リボーン×ニセコイ!-暗殺教室~卒業編~-   作:高宮 新太

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もう一つのヘルリング編
標的12 Altro anello di Hel(もう一つのヘルリング)


 カランコロンと間抜けな音が最早誰もいなくなったビルに虚しく響く。

「・・・やっぱりね」

 ポーラ・マッコイ。眩しいほどに白い髪にちっこい背。不遜な態度が顔に出てしまっている少女。

 暗殺者である。

 その少女はエミーリオか被っていた狐のお面を剥ぎ取り、そう言った。

「・・・・・」

 エミーリオはしまったというような、でもまあ別にバレたところでという一種の諦めのような。どっちつかずの表情で目の前の少女を見ていた。

 それよりも気になったのは。

「やっぱりって?いつから知ってたんだ?」

 肩をすくめ、そう尋ねるとポーラは答えた。

「最初に会ったとき、私名乗ってないのにすぐ名前を当てられた。それも白牙(ホワイトファング)というコードネームじゃなく、本名で」

 ああ、そういえば思わず口をついてしまっていた気がする。それもこれも鶫が変に隠しモヤモヤさせたせいだ。

 心の中で鶫への悪態を突いていると、「それよりなにより」ポーラがビシッと指をさしてきた。

「あん?」

「その頭よ」

 ああー。これは納得ですわー。

「私の本名を知っている人なんて学校で自己紹介した時くらいのものよ。まあビーハイブの人間もいるけど、そんな真っ白い髪の人、私は知らないわ」

 そしてクラスでこんな髪してるのなんて僕以外あり得ない。というわけ。

 まったく。こんな恥を忍んで仮面までつけたってのに、意味がなかったじゃないか。

 そもそも、なぜクロードはこんな仮面を用意したのか。

 まあ、それもこれももうどうでもいいことだが。

「じゃ、僕の正体も知れたところでもう帰ろうぜ。ここに長居したってしょうがな——————————————」

 言葉をつづけようとして、できない。

 なぜなら。

 

 

 目の前に、少年がいたから。

 

 

「・・・・・っ!」

 いつからいたのか。どこからいたのか。

 気づいたらいつの間にかいた。気を抜いていたと言われればそれまでだが、仮にもプロの殺し屋が二人いてそのどちらにも気づかれずにこんな人気のないビルに入ってくるなど並大抵ではない。

