、ボンゴレぇええ!!!」

 

 その姿を視認した瞬間。鶫は自身が持っている二丁の拳銃を構えた。

 頭に血が上り敵か味方か、冷静に判別する暇もなかった。

 ただ、皮肉にもその異常さには冷静に野生の勘が警告している。

 

 こいつらは、ヤバイと。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ~一条邸~

「あらあら~?もうおしまい?小娘ちゃん」

「・・・・・くっ!」

 はぁはぁと、ポーラ・マッコイの呼吸はひどく荒い。

 それもそうだろう。彼女の額は割れ、流血しており、しわ一つなかった制服は所々破け血や土で汚れている。

 両手にぶら下がる二丁の拳銃は、この戦闘の間まるでその役割を果たしておらず、お飾りと化していた。

(・・・引き金すら、引けないなんて!)

 乱れる呼吸の中で、必死に思考だけは回転させる。

 

 目の前の男は、ファイティングポーズを崩さぬままに拳を次から次へと繰り出してくる。

 

 ポーラはその一打一打を避けるのに精いっぱいで、攻撃まで頭が回らない。

 だというのに、攻撃は休まるところを知らず、どころか精度が増していく。

 この拳よりも、次の拳がより重い。さらに次の拳よりも、そのまた次が。

 なんて言ってると、今度は足技が飛んでくる。

 いなすだけでも、ポーラの体力は底をつき始めていた。

「・・・がっ!」 

 そうして弱ったところを、渾身の一打で仕留められるのだ。

 

 まるで肉食動物の狩りに怯える草食動物のように。

 

(より質が悪いのが、その肉食動物が全然本気じゃないってことね)

 流れる血を乱暴に拭いながら、ポーラはきっと同時に絶望をも拭おうとしていた。

 勝てないと、そう本能が告げているように。

 

 

「さーて、そろそろお遊びも飽きてきたし。殺しちゃおうかしらね」

 

 

 サングラスの奥が怪しく光り、舌なめずりをする様はまるで異様。

 

「・・・ねえ、最後に教えてくれない?なんで、あなたたちはここを襲うの?」

 

 諦めたように、観念した声でポーラは聞いた。

 最早勝ち目はない。相対した時間はきっと十分にも満たないだろうが、それだけで嫌というほど実力差は思い知らされた。

(ホワイトファング?・・・本当、バカにしてるわ)

 自身がどれほど井の中の蛙だったか、前まであれだけ執着していたはずのブラックタイガーですら、目の前の相手には数段劣るとわかる。

 天を仰いで、腕はだらしなく地面を向いていた。

「うふ。そうね、メイドの土産に教えてもいいわ。あなた、中々筋はいいみたいだしね」

 ルッスーリアは完全に戦意を喪失したと見るや、ポーラの問いかけに答える。

 ただし、戦闘態勢だけは崩さないところを見ると、どうやら油断を誘うなんて言うバカげたことは考えないほうがよさそうだ。

 

「あなた、リングと匣って知ってる?」

 

「・・・・・」(フルフル)

 

 ポーラは力なく首を横に振る。何年も裏社会にいて、本当に聞いたことがなかった。 

 ただし、心当たりはある。

 二か月ほど前、まだ入学したてだった頃に受けた一つの任務。

 チンピラを調査するという意味不明な任務で、それの片鱗らしきものは味わった。

 元々、自分をボンゴレへと追いやったエミーリオ、コードネーム「ビアンコ」が来るというので受けた任務だったがそれが予想以上に理解不能で、人知を超えた任務だった。

 

「最近開発された・・・まあ、兵器ね。あなたがもっている拳銃とかそんな感じだと思ってもらえれば結構よ」

 

 確かに、あの時みたあれは紛れもなく兵器だろう。

 

「人間には波動が流れていてね、七種類に分けられるの。晴れ、雨、嵐、雲、霧、雷、そして最後に大空。しめて大空の七属性」

 話しているうちに、気分がよくなったのか段々と饒舌になってくるルッスーリア。

「順番に効果は活性、沈静、分解、増殖、構築、硬化、調和。あ、ちなみに私は晴れ属性ね」

「聞いてないわよそんなの」

 口にした瞬間、ルッスーリアの蹴りが鳩尾を蹴り抜かれる。

「・・・がはっごほっ!」

「いいから黙って聞いてなさいな」

 んんっと、仕切り直すようにルッスーリアは言葉を続ける。

「その七つの属性と呼応するように匣兵器は存在するの。基本、自身に流れている波動は一つ。そしてその波動とリング、匣の属性が一致していないと使えないわ」

 これで大体わかったかしら?

