高校生活一日目。
彼、エミーリオ・ピオッティの高校生活は波乱の幕開けから始まる。
「・・・・・・・いやいや」
教室の目の前で、彼は首を振った。ありえないと、現実を拒否するように。
なぜなら。
「あ!エミー君!遅いよー」
「入学早々遅刻とは、いいご身分ね」
違った。こいつらじゃなかった。いや、こいつらも十分彼の頭を悩ませるタネではあるのだが、今回はそれよりも特大級のタネだ。
「ちゃおっす。ようやく来たな。もう二時間目だぞ」
「・・・・・・・・久しぶり」
過去の話などしたからか、いつからかフラグが立ってしまっていたのか。彼はまず、激しく後悔した。
いや、薄々感づいてはいたのだ。クラス発表の紙を一人遅れて確認した時から。
「はい、じゃあ自己紹介を再開しましょう」
どうやら、エミーリオが遅れてきたせいで自己紹介が止まっていたようだ。
「ちゃおっす。イタリアから来た、名前はリボーンだ。気軽に呼んでくれ。特技は暗殺。趣味も暗殺。以上だ」
リボーン。それが本名なのか、偽名なのかは知らない。黄色のおしゃぶりを持つ
ていうか、いきなり暗殺とかいうもんだからクラスの連中がドン引きしている。あいつ頭おかしいのか。
背は中くらい。くるりと巻かれた揉み上げに黒のハット。鋭い眼光はそれだけで鳥も殺しそうだ。
アルコバレーノの呪いが解け、高校生ほどの体格となった今。確かにここにいても不自然ではない。
・・・・・いや、やっぱりおかしい。どう考えても
あいつ、つまりは沢田綱吉。
なぜそう思うかと聞かれれば、それはリボーンが沢田綱吉のかてきょーだからだ。
ちらと、一瞬目が合ってすぐに逸らした。まったくもってたまったもんじゃない。あんなのと関わるのはごめんだ。
そして、目を逸らした先でまたまた見知った顔。
「・・・・・クローム・髑髏。えっと、よろしく」
「・・・・・・チッ」
おずおずと相変わらずなクロームを、彼は軽い舌打ちで迎えただけだった。
十年ぶり。だというのに、彼女は変わらない。
・・・・・いや、変わらなすぎじゃなかろうか。
十年前。彼女は中学生ほどだった。今は、多少は成長しているようだがそれでも普通に考えれば二十歳そこそこのはずだ。
だが、目の前にいる彼女はどうみてもお酒が飲める年齢には見えない。
どうやら、高校生になっても彼の渦巻く環境はそうは変わらないらしい。
「ポーラ。ポーラ・マッコイ。仲良くする気はないから、気安く話しかけないでね」
白い髪。その髪はエミーリオとそっくりだった。まあ、そっくり。というただそれだけなのだが。
いやそれよりなにより、彼はどこかで聞いたような気がするその言葉に首を傾げていた。
ポーラ・・・ポーラ・・・。まいっか。
結局思い出すことを諦めた彼にしかし、彼女のほうは視線を送ることを諦めてはいなかった。
「で?いったいどういうことだこれは」
昼休み。彼は当然、リボーンとクロームに話を聞いていた。
「ん?なんだ、聞いてないのか?」
意外といった様子のリボーンに、彼はイラつく。
またこれだ。情報の共有というか、どうも連絡に齟齬が生じている気がする。
まあ、今そのことを論じたところで意味はない。彼は話を先に進めるよう促した。
「今日から俺がお前の家庭教師だ」
「・・・・・・は?」
意味が分からずに、素っ頓狂な声をあげてしまう彼。
「どういう意味だ?」
「どうもこうもねえ。お前の任務、思ったより時間かかりそうだからな。緊急に俺がお前の家庭教師をしてやるっつってんだ。ツナのほうももうとっくに手がかからなくなったからな」
意味が分からなかった。
が。
「・・・ああ、そう」
決定事項なら、彼は従うほかにない。いつだってそうだった。今回もそうなだけだ。
「んで?お前はなんでいんだよ」
次なる疑問。クローム・髑髏。
「・・・・私は、もう霧の守護者じゃないから」
六道骸が出所している現在。ボンゴレ霧の守護者は晴れて六道骸本人だ。元々、クロームは骸の代わりだったのだからこれは自然だと言えよう。
「で?」
