リボーン×ニセコイ!-暗殺教室~卒業編~-   作:高宮 新太

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標的16 Ostilità(敵対)

 突然の爆発音、普通に生きてればまず間違いなく訪れることのないだろうレベルでの爆音。

 その衝撃は一条邸にいた全員が疑いようもなく危機感を抱くには十分だった。

「な、なんだよ。これ・・・・」

 一条楽の目には、轟々と燃え盛る自分の家。今まで暮らしてきた思い出が脳裏にフラッシュバックしていく中で、彼は何もできずにただそこに立ちすくんでしまうしかない。

 なぜなら。

 

 

「う”おおおい!一条楽はどこだぁあああ!?」

 

 

 燃え盛る炎を背景に、ひび割れる声。その声はただはっきりと、一条楽の名前を呼ぶ。

「・・・・・人?」

 燃え盛る炎に黒い人影。建物の屋根の上に佇むその人影は、ただまっすぐとこちらを見ていた。

「見つけたぜぇ。おいルッス、あいつで間違いないな」

「ええ。写真とばっちし。それにしてもよく撮れてるわねー。この写真」

「う”おい!今は、そんなことどうだっていいだろうが!」

 この極地的な空間で、普通に喋っているあの人たちはなんだ?

 当然の疑問が一条楽の頭を占拠する。逃げることも、目の前の脅威の判定もできずに。

 

「す、スクアーロ・・・・」

 

 そして、もう一人の男。

 真っ白な肌と、真っ白な髪のその男は突然現れたその男たちに驚愕を隠せない。

 なぜ?どうして?

 そういった疑問が頭を渦巻いて離れない。

 そんな硬直状態の二人に、さらに畳みかけるように状況は変化する。

「そんな・・・うそ・・・!」

「お嬢?どうかなされたのですか?」

 その声に一条楽は振り返る。見ると、桐崎千棘が脱力したように顔からすっぽり表情が抜け落ちている。

 だらりとだらしなく下げられたその右手には、携帯電話が。

 

 

「ビーハイブが・・・うちが、何者かに襲撃されてるって・・・」

 

 

「お、おい!それ本当か!!」

 さっきまで動けなかった一条楽が、その情報を聞いて桐崎千棘に詰め寄る。

「・・・・い、行かなきゃ!千棘ちゃん」

 小野寺小咲の声は、不安と恐怖に震えている。

 それでも、友達の家が襲われていると聞いて行かなきゃと鼓舞できるのは相当な強さだろう。

 その声に桐崎千棘の顔にはいくらか生気が宿る。

「でも・・・」

 が、それを強烈なプレッシャーで追い払うのは建物の瓦の上に立っているだけのスクアーロだ。

「・・・・行けよ」 

「エミー?」

 ぐっと奥歯を噛みしめて押し殺したようにエミーリオはそう言った。

「何がどうなってんのか、全然わかんねえが。これだけは言える。行け」

 つい先ほど手にした日本刀を、すらりと鞘から抜く。

 その刀は、カタカタと音が鳴るほど震えているにも関わらず。 

「・・・・・・・」

 その様子に春と風が目を見開く。この中では一番エミーリオと関わった時間が多い彼女たちだが、彼のそんな姿見たことも感じたこともなかった。

 なにかに恐怖することなど、この人にあるのかと。

 それほどまでに、目の前の銀髪の男は人並み外れているのだと。

「・・・・うん。ごめん、みんな」

 桐崎千棘、それに鶫が勢いよく走りだす。

「あら?いいの?」

「うるせえ、放っておけ。どうせあっちは”アイツら”だ。万が一なんてねえ」

 スクアーロは先ほどから微動だにしていない。ずっと睨み付けているのは、ただ一人。

 真っ白な少年、ただ一人だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「・・・・え、エミ君」

「いいかお前ら」

 桐崎千棘と鶫の背中が消えた頃。春の言葉を遮って、エミーリオは残っている連中に告げる。

「各自、逃げることだけを考えろ。この状況下で生き残れたら御の字だってな」 

 たらりと、落ちる冷や汗をぬぐうことすら許されない空気でエミーリオの言葉は重かった。

 およそ十年ぶりにあったスクアーロは、相変わらずの長髪と鋭い目つきで殺気もまったく衰えていない。どころか十年前よりも厳しく感じる。

 カタカタと体の震えが止まってくれない。体の奥底までに染みついた恐怖。

 敗北の恐怖。見限られる恐怖。失望される恐怖。殺気すら霞むほどの言葉の恐怖。

 それらがエミーリオを一度に襲い、蝕む。

 

