1983年、アメリカは米、中、ソの超大国の中で唯一BETAの被害を受けていない国である。
他の常任理事国のBETA大戦による没落。
国力に余裕のあるアメリカは国連を最大限に利用し、自由民主主義的な盟主としての立場を確立しようとしていた。
基本的に国連軍は全て米軍の影響下にある。その例外が二つあった。
一つは月面戦争時に国連軍に参加した全ての国に「貸し」をつくっている「月面戦争の英雄―御剣雷電中将」をリーダーとする国連宇宙軍の一隊。通称「御剣組」。
月面戦争の功績よりもコントロール不可能という意味で宇宙に飛ばされているというのがもっぱらの噂である。
そしてもう一つはソ連のハバロフスクである「特殊な研究」をしている一団であった。
1983年 1月16日 月面
15日が終わり、16日になったばかりの頃竜馬の乗ったゲッターロボが月面基地へと帰還した。
「無事だったか! 流!」
ゲッターロボを下りた竜馬に雷電と月詠が駆け寄る。
「おいジジイ。 BETAについて知っていることを全て教えろ!」
竜馬は雷電の襟を掴んで問いただした。
「どうしたのじゃ一体!?」
「いいから教えろ!!」
そして竜馬、雷電、月詠の三人は再び腰を据えて話を始めるため艦の一室に入った。
そこで竜馬はハイブにBETAが一匹も残っていなかったこと。そしてハイブ内に「ゲッター線」が存在しないことを伝えた。
「その『ゲッター線』がないというのはそれほど重要なことなのか?」
月詠はBETAがハイブを放棄したことの方がよっぽど重要ではないだろうか?といった口調で話す。
「『ゲッター線』ってのはどこにでもあるものだ! それがあの穴蔵の中には一つもねえンだよ! 事の重大性がわかってねえのはテメエだ!」
竜馬はこの世界に自身がやってきたのは「ゲッター線」の力によるものだと考えていた。そこに「ゲッター線」と関係する生物が現れたのである。
元の世界に戻るのに何かしらあの生物は関係があるはずだと竜馬は考えていた。
「ふむ。貴様とこの世界をつなぐ要素がBETAのハイブにあったということか」
雷電が成程といった具合にうなづいた。
「そうだ! 今はBETAに関するどんな情報でも欲しい!」
竜馬が鬼気迫る表情で雷電と向き合った。
「それでそれを貴様に伝えて儂等に何のメリットがあるんじゃ?」
雷電はタダでは教える気はないようだ。
「御剣のジジイ! テメエ!」
竜馬が昨日の喧嘩の再現をするかのように拳を上げる。
「そこで提案がある。」
「ああ!?」
その発言に竜馬は手を止めた。
「我々は貴様に全ての情報を提供し、元の世界に戻るために支援をしよう。ただし……。」
「……ただし?」
「その代わりこの世界にいる間は我々に協力してもらう」
雷電は竜馬にこの世界にいる間協力してくれれば、雷電も竜馬の帰還に協力するというギブアンドテイクを持ちかけた。
「わかったぜ。だが、元の世界に戻る方法が分かれば今すぐに帰らせてもらうぜ。」
竜馬は了承し席に座った。
「まずBETAのことだが、我々の持っている情報は多くない」
「おいクソジジイ」
話が違うと竜馬は睨む。
「まあ聞け。これは国連の人間でも一部しか知らん最重要機密じゃ。国連もBETA研究をしているそれが『オルタネイティヴ計画』じゃ。」
「オルタネイティヴ計画?」
「そうだ。現在、第三計画が進行中だ。」
竜馬は腕組みをすると沈黙し話を聞こうと意思表示をした。
「本来の目的は奴らとコミュニケーションをするための研究だった。第一計画で言語、思考解析の意思疎通を試みたのじゃ。当然失敗した。」
「だろうな。奴らが人語を理解するような風貌には見えねえ。」
「そして第二計画へと移行した。今度は多大な犠牲を払って奴らを捕獲し、調査した。わかったのは奴らが我々と同じ炭素生命体であるということじゃ。」