それが、今回クロームが高校に通うこととどういう関係があるのか。
「あなたと、一緒にいる」
・・・六道骸に追い出されでもしたのか。彼はため息を一つついただけでそれ以上は追及しなかった。追及したところでこれ以上何か出るとも思えなかったし。なによりもめんどくさいと思ってしまったから。
「その恰好は?」
「幻術」
「あっそ」
幻術で姿を高校生ほどにくらましているわけだ。
「ま、とにかくこれからはこの俺様がビシバシと鍛えていくからな。覚悟しとけよ」
そういうわけだった。
高校生活二日目。
彼、エミーリオは早速サボった。
昨日の出来事で疲れていたというのもあったが、何よりアルコバレーノがいるあの学校にいかなければならないというのが思ったより苦痛だったのだ。
が。
「ちゃおっす」
「———————————、」
口を開けて、加えていたアメをポロリと落とす。
町の繁華街を適当にブラブラしていた。
適当にあてもなく、気の向くままに歩いていたはずなのに。ピンポイントでアルコバレーノ、リボーンは現れた。フウといいリボーンといいストーカーかと疑いたくなる。
「なんで?」
「お前がちゃんと任務をこなすかどうか、それを監視するのも俺の役目だ」
うわー、と。彼は天を仰ぐ。
リボーンという男の性格上。逃れられるとは到底思えない。
「さあ、行くぞ」
「・・・・めんど」
だが、そうもいっていられないのがリボーンという男の放つプレッシャーだった。
変わりゆく日常を痛感しながら、それでも彼はまだ変わらない。
「はあ?なんじゃそりゃ?」
放課後。いつものように鶫と共にお嬢。つまり桐崎を護衛するという任務に勤しもうというところ。
鶫から聞かされたのは全く別の任務だった。
いや、別の任務に準じることはままある。
「つまり、
彼が気になったのはその内容である。
「ホワイトファング?誰だよ」
この鶫とペアを組まされてから、他の人間と仕事をするなんてのは初めてだ。
しかも、チンピラを調査?どうにもきな臭い。
「聞いたことないか?」
「ないね」
あっさりと、考えることもなく彼はそう答える。
「そうか。確かお前のクラスは1-Aだったな」
「だから?」
意図の読めない質問は、もはや慣れてきていたエミーリオ。
「いや、ならいずれわかる。とにかく、これはクロード様の命令だ」
また、あいつか。頭の中に浮かぶメガネの高笑いに辟易しながら、彼は了承した。
夜も更けてきたころ。指定された場所についたエミーリオは完全に白けていた。
なぜか。
「・・・・・・はぁ」
目の前にはクロードが用意したであろうメモに、「素顔をさらすな。この仮面を被るように」といった内容が書かれていた。お面とはそのメモに重しのように乗せられている狐の面のことだろう。
理由なぞどこにも書いていない。心当たりもない。
もう一度だけ、大きくため息をついて彼は仕方なくそのお面をかぶる。
「あなたがビアンコね」
声が聞こえ、振り返ると。彼は目を見張った。
「・・・・ポーラ・マッコイ」
エミーリオと似たような白髪。白い肌。ポーラ・マッコイがそこにいた。
「なるほど」
ホワイトファングと呼ばれる暗殺者は彼女だということだろう。こんな人通りも何もない路地裏。他に勘違いのしようもない。
「ああ、そうだ」
だから、彼は答えた。
「ふーん。あんたがねえ・・・・」
ジロジロと全身を観察される。
「忌々しいわね」(ボソッ)
「あ?」
ボソリと、聞こえるか聞こえないか微妙なラインで発せられた声にしかし彼は敏感に反応した。
「・・・・忌々しいって言ったのよ。アンタのせいで私は・・・・!」
どうやら、ポーラは彼に個人的な恨みでもあるようだ。その瞳はメラメラと怒りで燃えている。
だが、彼のほうにはそんな恨みなどない。恨まれるようなことでもしたのか、彼女にゆかりのある人物でも殺したのか。
「ボンゴレ共に子ども扱いされるわ・・・!任務はロクにさせてもらえないわ・・・!イエミツとか言うおっさんに頬ずりされるわ・・・!」
ボンゴレ?イエミツ?
