リボーン×ニセコイ!-暗殺教室~卒業編~-   作:高宮 新太

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標的15 L'incidente più cattivo(最悪な災厄)

「おーい!エミーリオ!」

「・・・あん?」

 少し離れた廊下の先、大きな声で彼の名前を呼ぶのは一条楽。

 学校の校舎内で、一年生の教室が並ぶこの一角に、二年生である彼は少々目立つ。

「おい。見ろ、あれ・・・・」

「ああ、“一条先輩”だ」

「すげえ、初めて見た」

「やっぱり侍らせてんのかな?」

「そりゃそうだろ、聞くところによるとハーレム王になりたいらしいぞ」

「まじかよ、引くわー」

 あちこちで聞こえるヒソヒソ話。大半は男子の嫉妬によるものでエミーリオとしてはふーんって感じなのだが。

「・・・・・・」(ヒクヒク)

 当の本人である一条楽はどうやらそうもいかないらしい。傍にいるエミーリオに聞こえているのだから、当然一条楽にだって聞こえている。

 ヒクヒクと口角を歪ませ、少し涙目である。

 そんなにダメージがあるのか。とエミーリオは少し意外だった。自分にはよく分からなかったから。

 そして新たな発見を自分が持っている「調査ノート」に書き加える。勿論先日任務を言い渡されてから作ったノートで、その任務は既に完了しているのだが、ノートは手放してない。 

「ん?なんだそれ」

 先ほどまで俯いて見るからに傷ついていたのに。目ざといというかなんというか。エミーリオは呆れたように答えた。

「勉強ノートだよ。日本語の。まだ不完全だからな」

「そうか。結構上手っていうか、日本人並みに上手いと思うけどな」

「そりゃどうも」

 勿論嘘である。

「あとは敬語だな。俺一応先輩だぞ。出会いが出会いだったし、別にいいけどさ」

 ネチネチと説教のようなものを垂れる一条楽に内心でエミーリオは深くため息をついてから。

「いや、つーかさ。何の用?」

 会話をぶった切る。どうやら一条楽の言葉は彼には届かないらしい。

 一条楽は調査対象であり、任務対象である。が、ビーハイブの任務といい、集英組から音沙汰がないことといい、これまでほとんど接点はなかった。

 よくよく思い返せば、今これが初めて二人で喋った瞬間である。

 そんな人間に説教されても、彼は何も感じられない。

「ああ、そうだった。お前さ、今日暇か?」

 エミーリオは首を傾げる。質問の意図が読めなかったからだ。集英組からの任務であれば、直接組長から連絡があるだろうし、一条楽から言い渡される理由がない。

「・・・・まあ、暇っちゃあ暇だけど」

 訝しむもエミーリオはとりあえず答えた。どのみちわかることだ。

「良かった!それじゃ放課後、俺ん家に来てくれ。頼むな」

「・・ああ」

 一条楽はエミーリオが答えると安堵したように笑い、それじゃと手を振って去っていった。

「で、結局、なんなんだよ?」

 てっきり内容を聞かされるものだと思っていたエミーリオは深いため息をつく。これで家の草むしりとかだったらあの高そうな壺を割ってやろうと画策しながら。

 振り返って、教室に戻る。

 と。

「・・・・・・!!」

「春」

 振り返ってそこにいたのは、教科書を床にバサバサと落とした小野寺春だった。

「え、エミ君!!一条先輩と知り合いなの!!?」

「え?ああ、まあ。知り合いっつうか、まあ、知り合い?」

 彼と一条楽の関係をなんと言えばいいのか言葉が見つからない彼に、春は構わず一人で衝撃を受けている。

「だ、駄目だよ!あの人は!!あんな・・・あんな・・・詐欺師みたいな人!!」

 ガクガクと肩をつかまれ揺さぶられる。いつもの笑顔からは想像できない程、真剣で険しい顔つきだった。

「いや、なにが?」

 現状といい先ほどのヒソヒソ話といい一体全体自分の任務対象はどのような評価を受けているというのか。

 先日の任務には不要というかめんどくさくて省いていたが、これは本格的に調査しなければいけないと思い始めるエミーリオ。

「一条先輩は、あの人はね!綺麗で可愛くて美人な彼女さんがいるのにも関わらずお姉ちゃんを狙っている狼みたいな人なんだよ!最低なんだよ!」

「はい。どうどう。落ち着け落ち着け」

 とりあえず荒ぶる春を落ち着かせ、深呼吸させる。

(ふむ。小野寺小咲・・・・か)