 彼は確信していた。先のチンピラから聞いた少年の情報。そして目の前にいるのも、また少年である。

 これが、偶然であるはずがないと。

「やれやれ。こっちも駄目ですか。中々思い通りにはいきませんねえ」

 その姿にも、声質も笑い方も何もかも、知らないはずなのに。知っている。

 そう、彼は知っていた。目の前の少年を。

「その中でも、ここはまだマシのようですね。一つ、収穫はありましたから」

「ちょっと、アンタなに?ガキがこんなとこ来るんじゃないわよ」

 どうやらポーラは目の前の少年を警戒しているらしい。口ではそう言いながらその瞳は、細く、鋭く光らせている。

「ねえ。久しぶりですね、今は”エミーリオ”と呼んだほうがいいでしょうか?」

 ポーラの言葉を無視しクフフと笑うその少年。

「は?なに?知り合い?」

 ポーラは少年の言葉にキョトンと警戒を解いて振り向いてきた。

「バカ!!」

 その姿を、目の前の少年は見逃すはずはない。

 ありえないほどの脚力で、一瞬で目の前に迫るとポーラが振り向く間もなく、後ろ向きに組み敷かれる。

「きゃっ!」

「クフフ。いけませんよ。子供だからと油断しては」

 ニッコリと笑うその顔に、ピッと赤い血が飛び散る様子は悪魔そのものだ。

 軽く舌打ち。これから起こる現実に辟易する。

 予想通りバタリと少年は倒れた。そして入れ替わるようにポーラがユラリと立ち上がる。

「ふむ。良い体だ」

 男にとってなにをもってして”良い”のかどうかは知らないが、どうやらおめがねには叶ったらしい。

 グルグルと肩を回し、コキコキと首を回し、そしてフッと笑った顔は紛れもなくポーラそのものである。

 であるのだが、放つ雰囲気が全く違う。

 瞳が片方だけ赤く染まる。

 ()()は最早別人と称すべきものだった。

「六道、骸」

 こんな芸当ができる人間を、彼は他に知らなかった。

「クフフ。どうでしたか?彼らは」

「やっぱ、あんたの差し金か」

 ちらと、伸びているチンピラたちを見る。

「で?なんの目的があってこんなこと」

「教える義理などありませんよ。と、言いたいとこですがね。今日は特別に教えてあげます。なんと言ってもあなたは僕の弟子ですから」

 笑うポーラ。いや、六道骸に彼は表情を変えない。

「いえ、なにも難しい話ではありませんよ。単純に戦力が欲しいのです」

「戦力?」

「ええ、ご存知かとは思いますが日本にはまだ本格的に匣兵器は出回っていませんからね。日本のマフィアより先にどんな人間が戦力になるのか、独自に調べているのです」

 まあそこの人たちは使い物になりませんでしたが。

 そう付け加える六道骸は、言葉とは裏腹にとても笑顔だ。

「で?なんでそんな話を僕にする?」

「言ったでしょう?弟子だからですよ」

「僕はそんなつもり一ミリもないが」

「クフフ。ええ、正直に話しましょうか」

 そしてエミーリオは続く言葉に驚愕に目を見開いた。

 

 

「あなたも、その一人なんですよ」

 

 

 意味が分からずに。

「あ?」

「隠しても無駄でしょうから言いますが、あなたをあの時拾ったのも。殺しのイロハを教えたのもその後に置いて行ったのも。全部この時のためです」

 六道骸はポーラの体で、エミーリオに近づく。

 目と鼻の先、息がかかるその数センチ先で六道骸の口は動く。

 ポーラの匂いで、ポーラの声で、ポーラの顔で。だけど、その思想も言葉もポーラのものではない。

「私と一緒に、マフィアを潰しましょう」

 ニッコリと可愛い笑顔で。 

 物騒なことを言う。

「・・・・・・・・・」

 彼は、黙っていた。

 ずっと、黙っていた。

 そして、ようやく口を開く。

 開いて出た言葉は。

 

「ヤダネ」

 

 キョトンと鳩が豆鉄砲を食ったような顔。まさか断られるなどとは微塵も思ってなさそうな顔だ。

「僕には今任務があるんだ。アンタの趣味に付き合っている暇はない」

「趣味、ですか」

「大体、僕を置き去りにしたアンタについていくと思ったのかよ」

「君は、そういうのを気にしないタイプだと思っていましたが」

「わりいな。案外女々しいんだ」

「この子がどうなってもいいんですか?」

「脅しのつもりか?だったらそいつは選択を間違えたな。僕にとってそいつなんて道端に転がる石ころだ」

「・・・・・・・・」

 今度は六道骸が押し黙る番だった。

「ふむ、まあいいでしょう。今日は再会できただけ良しとします。ですが」

 語尾を強めた六道骸はそのまま鋭い声で。

「僕から逃げられるとは思わないことだ。どんな手を使ってでも僕は君を手に入れますよ」

「あっそ。どうでもいいわ」

 できるだけ適当に、神経を逆なでするように挑発したような声。

「クフフ。そういうところは、相変わらずですね」

 そう言うと、フッとポーラの体が傾く。

「うおっ!」

「では、僕はこれで。ああ、アルコバレーノによろしくお伝えください」

 知ってるのか。リボーンが日本に来ていると。

 ま、当然と言えば当然か。六道骸は今はボンゴレの守護者なのだから。

「ああそれと、クロームのこと。頼みますよ」

 それを最後に、少年は霧の中へと消えていった。

「幻術、か」

 いったいどこからどこまでが。と、考えるのは意味がない。それこそ奴の術中にはまるだけだ。

 彼はポリポリと頭をかく。

「・・・・・帰ろ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 気絶しているポーラをおぶりながら、月夜の明かりが照らす夜道を歩くエミーリオ。