その単語に、なんとなーく彼の頭の中で点と点が繋がった。
「ああ、アンタ俺とトレードされたポーラか」
ビーハイブに潜入するときに出された条件に、確かそんなもんがあった。
「ぐぐぐ!そうよ!せっかくブラックタイガーと再戦しようと思ったのに!アンタが来たせいで半年も遅れたじゃないの!!」
わーきゃーと喚くポーラに耳をふさぐエミーリオ。
「あとなんでアンタお面なんかかぶってんのよ!!ふざけてんの!?」
ああ、きっとこれはクロードの仕業だ。俺をこうやって疲弊させるためにわざと今回こんな無理やりな任務を組んだんだ。
それが知れたところでどうしようもないのだが。
「いいだろそんなんどうでも。ほら、早く仕事終わらそうぜ。こんなしょうもないことに時間使うなんてバカだバカ」
言うが早いか既にエミーリオは歩き出していた。
「ちょ!待ちなさいよ!絶対アンタには負けないからね!!」
「あー、はいはい」
「で?不穏な動きを見せてるらしいチンピラってのは?」
つーか、チンピラってなんだよ。と思うエミーリオであるが声には出さない。
「はっ。教えるわけないでしょ!?私がぜーんぶ手柄を立ててブラックタイガーと再戦すんのよ!!」
べーっと舌を出しながら走り去っていくポーラ。
「・・・ま、仕事してくれるってんならねぇ」
無理に止める必要も自分が頑張る必要もない。
こりゃー楽でいいや。なんて思いながらゆっくりポーラの後を追っていくエミーリオ。
月明かりに照らされた夜道。ポーラが走っていった先を見据えながら歩く。
それにしても。と彼は思った。なぜ自分の周りにはロクな女がいないのかと。
グイグイと人のパーソナルスペースに入り込んでくるハルに、そのハルにべったりなフウ。やたら敵視してくる鶫。
そこにポーラなどといううるさい女まで加わった。
まともな女が一人もいねえ。
辟易しながらもポーラが入っていったと思しき廃ビルにエミーリオも侵入する。
したはいいものの。彼は首を傾げた。
なぜなら、ビルは不自然なほどに静かだったからだ。
静脈が支配するビルは暗闇がまとわりつき、嫌な雰囲気だ。
ボロボロの壁に、所々割れた窓。本来、およそ人のいる気配などないそのビルが静かなのは当たり前。
ポーラが入る前までならば。
微かに、砂の落ちる音。つまり、彼のいる一階よりも上に人がいる。
ポーラは武装していた。懐に拳銃を二丁ほど隠し持っていたはずだ。それが鳴らないとなると、既に戦闘は終わっているのか。
チンピラと鶫が称したからには、そう手こずる相手ではないのだろう。ポーラが入ってそう時間は経っていないはずだがどうやら既に仕事は終えたらしい。
気の抜けたあくびをしながら、それでも一応状況だけは確認しようと彼は錆びた鉄製の階段を上がる。
カンカンと音が鳴り響いて、ああまたドヤ顔で自慢されでもするのかなとその後の状況を予想するエミーリオ。
だが、その予想は大きく外れることになった。
「———————————っ!!」
死角からの攻撃。
(・・・嵐の炎!?)