「つまり科学的な研究をしても生物であること以外わからなかったってことか?」
「そうなるな。そしてソ連が主導となって第三計画がはじまった。言語、思考、科学解析それら全て失敗して次は何で奴らを研究したと思う?」
竜馬は静かに首を振った。
(隼人だったらすぐに思いつくんだろうな)
「オカルト―超能力だ。ソ連は国内から超能力者をかき集めてそれを人工交配させて人工的に超能力者を量産した。そして戦術機―戦闘機を改造したロボットに登場させて持てる全ての和平のイメージをBETAにぶつけた。」
「それでどうなった?」
竜馬は超能力という怪しげな単語に特に詮索せず答えを聞きたがった。
「流。貴様超能力を信じているのか?」
「信じるも何も一度それに殺されかけた。」
竜馬には早乙女研究所で念動力によって一度殺されかけた経験があった。
「まあいい。儂も眉唾じゃったからな。その第三計画によってBETAにも思考する力があるのがわかった。そして奴らが我々人類を生命体として認識していないのがわかったのじゃ。」
「ジジイちょっと待て」
人もBETAと同じ炭素生命体である。つまり……。
「BETAは自分を生命体として認識してないってことか?」
「そうじゃ。その可能性が高い。儂等のわかっていることはこれだけじゃ。後は貴様の方がよく知っている。」
「どういう意味だ?」
雷電の問いかけの意味が竜馬にはよく分からなかった。
「人類がこれまで成し遂げられなかったハイブ攻略をたった一人でやってのけたんじゃ。
ハイブの中のことは貴様の方がはるかに詳しい」
「攻略も何も俺は何もしてねえよ。奴らが勝手にいなくなったんだ。」
「もしかしたら貴様はBETAの事を知らなくても、BETAは貴様を知っているのかもしれんな」
話はその後、これからについてにかわった。竜馬はゲッターロボの修理のために艦の人員の手配を要求し、ゲッターロボの修理に取り掛かった。
そして竜馬の次の行先がハバロフスクの「オルタネイティヴ第三計画研究所」に決まった。
艦の一室
「中将。これでアイツを地球に下ろせばBETAは勝手にいなくなってくれますね。」
月詠は安堵しながら雷電に語りかけた。
(果たして本当にそうだろうか? 奴らが月から引いたのはなにか他の要因があるのではないだろうか?)
雷電はそう簡単に事が終わらないだろうと感じていた。
「そうなってくれればいいがな」
雷電は祈りをこめてそう呟いた。
「あの秘密主義の研究機関が我々の訪問を許可しますかね?」
竜馬に伝えたわずかな情報でさえ、手に入れるのは非常に難しかった。
「するさ。何せアレがあるからな。」
雷電は艦の外のゲッター1を見た。
流石に月面のBETAを追い払った物を手土産にすれば文句は言わないだろう。
「そうなるとアメリカの動向が不安ですね。」
アメリカがソ連にゲッターロボが渡るのを絶対に阻止しようとすることが予想される。
「あまり、行き過ぎた事はしてくれないといいんじゃがな」
雷電は何か対策を練る必要を感じていた。
「まさか地球よりも先に月を奪還することになるとはな。」
皮肉めいた話であった。
竜馬はゲッターの修理しながら、今の自分の現状を把握していた。
(これから地球に下りれば、補給もろくに受けられねえ。スーパーロボットの残骸もあることだ。
改造して継戦能力を高めた方がいいかもしれねえ)
人員も増えたことでゲッターロボの改修をすることにしたのだった。
自身を生命体として認識しない生き物とはどういったものなのか竜馬には何も思い浮かばなかった。
彼のかつての親友であり、『ゲッター線』研究の第一人者である男が側にいれば何か掴めたかもしれなかった。
竜馬がわかっていたのはこの世界のイレギュラーであるゲッターと自身が唯一関係があると思われるBETAという奇妙な生命体。その存在に向き合う必要性があるということだけだった。
竜馬編 5話 終