 一応そういう方面、つまり他の女をけしかけて修羅場を作る。といった方向から一条楽と桐崎千棘の仲を引き裂こうと考えたことはあるにはあるけども、エミーリオは断念した。

 まず第一にエミーリオは男女の機微というものがイマイチピンとこず、誰をどうやってけしかけるのが一番効果的か、答えが出なかった。今までの人生にそういうこととトンと縁がないことと、そもそも彼自身興味がなかったのが災いした。

 第二に、そもそも一条楽という人間を観察している中で、それはあまり効果がないと判断をしたのだ。周りには常に美少女といって差し支えないレベルの女の子たちに囲まれてそういう修羅場になっていないのだから。いや、本当は既にそうなっていてエミーリオが分からないだけかもしれないかもだが。

 どのみち断念するのにそうやぶさかではなかった。

 だが、目の前でいかに一条楽がクズで最低な奴か熱弁されては本当は効果があるんじゃないかと疑いたくなってくる。

 

「それに、春のパンツも見たのよね」

 

「おわっ!!」

 

 急に背後から声がしたので振り返ると。

「ふ、風ちゃん!!//」

 そこにいたのは澄ました顔をした風。

「パンツ?」

 気になるのはその単語。

「この前春のお気に入りのクマちゃんパン「わわ!//なんでもないよなんでも!」」

 顔を真っ赤にした春は慌てて風の口を閉じる。

 ムガモゴと口を動かす風は滑稽でエミーリオはふっと笑う。

「なに?なんで笑った今?何に笑ったの今?」

 若干こめかみに筋を浮かべる風。

「いやいや別に、変な顔だなと。あ、わり。元からだったわそれ」 

「は?どういう意味よ」

「そのまんまの意味に決まってんだろ?日本語わかる?understand?」

 バチバチとメンチを切りあう二人に恥ずかしがっていたのも忘れ、春が止める。

「わーもう!二人とも喧嘩しない!」

「ちっ!」

「ぺっ!」

 呆れる春が話題を変えようと頑張る。

「そ、そうだ!エミ君、ポーラちゃんのこと何か知らない?」

「ポーラ?ポーラがどうしたって?」

 急な話題にも対応するあたり、一応のコミュニケーションの雨量は向上したようだ。

「いや、ポーラちゃん入学初日以来全然学校来てないよね?心配で」

 心配?なにを心配することがあるのか。エミーリオは首を傾げた。

 あの月夜の一件でポーラは少なからずケガを負った。ついでにプライドも傷ついたはずだ。 

 プライド高そうだったし、今まで負けを知らない人生だったのではないかと想像できる。だからそれを知っている彼やクロームが心配するのはまあわかる。

 だが、それを知らない目の前の彼女はなにを心配することがあるのだろう。先ほど彼女が言った通り、ポーラが来たのは学校初日のみだ。そんなポーラと親しいわけがないし、親しくなければ心配する要素が見当たらない。