間一髪で避けたエミーリオはその襲ってきた敵の正体を見るなり冷や汗を流す。
嵐の炎。それ自体に特に変わったところはない。だが、
「・・・こりゃ、どういうことだ?」
「あー!おっしいいいいい!」「だからよく狙えって言ったべ!?」「まあまあ、どうせ次で終わりだ。さっきの嬢ちゃんのようにな」
階段の上から声が三つ。
つまり、人が三人。
「リングと、匣」
全員、その二つを持っていた。
それはまだ日本には伝わっていない技術だとボスから言い渡されたはずだが。
「「「匣、開匣」」」
「チッ」
舌打ちしながら、階段を飛び降りる。
一秒前まで彼のいた場所は木っ端微塵に穴が開いていた。
飛んできた瓦礫で仮面が欠け、右目だけ視界良好になる。
パラパラと粉塵が舞うその場所で、ターゲットらしき人物たちの声だけが響く。
粉塵の隙間から見える匣兵器は二つ。
嵐の炎を纏ったサソリ。
雨の炎を纏ったハリセンボン。
だが、受けた攻撃は三方向から来た。・・・はずだ。数が合わない。
「おいおいおいおい、死んでねえじゃねえか」
「避けたんだべ。あいつ」
「へー」
上から覗き込んでいるチンピラ共。だがそのおかげで分かった。もう一つは晴れの炎を帯びたムチだ。
つまり、アニマルタイプが二つにサポートタイプが一つ。といったところか。
「ったく。聞いてねえぞ」
彼はてっきりクロードの嫌がらせの一つだと思ってたが。
これは、そうも言ってられない状況らしい。
「おい!一つ聞くが髪の白いちっこい女が来なかったか?」
「あん!?てめえなに口きいてんだああ!?」
「・・・・・ま、素直には答えてくんないわな」
ポリポリと頭をかく。
「つーかなんだその仮面!?」
ゲラゲラと笑うチンピラたちに、こめかみをひくつかせるエミーリオ。その顔はもちろん仮面に隠れてチンピラたちには見えない。
匣兵器相手にいくらただの武器を使っても敵わない。それは純然たる事実だった。
「とんでもねえブスなんじゃねえのぉおお!?」
「恥ずかしくて晒せないってか」
「よし!その仮面はぎ取ってやるべさ」
考えるよりも先に、相手が動き出す。
脳のない猿のように一辺倒に匣兵器をぶつけに来るチンピラに、走りながらエミーリオは考えた。
(なぜ、まだ広まっていないはずの日本に匣兵器がある。ボスが嘘をついていた?なら、なぜ?俺からリングと匣を奪うのが目的・・・だとしてもやっぱりなぜ?だ)
薄暗い環境が功を奏していたのか、運よく攻撃は当たらない。
「ムッキー!!」
(それに、奴さんどうやら慣れていないらしい)
匣兵器は開けるのに条件がある。自身に流れている波動と、リング、そして匣。それら全ての属性が一致しないと開けられない。そして、開けた後も炎の出力、純度によって兵器の力は上がりも下がりもする。
彼らは、匣兵器を一々匣に戻している。注入しないと炎が限界を迎えるんだ。となると、彼らの炎はようやく匣を開けられる程度のもの。脅威ではない。
(が、それが知れたところでってやつだよな!)