 逃げたい。 

 

 正直に言えば全身全霊で今すぐこの場所から逃げ出したかった。いつもの余裕など、楽しむなどとふざけたことなどぬかせない。

 こんなもの任務でも何でもないし、何より本当にスクアーロが何をしに来たのかがわからない。もしかしたら案外フレンドリーに接してくれるのかも。

(なんていうのは、夢のまた夢だよな)

 それがありえないと、なにより物語っている。彼が放つのが紛れもなく殺気だという時点で。

「ねえ、もしかしてあれって」

「ああそうだよ。”ヴァリアー”だ」

 ポーラの問いかけに、エミーリオは親切に答えた。

 ポーラ以外の全員はなんのことだと意味が分かっていないが、ポーラは裏社会に身をやつしているだけはあってその名前に「そう」と半ば諦めたような表情を見せる。

 ヴァリアーが出向いてきたということは、目的はどうあれ自分たちはただではすまないのだろうと。

「なあ、そのヴァリアーっての、なんなんだ」

 一条楽が問う。

「お前、一応ヤクザの息子だろ。知っとけよ、常識だぞ」

 

 

「う”おおい!おしゃべりはそろそろお終いだぁ!」

 

 

 心の底から震える声。何もかもがエミーリオから殺る気を削いでいく。

「なあアンタ!一体何しにこんな所まで出張ってきたんだよ!」

 必死に自身を奮い立たせようと、彼はわざと声を張り上げた。

(土蔵に入って鍵を閉めろ。気休めだろうが何もしないよりましだ)

 隣にいた風に聞こえるように小声で喋る。もし戦闘になればまず間違いなく殺されるだろうし、なにより足手まといだった。

「春、行くよ」

「風ちゃん?でも・・・・」

 春が気にかけていたのはエミーリオだったが、当の本人は後ろのことなど気にかけている余裕はない。

 そんなことをしてる間に、スクアーロはしゅたりと屋根の上から飛び降り、こちらに歩み寄って来る。

「一条楽というのは、テメエか?」

「一条君!!」

「先輩!!」

 すらりと長い剣の切っ先を鋭く向けるスクアーロに、一条楽は「そうだ」と気丈にも答える。腐ってもヤクザの息子、そこいらの子供よりはこうした修羅に慣れている。

「ちっ!おいスクアーロ!俺の質問に答え———————」

「きゃあ!」

 小野寺姉妹の悲痛な悲鳴が場に響く。

 なぜなら、エミーリオの言葉の途中で、一条楽に向いていた剣がエミーリオの腕を掠めたからである。

 ぱっくりと、来ていたシャツが裂け肌が露出する。

「今は、テメエに用はねえ。”こっち”が終わったら殺してやるから黙ってろ」

 ぎろりと、サメのような鋭さを見せる視線がエミーリオを射る。

 

 それだけ、たったそれだけでエミーリオは全身が硬直したように動けなくなった。

 

 小さい頃の、敗北の記憶。噛みしめた雪の味。力を込めた握りこぶしの硬さ。

 ずっとずっと、忘れたことなんてなかった。頭の片隅には常にそれがあった。

(にも関わらず、ビビっている。俺は今まで、何やってたんだ)

 それらの恐怖を払しょくするために、自分は弱くないとそう思うために今まで任務に時間を費やして、鍛錬に集中してきたのに。

 なのに、今現実に目の前に現れると自分は簡単に動けなくなる。

 なんて無様。なんて滑稽。

 やがて、エミーリオはだらりとだらしなく天を仰いだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 エミーリオから戦う意思がなくなった。

 そうスクアーロは感じていた。

 一度向けた視線を、再度目の前の一条楽に戻す。もう二度と、後ろを振り返ることはないとそう直感しながら。

 

 だが。

 

 ゾクリ。

 

 と。

 

 スクアーロは襲われた。

 

「っ!!」

 

 瞬間的に振り返る。

 無論、実際に襲われたわけではない。

 襲われたのは後ろで放たれている殺気に、だ。

 

「あー、腕痛ぇ。なんかもうどうでもいいわ。全部どうでもいい。誰かを守りながら戦うとか、やっぱ柄じゃねえや」

 