「エミ君、何か知ってる?」

 だが目の前の彼女は本気で心配している様子で、ここでエミーリオ相手に嘘をつく理由もない。

「あー、」

 彼は逡巡する。別に隠す必要も逆に言う必要もないのだが、どうしたものかと目を泳がせる。

「あれだ。体が弱いんだよ」

「やっぱり!肌とかすごく白かったもんね!」

「そうそう。病気なんだよ。すっごい重い病気」

 適当に法螺を吹いていると春は納得したのかウンウン頷く。

「あ、チャイム鳴っちゃった」

 教室戻らなきゃ。と春は律儀に手を振って廊下を走っていく。同じクラスだというのに。

「・・・・・」

「・・・・・」

 場に残ったのは沈黙。良くも悪くも会話の主導権を握っていたのは春で、二人はそもそも二人きりでは会話をすることが珍しい。

「あのさ」

 そんな沈黙の中、口火を切ったのは風のほうだった。

 風の言葉に彼は答えず、それでも言葉は続く。

「なんであんな嘘ついたの?」

「嘘?」

「ポーラちゃんが重い病気だって」

 ああ。とようやく合点がいったように彼はつぶやく。

「って、なんで嘘ってわかるんだよ」

 先述の通り、ポーラは学校には入学式の初日にしか姿を現していない。風だって春と同様ポーラという人について知っていることなど皆無に等しいはずだ。

「だって私この前ポーラちゃんが学校で鶫先輩とか一条先輩とかと暴れてるの見たもん」

「・・・・なにやってんだあいつ」

 てっきり傷心中だと思っていたのに。どうやら傷は癒えたらしい。

「で?なんで?」

 背はさほど変わらないくせに、まるで見下ろしているかのように言う風にエミーリオは舌打ちをしながら。

「別に、ただの嫌がらせ」

 ポーラに対しての。と付け加えると風は「ふーん」と存外そっけない。

「仲いいのね」

「ざけんな」

「ま、なんでもいいけど春を必要以上に不安にさせないでよね」

 それだけを言い残すと、風も廊下の先に消えていく。

「いやだから、同じクラスだろうがよ」

 教室など目の前にあるというのに、何をそんなにかっこつけているのか。

 エミーリオは勿論そんなことはせずに素直に扉を開ける。

「・・・・あり?」

 が、教室内は整然としたもので、誰一人いなかった。

 おかしい。だってすでにチャイムは鳴っており、もうすぐ始業のベルさえなってしまうこの時間に誰もいないなどということは・・・・。

 そこまで考えてエミーリオは気づいた。

「———————移動教室・・・かよ」

 誰も教えてくれなかった。いかにエミーリオがクラス内で浮いているかがわかってしまう。

 走り去っていく姿がなぜか哀愁帯びているように感じるのはきっと見てる側だけだろう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 そして、学校が終わり約束の放課後。