何度目かの攻撃を避けたときに、後ろの壁に激突してしまう。
「がはっ!」
「やりー!おいつめたああ!!」
痛む背中を庇いながら、相手を睨む。
一応先ほどから拳銃で射撃しているものの、晴れの炎でコーティングされたムチで弾き飛ばされる。
元々、チンピラと聞かされていたため。ほかに大した武器も持ってきてはいない。
(・・・・どうすっかなあ)
このまま、逃げ続けるだけではジリ貧だ。
じりじりと差を詰められていたとき、それは鳴り響いた。
銃声。
「なっ!」
チンピラAが声を上げるよりも早く、その銃弾はチンピラの腕を貫いた。
貫かれたのは晴れ属性の奴だった。
「てめえええ!!」
銃声のした方向を見ると、そこにいたのはポーラ。
ま、ポーラしかありえない。
「・・・・ぐっ」
どうやらボコボコにされたらしい、いたるところに擦り傷が付いている。
だがそんなことは彼にはどうでもよかった。ただ、一点だけを見つめていた。
「ほら!手柄はアンタにやるから!早く何とかしなさいよ!」
「うるせえ!」
「痛っ!」
雨の男がポーラの髪をもってぶん投げる。ちょうど、エミーリオがいる場所に吹っ飛んできた。後ろの壁に再度叩きつけられる。
「ケケケ。二人まとめてぶっ殺してやんよ」
隣にはボロボロのポーラ。こいつはリングも匣兵器のことも知らないだろうから、この状況は仕方ないだろう。
「どうすんのよ・・・・なにか策はあるんでしょうね」
小声で囁くポーラ。
「・・・・ああ。まあな」
痛む背中、しかしニヤリと何かを思いついたような顔をするエミーリオに、ポーラは意外そうな顔をする。聞いたはいいものの、あるなんて思ってなかったのだ。
「ただし、チャンスは一度。失敗したら終わりだ」
「・・・・・分かったわ。私は何をすればいいの?」
今度は、エミーリオが驚く番だった。
こんなに素直に言うことを聞くとは思ってなかったのだ。
「—————————————。」
「・・・それでどうなるの?」
「いいから」
手早く作戦を伝える。
「おい!なにコソコソやってんだ!ていうかお前は早く来いよ!」
「・・・・ああ。ちょっと、疲れたべ」
雨の男は先ほどの階段から動かない。嵐の男がいるここから、距離は数メートル。
「今だ!」
「なっ!」
合図とともにエミーリオとポーラは一直線に雨の男のもとに走る。
慌てた男は、急いで炎を注入し匣を開けた。
「はっ!バカめ!突っ込んできたべ!」
「俺とお前で挟み撃ちだああああ!!」
雨ハリセン。そして嵐サソリを射出と同時に勝利を確信した男たちだったが。
その確信はすぐに疑念へと変わった。
「な、なんで立ってんだ・・・・・?」
確実に正面から雨ハリセンの特攻を、嵐サソリの攻撃を食らったはずだ。だが、そこには薄笑いを浮かべるエミーリオが悠然と立っている。
「く、くそ!もどれハリセン!」
だが、いつものようにそれは匣の中には戻らない。
「な、なんで・・・・?」
「よーく見てみろよ。自分の匣を」
そう彼に言われ、馬鹿正直に匣をみる。
「あ!」
その匣は綺麗に壊れていた。丁度リングをはめるための穴が。
「ぐへっ!」
下を見たせいで、一瞬、エミーリオが視界から外れた。その一瞬。もう顔を上げた時には拳が迫っていた。
顔面にクリーンヒット。大の大人が吹っ飛んだ。
エミーリオの後ろ。嵐のほうも、ポーラが無事仕留めたようだ。
残るは、晴れただ一人。
「・・・・ひいっ!!」
晴れは自分の右腕、先ほど貫かれた腕をかばいながら後ずさりする。
「な、なんで!?直撃したはずだろ!?」
「そうだな。まあ、お前には教えといてやる。お前のおかげだからな」
「はあ!?」
意味の分からない発言に、声が割れる。
「最初に変だと思ったのは、匣兵器の使い方だ。馬鹿みたいに一辺倒にただぶつけてくるだけ。そこで思ったよ、ああこいつらまだ日が浅いんだと。それを使いこなせてないんだってな」
「そ、それがなんだっていうんだよ!!」
図星だったのか、声を荒げる男にただし彼は冷静に言葉を紡ぐ。
「だったら、炎の特性も知らないんじゃないかってな」
「特性?」
どうやら、彼の言っていることは当たっているらしい。