「疲れた・・・・」

 思わずそう声がでるほど、彼は疲れていた。

 肉体的にも、精神的にも。

 背中ですーすーと息を立てているポーラを苦々しく思いながら、六道骸に憑依されたのだから致し方ないと自分の心を慰めていた。

「・・・・・エミ」

 歩いていると、暗がりからクローム髑髏が。

「・・・・なんでここに?」

「骸様の気配が、したから」

 ああそう。と疲れた顔で生返事をするエミーリオに事情を聴こうとするクローム。

「待った。明日にしてくんない?もう疲れたんですけど」

「・・・・ごめん」

 俯くクロームになんとなく、目線を逸らすエミーリオ。

 続く沈黙に、耐えきれなくなったエミーリオはだーっと大声を挙げて。

「わーったよ!歩きながら話す!それでいいな!」

「・・・うん」

 見るからに華やいだクロームに舌打ちしながらズンズンと進むエミーリオにクロームは足早についていく。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「———————つーっこった。つまり六道骸は今この街にいて、そんで何か動いてるってわけ」

 夜道を歩きながら彼はクロームに大雑把に説明した。

 終始黙って聞いていたクローム。暗がりのせいかその表情はよく読めない。

 どういう事情で日本に来て、どういう事情で六道骸と別行動を取っているのか彼には分らなかったがどう考えても穏やかな雰囲気ではないだろう。

 彼はその事情に首を突っ込む気はなかったがそれだけは分かった。

「・・・・・・骸様はマフィアを嫌っているから」

 一歩後ろでそう言葉を絞り出すクローム。

「知ってるよ」

 理由は知らない。六道骸という人間がどういう人生を送ってきたのかも知らない。

 過ごした時間はわずか数か月だけ。

 それでもわかる。それですらわかる。

 六道骸という人間の根底に流れる憎悪というものが。

「—————————————んん」

「あ」

「・・・・やっと起きたか」

 ずっと背中で気を失っていたポーラがまぶたを擦りながら目を覚ます。

「・・・・・降ろして」

「あ?」

 ボソリとポーラは口を開くと、一気にまくし立てた。

「いいから降ろしてよ!なんでアンタにおんぶされなきゃいけないわけ!?」

 カチン。

 エミーリオのこめかみは血管が浮き出るほどピキピキとなっていた。

「あのなあ。誰が気絶したお前をここまで運んでやったと思ってる。あのまま暗がりの中、あそこに放置でもよかったんだぞ」

「うるさいうるさいうるさい!大体なによ!わけわかんない任務に急に呼ばれたと思ったらあんなわけわかんない奴らに手も足も出なくって!」

 よほどフラストレーションが溜まっていたのだろう。若干涙目になりながら激しく己が内に沸く感情を放出していた。

 あんな見た目完全にザコなチンピラに負けたのが相当悔しかったらしい、ギリギリと彼の肩に爪を食い込ませては歯を食いしばっている。

「あーもう!悔しい悔しい悔しい!!」

「あ!ちょ!コラ!暴れんな!!」

 ジタバタと背中で暴れるポーラ。仕方なく、エミーリオは彼女を降ろす。

 降ろした瞬間自身の状況を冷静に感じてしまったのだろう。今度はじわじわと目に涙を浮かべてガチ泣きしてしまう。

「どんだけ悔しいんだお前・・・・」

 そんなポーラに呆れた声を出す彼。

「だってぇ・・・ブラックタイガー以外にぃ・・・負けたことなんてなかったのにぃ・・・・・!」

 グジグジと涙を落とすポーラに彼とクロームは互いに目を合わせる。

 はぁと一つため息をつく彼を尻目にクロームは宥める。

「・・・・・大丈夫。あの人たちはリングと匣を持ってたから。あなたが敵わなくても変じゃない」

 どうやらその言葉は逆効果だったようだ。

 ぐぐぐと下唇を噛んでいたポーラは耐えきれなかったようでついにうわーんと走り去って行ってしまった。

 それほど自信と確信があったのだろう。

 まあそれも致し方ないことではある、エミーリオだって油断と自信があったわけだ。相手はたかだかチンピラだと聞かされていたのだから。チンピラだと称され、相手を格下に認定してしまったがため、ポーラの傷もまた深くなってしまったのだろう。