 いつものエミーリオなら直行直帰もしくはビーハイブの任務に勤しむのだが、今日はそのどちらでもない。

「・・・えーっと?ここか」

 地図とにらめっこしながらたどり着いたのは集英組の本部。つまり一条楽の家。

 相変わらずバカでかい。豪邸と呼んでも差し支えないほど、静かな煌びやかさに包まれていた。

 前回来たのは約半年ほど前のことで、しかも跳ね馬に連れてこられたそれ一回のみである。

「よっこいせ」

 だというのに、まるで緊張感も何もなくエミーリオは扉を開きズカズカと侵入していく。

「おいこら!ガキィ!なに勝手に入ってきてんだ!」

「ここを天下の集英組と知ってのことだろうなぁ?あん?」

 玄関を開けたら二秒で極道が。

 スキンヘッドにサングラス、パンチパーマに顔に傷というコッテコテの外見をした極道が二人。エミーリオの行く手を遮る。

「・・・・・」

 ぼけーっとした瞳で二人を見つめるエミーリオ。日本に来る前に見たマンガに確かこういうやつらが出てきたなーなんてそんな的外れな感想を抱いていた。

「おいてめえ言い訳くらいしたらどうだ?」

「まあどのみち、天下の集英組に無断で不法侵入したんだ。無事に帰れると思うなよ」

 コキコキと首やら指やら鳴らす二人。

「いや、不法侵入って普通無断だろ。どこに今から不法侵入しまーすって宣言するやつがいるんだよ」

 そんな二人を無視するようにエミーリオは空気を読まず指摘する。

 その指摘に、エミーリオの目の前にいる二人はこめかみに青筋を浮かべる。

「「上等じゃコラァ!!いてもうたれや!!」」

 これまた分かりやすくキレた二人は自分たちよりも明らかに体躯の小さい子供を潰すべく突進する。

「ふっ。馬鹿が」

 ニヤリと口角を上げるエミーリオは突進してくるスキンヘッドの懐に潜り込み勢いを利用して一本背負い。

「がはっ!!」

 自分の体重と突進した力を利用され思いっきり床に叩きつけられたスキンヘッドは灰の中の空気をすべて外に出した。

「なっ!」

 それを見て、パンチパーマの男は一瞬で危険と判断したのだろう。突進しようと突き出した足を踏みとどまり急ブレーキをかけた。

 が、急ブレーキしても勢いは完全には殺せず体重の重心は前へ。

 それを見逃さないエミーリオではない。一本背負いした体制のまま右足を回して後ろ蹴り。

 見事かかとがあごにクリーンヒットしたパンチパーマは横からの急な衝撃に耐えきれず体が崩れ落ちる。  

「はい、一丁上がり」

 ゆらりと立ち上がり、手を払う。目の前には気絶しているパンチパーマ。後ろにはこれまた気絶したスキンヘッド。

 これにて極道の気絶落ち、二人前の完成である。

「————————なーんてな!!」

「っ!」 

 と、エミーリオが油断した隙を狙っていたのだろう。気絶したかに見えたスキンヘッドが低い姿勢そのままに手元に隠していた小型のナイフでエミーリオの喉元を狙う。

 一瞬の油断を狙われたエミーリオは成す術なくナイフの錆となる。

「なーんてな」

「なにっ!」

 まるで意趣返しのように同じセリフを発するエミーリオはパシリとナイフを指の間に挟み、自分より明らかに大きい拳を握る。

「うぐっ!油断したことさえも、撒き餌!!」

 完全にとったと思っていたスキンヘッドはあまりの驚きに思わず口から言葉が漏れ出る。

 指の間に挟まれたナイフはまるで手元で生きているかのように滑らかにエミーリオの手元に収まる。

「形成逆転、って感じ?」

「———————、」

 上から見下ろされるスキンヘッド。その喉元に自信のナイフが持ち主を変えて突き出されている。

 数センチでも動けば頸動脈がスパッと。

 その数センチを目の前のガキはやる。仮にも極道に身を染めた身。その判断くらいはできた。

 ごくりと、生唾を飲み込むことすら許されない。そんな距離。 

 

 

「こらこら、なにやってんだお前は」

 

 

 完全に場をエミーリオが支配していたところで、邪魔。

「・・・・一条楽」

 エミーリオの後ろにいたのは頭にタオルを巻き、作業着のようなものに身を包んだこの集英組の一人息子。 

「ウチのもんをあんまりいじめるんじゃねえよ。って、お前も”ウチのもん”だったな」

 ガリガリと頭を掻く一条楽にエミーリオは向けていたナイフをだらりと下げる。

 余程の緊張だったのだろう。スキンヘッドはその下げられたナイフを見るや否や大量の冷や汗と共に力なくうつ伏した。

「・・・・で?その格好はなんだよ」

 そんなスキンヘッドを見て興味を無くしたのかエミーリオは先ほどのような力強さは一切なく、一条楽に質問した。

「あ?ああ、これか。まあついてくればわかるよ。お前も着替えるか?」

 スキンヘッドを担ぎ、もう一人を運ぶため組の連中を呼んでいた一条楽はクイクイとエミーリオを誘う。

「いやいい」

 即答で断って、彼はふと思う。つーかこいつ、今俺の後ろをとったか?と。

(いや、油断していただけ、か) 

 深くは考えないことにして、とりあえずついていくことにした。元々事を荒立てる気はない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 スキンヘッドたちを部屋に寝かせてからたどり着いたのはでっかい庭。