初めて聞いたというように顔が示してしまっている。
「ああ、お前の右腕。普通、っていうのかどうかは知らんが、少なくとも特性を知っていれば直そうとするはずだ。その晴れの『活性』でな」
晴れの炎の特性は『活性』。全身の細胞を活性させて、超回復させる。
「だから、右腕をほったらかしてるお前を見て、その仮説を確信した」
「だ、だからって直撃して無事でいられるわけが——————」
「はいはい、人の話は最後まで聞くものだぜ。晴れが『活性』。じゃあ、あと二人のお仲間の嵐と雨は何だと思う?」
「・・・・・・・・」
男が答えられるわけがない。知らないのだから。
「正解は『分解』と『沈静』だ。嵐と雨ってのは相性が悪くてな。嵐の分解も雨が沈静しちまう。炎の出力が違えばそっちに傾くんだろうが。生憎とお前らは三人ともしょぼかったからな」
雨の男が疲れていたのも、炎の使い過ぎ。
つまり、直撃する寸前に雨と嵐がかち合って勝手に相殺された。そのおかげで二人とも無事だったわけだ。
「さて、楽しい授業はこれでおしまい。次はお前の番だぜぇ!?」
「・・・・・・っ!」
悪魔のようなその笑みに、完全に腰が抜けてしまっている男。
「リングとこの匣。どこで手に入れた?」
それだけが疑問だった。
「お、俺知らねえ」
「あ?」
凄むエミーリオ。
だが。
「知らねえんだ。俺たちここら辺でいつもみたいに夜遊びしてたら
変なガキ?なんだそりゃ。
出てきた単語に疑問がさらに深まってしまうエミーリオ。
「わかんねえよ!けどそれが事実なんだ!もうこれ以上俺は知らねえ!」
男の言葉に嘘はなさそうだ。こんな切羽詰まった状況で彼を混乱させるために作り話をできるほど目の前の男は器量は大きくはないだろう。
だけど変なガキって・・・・事実は小説よりも奇なりというがこれはもう途方に暮れるしかない。
そんな謎はひとまずぶん投げて。
「なあ!喋ったんだから助けてくれよ。な?悪かったから、謝るから」
先ほどまでの冷静さはどこへやら。完全に行方不明である。
「残念。俺ゲームとか宝箱全部取るタイプなんだ」
「だからなん——————」
顎にアッパーがクリーンヒット。
「よし、任務完了っと」
最後の一人をのしたところで、彼は男たちのリングを回収した。
「なにやってるの?」
「まあ、一応な」
今回の騒動、というか日本に来てからずっと。どうにも変だ。
(これくらいの保険はかけておいて損はないだろう。つっても俺は全部使えないけど)
嵐も雨も晴れも、彼には使えない。
さて、と帰ろうとしたところ。
むんずっと、首根っこをつかまれる。
「ごほっごほっ。てめえ、なにしやがんだ」
「説明して」
「あ?」
「なにこれ、なにあれ、なにそれ!!」
順番に壊されたビル内、匣兵器、そしてリングを指示しながらポーラは説明を求めた。
「・・・・・・・あー」
説明しなければならないのか。これを?一体どこからどこまで?
「お前さ、俺とトレードされてイタリアの、それもボンゴレにいたんだろ?」
「え?ああ、まあそうよ」
だったらリングと匣兵器の情報くらい知ってそうなものだけど。あそこじゃこんなん珍しくもなんともないだろうに。
「じゃ、そこで聞いてくれ」
めんどくさくなって、彼は全部投げた。
「ちょっと!まだ聞きたいことはあんのよ!」
「あーもう、うるさいなあ。なんでこうお淑やかな女の一人や二人いねえんだ」
ガリガリと頭をかく彼に、ポーラは眼前で立ちふさがった。
「なに——————」
言い終える前に、彼の視界は開けた。ずっと仮面だったため晒した素顔が風に気持ちいい。
つまりはまあ、そういうことだ。
「・・・・やっぱりね」
その言葉と、彼の白黒とした瞳が、ビルの中に残った。
どうやら彼の学校生活はまた一つ、おかしな方向へ進んでいくらしい。
To be continued.
どうもラブライブ!高宮です。
今期アニメも大体が出尽くした感のある今日この頃。皆さまはいかがお過ごしでしょうか。僕としてはやっぱりジョジョ、マクロスあたりかなあなんて思ってます。
ていうか4月だよ!もう4月だよ!俺今年受験生なんだけど!どうなってんだ!
ということで、また次回もよろしくお願いします。