リボーン×ニセコイ!-暗殺教室~卒業編~-   作:高宮 新太

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標的14 Un ruolo(一つの役割)

 これから極秘任務、一条楽の人間性を報告するため観察目録をつける。以降、作成者はエミーリオ・ピオッティとする。

 この任務の意図は明確とされてないため、独自に作成者が集めた情報を統合したモノとすることで任務をこなす。

 

 

 並盛、am6:00。

 

 一条楽の朝は早い。ふわぁと大きなあくびを付きながら、廊下をペタペタと歩いていく。

 なぜなら、一条家の朝食や弁当は大体彼が作る。そのため、早起きを強いられることになるのだ。

「おはよーごぜえます。坊ちゃん!」

「あー、竜。はよー」

 キッチンというよりかは厨房といったほうが当てはまるような、そんなでかさのキッチンで一条楽は目の前にいる人物に呆れていた。

 佐々木竜之介(ささきりゅうのすけ)。集英組の若頭で血の気の多い組連中を上手くまとめ、同時に切り込み隊長のような役割も担っている。

「今日は何か手伝えることはありませんかね?」

 一条楽は憎んでいるという様子は見受けられないが、他人の目から見てもこうして少々干渉のしすぎなきらいがある。一条楽は昔からやめてくれと言って憚らないのだが、治る気配がないらしい。

「いや、あんましないな。つーか、お前まで一緒に早起きしなくてもいいんだぞ。どうせ仕込みなんて昨日のうちにほとんど終わらせてるし」

「いえいえ!坊ちゃん一人にやらせるわけにはいきやせん!何せ坊ちゃんは集英組の次期組長ですから!」

「いや、だから俺は組長にはならねえって・・・・」

 朝から声のでかい佐々木竜之介に小さく抗議しながら、一条楽は朝食の準備をする。

 

 

 

 

 朝食を終え、時間も差し迫ると彼は学校へと登校する。

「遅いわよ!バカもやし!」

「すまん。ちょっとバタバタしてて」

 彼女の名前は桐崎千棘(きりさきちとげ)。碧い瞳。綺麗な金髪を腰まで伸ばし、赤いリボンがトレードマークの控えめに見積もっても美人である。

 この桐崎千棘と一条楽は交際をしている。

 そこまでは別に問題ではないのだが、問題は桐崎千棘がアメリカに本拠を置くビーハイブというギャング組織の一人娘だという点だ。

 集英組もビーハイブも裏社会において単体ではそれほどの脅威にはならないが、これらが手を組むとなれば話は別になる。

 今まではなんの接点もない、どころか合えば一触即発の両者だったが一人娘と一人息子が交際、後に結婚なんて話にもなれば和解の架け橋となるだろう。

 少なくとも、今までのように潰し合うわけにはいかなくなる。

 その為、我らボンゴレはこれを阻害することにした。脅威の種は摘み取っておくに越したことはない。

 ・・・話が逸れた。本筋に戻そう。

 一条楽は毎朝、彼女とこうして(同封の写真参照)仲睦まじく登校している。多少聞こえる罵声なども親愛の証と思われる。

 以下、会話の一部を抜粋。

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「本当にもやしね。朝くらいきちっと起きなさいよ」

「起きてたんだよ、ただ飯作ってたら思いのほかかかっちまって」

「はぁ?飯?飯ってアンタ、朝ご飯自分で作ってんの?」

「ん?ああ、まあな」

「・・・・・料理男子ってやつ?なに?モテたいわけ?」

「ちげえよ!ウチの奴ら料理できる奴少ねえから、それで仕方なくだよ!」

「ふん!どうだか!」

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 男女の機微というのはよく分からないので、それはこの書類を送付した先の専門家に任せるとして。会話を聞く限り険呑な雰囲気というわけではない。

 このことからも一条楽が傍若無人な人間ではないと考えられる。

 それでは、ポイントを絞って一条楽という人間性を確認していこうと思う。

 

 

 am9:00

 まずは一条楽の交友関係。

「楽ー」

 廊下の先からブンブンと手を振っているのは一条楽の幼稚園からの幼馴染だという舞子集(まいこしゅう)。特徴は眼鏡。その他には眼鏡と、あと眼鏡。そして眼鏡を掛けている。