 素人目にも立派に見える鯉が泳いでいる池や、しっかりと手入れが行き届いている木(なんの種類かはわからない)。

 そんな庭の片隅に、これまたどでかい木組みの土蔵のようなものが一つ。

「あー!エミーじゃん!!」

「うげ」

 そんな土蔵の前でブンブンと手を振っているのは一条楽の彼女。桐崎千棘。

 がばりと覆いかぶさるように抱き着いてくる桐崎千棘はどうやらエミーリオが大のお気に入りらしい。

「もう!なんであれ以来ウチに来てくれないの?待ってるんだからね!」

 エミーリオの心底嫌そーうな顔に気づくことなく桐崎千棘はプンスカと怒る。

「ちゃんとご飯食べてる?お風呂は?家計は?」

「オカンかお前は」

「モヤシには聞いてないわよ」

 注意を逸らした瞬間になんとかエミーリオは桐崎千棘から脱出。

「ちっ。なんでまたこうめんどい奴が」

 ある程度の距離をとって頬を伝う汗をぬぐっていると、後ろからガチャリと鉄の音。

「貴様・・・!事もあろうかお嬢に抱き着くとは・・!自分の立場がわかっているんだろうな?」

「いやどう見ても俺が抱き着かれていたようにしか見えませんでしたが?」

 後ろにはリボルバーを突き付けている鶫。

 両手を挙げて抵抗する意思の無さを表明するエミーリオに銃口はなおも動かないままだ。

「ふふ。丁度いい機会だ。貴様には今後のためにみっちりと教育しておいてやろう」

 歪んだ笑顔を浮かべる鶫。

「それはいやだなあ」

「はっ!貴様の意思など関係ない。二度とお嬢に不遜な態度をとらせんよう調教するだけだ」

「この野郎。ぶっちゃけやがったな。調教って言ったな!」

 エミーリオとて、このまま黙って調教されるのは嫌なので。

「っ!!」

「なにっ!?」

 後ろ向きのまま、かかとを振り上げ鶫の持っていたリボルバーを真上に飛ばす。

「くそっ!」

 鶫はまさか反撃されると思っていなかったのだろう。焦って懐に持っていたもう一丁の拳銃を引き抜こうとするも。

「させるかよ!」

 すでに振り向いていたエミーリオの右手に抑え込まれ阻止される。

 そして残った左手で、彼は飛んできたリボルバーをキャッチし目の前に突きつける。

「油断大敵って知ってるか?」

「こんのぉ・・・!」

 ピキピキと額を歪ませる鶫と対照的に嘲笑っているかのようなエミーリオ。

「こら!鶫!エミーに乱暴しない!アンタのほうがお姉ちゃんなんだから!」

「い、いえお嬢!これはどう見ても私が乱暴されているようにしか見えないのですが!」

 涙目で訴える鶫。まさか自分が責められるとは思ってもいなかったのだろう。

「あ!エミー君も来てたんだ!」

「春・・・に風もか」

「ふん、アンタも頼まれたのね」

「お姉ちゃんを守り隊。ここに結成だね」

 なんだかよくわからんが、どうやら二人は小野寺小咲の為にここに来たらしい。

 改めて周りを見回すと、他にも小野寺小咲や橘万里花もいる。

「なんだこの人選」

 てっきり任務でも言い渡されるのかと仕事モードにしてきたのだが、どうやら違うらしいというのはまあだいたい土蔵に連れてこられた時点で感づいてはいたが。

「あー!アンタ!!」

 その中でも一際大きな声でエミーリオを呼ぶのは。

「・・・・ポーラ」

 華奢な体に整った顔立ち。エミーリオと同じく真っ白い髪の女の子。

 ポーラ・マッコイがそこにいた。

 怒った顔で。

「ん?なんだ?二人は知り合いだったのか」

 

「「知り合いじゃない」わ!!」

 

 息ぴったりで否定する二人。

「わー、やっぱり仲良いんだ」

 

「「どこが!!」」

 

 再度、春の言葉も同時に否定。

 