 ルッスーリアは問いかける。うつ伏したポーラに。

「まあ、そうね、仕組みはわかったわ。だけど、それとあなたたちの目的の何の関係があるのよ」

「ああ!そうだった、それをまだ話してなかったわぁ」

「・・・・・・・」

 クネクネと体をよじらせ、ふざけているのかと怒りたくなるがポーラはぐっとこらえる。

「そのリングを、私たちは奪いに来たの」

「リングを・・・?」

「ええ。そうよ」

 ルッスーリアはそう言うと一段と緊張感を増しながら。

 

「霧のリング。残された最後のヘルリングをね」

 

(ヘル、リング?)

 

 依然として、情報は分からないままだが、とにかく。

 そのヘルリングというのが目的だということは分かった。

「で?そのヘルリングってなによ?」

「・・・ふふ、まあ教えてあげてもいいけど。ここまで。調子に乗らないことね。私もベラベラ喋りすぎちゃったわ」

 ポーラは内心で舌打ちする。存外早くシャットダウンされてしまった。

 だが、ホワイトファングの異名は伊達ではない。

 いくら自分の中でそれが意味をなさなくなっても。

 

 勿論、多くの情報を知れるに越したことはないが戦闘を放棄した真の目的はそこではないのだから。

 

「ああ、言っておくけど。見逃すとか、私そういうことしないタイプなの。狙った獲物はきっちりと仕留めないと気持ち悪いじゃない?」

「・・・・・そう」

 ヨロヨロと、最後の力を振り絞ってポーラはなんとか立ち上がる。

「あら、立つのね。座ってればなぶり殺しにしてあげたのに」

「はっ。ごめんこうむるわよ」

 二丁の拳銃を構えた腕に力がこもる。チャンスは一度きり、外せば二度はないことはこの体が証明している。

 

 のどが渇く、口の中がひりつく。体中の水分は抜け、ただ一点にのみ彼女は集中していた。

 

 そしてそれはルッスーリアも同じこと、油断せずにただ目の前の少女を殺すことだけに全神経を注いでその一挙手一投足も見逃さない。

 

 ダンッ!

 

 その音が響いた時には既にルッスーリアの拳はポーラのあと数センチまで迫っていた。

 

 一秒後に、決着が決まる。ルッスーリア自身そう感じていたし、なによりポーラがそれを一番肌で感じていた。

 

 そして、ポーラは。

 

 

 

 

 拳銃を捨てた。

 

 

 

 

「っ!」

 

 一瞬、ほんの一瞬だ。

 何もかもを見逃すまいと全神経を注いで注意していたがあげくに、その一瞬を作らされた。

「はぁぁぁぁっぁっぁっぁ!!」

 その一瞬でポーラはルッスーリアの懐に潜り込み、上体を抱え込みながら地面へと叩き付ける。

 

 そう、背負い投げだ。

 

 

 

 

「・・・がはっ!」

 

 

 

 

 咄嗟のことでろくに受け身も取れず、加えて自身の勢いそのままに地面へと叩き付けられたルッスーリアは肺の中の空気をすべて押し出すはめになった。

 

「こ、の・・・クソチビがあ!」

「今日このときだけは、チビで良かったわ。おかげで体格差を生かせたもの」

 が、勿論これだけで勝ったつもりになったわけではない。

 

「ぐ、おおおおお!!」

 

 速攻で、背負い投げからのすかさず腕ひしぎ。

 

 右腕と首元を完全に極めるこの技、決まれば最後抜け出すことは容易ではない。

 

「こん、のぉ!ガキがあ!!」

 

 が、しかしやはりそれでもまだヴァリアーには届かない。

 

「ぎゃあああああっ!」

 

 極めていた左足の膝小僧を、思いっきり拳で貫かれ思わずポーラは絶叫する。

 その隙に、ルッスーリアは技から抜け出し距離をとった。

 

「はぁはぁ・・・ふふ、ちょびっとだけ焦ったわ。いけないいけない。これだから前線から遠ざかると嫌なのよね」

 

 ひょこひょこと、ポーラは右足を引きずりながらもなんとか立つ。

 確実に皿が割れているはずだが、即座に立てるのは流石としか言いようがないだろう。

 だが、それもここまでだ。

(ダメだった。渾身の奇襲も弾かれた・・・!)