「なんだよ集、そんな大きな声で」

「いやいや、それが大きな声では言えないんだが・・・・また良い裏写真が撮れたんでね」

 下卑た笑みでヒソヒソと耳打ちをする舞子集。一条楽の方はというと、またか。と呆れた様子だ。

「お前、女子達にバレたら殺されるぞ」

「ふふん。そんなヘマはせんよ。それよりどうだい?これなんか」

「おま!これは・・・!お、おの」

「今なら友人割引でお安くしとくぜ」

 手元の詳細な写真は取れなかったものの、会話からどうやら女子の卑猥な写真を売買しているらしい。一般男子のそういう欲情は持ち合わせているようだ。

 このような悪友と呼ぶ人間の他にも、クラス内外問わず会話をする程度の友人関係は築けていると見える。よって、あくまでも表面的には対人関係にも問題は見られない。

 

 

 

 

 am10:00 

 次に授業中の態度及び学力という面においての調査結果だが、学力は中の上といった程度で授業中もいたって真面目に講義を聞いているようである。 

 ヤクザの息子ということだが、将来の夢が公務員ということで真面目で堅実な性格だということが窺える。

 そのため、体育や運動神経という面では特筆するべきことはなにもなく、流石にヤクザの息子ということもあって運動音痴ではないようだが特別優れているというわけでもない。

 また教師からの信頼もあり、何かと雑用を押し付けられることもあるようだ。 

 このことからも、対人関係は良好と言える。一人になる時間も少なく、狙える時間は限られてくるだろう。

 

 

 

 

 

 

 pm12:30 

 そして最後に、最重要かつこの一条楽という人間を語るうえで不可欠な要素を上げることにする。

 ガヤガヤと騒がしい教室で一条楽は昼食を取っていた。共に机を並べているのは彼女である桐崎千棘。そして友人である舞子集。

 ここまではいい。同じクラスであるし彼女と昼食を共にすることくらいは不思議ではないだろう。

 が。

「あれ?千棘ちゃんお箸は?」

 一条楽という人間の問題は、彼女だけに飽き足らず多種多様な女子をその身に囲っているという点だ。

 まず一人、会話の口火を切ったのは小野寺小咲(おのでらこさき)。肩までのショートヘアに大きな瞳、柔和な笑顔。人柄が良さそうな雰囲気で、実際、この調査中にも他人から頼まれごとをされたり飼育されている動物に好かれていたりとその片鱗を確認している。

「え?・・・あっ!忘れた!!」

「はっ。なんだよ、人には朝きちっと起きろとか言っといて、自分だって寝ぼけて忘れものしてんじゃねえか」

「お嬢、ではこちらを」

 そして鶫誠士郎(つぐみせいしろう)。コイツに関してはこちらで調査をするまでもないので割愛することにする。

「駄目よ。それじゃ鶫が食べられないじゃない」

「そうですよ。桐崎さんはお弁当くらい”素手”で食べられるくらい手先が器用でいらっしゃいますから、お箸など必要ありません」

 次に橘万理花(たちばなまりか)。茶色がかった長髪に、イタズラっぽい笑顔。随所に一条楽を恋愛対象としているような発言が目立つ女の子である。調査中も常に距離が近く(資料参照)、下手すると浮気という可能性もある。

 このように、一条楽という人間は彼女がいるにも関わらず、数人の女性と親密な関係にある。もし、一条楽の弱点を挙げろと問われればまず間違いなく女性関係におけるだらしなさを上げるだろう。

 色仕掛けという作戦をとる場合に関してはなんとも言えないがきっとあまり効果はないと思われる。前述と反するようだが。なぜなら女性に関してアグレッシブとはとても言い難く、囲っている割には純粋というか一種の潔白差が見えるからだ。

 さて、ではどうやってこの女子たちを集めたかと言えば、鶫に関しては自身の主である桐崎千棘に付き添っているだけにしても日本の風土、常識、環境を見ても一介の高校生とは思えない。親のヤクザであるということを権力に振りかざしているわけでもなさそうで、純粋に一条楽の周りにこれだけ女性が集まったということだろう。