「ちょっと、真似しないでくれる?ちょっと一回私に勝ったからって調子に乗らないでよね!」

「おいおい。自意識過剰なんじゃねーの?誰もお前のマネなんかしてねえし。つーか勝ったって何の話だ?なんか俺たち勝負したっけ?」

 ガルルルと飢えた野獣のように唸るポーラを煽るエミーリオという図式が成立していた。

「やっぱり仲良いじゃない!」

「春。もうその辺にしたほうがいいと思うよ」

 呆れた様子の風が春に忠告したところで、一条楽が口を開く。

「えーっと、皆集まってくれてサンキュな。これから土蔵の整理をやるから。悪いけどよろしく」

 そんな一条楽の言葉を聞いて、エミーリオは素っ頓狂な声を上げる。

「はあ?土蔵の整理?」

「ああ。あれ?言ってなかったっけ?」

 言ってなかったよ。と、明らかに下がっているテンションで告げる。

「ああー、なんか親父が急にな。この土蔵広いし一人じゃ無理そうだったから」

 バツが悪そうに言い訳する一条楽に、不満をこぼす。

「組員にやらせりゃいいじゃんか」

「いやーあいつらに任せると・・・」

 目を逸らす一条楽の目線の先には桐崎千棘。

「?」

「いや、なんでもない!とにかく、頼むよ」

 申し訳なさそうに懇願するので、ため息をつきながらエミーリオは折れた。

「いやー、悪りな!サンキュ!あ、そうだ!お礼ってんじゃないけどさ、どうせここにあるの要らないもんばっかだし、なんか気に入ったのあったら持って帰っていいから」

「あ、そう」

 興味がない。そんな態度と足取りで彼はわーきゃー騒いでる連中のもとに。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 土蔵に入ると、多少埃っぽいものの中々綺麗で整理するほど散らかっているわけでもなかった。

「春?」

「そういえばさー。なんかさっきから桐崎先輩と一条先輩変だよね」

 春と風は外で空箱を片付ける役目だった。

 そんな春が土蔵の中を見ながら訝しむ。

 確かに彼女の言う通り、二人はどこか変だった。恥ずかしがっているようなギクシャク感。

「ここでなんかあったんじゃねえの?」

 どさりと、中から空箱を運んできたエミーリオが会話に参加する。

「なんかって・・・なに?」

「そりゃお前、彼氏と彼女が一つ屋根の下、っつうか土蔵の密室の中することといったら一つだろ」

「???」

 春はエミーリオの言っている意味がイマイチわからないのか頭の上に?マークを浮かべている。

「だから「セクハラ」」

 言葉を遮るように風の顎を狙った見事な上段蹴り。

 それをかわし、んべーっと舌を出したエミーリオはそのまま土蔵の中に。

「ったく。珍しく自分から喋ったと思ったらロクなこと言わないんだから」

「???結局何?」

「いいんだよ。春はわからなくて」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ったく、ロクなもんねえな」

 先ほどからエミーリオはめぼしいものはないかと土蔵を探っているが、出てくるのは古びた時計やら鉄くずやらガラクタばかり。

「おっ」

 そんな中で見つけたのは、武器の貯蔵だった。

「こんな中にあるものはもらっていいってことは、これももらっていいってことだよな」

 武器はビーハイブから支給されてはいるが、任務の時にしか使えない。一応自分が自由に使える武器というのもあって損はないだろう。

「つっても、どれもこれも使えねえな」

 所々錆びていたり、手入れが必要だったり、パーツが欠けていたり。

 ひと手間かけようと思うほどの執着は今の彼にはなかった。

 その中で、唯一使えるものが。

「日本刀・・・・?本物か?」

 すらりと伸びる刀身。見た感じまだ新しい。つい最近まで使われていたようで刃こぼれもない。

(まあ、いつも使ってたやつは没収されたからな。しばらくはこいつを使うか)

 幼少の頃から持っていた日本刀は日本に来るとき、リングと匣と共に没収された。

 気に入ったのか、そのままエミーリオは持ち帰ることに決めた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「はー、終わったー」