「・・・・・ほう。どうやらただ十年間ぼけっと過ごしてきたわけではないようだな」

 

 そう呟くと、スクアーロはくるりと後ろ、つまり一条楽と向かい合った。

「がはっ!!」

「一条君!!」

 小野寺小咲の悲痛な叫びも虚しく、スクアーロの蹴りは、見事に鳩尾に決まり一条楽は意識を手放した。

 そして、意識のなくなった一条楽を片手で小野寺小咲達のいるもとへと放り投げる。

「う”おい!てめえら!そいつを死なねえ場所に放り込んどけ!そいつにはまだ聞かなきゃいかねえことがある!」

「か、勝手なこと言わないでよ!」

「ちょ、春!?」

 そのスクアーロの横暴に異議を申し立てるのは怒り心頭といった表情の春だ。

「勝手に来て、こんなに家をめちゃくちゃにして一体全体どういうつもり!?」

 あのスクアーロ相手にずんずんと距離を詰める春。物怖じという言葉を知らないのか。

 目と鼻の先、スクアーロの顔の目の前には春がいる。そんな距離で。

「お、おい!ルッス!このガキどうにかしろ!!」

 スクアーロは心なしか慌てた様子で、仲間に助けを求めた。  

「はいはい、まったく、女は嫌いなのに」

 後ろからゆったりとした歩調でこちらへとやってくるのは、変なモヒカンとグラサン、締まった体をしたオカマだった。

「なに!?あなたもこの人の友達!?」

 後ろにいる風や小野寺小咲は感じ取る。明らかに、この人もヤバイと。

 だが頭に血が上っている春はそのことに気づけない。

 

 が故に。

 

「「春!!」」 

 

 近づいてきたルッスーリアの膝蹴りをまともに食らってしまう。

「私、あなたみたいな可愛いお顔をした女の子嫌いなの。あと五月蠅いガキも。あら?あなた両方当てはまるわね」

「この・・・!!」

 親友の春を文字通り足蹴にされ、風は怒りで足を踏みだす。

「—————————、」

 が、それを一人の女の子に制され風の足はそこで止まった。

「ムカつくし、殺しちゃっていいわよね?あの男の子を生かしておけばいいんだし」

 そう言って、ルッスーリアは春の首を絞めにかかる。絞め殺す気なのだろう。

「・・・ぐ、うぐ」

 微かに残る意識で、春はうめき声をあげながらもただしっかりと敵意のこもった視線でルッスーリアを睨んでいた。

「・・・・・・・カッチーン」

 その視線はルッスーリアを怒らせるには十分だったようで。

「いいわ、そんなに死にたいなら殺してあげる!!」

 さらに春を高く持ち上げ、いよいよ息の根を止める気だ。

 

 ここで、話は逸れるが人間、集中力と注意力はイコールでは結べない。

 普通集中するということは一本に絞るということで、注意力というのは逆にそれを散漫とさせることだ。

 だから、集中するのと周りを注意するのとは全く別の行為なのだ。

 

 それを踏まえた上で話を戻そう。

 今、ルッスーリアは完全に集中していた。仮にも人一人を殺そうというのだ、集中するのも当たり前だろう。

 加えてことヴァリアーのメンバーである。殺すのに長けている、つまり殺すのに慣れているルッスーリアは至極当然にいつものように集中した。

 

 その結果。

 

 

 

 ルッスーリアは周囲への注意力が消えた。

 

「っ!!」

 

 飛んできた銃弾を横に躱す。その瞬間手に持っていた荷物、春を手放さざるをえなかった。

 銃弾を放った主は勿論その隙を見逃さない。というよりかはその隙を作り出すための銃弾だったようだ。

「・・・チッ。あなたやるわね」

「お褒めに預かりどーも」

 春を奪還したのは、できたのは。この中では一人しかいない。

 

「ポーラちゃん。あり、がとう」

 白い肌に白い髪、ホワイトファングと呼ばれるポーラ・マッコイただ一人。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「完全に意表を付いたつもりだったのに、当たるどころか掠りもしないなんて、流石はヴァリアーといったところかしら?」