 なので、一条楽を弱体化させるとするならばこの女子たちから崩していくのが得策のように思える。

「どういう事よ万里花!」

「あ、あの二人とも喧嘩は・・・・」

「まったく、くだらないわね。お箸なら購買部にでも割り箸があるんじゃない?」

 ああ、忘れるところだった。最後に宮本るりという人物も一応報告しておくことにする。

 ポニーテイルを腰の辺りで揺らす眼鏡の少女。毒舌的であり、小野寺小咲とは友人関係である。

 ただ、あまり一条楽と親し気というわけではないので、調査対象からは外してもよいと考える。

 さて、ここまで一条楽という人間を要約して調査報告をまとめてきたが、ここからはエミーリオ・ピオッティ自身の見解を述べさせてもらおう。

 この任務が緊急でボスから発令され、今までおよそ半月程度調査をしてきたわけだが、結果を述べさせてもらうと一条楽は、ボンゴレの脅威とは考えにくい。

 別に情にほだされているわけでも、裏があるわけでもない。というかそもそもあまり親密になると任務に支障が出るとの考えから、任務対象とは数回喋った程度であり、顔見知り程度の関係である。

 ただ純粋に疑問なのだ。

 イタリアマフィア最強と謳われ、最早裏社会では強敵も少ない。そんなボンゴレが直々にしかも緊急にこのような任務を発令する意味、意図が読めない。末端である自分にそれが伝わってこないのは珍しくないが、今回ばかりは我慢できないのでこうして書面で直訴することにした。

 回答を求む。

 調査の報告に戻るが、一条楽にヤクザの二代目を継ぐ意思はないと思われる。根拠は一条楽は自身の平凡を願い、前述したように公務員を目指しているということ。これらは調査の中にもあるように非常に信憑性は高い。

 よって、ヤクザの二代目を継ぐ可能性は限りなく低いと思われ、また一条楽の手でビーハイブと手を組み、ボンゴレを脅かす可能性も、また低い。

 では、桐崎千棘はどうなのかと問われれば答えは分からない、だ。

 一条楽を調査するにいたって、当然この疑問に行き着くわけだが、桐崎千棘を調査してもその断片は得られなかった。

 将来の夢。過去のトラウマ。現在の立場。家庭環境から性格まで。得られる情報は限りなく集めたが、桐崎千棘が集英組と手を組みボンゴレを脅かす。という点においては不明瞭なままであった。

 エミーリオ・ピオッティの立場として、今はビーハイブ所属となっていることから、上司の眼などもあり調査はここまでが限界だと感じる。

 が、しかし。

 少なくとも、片方にその意思が感じられない以上、やはり脅威は限りなく低いのではないかと述べさせてもらう。 

 加えて、ここ数か月見張りや桐崎千棘が在住している家で接して、性格というただ一点に絞ればそういった画策が出来るタイプには見えずまた、野望があるようにも見えない。

 結論として、一条楽と桐崎千棘が手を組みボンゴレを脅かす可能性は低いと思われる。

 ただ、これはあくまでも任務の内容。つまり一条楽という人間に基づいて行った調査であり、結論だ。これと現集英組組長と、ビーハイブのボスがどのように考えているかは未だ不明である。もしも許されるなら追々そちらも調べていくことにする。

 これがボンゴレ十代目からの直属の任務ということは、何かしら重要な案件なのだろう。白紙の手紙といい、今回といい随分と情報統制が厳しいようだ。ボンゴレ内部に裏切り者でもいるのか、それとも———————。

 

 とにかく、これで調査報告を終了とさせていただく。

                           エミーリオ・ピオッティ

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 裏切り者云々の一文を、迷った末に削除して。エミーリオ・ピオッティは一つ大きく息を吐いた。

 時は既に六月。入学から二か月あまりたった現在では新入生も新生活に慣れてきて、交友関係も大体グループが固まって来る頃だ。

 一方、エミーリオはというと。相変わらず友人と呼ばれる存在はなく、こうして任務に費やす日々である。

「・・・・・終わった?」

「ぬわああ!!」

 ずっと見ていたのか唐突にひょっこりと顔を覗かせたのはクローム髑髏。居候である。

「お前さ!急に現れるのやめてくんない!!」

「・・・ごめんなさい」

 なぜクローム髑髏が居候をしているかというと、単純に住む家がないからだ。 

 六道骸から追い出されたのか、はたまた自分の意志か、二か月ほどたってなお真意は分からないままだが放っておくことを家庭教師であるリボーンが許さず、こうして居候という形で同居しているわけだ。