「大丈夫ですかお嬢?終始何かを気にされていましたが」

「へっ!?///平気よ!」

「わりいな小野寺。手伝わせちまって」

「ううん。楽しかったし、良かったよ」

「一条先輩!お姉ちゃんから離れてください!この色欲魔!」

「春。そういう言葉は知ってるんだね」

「そういえば、橘がいないようだが?」

「あー、あいつは途中具合悪くなって本田さんに迎えに来てもらった」

 ワイワイと談笑する中。エミーリオは一人、木陰に佇んでいた。まだ五月だというのに少し運動すると汗が滲む。

「よっ。お疲れ」

 涼んでいると、人の塊から一人こちらにやってきた。

「・・・・一条楽」

「楽でいいぜ?」

「何の用?もう仕事は終わったはずだろ?」

「ん、お前さ。指輪とか興味ある?」

「指輪?」 

 突然何をいいだすのかと怪しげな視線。

「これさ、さっき土蔵で見つけたんだよ」 

 そう言って差し出された掌に乗っかっているのは禍々しい形をした指輪。

「なんか変なデザインだけどさ、好きなら持って行ってくれよ」

 太陽に照らされて、眩しく光る笑顔に押されてそれを受け取る。

「じゃ、今日はありがとな」

 手を振っていく一条楽を見送りながら、掌の指輪を空にかざし眺める。

 その指輪は紫色の水晶のような石がはめ込まれており、その石の中には霧のようなもやが渦巻いている。

 

 

「・・・・チェーンがついてんのか」 

 

 

 その指輪を全体的に覆っているのは鎖のようなチェーン。

 ぼーっとした頭で、なんとなくそれを指に嵌めた。

「——————————反応しないな」

 もしやと思い、指に嵌めてみたのだが、これは炎を宿すリングではないらしい。

 リングはその性質上、常に微弱な炎を発している。その炎を感知されれば敵に見つかる恐れがあるため、エミーリオのような暗殺者は特殊なチェーンを装備してその炎を隠すのだ。

 だが、隠すといっても完全ではない。指に嵌めれば多少なりともそれがリングかどうかはわかる。まあ、リングに嵌めるというシチュエーションがもう既にありえないので、やはりこのチェーンは完璧といえよう。

 だから、彼もこれがリングかただの指輪か見分けるためその指に嵌めたのだが、反応も感じ入るものもなかったためただの指輪と判断した。

「はぁ、疲れた」

 とりあえず用は終わったみたいだし、帰ろうと砂を払いながら立ち上がる。

 ちらと騒々しい方を見れば、また何か一条楽がやらかしたらしい。春が顔を真っ赤にしながら怒っているのが遠目でもわかる。

「・・・・あんな顔、するんだな」

 ぼそりと独り言。彼が見ていた春というのは、お節介で、バカで、いつも笑顔なそんな女の子だった。  

 だが今見ている春は、今まで見ていた春とは違う。まるっきり。

「なに?嫉妬?見苦しいんだけど」

「・・・・お前さ、僕をイラつかせることにおいては天才だよね」

 いつの間にか近づいてきていたのは風。腕を組んで、相変わらずじとっとした視線を彼に送っている。

「お前こそいいのかよ。愛しの春が襲われてるぞ」

「ばっ!愛しのとか、そんなんじゃないわよ!」

「そうなの?てっきり百合キャラかと思ってたわ」

「——————アンタこそ、私をイラつかせる天才ね」

「わーいやったー褒められたー」

 まるで感情の乗っていない声でさらに風をイラつかせるエミーリオ。

 そんなエミーリオに文句を言おうと閉じた口を再度開こうとする風。

「アンタね————————————」

 だがその言葉は最後まで紡げなかった。 

 なぜなら。

「なにこれ!爆発?!」

 そう、一条邸の玄関辺りで目に見えるほどの爆発が起きたからだ。

 燃え盛る炎。上がる煙。一瞬で、日常から非日常に。

「・・・・・まさか」

 エミーリオには情報も確信もなにもなかったが、それでも気づいた。勘というやつだったかもしれない。

「まさか!!」

「なによ!」

 一人狼狽している彼に、焦燥感に駆られる。

 

「う”おおおおい!一条楽はどこだぁあああ!?」

 

 そして、災厄がやってくる。

                              To be continued.

 




どうもバッテリー高宮です。
今期のアニメはリライトやらイリヤやら楽しみなアニメが多いです。期待してます。
個人的にはこの美術部には問題がある!面白いです。まだ一話しか見てないけど。
では今回はこの辺で。バイバイ!

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