「・・・・・私、失敗した?」

「まあ、あの場合誰が何言ってもああなってたろうし。別にいいんじゃね?」

 走り去って行ったその背中を見ながら、彼は反対方向。つまり家路につこうとする。

 それよりも、なにより問題なのは—————————。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「クフフ。これで()()()()

 エミーリオとポーラが解散していたころ。薄暗いどこかの倉庫。

「結局、適合者は現れなかったぴょん!?」

「・・・・まだ、四十人だよ」

 野生的な瞳に特徴的な八重歯。

 眼鏡の下にバーコード、その瞳は石のように冷たい。

 そんな二人の男と、少年が一人。

「やはり中々、難しいものですね。わかっていたことですが」

 少年の瞳は、薄暗い倉庫で怪しく光る。

「あ、M・Mが帰って来たぴょん!」

「ちょっとなに?こんな埃っぽい」

 文句を言いながら、入ってくる女の子。ギャルのような格好をした赤髪の女。その脚には武器であるフルートが仕込まれている。

 これで、四人。

 現在並盛高校に通っているクローム、そしてヴァリアーに在籍しているフランを除けば六道骸ファミリー勢揃いだった。

 六道骸本人が憑依体だということを除けば。

「まだそんなガキンチョに憑依してんの?」

「しょうがないでしょう。今僕はイタリヤから離れられないのですから。腐ってもボンゴレの監視は一流ということですよ」

 やれやれと言った様子で少年は話の先を促す。

「で?()()()()は見つかったのですか?」

「フフン。私を誰だと思ってるの?タダで帰ってくるなんてこと、このM・Mちゃんがするわけないじゃない」

 得意げに鼻を鳴らすM・M。

「いいから早く話すぴょん!」

「うっさいわね!急かさないでよ!」

 一つ、咳払いをして。

「まったく、私がどれだけ頑張って探し出したか、一から愚痴ってやろうかしら」

 ブツブツと口元で陰気なオーラを発しているM・Mだったが周りの早く家という空気にハッとなりまた咳払い。

「クフフ。いえいえ、いいんですよ愚痴の一つや二つ。最も重要な任務をあなた一人に任せてしまいましたからね」

「・・・・・別に。そのことに関して不満はないのだけれど」

 あっさりと認められたからだろうか、M・Mは罰が悪そうに口を尖らせる。

 

 

「それで、結局どこにあるのですか?ずいぶん所在不明となっていた()()()()()()()()()

 

 

 ヘルリング。この世界に死ぬ気の炎が認識される以前からあったとされる六種類の霧属性最高のリング。

 その二つを六道骸が、一つはフラン、二つを幻騎士と言うミルフィオーレの幹部が、そして最後が川平というおじさんが所有している。

 しかし、それは未来での話。十年前の十年後の話だった。

 現在、そのヘルリングは一つが行方不明となっている。

 その行方不明のヘルリングを我が物するため、六道骸たちは動いているのだった。

 

「ヘルリングは、ここにあるわ」

 

「もう、ゲットしてきたの?」

 M・Mの言葉に千種が訪ねる。

「ううん。正確にはこの土地、つまり日本の並盛にあるわ」

「・・・・・・・・並盛に?」

 

 

「ええ。並盛の()()()が持っているらしいわ」

「ヤクザ?ヤクザがヘルリングを持ってるぴょん?」

「して、そのジャパニーズマフィアの名前は?」

 

「その名前は、”一条楽”」

 

「・・・・・・・・ほう」

 怪しく光る眼、オッドアイのその目が細くそして笑みに変わった。

  To be continued.




 どうもReゼロから始める高宮です。
 ということでね、なんか想像以上にていうか今までで一番時間がかかってしまいましたがそれはあれなんで。これからの展開とかも考えてたからなんで、こっからなんで、こっから本気出すんで。
 ていうかいつの間にか四月も終わりですよ。いつの間にかGWですよ。例年通りなんの予定もないですよ。
 まあなんで更新はドンドンやっていこうとか言っちゃうと後に引けないので言いません。
 次回もよろしくお願いします。

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