 そう、最後のチャンスをポーラは決めきれなかった。加えて右足はもはや使い物にならない。

 万事休す。

 万に一つも、勝ち目がない。

 

「あなた、本当に殺してやるだけじゃすまないわ」

 

 息は荒く、額には青い血管がビキビキと。

 

「まず顔面の皮をはいでから、それから死なない程度に肉を削いで全身を茹でながら熱い鉄を口から流し込んで殺すわ」

 早口で唾を飛ばしながら、即興で考えられる限りの残虐さをぶつけるルッスーリア。

(終わったわね、確実に)

 そんなルッスーリアを見ながら、ポーラは痛みで顔がぐしゃぐしゃになりながらも、頭だけは不思議と冷静でいた。

 

「なによ、その顔。もっと喜びなさいよぉ!」

 

 

 

「・・・・・え?」

 

 

 

 完全に理性が弾け飛んだルッスーリアの咆哮と、同時。

 物凄いスピードで、ルッスーリアとポーラの間を飛んできた物体が、一つ。

 その物体は、ちょうど家の外壁にぶつかり瓦礫の山に埋もれた。

 

「び、ビアンコ!?」  

 

 ポーラのいう通り、飛んできた物体の正体はビアンコ。つまりエミーリオだった。

「ちょっと、あんた、大丈夫?」

 ひょこひょこと足を抱えながら、瓦礫へと向かいエミーリオを抱き起す。

 

 

「ちょっと!スクアーロ!今いいとこだったんだから邪魔しないでよ!」

 

「・・・・・・おい、もう終わりか?」

 

 低く唸るように響くその声に、ポーラは身が縮みあがる思いをした。

 

 まるでサメと対峙した子供のように、パニックになることすらできず。ただただ、振り向くことしかできない。

 

「・・・・はぁ・・・・・はぁ」

 小さな呼吸が物語る、数々の裂傷が与える。その壮絶な戦いの片鱗を。

 だが、それほどになってでも右手にはいまだに剣が握られていた。

(私は、手放したっていうのに)

 そんなエミーリオの姿に、思わず視界が滲む。

 滲むのは体の痛みの所為か、それとも自身のふがいなさからくるものなのか。

「う”おおおい!いつまでも寝てんじゃねえぞ立て!お前にまだ、その気があるならなぁ!」

 スチャリと、剣が構えられる音がする。その切っ先は、ぶれることなくまっすぐと、こちらを向いている。

  

(どうしよう・・・・!このままじゃ死ぬ。私たちだけじゃない。あの子たちまで)

 

 今は土偶に隠れているはずの小野寺姉妹や風。そして一条楽も、きっと成す術もなく殺されてしまうだろう。 

 

(なんとかしなきゃ、なんとか!)

 

 瀕死のエミーリオ。痛みで意識が飛びそうなポーラ。目の前にはほぼ無傷のヴァリアーが二人。

 

 どう考えても、手詰まりだった。

 

 死ぬしかほかに道はなく。死ぬよりほかに方法はない。

 

 この状況の中で死だけが明確で、確実なものだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 そして、その時。その声の主は訪れる。

 

 

 

 

 

「ねえ君たち、僕の並盛で何をしているの?」

 

 

 

 

 

 並盛中学の風紀委員長兼理事長であり、並盛の秩序そのもの。

 誰よりも群れることを嫌い、誰よりも並盛を愛するその男。

 名前を。

 

「・・・・雲雀、恭弥!?」

                              To be continued.




どうもトレース・オン!高宮です。
イリヤが神展開になってきてもう心臓がつらいです。早く、早く次週を見せてくれ。
とか言ってる間にもう九月です。なんか月一更新がデフォになってきました。
受験終わったら頑張るということで。
次回もよろしくお願いします。

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