「ていうかビショビショじゃねえか」

 ちらと外を見ると、霧雨のようにうっすらと雨が降っている。両手に抱えた荷物は無事なようだが、変わりにクロームが濡れていた。

「大丈夫、ちょっと買い物に出掛けただけだから」

 クロームが来るまで彼の食生活は、それは酷い有様だった。カップ麺に冷凍食品、たまに外食。ただ、外に出ると外見から目立つので極力、家で済ました。

 その結果、卒業してわずか数週間で台所はカップ麺の残骸で埋もれ、立派なゴミ屋敷と化していた。

 エミーリオだって、最初は綺麗に使おうと努力をしていたが、段々めんどくさくなり結果家事を手放した。

 勿論、クロームが居候してきた日もその有様だった。それを見かねたクロームが今は家事全般を手伝っているわけだ。

「良いからシャワーくらい浴びてこい」

 荷物をひったくって彼は乱暴にそう言う。

「うん」

 傍目から見れば仲の良い姉弟に見えなくもないそんな光景に、しかしクロームはパソコンの液晶に映し出されているモノを不思議に思う。

「それは・・・?」

「なんでもねえよ」

 パタリとパソコンを閉じる彼に首を傾げるクローム。

「いいから、さっさとシャワー浴びてこい!」

 そんなクロームにグイグイと風呂場まで押していき、やや強引に扉を閉める。

「・・・・はぁ」

 いくら元、霧の守護者とはいえ極秘扱いの任務内容を知られるわけにはいかない。

 エミーリオは閉じたパソコンを再度立ち上げ、一枚印刷する。そこに死ぬ気の炎を———————。

「そういえば、リング没収されたんだった」

 そこではたと気づく。こういった極秘の任務の場合偽造を防ぐため本人だと証明するために死ぬ気の炎を烙印するのが常だ。

 だが、彼にはリングがない。

 一つ、深いため息をついて彼は考える。

「・・・一度ボスのもとに送るか」

 ボスから沢田綱吉の元に送ってもらい、それを証明代わりにする。これが次点で有効な策だろう。

 ボスには連絡を入れるとして、彼はもう一度自分の報告書と向き合った。

 この任務を発せられたのがつい半月ほど前。送られてきた一通の便箋。宛名も住所も記載されていないそれには大空の死ぬ気の炎と共に、一条楽の身辺を報告せよ。との一文のみ。

 その意味も意図も明確にされないまま、調査を進めてきたが、任務内容とズレがないなんて確証はない。自分としては多角的に調査を広げたつもりではあるが。

「まあ、最低限の仕事くらいはしてるだろ」

 もしズレが生じていたとしても、それは明確にしなかったあちらの不手際であり、こちらの落ち度ではない。

 まあ、最後の十代目批判とも取れる一文は削除しておいたし、書いただけで満足なのであとはどうでもいい。

 そう結論づけ、エミーリオは素早く報告書を折り畳み、早速ボスのもとへと送るため雨の中外に出るのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 日本。とある空港。

「しししっ♪カムバーック」

「せんぱーい、ミーの足踏んでるんですけどー。ちょっとー、ねえ、聞いてます?」

「うるさいぞフラン。これはボス直属の命令なのだ。迅速かつ丁寧に仕事を終わらせボスに報告するまでが任務だ。まあ、日本のガキ一人くらいすぐに終わらせられるがな。ガハハ」

「やだ、もう。油断しちゃダメよ。一応ヤクザの息子なんだから」

「まったく、報酬が低いこんな任務なんて”ヴァリアー”全員でかからなくてもいいと思うけどね」

「う”おおおい!うるせーぞてめえら!いいからさっさと行くんだよ!”並盛高校”にな!」

To be continued.




どうもダイヤモンドは砕けない高宮です。
めっちゃ時間かかった気がする。
次回もよろしくお願いします。

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