「・・・・なあに?アナタ」

 ルッスーリアは対峙する。二丁の拳銃を構える女の子と。

「ホワイトファング、って言えばわかるかしら?」

 たらりと落ちる冷や汗を無視して、ポーラは無理に笑った。

「まったく、なんでこう女が多いのかしら?虫唾が走っちゃう」

 そんな彼女をものともせずに舌なめずりと共に緊張感が増す。ポーラもその例外ではなく、拳銃を握る両手は汗でふやけていた。

「風・・・とか言ったっけ?この娘をお願い。それと、早く安全な場所に逃げて。このままじゃ殺される」

 ポーラはルッスーリアから視線を外さぬままそう告げた。一瞬でも気を抜けば全滅すると、肌で感じていたから。

「・・・・わかったわ。行きましょうお姉さん」

 風はこくりと頷くと小野寺小咲と共に春と一条楽を抱えて走り出す。安全な場所、エミーリオに言われた通り土蔵くらいしか思い当たらなかった。

「・・・・よし、行ったわね」

 ポーラは一つ胸をなでおろす。一先ず一番のネックを解決できたのは大きい。

「あらあら、何を安心しているの?」

 タンッタンッ、とボクサーのように拳を構えたルッスーリアは軽快にタップを踏む。

「匣兵器が主兵器になってからは後方支援ばっかりになってたし、こんな風に前線に出るのは久しぶりだわ~」

 今から殺し合いをするというのに、ルッスーリアのその表情は本当に楽しいと言いたげで。

 その異質さに、異様さに、ポーラは思わず生唾を飲み込んだ。

 

(私だって・・・・私だって!!)

 

 怖気ついてしまいそうになる自分を、必死に鼓舞し、ギリッと拳銃を握る手に力がこもる。ポーラにも自負というものがある。プライドというものがある。

 この日本に来るまでポーラは自分が一番だと思っていた。鶫に負け、力を磨き、裏社会の地位と名声を得て。

 それが、日本に来てから揺らぐばかりだ。鶫に諭され、わけのわからない力でチンピラに負け。

 だからこそ、もう二度と、負けるわけにはいかないのだ。自分のためにも、後ろにいる力なき者たちのためにも。

 例え、相手がどれほどの格上であろうと。

「さて、じゃあ始めましょう。文字通り、命がけで!!」

 心を決めて、彼女はその手に握る。

 自身と共に駆けてきた、その二丁拳銃を。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 一方。そう離れていない裏山で。

「っ!!」

「はああああ!!!」

 スクアーロとエミーリオは、互角の勝負を繰り広げていた。

 エミーリオが斬撃を息つく暇もなく繰り出し、スクアーロは防戦一方になる。

(行ける!押し切れる!)

 エミーリオは実感していた。

 もうあの頃の自分ではない。技も、力も、心も、あの頃より成長していると。

 

「・・・もうお終いか?」

 

 が、スクアーロはそんなエミーリオの喜びを吐き捨てるように剣を振るう。

「うぐっ!」

 たった一太刀。それだけで、攻守は逆転する。 

 続く斬撃は、自分のものとは桁違いに段違いで。

 嫌というほど、思い知らされる。自らとの力量の差というやつを。

「くそが!!」

 やがて、エミーリオの剣は単調になり攻撃は攻撃の意味を成さない。

「キレたおかげで、集中できたまでは良かったがな。怒りってのは、長くは続かねえ」

「アンタが、それを言うのかよ」

 埒が明かないとエミーリオは判断して、一旦距離をとる。

「だからこそ、よく分かるんだよ」

 長い髪をかき分けて、鋭い視線は依然として鋭いまま。冷静に戦況を分析している。

「・・・お前、今まで何をやっていた?」

 突然、スクアーロは語りかける。不審に思いながらも、彼は答えた。

「人殺し」

 と。

 淀みなく、詰まることなく、考えることなく。

 その返答に、その瞳に、スクアーロはくっくっと笑う。

「そうだ。それを分かっているのなら良い」

 さあ!とひときわ声をあげ、スクアーロは剣の切っ先を目の前の彼に向けた。

「今からするのはその人殺しだぁ。さて、どちらが生き残るかな!?」

 ギュンと、一歩で距離を詰めるスクアーロ。

「・・・・くっ!!」

 

 相対するのは、一人の、殺し屋。

 To be continued.




どうも皆さんプリズマ☆高宮です。ああ、俺も魔法少女になりたい。イリヤちゃんとイチャイチャしたい。
とまあそんな欲望は置いておいて、最近マクロスfの曲に再燃しつつあります。いい、やっぱりランカちゃんはいい。
アナタノオトが一番好きです。
では、また次回もよろしくお願いします。


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